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第二章
間話:6話竜の騎士団(離宮)②
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「へー」
若い騎士達は一様に物珍しそうな声色を上げる。
テレンスは内心で苦笑する。
今ではグレン王子の父母であった先の王と王妃を知る者は随分と減った。
先の王国王が亡くなりもう六年が経つ。
グレン王子は二十歳、当時王子だった兄のチャールズは二十四歳だった。
「この国は魔法を禁じているが、リーン様は特例として魔法を使うことを認められた。なんでも子供のうちは魔法の力は制御しきれず、暴発することもあるらしい。気を付けるように」
「はい」
これには皆真面目な顔で頷いた。
この国には魔法使いはいないが、西方諸国は魔法使いを抱えている。
魔法の恐ろしさは身にしみている。
もっとも竜が纏う竜気は魔法のうち特に『悪しき魔法』、攻撃魔法を弱める障壁の役目を果たす。竜と共にある竜騎士達も竜気を受け、ほとんどの魔法から身を守ることが出来た。
「で、王子とエルシー様の子供なら青髪が生まれるらしい。少なくともアルステアの国王陛下はそう断言なさった」
一人の若い竜騎士が手を上げると先輩に尋ねた。
「質問です。王妃様は今妊娠なさっているそうですが、そっちはどうなんです?青髪といえば、チャールズ陛下も青髪だ」
彼らより年長の騎士の一人は渋い顔してこれに応えた。
「そっちは無理だ」
「まあ、あの方は竜に嫌われてますからそうでしょうけど……」
竜騎士は頭を振る。
「いや、そうじゃない。王妃様は呪われているんだ」
若い騎士数名がざわついた。
「呪われている?」
「えっ、そうなんですか?無茶苦茶人の恨みかってそうですが、誰に呪われたんですか?」
と不敬を口にしたのはアランである。
テレンスやジェローム、三〇代以上の騎士達は視線を投げ合う。
ややあってテレンスが答えた。
「……良い機会だから教えておく。だがデリケートな話だからあんまり言いふらすなよ。呪ったのは、先の王妃様、王子の母上だ。魔法使いだったって言っただろう。王妃様のことを嫌った先の王妃様は結婚の際に呪いを掛けたんだ。『お前の子に決して私の色は渡さぬ』って、だから陛下は青髪碧眼だが、王妃様の生んだ子は二人とも王妃様にそっくりなオレンジ色の髪にピンクの瞳だろう」
「あー、そんなことあったんですか?」
「もう十年以上前になるからな。俺達も隠したし、知らない奴の方が多いだろう。王子も陛下もアルステアの王位継承権を持ってはいるが、順位は決して高くはない。青髪だろうがそうでなかろうが関係ないはずだったんだがな」
「王子って、アルステアの王位継承権持ってるんですか?つまりアルステアの王になるかも?」
この問いかけをテレンスは一蹴する。
「それはないだろう。王子はこの竜の国から離れられないからな。というか、王子がこの国離れたらこの国本当に終わるからな」
「まあそりゃそうですね」
とアランも納得する。
「話は脱線したが……」
と竜騎士の中でも年かさの騎士が咳払いして改まった顔で一同を見回す。
「エルシー様は今、黄金以上の価値を持った。竜の国の王の母で、アルステアの王の母となられる。各国の使者達がこの知らせを本国に伝えるだろう。エルシー様の身辺は今まで以上に注意しろ」
「はい」
と今日エルシーの護衛を担当する騎士二人は気負って頷く。
「リーン王子殿下は今日からエルシー様のお側にいるそうだ。ご自分の身は自分で守れるし、特段世話は必要ない。こちらも彼の護衛はしないことで決まった」
それが、リーン王子受け入れの条件であった。
離宮は国家最重要施設である竜舎に最も近い場所だ。そこで暮らすならリーン王子一人だけと、グレン王子が申し渡したのである。
そして不慮の事故で死亡の場合もこちらの責任は問わぬこと。
この条件をアルステア側は飲んだという。
それを聞いて、テレンスは『なんとまあ』と絶句したが、周りの顔色も似たようなものだった。
「そうは言っても相手は子供だ。適当に気を配ってやれ」
