竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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43.陛下来訪②

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 確かに言ってなかったかも、と私は反省して王子の良いとこ言うことにした。
「グレン様は優しいし、国のために尽くしてとっても偉いです。尊敬してますよ」

「……エルシー」
 王子は感極まった様子になり、肩を抱こうとしてきた。
「えっ、駄目ですよ、陛下いるし」
 さっと逃げたが、さすが騎士様、反応速度が違う。
 あっさり捕獲される。
 王子は私を腕に閉じ込めて陛下の方を向くと言った。
「兄上、お帰り下さい」
 うわー、とっても失礼。

「グレン、エルシー姫とお前はまだ結婚していない」
 と陛下は思案気なお顔をなさる。
「ですが、もうエルシーは俺の妻です」
 と王子はキッパリ言った。

 王国では、男系継承、しかも金目の王子しか跡を継げない。
 だから、王や王子の妃達の一番の役目は王子を産むこと。
 そのため子作りして妻の役目を果たしている私はまだ正式な婚約者でないにもかかわらず、王子妃と扱われる。
 ママ様は私にそう教えた。

「天使は、王家に寄り添おうとしてくれている……」
 と陛下はちょっと疲れた表情でため息を吐いた。
「アメリアとは違う。アメリアは私を愛していると言うが、天使を見て疑問に思った。これが本当の愛なのだろうかと……」
 王子は不思議そうに眉をひそめた。
「アメリア?義姉上のことですか?」

 談話室には、陛下の護衛騎士二人、王子の護衛だがお目付役だがにテレンス様、そしてジェローム様。
 こういうことにうとい王子以外の人はピンと来てしまった。
 あの噂、本当なんだ、と。
 ママ様から王妃様はお二人の女の子を産んだあとは子作りに積極的でないと噂なのだと聞いていた。

 ――二人目産んだあと、太りやすくなったから王妃様、三人目産むのを躊躇しているらしいのよ。
 ――そうなんですか。
 ――まあ夫婦のことじゃない?本当のことなんて分からないし、そっとしておきましょう……って言いたいところなんだけど、臣下としてはバンバン産んで欲しいのよ。でもね、金目でない王子から金目の王子が産まれる確率は八分の一と言われているの。
 ――ちょっと低いですね。男の子と女の子が産まれる確率が半々だとしたら十六分の一ですか?
 ――そう。十六分の一の確率に賭けてくれって言えないから、陛下のところは臣下としては諦め気味なの。でも、陛下はやっぱりグレン王子殿下に負い目があるみたいで、お悩みのご様子なのよ。


 ……という話だった。
 ちなみに金目の王子から金目の王子が生まれる確率は三分の二らしい。
 ――だからエルシー様、頑張ってね。
 ……と続く。


「竜に選ばれたエルシー姫はこの国を思い躊躇なくグレンに身を捧げた天使のごとき乙女」
 陛下はじっと私を見つめる。
 王子は非常に精悍なお顔立ちの美形だが、陛下はどちらかというと甘いマスクという感じの整ったご容姿だ。
 御年三十歳というがまだまだとても若々しい。

「グレン、エルシー姫を私にくれないか?」


 とっさに私は言った。
「えっ、ヤダ」
「何故だ?確かに私は金目ではないが、天使が頑張ってくれるなら神は微笑んでくれよう」
「十六人は頑張れないです。無理です。それに王妃様いらっしゃいますよね。陛下は王妃様と頑張れば良いです」
「だが、天使、私は君がいい……」
 陛下は私を見つめる。
 三十過ぎてキラキラしている。王家すごい。
「天使、王妃になってくれないか?」

 王子が我に返ったのか、陛下の視線から私を隠すように間に入る。
「兄上、エルシーは俺のものです。兄上には義姉上がおられる」
「だが、今ならまだ天使はグレンと正式な結婚はしていない。グレン、お前は天使が望むような暮らしを送らせてはやれまい」
「……どういう意味ですか?」
 背中で聞く王子の声が少し低くなる。
「確かにグレン、金の瞳の王子のみがエステルの後継。王家の真の主はお前だ。だがしかし、それ故にグレンは国の鎮護の役目がある。竜と共にあるお前はこの離宮を離れられない。王妃になれば、王宮での華やかな生活を約束出来る。お前の側にいてはわずかな側近のみで寂しい暮らしを送るしかあるまい。それが本当に天使の幸せか?」
「…………」
 王子は黙ってしまった。
「天使、考えてくれ。私と愛を育もう」
 陛下は私にそう言った。
 王子も陛下も印象的な綺麗な声で、陛下のお声も王子と似てるけど、王子より華やかで優しげな感じだ。

 私は王子の影から言った。
「嫌です。王妃様怖い」
「君さえうんと言ってくれれば王妃は君だ」
「そんなのもっと怖いから嫌です」
「……では愛妾で我慢しよう」
 なんかすごく譲歩したように陛下は言った。
「それも王妃様怖いです。だから、王妃様と愛、育んで下さいよ。家族計画はよくご夫婦で相談して下さい。グレン様も陛下に言ってやって下さいよ」
 王子は振り返って、急に自信なそうな顔をする。
「……しかしエルシーは、王妃の暮らしを望んでいるのではないか?」
 私はブンブン首を横に振った。
「そんなのいりません。今でもすごく良い暮らしです。離宮好きですし、グレン様のお仕事も尊敬してます。大体、陛下は誰でも良いけど、グレン様は私以外お妃に出来ないじゃないですか」

「エルシー……」
 と王子は感動したみたいに呟いた。
「天使……」
 と陛下も感動したみたいだった。

 陛下は立ち上がった。
 王子は私を守る様に抱きしめた。
「贅を望まぬそれでこそ天使か。ここは私が引こう。だが天使、覚えておいてくれ。私も君を妃に望んでいる。何があれば私を頼って欲しい、私の天使よ」
「天使言わないで下さい!」
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