竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

文字の大きさ
50 / 119

50.夜会翌日

しおりを挟む
 一晩明けると事態は割と大事になっていた……らしい。
 王子は朝ご飯を食べるとすぐにまた国の見回りに数名の竜騎士様と共に出掛けていった。
 今度は一週間ほど掛かるらしい。
 涙目で「待っていてくれ」と言われたので、「はい」と頷く。
 月に一度はこうした見回りがあるらしい。大変なお仕事だ。

 お昼はママ様と一緒にランチを食べる。
 ジェローム様は今日は二週間後に予定されている私のお披露目の警備について関係部署との調整があるという。
 皆様、色々お忙しいご様子だ。
 一人になってしまう私にママ様が昨日の報告がてらお昼ご飯を付き合ってくれている。

「王妃様一筋の陛下が弟のグレン王子のお妃であるエルシー様に横恋慕だもの。皆その話、一色よ」
 王家の祖エステルは妻を運命の乙女と呼び生涯愛したと言い伝えられている。
 このため、王家の男子は妾を持たず、妻だけを愛するという。
 ……実際にはかなり怪しい方もいらっしゃるらしいが、一応大っぴらにご愛妾を何人も抱えちゃうなんてことはあまり名誉ではないらしい。
 陛下もこの王家の男児らしく、自らが選んだ王妃様を大変にご寵愛であると聞いていたのだが……。

「大スキャンダルですね。王室の権威失墜とかなりませんか?」
 王家の一員に片足突っ込んだ私はちょっと心配になった。
「そうはならないわね。権威失墜も何もこの国、王家がないと成り立たないから。むしろ、陛下若い子好きってことになって、早速愛妾の売り込みが来ているらしいわ。陛下も前向きみたい」
「愛妾って、じゃあ陛下ってやっぱり私のこと好きなの冗談だったんですね」
 良く分からない人騒がせな陛下だ。
 だが、ママ様は意外なことを口にする。
「そうでもないみたいよ。エルシー様が一番だから、エルシー様とグレン王子が離婚でもしたら、直ちにエルシー様を王妃に迎えるというのが条件らしいわ」
「うわー、ドロドロしそうで怖い。お断りしたいです」
「大変なのは王妃様ね。話を聞いてエルシー様のこと、激昂して姦婦呼ばわりしたから、陛下が本気で怒ったそうよ。『彼女ほど清らかな人はいない。私の天使を侮辱するな』とおっしゃったとか」
 ……陛下、昨日の会話聞いて、それか……。

「自分がグレンをあざけったから、天使は怒り身を挺してグレンを庇った。あのようなことをあなたがしてくれると思えない……って言ってたらしいけど、何言ったの?エルシー様」
「アラン様が教えてくれた男の子が聞きたいセリフを言いました」
「えっ、どういうの?」
「ここでは言えないようなことです。でも王妃様と陛下、お子様いらっしゃるから仲直りしてくれるといいですね」

「そうねぇ、どうかしらね」
 ママ様はため息交じりに言葉を吐き出す。
「王妃様も元々ちょっと考えは足らないけど、悪い子ではなかったのよ。でもこのところの増長はひどかったわ。自分の言うことを聞く者ばかり重用して、政治にも口を出そうとしていた。陛下はあれで賢い方だから、それは許さなかったけど、他の点では完璧に守っていたの。だけど、むしろそれが良くなかったのね。王妃様は何しても許されると思ってしまったみたい」
「怖いですね、そういうの」
「エルシー様も気を付けてね。まあわたくし始め、臣下の者もお支えしますから、口幅ったいこと言われても聞いて頂戴ね」


「さて、この話はこれくらいにして、エルシー様、昨日はとっても可愛いって評判だったわ」
「良かったです」
 ホッとした。
 王子にも両親にも何とか恥を掻かせずすんだようだ。
 ママ様も満足そうに微笑んだ。
「ご挨拶も落ち着いて良く出来たし、上々のデビューよ。でもああいう場だと教養はもう少し必要ね。習う気はある?」
「あります」
「じゃあ先生を付けて習いましょう。詩文と芸術。若いうちには知らないですむけど、年取ったらそうはいかないからね」




 ***

 王子がいない間、今度は私と同じ年頃の貴族の令嬢やご夫人を集めてのお茶会を催した。
 会場は今が見頃の薔薇の園と呼ばれる王太子宮の佳麗なガーデンである。
 幸い、好天に恵まれ、若い娘同士の気の置けない楽しい女子会になる……はずだった。
 蓋を開けると、今まで大変な美形と噂だが、離宮に住む謎の人扱いだった王子がすごく格好良いことがバレて、既婚未婚は問わず、若い娘達は色めいた。
 誰の物にならない孤高の王子様が、パッとしない子爵の娘に取られるのは面白くない。
 国家の重鎮方は、それでも竜が私に懐いたのだからとしょうがない結婚を認めたが、若い娘さん達はそんなの関係ない。

「まあ、あんな方が王太子妃になられるなんて」
「陛下ともお噂があるのよ、ふしだらよね」

 ……入場してすぐにひそひそされて、アラン様が引いてた。
「怖いですね、女子」
 こそっとアラン様が私に囁くと、
「今度は竜騎士様にしなだれかかってるわ」
 と言われて「うわー……。女子怖い」とアラン様が呟く。

「怖くないです。こんなものです」
「平気なの?エルシー様」
 オネエ様姿のジェローム様には女子ノーマークだ。
「格上過ぎるお家にお嫁に行く時は良くあることと母が言ってました。とってもいびられるそうです。身分違いは不幸の元だから、あまりおすすめしないと言われてました」
「あ、すみません。王子のかわりに謝っておきます」
 アラン様が頭を下げる。
「こうなった以上、しっかりしろとママ様から言い聞かされておりますので、平気です。想定内です」
「うちのママがそんなことを……」
「同格のお家でも競争率高い旦那様ゲットするとあることだそうです。ママ様も大変だったとか」
「えっ、うちのパパ、競争率高かったの?」
「ママ様曰く若い頃はダーリンとってもハンサムで競争率高かったそうです。と言うわけで私は大丈夫です」
 そう、勝算はあるのだ。
しおりを挟む
感想 351

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...