竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

文字の大きさ
90 / 119
第二章

間話:6話竜の騎士団(離宮)①

しおりを挟む
 竜の国の世継ぎ王子グレンの結婚の宴は華やかに執り行われた。
 その翌日にテレンスは西にある大国アルステアの末の王子リーンが、王太子妃エルシーの側付きとして、この離宮で生活することを聞かされた。
 前日、テレンスは王宮に設置された最高警備本部詰めだったため、宴であった出来事は知らずにいた。
 テレンスは唖然と呟いた。
「何でだ?」
 先だっての打診など何もない。寝耳に水であった。
 アルステアはグレン王子の母の出身国。
 アルステア国王は甥のグレン王子の結婚を祝うため、当地を訪れていた。
 リーン王子とグレン王子の関係は従兄弟にあたるが、国も違い、七歳と二十六歳。
 年齢も違いすぎるため、二人の交流は今までまったくなかった。

 婚礼の宴は三日間続く。
 初日ほど大掛かりではないが、二日目の今日も気は抜けない。
 朝の打ち合わせに離宮に集まった竜騎士達は手早く情報共有をすませ、持ち場に着くはずであったが、それどころではない。
 当日、グレン王子の側で警護に当たっていた竜騎士は子細を聞きたがる同僚らに問い詰められたが、当惑気味に答えた。
「いや、正直、分からんと言えば、俺らも分からない。あの国もほら、後継で揉めているだろう。例の青髪が見つからないとかで」
 竜の国は瞳の色が金色の男児のみが跡取りとなる。こういう掟があった。
 同様に、アルステアは青髪でないと王となれないらしい。

 青髪と言えば。
 テレンスはグレン王子の母、先の王妃を懐かしく思い出す。
 ――かの方は美しい青い髪をなさっていた。

 青髪は、アルステアでも百人に一人程度で、血統でも伝わるが、突然変異で生まれることもある。
 そういう珍しい髪の色らしい。
 魔力に関わりがあるらしいが、西にあるカンデュラ国の更に隣の国とそこそこ遠方の国のことであり、また竜の国は精霊と竜と共にあることを選び、古くから魔法を使うことが禁じられている。
 詳しいことはテレンス達にも分からなかった。

「ああ、気の毒だよな。あそこも。青髪が生まれないんだろう?」
 テレンスは深く同情した。
 竜の国で、ただ一人となった金目の王からただ一人の金目の王子が生まれた。それが、グレン王子であった。
 もっと子が欲しい臣下は王に愛妾を取るのを求めたが、結局王はこれを拒み、妾を持たぬまま、亡くなる。
 一方で、事態を深く憂慮したアルステア王は王妃以外にも次々と子を生ませ、彼には五人の王子、三人の王女がいる。最後の最後と、自国の青髪の魔女と関係を持ち、生まれた子が末の王子リーンである。
 この子は魔法の才は並外れていたが、青髪ではなかった。
 アルステアの王に青髪の子はなく、孫達にも青髪はいない。

 竜の国の王家の金目と違い、青髪は珍しい髪の色ではあるが、リーン王子の母親のように探せばいる。
 しかし。
「青髪ならいいのかというと、それも駄目らしい。王家の祖である大昔の大魔法使いの血を引く青髪でないといかんそうだ」
「面倒なものだな。我が国もよそのことは言えんが」
 テレンスは自嘲する。
 本来なら竜の国は長子相続が原則である。グレン王子の兄、チャールズが跡取りであるはずだ。しかし金目でないチャールズは王になったが、王家の主ではなく、後継の血統はグレン王子の子となる、というなかなかにややこしい状況であった。

 竜の国の金目の王子が、魔法の国アルステアの青髪の王女に恋をして二人は結ばれた。
 彼らの二人の子は共に青髪であった。
「それでエルシー様に白羽の矢が立った」
 その場にいた竜騎士達は顔を見合わせる。
「なんでエルシー様?」
「何でも魔素まそというのがないと青髪の子は生まれづらいらしい。エルシー様はその魔素まそがあるんだと。しかもたっぷりと」
「魔素」
 これまたあまり聞き慣れない言葉であった。
「我が国だと、エーテルとか精霊とか呼ぶあれだ。まあ、あるだろうな。あれだけ竜に懐かれるお方だ」

 魔法使い達は魔法の力の源として体内の魔素を吐き出す。
 だが、魔法使いでない者達はこれを使わないため、魔素を溜め込みやすいのだそうだ。
 竜の国にも、似たような概念がある。それはエーテルと呼ばれて、エーテルは常に循環するものと考えられている。
 竜の国ではエーテルを良い空気のようなものであると解釈している。精霊とはこのエーテルが具現したものだ。
 万物は精霊が宿っているというのが、竜の国の思想である。
 風には風の精霊がおり、花は一つ一つが精霊の化身である。自然が豊かな場所や、竜の側などは良い空気を沢山吸える場所である。
 竜の国ではこのエーテルは循環させるべきものであり、魔法はその流れを滞らせるものと考えられてきた。
 故に、竜の国では初代の国王の頃から魔法を使うのは禁じられているのだ。


「あ、そうなんだ?」
「じゃあ俺達竜騎士も魔素がたっぷり?」
「らしいぞ」
「じゃあ、俺ら、魔法使いになれるんすか?」
 とアランが聞いた。
「いや、そういうものじゃないらしい。まあ俺達は魔法使いの素質はあるらしいが、騎士と同じだ。魔法使いになるのも子供の頃から訓練が必要だそうだ。俺達じゃあ年齢的に難しいだろうな。それにこの国は魔法を禁じているからな。王子の母上様も魔法使いだったが、この国に嫁ぐために魔法は自ら封じなさったそうだ」





-*-*-*-*-*-

夜にもう一話更新します。
しおりを挟む
感想 351

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...