竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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72.結婚三日前

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 私のお披露目は王都で大評判だったらしい。
 空からお花が降ってくるのに驚いて、多くの人が空を見上げ、そこにいたのは晴れ渡った王都の空を優美に飛ぶ青銅色の竜。
 とても綺麗で、幻想的な光景だったそうだ。
 ゲルボルグが王子の竜であることは広く知られている。そしてもう一人、ゲルボルグの背に乗るのはドレス姿の娘。
 皆、その娘が王子のお妃だと一目で分かったそうだ。
 私が身に付けていた長いベールがはためいて、その時のことは。

 ――竜に選ばれた天使のように美しい少女が、この地を統べる王に寄り添い、天空より皆に王のむかいめになることを知らしめた。

 とのちに何だかとってもいい話のように語られることになる。

 その後の王宮のパーティーも陛下が何とかしてくれたようだ。
 本来の形とは違ったが、これはこれで成功だったみたい。

 お披露目の後は、いよいよ私と王子の結婚式だ。
 あと三ヶ月足らずとなり、準備に皆大忙しだった。




 ***

 そして、本番まであと三日。
「うん、いいわ。エルシー様、本当に綺麗よ。やっぱりワタシ、天才ね」
 ウエディングドレスを来た私を見て、デザイナーのオネエ様が満足そうに何度も頷く。
 今日が最後の調整なのだ。

 本当に綺麗なドレスだった。
 総レースの真っ白なウエディングドレス。
 ハイネックで指先まで覆う長袖。顔と指先以外、素肌が見えているところはない。
 しかしレースごしに肌が少しだけ透けて見える繊細で優美でちょっと大人っぽいデザインだ。
 レースの上にはキラキラと輝くような銀の刺繍が施されて、とっても豪勢なドレスだった。
「伝統的な花嫁のドレスだけど、そこが良いでしょう。エルシー様はこういうのが似合うのよ。上品で端正。我ながら最高のドレスよ。レースの豪華さに負けちゃうかしらと思ったけど、あなた、本当に綺麗になったわねぇ」
「えっ、そうですか?ありがとうございます」
 褒められた!
 日焼けもお肌も髪のお手入れも頑張った甲斐があったみたい。

「胸もちょっと大きくなったし」
「皆のおかげです!」
 胸はむぎゅーっと背中から腹から胸にお肉を集めて、おっぱいだと思い込ませると、それはおっぱいになるそうだ。
 ……本当か?
 と思ったが、胸はちょっとおっきくなったのだ。
 人間の体、すごい。

「王子も頑張ったわね」
 王子も頑張ったらしい。





 ***

 今日は、お式のリハーサルでもある。
 本番のウエディングドレスを汚さないようにそっと脱いで、リハーサル用のドレスに着替える。
 リハーサル用のドレスは本番とデザインは違うのだが、重さと裾の長さはほぼ一緒というドレスだ。
 離宮の玄関では王子とそれからゲルボルグが私が来るのを待っていた。

「エルシー、行けるか?」
「はい。お願いします」

 行く先は、王都の中心部にあるイストミドルシス大聖堂だ。
 こちらの教会では歴代の王や王妃が埋葬されており、戴冠式などが執り行われることでも有名だ。
 私と王子もこの伝統ある教会で結婚式を挙げる。

 空を飛ぶ私達に沢山の人が手を振ってくれる。
 ロイヤルウエディングは実に十二年ぶりとあって王都もお祝いムードが盛り上がっている。
 結婚式には外国からも招待のお客様が来るので失敗は許されない。
 そういうわけで今日は大事なリハーサルだった。


 大聖堂の中庭にゲルボルグは降り立つ。
 ゲルボルグから降りるとすぐ、王子が私に言った。
「何かあったか?エルシー」
 ドキッとしたけどあわてて否定した。
「何でもないです」

 ……本当は、あった。
 出掛ける直前に王妃様からまた手紙が来た。

 結局、王妃様と陛下、温泉行ったらしい。
 そして今日、妊娠が分かったらしい。
 温泉、すごい。
 手紙にはあなたにはお世話になったから一番に教えてあげるわと書かれていた。先に妊娠しちゃってごめんなさい、うふふ。
 とお喜びなお手紙だ。
 また、ご使者が返事が欲しいとお待ちだった。
「良かったです。妊娠おめでとうこざいます」
 と書いて渡した。

 本当にそう思う。
 そうか、赤ちゃんか……。
 私は自分のぺったんこなお腹を撫でた。

 私と王子が会って半年。
 まだ、赤ちゃん、出来てない。
 王子は「王家は子が出来にくいのだ」と言ってあんまり気にしないようにいつも言う。

 でも、私は気になる。
 普通のお家なら、三年。
 その間に赤ちゃんが出来ないと、離婚されてしまうこともある。


 この国の結婚式では、結婚式の時に神の前で花婿がこう誓う。
「汝を妻とし、いかなる時も共にあることを誓う。幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓う」
 そして花嫁は「はい、あなたに従います」と答えるのが王家の伝統だ。

 ……でも私は、従いますは本当は言っちゃいけない。
 言うけど、嘘の誓いをする。
 だって、しょうがない。
 だって、私は竜が選んだお妃で、条件付きのお嫁さんだから。

 王子はこの国を守るため、結婚をする。
 王子の使命は、国の跡継ぎである次の金目の王子を生ませること。
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