18 / 119
18.王子、ヘタレ終わる
しおりを挟む
「エルシー様、ご存じないかな、我が国の王家ってみんな恋愛結婚なんです」
とアラン様が言ったのは、びっくりした。
「えっ、よく王族は政略結婚って聞きますけど……」
大体普通そうじゃないの?
むしろ王族の結婚が政略結婚であることは当たり前すぎて誰も言わないんだと思っていた。
テレンス様が大きく首を振って否定する。
「違います。王家なくてはこの国はありません。そのため代々の王子達は皆、自由に妃殿下を選ぶ。国王陛下も恋愛結婚です」
「でも確か王妃様は侯爵家のお嬢様……」
と姉達が噂してた。
「陛下が出会うご令嬢は名家の姫君のみです。お二人は幼なじみで愛を育まれました」
「そうなんですか」
すごいな、我が国の超絶対王政ぶり。
一方で下級貴族の子爵家である私の両親の結婚はお見合いだ。
政略という程大袈裟なものではないが、下級貴族は家同士の繋がりを大事にしないとやっていけない。
基本、親が同程度の階級から良さそうな相手を選び、実際に引き合わせ、相性がそんなに悪くなければ結婚の運びとなる。
家のためになる結婚をするのが貴族の義務だ。
次男以降はもう少し気楽だけど、特に長子は家を継ぐかわりに結婚は自由にさせて貰えない。
それは女児も同様だ。何不自由なく暮らしていけるかわりに、家のための結婚をするのが当たり前なのだ。
実際には私に婚約者はいないが、年端もいかない世間知らずの私が選ぶ人より、物の分かった父が決めた人との結婚の方が幸せになる確率は多分、高い。唯々諾々と従ったと思う。
「王家はその祖竜騎士エステルが自らを助けた羊飼いの娘を愛し、王妃にしたという伝説から運命の乙女との恋愛結婚が至上なのです」
とテレンス様が教えてくれた。
「あー、そういえば、有名ですよね、そのお話」
私が何となくお見合いとか親から決められて結婚するのに抵抗ないように、王子は王子で代々、恋愛結婚派なのか。
しかもエステル様は私でも知っている王家の祖にして王国の祖、始まりのお方である。
王家は絶対的強者。
その手に掴めないものはなく、恋する人も自由に手に入れる。
……はずなのに、王子、今まで女の子に触れもしなかったとは不憫。
「王子、お身内が皆そうだから、自分も恋愛結婚するつもりだったんです。だからさっき、『良いのか?』って言った時ね、王子、エルシー様に『好きっ。お嫁さんにして!』って言われたかったの。ないよね」
はははーっとアラン様は笑った。
「ないです」
「だよねー。でもね、エルシー様もちょっとだけ悪いよ」
「えっ、悪いですか?」
「好きな子に『しょうがない結婚』て言われて、『妾でいい』って言われてね、好きってなかなか言えないよ。そこで『俺に惚れさせてやるから結婚してくれ』って色事師か何かじゃないと返せないよ。少なくとも童貞王子は無理」
好きな子って、二回言われた。
何だか、ドキンとする。
「でも私はゲルボルグが選んだだけで、別に王子は誰でも良かったんじゃあ……」
途端に更に一段きつく抱きしめられた。
「どうして良いのか分からないんだ。エルシーはいい匂いがする。舐めたいし、触りたい。独り占めしたい」
そう言うと王子は私をクンクンしてスリスリした。
変態だな。
そういえば、最初から変態だったな。
あれ、じゃあ……。
「本当にグレン様って私のこと好きなんですか?」
「分からん。初めてゲルボルグが認めた娘だから好きなのかもしれない」
王子は自分でも良く分からず戸惑っているみたいだった。
そうか。
王子ずっと時間が欲しいって言ってたもんね。
「不安なのだ。自分の気持ちも確固としないうちに、結婚して良いのかと。でも今は妃はエルシーでなければ嫌だ。それに……初夜はすぐしたい」
「しろよ」
「今して下さい」
アラン様とテレンス様のお二人はほぼ同時に言い放った。
「お前達は人の話を聞いていたのか?」
と王子が言い返した。
王子、私より十個も年上で大人だけど、ちょっと面倒くさい人だな。
私も王子のこと、好きか良く分かんないけど。
今は、王子と結婚したい。
だから。
私は王子のほっぺたにキスした。
王子がビックリした顔でこっちを見る。
「『好きっ。お嫁さんにして!』」
とアラン様が言ったのは、びっくりした。
「えっ、よく王族は政略結婚って聞きますけど……」
大体普通そうじゃないの?
