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第二章
間話:6話竜の騎士団(離宮)①
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竜の国の世継ぎ王子グレンの結婚の宴は華やかに執り行われた。
その翌日にテレンスは西にある大国アルステアの末の王子リーンが、王太子妃エルシーの側付きとして、この離宮で生活することを聞かされた。
前日、テレンスは王宮に設置された最高警備本部詰めだったため、宴であった出来事は知らずにいた。
テレンスは唖然と呟いた。
「何でだ?」
先だっての打診など何もない。寝耳に水であった。
アルステアはグレン王子の母の出身国。
アルステア国王は甥のグレン王子の結婚を祝うため、当地を訪れていた。
リーン王子とグレン王子の関係は従兄弟にあたるが、国も違い、七歳と二十六歳。
年齢も違いすぎるため、二人の交流は今までまったくなかった。
婚礼の宴は三日間続く。
初日ほど大掛かりではないが、二日目の今日も気は抜けない。
朝の打ち合わせに離宮に集まった竜騎士達は手早く情報共有をすませ、持ち場に着くはずであったが、それどころではない。
当日、グレン王子の側で警護に当たっていた竜騎士は子細を聞きたがる同僚らに問い詰められたが、当惑気味に答えた。
「いや、正直、分からんと言えば、俺らも分からない。あの国もほら、後継で揉めているだろう。例の青髪が見つからないとかで」
竜の国は瞳の色が金色の男児のみが跡取りとなる。こういう掟があった。
同様に、アルステアは青髪でないと王となれないらしい。
青髪と言えば。
テレンスはグレン王子の母、先の王妃を懐かしく思い出す。
――かの方は美しい青い髪をなさっていた。
青髪は、アルステアでも百人に一人程度で、血統でも伝わるが、突然変異で生まれることもある。
そういう珍しい髪の色らしい。
魔力に関わりがあるらしいが、西にあるカンデュラ国の更に隣の国とそこそこ遠方の国のことであり、また竜の国は精霊と竜と共にあることを選び、古くから魔法を使うことが禁じられている。
詳しいことはテレンス達にも分からなかった。
「ああ、気の毒だよな。あそこも。青髪が生まれないんだろう?」
テレンスは深く同情した。
竜の国で、ただ一人となった金目の王からただ一人の金目の王子が生まれた。それが、グレン王子であった。
もっと子が欲しい臣下は王に愛妾を取るのを求めたが、結局王はこれを拒み、妾を持たぬまま、亡くなる。
一方で、事態を深く憂慮したアルステア王は王妃以外にも次々と子を生ませ、彼には五人の王子、三人の王女がいる。最後の最後と、自国の青髪の魔女と関係を持ち、生まれた子が末の王子リーンである。
この子は魔法の才は並外れていたが、青髪ではなかった。
アルステアの王に青髪の子はなく、孫達にも青髪はいない。
竜の国の王家の金目と違い、青髪は珍しい髪の色ではあるが、リーン王子の母親のように探せばいる。
しかし。
「青髪ならいいのかというと、それも駄目らしい。王家の祖である大昔の大魔法使いの血を引く青髪でないといかんそうだ」
「面倒なものだな。我が国もよそのことは言えんが」
テレンスは自嘲する。
本来なら竜の国は長子相続が原則である。グレン王子の兄、チャールズが跡取りであるはずだ。しかし金目でないチャールズは王になったが、王家の主ではなく、後継の血統はグレン王子の子となる、というなかなかにややこしい状況であった。
竜の国の金目の王子が、魔法の国アルステアの青髪の王女に恋をして二人は結ばれた。
彼らの二人の子は共に青髪であった。
「それでエルシー様に白羽の矢が立った」
その場にいた竜騎士達は顔を見合わせる。
「なんでエルシー様?」
「何でも魔素というのがないと青髪の子は生まれづらいらしい。エルシー様はその魔素があるんだと。しかもたっぷりと」
「魔素」
これまたあまり聞き慣れない言葉であった。
「我が国だと、エーテルとか精霊とか呼ぶあれだ。まあ、あるだろうな。あれだけ竜に懐かれるお方だ」
魔法使い達は魔法の力の源として体内の魔素を吐き出す。
だが、魔法使いでない者達はこれを使わないため、魔素を溜め込みやすいのだそうだ。
竜の国にも、似たような概念がある。それはエーテルと呼ばれて、エーテルは常に循環するものと考えられている。
竜の国ではエーテルを良い空気のようなものであると解釈している。精霊とはこのエーテルが具現したものだ。
万物は精霊が宿っているというのが、竜の国の思想である。
風には風の精霊がおり、花は一つ一つが精霊の化身である。自然が豊かな場所や、竜の側などは良い空気を沢山吸える場所である。
竜の国ではこのエーテルは循環させるべきものであり、魔法はその流れを滞らせるものと考えられてきた。
故に、竜の国では初代の国王の頃から魔法を使うのは禁じられているのだ。
「あ、そうなんだ?」
「じゃあ俺達竜騎士も魔素がたっぷり?」
「らしいぞ」
「じゃあ、俺ら、魔法使いになれるんすか?」
とアランが聞いた。
「いや、そういうものじゃないらしい。まあ俺達は魔法使いの素質はあるらしいが、騎士と同じだ。魔法使いになるのも子供の頃から訓練が必要だそうだ。俺達じゃあ年齢的に難しいだろうな。それにこの国は魔法を禁じているからな。王子の母上様も魔法使いだったが、この国に嫁ぐために魔法は自ら封じなさったそうだ」