と思わず付け加えられるくらいには一同は幼い王子に同情した。
「しかしその子、リーン王子ですか?気の毒ですね。まだ子供なのに」
無邪気にそう漏らす若手に少し年上の竜騎士が苦笑する。
「まあ、アルステア国王陛下の親心と言う奴だな」
「そうですか?」
「国にいても五番目の王子だ。父王ももう歳。ここなら上手くすれば次代の王の側近か、王配だ」
「オウハイ?」
「王の配偶者。あそこは女王も認められている」
竜騎士はリーン王子の調査資料を見てため息を吐く。
「リーン王子はちょっと複雑な生い立ちで、お母上は青髪で魔女なんだが、生まれたリーン王子が黒髪だったのに怒って生まれたばかりの我が子を置いて、そのまま自分の森に帰ってしまったそうだ」
「あらー」
「リーン王子は城で父王に育てられたんだが、五番目の王子でそうわけで後ろ盾もない。そのくせ彼は魔力が強い。兄弟仲は悪くはないんだが、難しい立場にいる子だ。故国を離れてここにきた方が彼のためだろう。勉強の方は魔法都市に住む魔法使い達が面倒を見るそうだ」
竜の国で一つだけある魔法を使うことが許され、魔法使いが暮らす街。それが魔法都市だった。
アルステアの王女だった先の王妃の輿入れの時に作られた街だった。
「リーン王子様、いくつよ」
「七歳」
「王子のお子様のお婿さん候補か……」
「王子も王女もまだ一人も生まれてないのにな」
「エルシー様もお気の毒だな。結婚してすぐに子供二人も望まれて」
「それを言うなら王子の方が悩んでたぞ。子供産ませないと離婚されるとか……」
「王子、意外と繊細だから」
「良く分からんが、どっちも大変だな」
「ていうか、あのお二人、まだお休みなの?」
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「そりゃそうだろう。初夜だし」
「二回目だけどな」
「なんやかんや言って仲良いよな、王子とエルシー様」
一通り、下世話な話題で盛り上がった後、竜騎士達は二手に分かれた。
一方が王子と王子妃の警護に、もう一方は王家のもう一つの婚礼の儀式の準備のため、密かに王家の始まりの地、ルルスに向かった。
若い騎士達は一様に物珍しそうな声色を上げる。
テレンスは内心で苦笑する。
今ではグレン王子の父母であった先の王と王妃を知る者は随分と減った。
先の王国王が亡くなりもう六年が経つ。
グレン王子は二十歳、当時王子だった兄のチャールズは二十四歳だった。
「この国は魔法を禁じているが、リーン様は特例として魔法を使うことを認められた。なんでも子供のうちは魔法の力は制御しきれず、暴発することもあるらしい。気を付けるように」
「はい」
これには皆真面目な顔で頷いた。
この国には魔法使いはいないが、西方諸国は魔法使いを抱えている。
魔法の恐ろしさは身にしみている。
もっとも竜が纏う竜気は魔法のうち特に『悪しき魔法』、攻撃魔法を弱める障壁の役目を果たす。竜と共にある竜騎士達も竜気を受け、ほとんどの魔法から身を守ることが出来た。
「で、王子とエルシー様の子供なら青髪が生まれるらしい。少なくともアルステアの国王陛下はそう断言なさった」
一人の若い竜騎士が手を上げると先輩に尋ねた。
「質問です。王妃様は今妊娠なさっているそうですが、そっちはどうなんです?青髪といえば、チャールズ陛下も青髪だ」
彼らより年長の騎士の一人は渋い顔してこれに応えた。
「そっちは無理だ」
「まあ、あの方は竜に嫌われてますからそうでしょうけど……」
竜騎士は頭を振る。
「いや、そうじゃない。王妃様は呪われているんだ」
若い騎士数名がざわついた。
「呪われている?」
「えっ、そうなんですか?無茶苦茶人の恨みかってそうですが、誰に呪われたんですか?」
と不敬を口にしたのはアランである。
テレンスやジェローム、三〇代以上の騎士達は視線を投げ合う。
ややあってテレンスが答えた。
「……良い機会だから教えておく。だがデリケートな話だからあんまり言いふらすなよ。呪ったのは、先の王妃様、王子の母上だ。魔法使いだったって言っただろう。王妃様のことを嫌った先の王妃様は結婚の際に呪いを掛けたんだ。『お前の子に決して私の色は渡さぬ』って、だから陛下は青髪碧眼だが、王妃様の生んだ子は二人とも王妃様にそっくりなオレンジ色の髪にピンクの瞳だろう」