むしろ王族の結婚が政略結婚であることは当たり前すぎて誰も言わないんだと思っていた。
テレンス様が大きく首を振って否定する。
「違います。王家なくてはこの国はありません。そのため代々の王子達は皆、自由に妃殿下を選ぶ。国王陛下も恋愛結婚です」
「でも確か王妃様は侯爵家のお嬢様……」
と姉達が噂してた。
「陛下が出会うご令嬢は名家の姫君のみです。お二人は幼なじみで愛を育まれました」
「そうなんですか」
すごいな、我が国の超絶対王政ぶり。
一方で下級貴族の子爵家である私の両親の結婚はお見合いだ。
政略という程大袈裟なものではないが、下級貴族は家同士の繋がりを大事にしないとやっていけない。
基本、親が同程度の階級から良さそうな相手を選び、実際に引き合わせ、相性がそんなに悪くなければ結婚の運びとなる。
家のためになる結婚をするのが貴族の義務だ。
次男以降はもう少し気楽だけど、特に長子は家を継ぐかわりに結婚は自由にさせて貰えない。
それは女児も同様だ。何不自由なく暮らしていけるかわりに、家のための結婚をするのが当たり前なのだ。
実際には私に婚約者はいないが、年端もいかない世間知らずの私が選ぶ人より、物の分かった父が決めた人との結婚の方が幸せになる確率は多分、高い。唯々諾々と従ったと思う。
「王家はその祖竜騎士エステルが自らを助けた羊飼いの娘を愛し、王妃にしたという伝説から運命の乙女との恋愛結婚が至上なのです」
とテレンス様が教えてくれた。
「あー、そういえば、有名ですよね、そのお話」
私が何となくお見合いとか親から決められて結婚するのに抵抗ないように、王子は王子で代々、恋愛結婚派なのか。
しかもエステル様は私でも知っている王家の祖にして王国の祖、始まりのお方である。
王家は絶対的強者。
その手に掴めないものはなく、恋する人も自由に手に入れる。
……はずなのに、王子、今まで女の子に触れもしなかったとは不憫。
「王子、お身内が皆そうだから、自分も恋愛結婚するつもりだったんです。だからさっき、『良いのか?』って言った時ね、王子、エルシー様に『好きっ。お嫁さんにして!』って言われたかったの。ないよね」
はははーっとアラン様は笑った。
「ないです」
「だよねー。でもね、エルシー様もちょっとだけ悪いよ」
「えっ、悪いですか?」
「好きな子に『しょうがない結婚』て言われて、『妾でいい』って言われてね、好きってなかなか言えないよ。そこで『俺に惚れさせてやるから結婚してくれ』って色事師か何かじゃないと返せないよ。少なくとも童貞王子は無理」
好きな子って、二回言われた。
何だか、ドキンとする。
「でも私はゲルボルグが選んだだけで、別に王子は誰でも良かったんじゃあ……」
途端に更に一段きつく抱きしめられた。
「どうして良いのか分からないんだ。エルシーはいい匂いがする。舐めたいし、触りたい。独り占めしたい」
そう言うと王子は私をクンクンしてスリスリした。
変態だな。
そういえば、最初から変態だったな。
あれ、じゃあ……。
「本当にグレン様って私のこと好きなんですか?」
「分からん。初めてゲルボルグが認めた娘だから好きなのかもしれない」
王子は自分でも良く分からず戸惑っているみたいだった。
そうか。
王子ずっと時間が欲しいって言ってたもんね。
「不安なのだ。自分の気持ちも確固としないうちに、結婚して良いのかと。でも今は妃はエルシーでなければ嫌だ。それに……初夜はすぐしたい」
「しろよ」
「今して下さい」
アラン様とテレンス様のお二人はほぼ同時に言い放った。
「お前達は人の話を聞いていたのか?」
と王子が言い返した。
王子、私より十個も年上で大人だけど、ちょっと面倒くさい人だな。
私も王子のこと、好きか良く分かんないけど。
今は、王子と結婚したい。
だから。
私は王子のほっぺたにキスした。
王子がビックリした顔でこっちを見る。
「『好きっ。お嫁さんにして!』」
21
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる