竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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37.温泉②

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 王子は一度着替えに脱衣所に戻った。
 そして同時にメイドさんも「奥様、旦那様とごゆっくり」と去ってしまう。
 もしかして大胆なことを言ってしまったか。

 一人取り残された私はブクブクお風呂に沈みながら、ちょっと後悔した。
 今更ながら恥ずかしい。

 王子はすぐに戻ってきて、当たり前だけど裸で、赤くなった私は目を逸らした。
 体を洗っている音がして、その音が止むと、王子が隣に入ってくる。

「…………」
「…………」
 無言だった。
 沈黙が妙に心地良くもあった。
 何だろう、王子と一緒だとすごく安心する。
 でも、何か言わないと、焦る。
 えーと。
 と考えていると王子がこちらを向く。
 男の人なのに、まつげ長い……。
 本当に綺麗な顔してるなぁ。
 王子はいつもより真面目な顔で私を見ていた。
 ちょっとドキッとした。

「エルシー」
「はっ、はい」
「本当に悪かった。確かにゲルボルグは女性全般が苦手で特に特定の女性の匂いを非常に嫌う。だが俺にそういう匂いが付いた時は離れようとするか不機嫌そうに鳴くだけだった。言い訳にしかならないが、あんなことをするゲルボルグは初めてだったのだ」
 とまた謝られてしまった。
「いえ、もう怒ってませんから。気にしないで下さい」

「……あれを嫌いにならないでくれるか?」
「あれ?」
「ゲルボルグだ。あれはまだ若い竜でおそらくは成人していない」
「あんなに大きくて?」
「あれ以上大きくなることはないだろうが、まだ三十歳というところだろう」
「……十分大人なのでは?」
 そう聞くと王子は首を横に振る。
「いや、竜は五百年近く生きる個体もある。竜の成人は五十歳と言われている。ゲルボルグは人間で言えば十五、六歳。子供のうちに人里に降りて竜の住処に帰れなくなったらしい。だからゲルボルグは普通の竜とは少し違う。ゲルボルグが興味を示したのがお前が初めてなのだ。あれはお前を特別に好いている」
「もしや、ゲルボルグは私のことをお母さんと?」
「それは分からんが、好いていることは確かだ。エルシーには迷惑な話だろうが……」
「いえ、迷惑ではないですよ。私もゲルボルグは好きです。可愛いと思います」
「では嫌いにならないか?」
「ええ」

 口ごもりながら王子は私に聞いて来た。
「では、俺のことも嫌いにはならないか?」
「えっ、なんでグレン様のこと嫌いになるんですか?」
「いや、危ない目に遭わせたし、兄達に会ったと聞いている。不快な思いをしたのではないか?」
「いえ、そんなことはないです」
「……そうか」

 また、沈黙が落ちる。
 あ、そうだ。

「あの、お帰りなさいませ」
 よく考えたらこの人はお仕事帰りだ。
 働いてお帰りなのだから、ご挨拶くらいはしなければ。
 王子は驚いたように私を見つめた。
「ああ、ただいま……」

 王子はちょっと嬉しそうな表情になり、それからもう一度私に聞いてきた。
「本当に怒ってないのだな」
「怒ってません」
「では、ただいまのキスをして良いか?」
「いいですよ」
 そう答えると、王子は私の肩に手を載せ、ふんわり私を抱き寄せる。
 改めて見る王子は思った以上に筋肉質だ。
 見えるのは肩までだけど、裸……。
 離宮にある男神の彫像のように太い首と逞しい肩だ。
「エルシー」
 と名前を呼ばれる。
 この数日、私、王子いなくて寂しかったのかも。
 ドキドキするけど、この距離が嬉しくもあった。
「グレン様……」


 だが王子は舌を入れる方のキスをしてきた。

 びっくりした私はあわてて王子を押し返す。
「ちょっ……そういうのですか?」
 お風呂だし、もっと可愛い感じのちゅーだと思った。
「ああ」
 ああ、は答えでない気がしたが、王子はまたキスしてきた。

「…んっ……」
 あっ、舌の感触がちょっと気持ちいい。
 王子がいない間、こんな変な気持ちにならなかったのに、触れられた途端に何かのスイッチが入ったみたいに、ゾクッとする。
 いや、でもここ、お風呂。
 身じろぎして離れようとするとその瞬間に腰を捕まれて膝の上に抱きかかえられた。
 ぎゅーっと抱きしめられる。
「ああ、久しぶりのエルシー」
 なんか感動したように呟かれた。

「グレン様、胸を、揉んでます。そんなところ触らないで下さい!」
「水の中で揉むと感触が少し違う」
「いや、そういうの聞いてるんじゃないです。まだ夜じゃないし、お風呂だし、そうですよ、帰らないといけないんじゃないですか?」
「今日は泊まる。ゲルボルグもアラン達が竜舎に戻らせるというから、一泊して帰る」
「えっ、そうなんですか?楽しみ。じゃなくて、お尻揉むのは変です!」
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