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51.女子会
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集まったのは、既婚未婚の二十歳までの若い女性達、二十人だ。
どの女性も伯爵までの貴族のご令嬢か、爵位の高いお家に嫁がれた方だった。
子爵の娘である私は、いわば彼女達より格下に当たり、皆様とのお付き合いはなかった。
どなたも王子妃になる私に恭しく挨拶するが、うっすらと侮りの視線を投げられる。
扇の下やハンカチを宛がった口元で皆、囁きあっている。
「たかが、子爵の娘」
「そんなに可愛くない」
「スタイルもちょっと……」
楽団が来て春にちなんだという音楽も奏でられているが、その音に隠れ、若い令嬢達はさえずった。
今日、私の護衛に付いてたアラン様、そして付添人のジェローム様は不快そうに眉をひそめるが、私は平気だ。
丁寧に巻いた髪、手入れの行き届いたお肌、自分を綺麗に見せる最上のメイク、磨き抜かれたスタイル。ここにいる皆様はとても美しい。
貴族の令嬢にとって、美しくあることは最も大切なことだ。
美しい容姿であればあるほど、良い結婚相手に見初められる確率は高くなる。
今はオネエ様方に頑張らされているが、以前の私はとっても気楽に生きていた。
「エルシーはあまり格が高くないお家にお嫁に行きなさい。堅苦しい生活は向いてない」と両親に生ぬるく甘やかされて好きなだけおやつ食べていた私が、少しでも高位のお家の方と結婚し、玉の輿乗る。そんな一族の野望を背負わされ、血のにじむ努力の末、期待通りに美しく育ったご令嬢方に見劣りするのは当然だ。
王子ほどの身分の高い未婚男性はいない。
その隣に立つ女性は、美しくなければならないのだ。
それなのに、普通の私ですよ。
ご令嬢方が不快に思うのも無理はないと思う。
そして王妃様はそんな並み居る強豪を抑え、社交界の花と君臨されるお方だ。
あんまり近寄りたくはないが、ちょっと尊敬している。
お茶会が始まると、令嬢のお一人が私に聞いた。
「エルシー様、グレン王太子殿下はどんな方なのですか?」
皆王子のことは気になるのか私に視線が集まる。
「お優しい方ですが、今日もお仕事で地方です。一月の内、一週間は国中を回られ、お戻りになりません」
「まあ、寂しいですわね」
ご令嬢方が静かにざわめく。
「普段は、エルシー様は離宮にお住まいとか」
「はい、殿下が離宮での生活をお望みなので、王太子宮に来ることは滅多にございません」
お茶会の会場である王太子宮のガーデンは丁度薔薇の季節を迎えてとても美しい。
壮麗佳麗な王太子宮から森を挟んだ向こうに離宮はある。
歩いて十五分程度なのだが、更に奥に森が広がり、ここからだと深い森に抱かれて垣間見える小さな離宮は美しいが随分と寂しげに見えた。
「離宮は竜舎に近く、殿下もお仕事がない時は静かに過ごすのを好まれますので、王宮にありながら華やかとはいいがたい生活です。私は気になりませんが」
と言うと、皆様黙る。
遠くでグオオオッンと大きな動物がいななく声がする。
「あっ……あれは?」
と令嬢のどなたかが怯えたように問う。
「竜です。慣れると可愛いです。明け方と夕方に遠吠えのように少し鳴きます。今のはおやつ貰って嬉しいの鳴き声です」
「はあ……」
陛下が言うように王子はちょっと条件悪い。
特に離宮の暮らしは王太子妃と言って思い浮かべる華やかな生活とは違う。
国防掛かってるし、お役目だし、そんなものだと思うが、美形の旦那様と煌びやかな王宮の暮らしがしたいのであれば、王子相手だと難しい。
「それより、今から男児を生むことを期待されているので期待に応えられますかどうか、心配です」
と私はため息を吐く。
「そっ、それは……」
と新婚のご夫人方がうめいた。
王子の一番のマイナスポイントはこれだ。
絶対生めと国中から期待されているが、赤ちゃん産めるのかなんて良く分かんない。