-*-*-*-*-*-
夜にもう一話更新します。
その翌日にテレンスは西にある大国アルステアの末の王子リーンが、王太子妃エルシーの側付きとして、この離宮で生活することを聞かされた。
前日、テレンスは王宮に設置された最高警備本部詰めだったため、宴であった出来事は知らずにいた。
テレンスは唖然と呟いた。
「何でだ?」
先だっての打診など何もない。寝耳に水であった。
アルステアはグレン王子の母の出身国。
アルステア国王は甥のグレン王子の結婚を祝うため、当地を訪れていた。
リーン王子とグレン王子の関係は従兄弟にあたるが、国も違い、七歳と二十六歳。
年齢も違いすぎるため、二人の交流は今までまったくなかった。
婚礼の宴は三日間続く。
初日ほど大掛かりではないが、二日目の今日も気は抜けない。
朝の打ち合わせに離宮に集まった竜騎士達は手早く情報共有をすませ、持ち場に着くはずであったが、それどころではない。
当日、グレン王子の側で警護に当たっていた竜騎士は子細を聞きたがる同僚らに問い詰められたが、当惑気味に答えた。
「いや、正直、分からんと言えば、俺らも分からない。あの国もほら、後継で揉めているだろう。例の青髪が見つからないとかで」
竜の国は瞳の色が金色の男児のみが跡取りとなる。こういう掟があった。
同様に、アルステアは青髪でないと王となれないらしい。
青髪と言えば。
テレンスはグレン王子の母、先の王妃を懐かしく思い出す。
――かの方は美しい青い髪をなさっていた。
青髪は、アルステアでも百人に一人程度で、血統でも伝わるが、突然変異で生まれることもある。
そういう珍しい髪の色らしい。
魔力に関わりがあるらしいが、西にあるカンデュラ国の更に隣の国とそこそこ遠方の国のことであり、また竜の国は精霊と竜と共にあることを選び、古くから魔法を使うことが禁じられている。
詳しいことはテレンス達にも分からなかった。
「ああ、気の毒だよな。あそこも。青髪が生まれないんだろう?」
テレンスは深く同情した。
竜の国で、ただ一人となった金目の王からただ一人の金目の王子が生まれた。それが、グレン王子であった。
もっと子が欲しい臣下は王に愛妾を取るのを求めたが、結局王はこれを拒み、妾を持たぬまま、亡くなる。
一方で、事態を深く憂慮したアルステア王は王妃以外にも次々と子を生ませ、彼には五人の王子、三人の王女がいる。最後の最後と、自国の青髪の魔女と関係を持ち、生まれた子が末の王子リーンである。
この子は魔法の才は並外れていたが、青髪ではなかった。
アルステアの王に青髪の子はなく、孫達にも青髪はいない。
竜の国の王家の金目と違い、青髪は珍しい髪の色ではあるが、リーン王子の母親のように探せばいる。
しかし。
「青髪ならいいのかというと、それも駄目らしい。王家の祖である大昔の大魔法使いの血を引く青髪でないといかんそうだ」
「面倒なものだな。我が国もよそのことは言えんが」
テレンスは自嘲する。
本来なら竜の国は長子相続が原則である。グレン王子の兄、チャールズが跡取りであるはずだ。しかし金目でないチャールズは王になったが、王家の主ではなく、後継の血統はグレン王子の子となる、というなかなかにややこしい状況であった。
竜の国の金目の王子が、魔法の国アルステアの青髪の王女に恋をして二人は結ばれた。
彼らの二人の子は共に青髪であった。
「それでエルシー様に白羽の矢が立った」
その場にいた竜騎士達は顔を見合わせる。
「なんでエルシー様?」
「何でも魔素というのがないと青髪の子は生まれづらいらしい。エルシー様はその魔素があるんだと。しかもたっぷりと」
「魔素」
これまたあまり聞き慣れない言葉であった。
「我が国だと、エーテルとか精霊とか呼ぶあれだ。まあ、あるだろうな。あれだけ竜に懐かれるお方だ」
魔法使い達は魔法の力の源として体内の魔素を吐き出す。
だが、魔法使いでない者達はこれを使わないため、魔素を溜め込みやすいのだそうだ。
竜の国にも、似たような概念がある。それはエーテルと呼ばれて、エーテルは常に循環するものと考えられている。
竜の国ではエーテルを良い空気のようなものであると解釈している。精霊とはこのエーテルが具現したものだ。
万物は精霊が宿っているというのが、竜の国の思想である。
風には風の精霊がおり、花は一つ一つが精霊の化身である。自然が豊かな場所や、竜の側などは良い空気を沢山吸える場所である。
竜の国ではこのエーテルは循環させるべきものであり、魔法はその流れを滞らせるものと考えられてきた。
故に、竜の国では初代の国王の頃から魔法を使うのは禁じられているのだ。
「あ、そうなんだ?」
「じゃあ俺達竜騎士も魔素がたっぷり?」
「らしいぞ」
「じゃあ、俺ら、魔法使いになれるんすか?」
とアランが聞いた。
「いや、そういうものじゃないらしい。まあ俺達は魔法使いの素質はあるらしいが、騎士と同じだ。魔法使いになるのも子供の頃から訓練が必要だそうだ。俺達じゃあ年齢的に難しいだろうな。それにこの国は魔法を禁じているからな。王子の母上様も魔法使いだったが、この国に嫁ぐために魔法は自ら封じなさったそうだ」
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夜にもう一話更新します。
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