「あー、そんなことあったんですか?」
「もう十年以上前になるからな。俺達も隠したし、知らない奴の方が多いだろう。王子も陛下もアルステアの王位継承権を持ってはいるが、順位は決して高くはない。青髪だろうがそうでなかろうが関係ないはずだったんだがな」
「王子って、アルステアの王位継承権持ってるんですか?つまりアルステアの王になるかも?」
この問いかけをテレンスは一蹴する。
「それはないだろう。王子はこの竜の国から離れられないからな。というか、王子がこの国離れたらこの国本当に終わるからな」
「まあそりゃそうですね」
とアランも納得する。
「話は脱線したが……」
と竜騎士の中でも年かさの騎士が咳払いして改まった顔で一同を見回す。
「エルシー様は今、黄金以上の価値を持った。竜の国の王の母で、アルステアの王の母となられる。各国の使者達がこの知らせを本国に伝えるだろう。エルシー様の身辺は今まで以上に注意しろ」
「はい」
と今日エルシーの護衛を担当する騎士二人は気負って頷く。
「リーン王子殿下は今日からエルシー様のお側にいるそうだ。ご自分の身は自分で守れるし、特段世話は必要ない。こちらも彼の護衛はしないことで決まった」
それが、リーン王子受け入れの条件であった。
離宮は国家最重要施設である竜舎に最も近い場所だ。そこで暮らすならリーン王子一人だけと、グレン王子が申し渡したのである。
そして不慮の事故で死亡の場合もこちらの責任は問わぬこと。
この条件をアルステア側は飲んだという。
それを聞いて、テレンスは『なんとまあ』と絶句したが、周りの顔色も似たようなものだった。
「そうは言っても相手は子供だ。適当に気を配ってやれ」
と思わず付け加えられるくらいには一同は幼い王子に同情した。
「しかしその子、リーン王子ですか?気の毒ですね。まだ子供なのに」
無邪気にそう漏らす若手に少し年上の竜騎士が苦笑する。
「まあ、アルステア国王陛下の親心と言う奴だな」
「そうですか?」
「国にいても五番目の王子だ。父王ももう歳。ここなら上手くすれば次代の王の側近か、王配だ」
「オウハイ?」
「王の配偶者。あそこは女王も認められている」
竜騎士はリーン王子の調査資料を見てため息を吐く。
「リーン王子はちょっと複雑な生い立ちで、お母上は青髪で魔女なんだが、生まれたリーン王子が黒髪だったのに怒って生まれたばかりの我が子を置いて、そのまま自分の森に帰ってしまったそうだ」
「あらー」
「リーン王子は城で父王に育てられたんだが、五番目の王子でそうわけで後ろ盾もない。そのくせ彼は魔力が強い。兄弟仲は悪くはないんだが、難しい立場にいる子だ。故国を離れてここにきた方が彼のためだろう。勉強の方は魔法都市に住む魔法使い達が面倒を見るそうだ」
竜の国で一つだけある魔法を使うことが許され、魔法使いが暮らす街。それが魔法都市だった。
アルステアの王女だった先の王妃の輿入れの時に作られた街だった。
「リーン王子様、いくつよ」
「七歳」
「王子のお子様のお婿さん候補か……」
「王子も王女もまだ一人も生まれてないのにな」
「エルシー様もお気の毒だな。結婚してすぐに子供二人も望まれて」
「それを言うなら王子の方が悩んでたぞ。子供産ませないと離婚されるとか……」
「王子、意外と繊細だから」
「良く分からんが、どっちも大変だな」
「ていうか、あのお二人、まだお休みなの?」
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「そりゃそうだろう。初夜だし」
「二回目だけどな」
「なんやかんや言って仲良いよな、王子とエルシー様」
一通り、下世話な話題で盛り上がった後、竜騎士達は二手に分かれた。
一方が王子と王子妃の警護に、もう一方は王家のもう一つの婚礼の儀式の準備のため、密かに王家の始まりの地、ルルスに向かった。
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