「……確か王家はグレン王子殿下と国王陛下のお二人。陛下には二人お子様がおられますが、どちらも女児。それ以外は遠縁に当たる公爵家が一家のみ。その公爵家も跡取り様はいないとか……」
物知りなご令嬢が呟く。
王国では公爵家はエステルの血統に限られていて、跡継ぎのないお家は爵位を王家に返させねばならないしきたりだ。
だから王子、公爵位四つだか五つだか持ってるらしい。
そんな絶望的に繁殖力の低い一族の、今はただ一人の金色の目の王子相手に、金色の目の男の子絶対産めって言われてる私だ。
この立場、割と嬉しくないのをお分かり頂けるだろうか。
「大変ですわね、エルシー様」
と急に同情ぽい視線が集まった。
「何かあればお力になりますわ」
新婚のご夫人方は割と切実な感じでおっしゃった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると心強いですわ。どこの家も跡取りは欲しいものでしょうが……」
多かれ少なかれ、新婚のお嫁さん達はこの手のプレッシャーに晒されている。
「いいえ、エルシー様のご心痛に比べれば大したことはありませんわ」
……と同情されて女子会は終わった。
***
一週間後の昼過ぎに王子は帰り、帰った途端に彼は言った。
「風呂に入ってくる」
「はあ……」
だからなんだ?
汗でも掻いたのか、王子はそのままお風呂場に向かう。
残ったテレンス様が、「エルシー様」と私を呼んだ。
「はい」
「今の王子の言葉の意味は、お分かりですか?」
とテレンス様は言いにくそうに私に問いかけた。
私はブンブン頭を振った。
「いいえ、さっぱりわかりませんでした」
「あれは、だから床をしたいという意味です」
「……トコ……?」
「セックスです」
「えっ、お昼なのに?王子変態!」
「いえ、生活が不規則な騎士ではありがちなのです」
とテレンス様は王子を庇った。
「もちろんお断り下さって良いんですが、特に遠方から戻ると妻恋しいものなのです」
そんなこと言われると断りにくい……。
どの女性も伯爵までの貴族のご令嬢か、爵位の高いお家に嫁がれた方だった。
子爵の娘である私は、いわば彼女達より格下に当たり、皆様とのお付き合いはなかった。
どなたも王子妃になる私に恭しく挨拶するが、うっすらと侮りの視線を投げられる。
扇の下やハンカチを宛がった口元で皆、囁きあっている。
「たかが、子爵の娘」
「そんなに可愛くない」
「スタイルもちょっと……」
楽団が来て春にちなんだという音楽も奏でられているが、その音に隠れ、若い令嬢達はさえずった。
今日、私の護衛に付いてたアラン様、そして付添人のジェローム様は不快そうに眉をひそめるが、私は平気だ。
丁寧に巻いた髪、手入れの行き届いたお肌、自分を綺麗に見せる最上のメイク、磨き抜かれたスタイル。ここにいる皆様はとても美しい。
貴族の令嬢にとって、美しくあることは最も大切なことだ。
美しい容姿であればあるほど、良い結婚相手に見初められる確率は高くなる。
今はオネエ様方に頑張らされているが、以前の私はとっても気楽に生きていた。
「エルシーはあまり格が高くないお家にお嫁に行きなさい。堅苦しい生活は向いてない」と両親に生ぬるく甘やかされて好きなだけおやつ食べていた私が、少しでも高位のお家の方と結婚し、玉の輿乗る。そんな一族の野望を背負わされ、血のにじむ努力の末、期待通りに美しく育ったご令嬢方に見劣りするのは当然だ。
王子ほどの身分の高い未婚男性はいない。
その隣に立つ女性は、美しくなければならないのだ。
それなのに、普通の私ですよ。
ご令嬢方が不快に思うのも無理はないと思う。
そして王妃様はそんな並み居る強豪を抑え、社交界の花と君臨されるお方だ。
あんまり近寄りたくはないが、ちょっと尊敬している。
お茶会が始まると、令嬢のお一人が私に聞いた。
「エルシー様、グレン王太子殿下はどんな方なのですか?」
皆王子のことは気になるのか私に視線が集まる。
「お優しい方ですが、今日もお仕事で地方です。一月の内、一週間は国中を回られ、お戻りになりません」
「まあ、寂しいですわね」
ご令嬢方が静かにざわめく。
「普段は、エルシー様は離宮にお住まいとか」
「はい、殿下が離宮での生活をお望みなので、王太子宮に来ることは滅多にございません」
お茶会の会場である王太子宮のガーデンは丁度薔薇の季節を迎えてとても美しい。
壮麗佳麗な王太子宮から森を挟んだ向こうに離宮はある。
歩いて十五分程度なのだが、更に奥に森が広がり、ここからだと深い森に抱かれて垣間見える小さな離宮は美しいが随分と寂しげに見えた。
「離宮は竜舎に近く、殿下もお仕事がない時は静かに過ごすのを好まれますので、王宮にありながら華やかとはいいがたい生活です。私は気になりませんが」
と言うと、皆様黙る。
遠くでグオオオッンと大きな動物がいななく声がする。
「あっ……あれは?」
と令嬢のどなたかが怯えたように問う。
「竜です。慣れると可愛いです。明け方と夕方に遠吠えのように少し鳴きます。今のはおやつ貰って嬉しいの鳴き声です」
「はあ……」
陛下が言うように王子はちょっと条件悪い。
特に離宮の暮らしは王太子妃と言って思い浮かべる華やかな生活とは違う。
国防掛かってるし、お役目だし、そんなものだと思うが、美形の旦那様と煌びやかな王宮の暮らしがしたいのであれば、王子相手だと難しい。
「それより、今から男児を生むことを期待されているので期待に応えられますかどうか、心配です」
と私はため息を吐く。
「そっ、それは……」
と新婚のご夫人方がうめいた。
王子の一番のマイナスポイントはこれだ。
絶対生めと国中から期待されているが、赤ちゃん産めるのかなんて良く分かんない。
「……確か王家はグレン王子殿下と国王陛下のお二人。陛下には二人お子様がおられますが、どちらも女児。それ以外は遠縁に当たる公爵家が一家のみ。その公爵家も跡取り様はいないとか……」
物知りなご令嬢が呟く。
王国では公爵家はエステルの血統に限られていて、跡継ぎのないお家は爵位を王家に返させねばならないしきたりだ。
だから王子、公爵位四つだか五つだか持ってるらしい。
そんな絶望的に繁殖力の低い一族の、今はただ一人の金色の目の王子相手に、金色の目の男の子絶対産めって言われてる私だ。
この立場、割と嬉しくないのをお分かり頂けるだろうか。
「大変ですわね、エルシー様」
と急に同情ぽい視線が集まった。
「何かあればお力になりますわ」
新婚のご夫人方は割と切実な感じでおっしゃった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると心強いですわ。どこの家も跡取りは欲しいものでしょうが……」
多かれ少なかれ、新婚のお嫁さん達はこの手のプレッシャーに晒されている。
「いいえ、エルシー様のご心痛に比べれば大したことはありませんわ」
……と同情されて女子会は終わった。
***
一週間後の昼過ぎに王子は帰り、帰った途端に彼は言った。
「風呂に入ってくる」
「はあ……」
だからなんだ?
汗でも掻いたのか、王子はそのままお風呂場に向かう。
残ったテレンス様が、「エルシー様」と私を呼んだ。
「はい」
「今の王子の言葉の意味は、お分かりですか?」
とテレンス様は言いにくそうに私に問いかけた。
私はブンブン頭を振った。
「いいえ、さっぱりわかりませんでした」
「あれは、だから床をしたいという意味です」
「……トコ……?」
「セックスです」
「えっ、お昼なのに?王子変態!」
「いえ、生活が不規則な騎士ではありがちなのです」
とテレンス様は王子を庇った。
「もちろんお断り下さって良いんですが、特に遠方から戻ると妻恋しいものなのです」
そんなこと言われると断りにくい……。
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