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第二章
07.婚礼の儀式
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三日に渡る結婚の式典が無事終わり、私と王子は一ヶ月という長い新婚旅行に出掛ける。
途中で多分見回りも挟むことになるし、仕事も完全に止まることはないらしいが、それでも一ヶ月王宮以外で一緒に過ごす。
王子が選んだのは、温泉のある宮殿である。
温泉はとても広く、もはやプールだそうだ。
私と王子は皆に見送られてゲルボルグと共に数名の竜騎士様と共に宮殿に向かう。
……と見せかけて、私達は王宮から百五十キロほど北にある王家の始まりの地、ルルスへと降り立った。
――話は、三ヶ月前に遡る。
私の教養の家庭教師になったお爺ちゃん先生は、元々有名な学者様で、チャールズ陛下や王子の教育係だったそうだ。今は王宮で相談役のお仕事をなさっているという。
真っ白なお髭と御髪でタルコット先生とおっしゃる。
はっきりいって私は特に頭の良くないただの令嬢だ。
今から頑張って素晴らしい教養を身に付けようという気概はなく、王子に恥を掻かせると申し訳ないのでちょっと勉強しようかな程度の意欲しかない。
こんな生徒で良いのだろうか?
私はドキドキしながら先生に挨拶する。
「よろしくお願いします、エルシーです」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします、妃殿下様。わたくしはタルコットと申します」
とタルコット先生は穏やかに頭を下げられた。
「エルシー様、では我が国の周辺国の話から致しましょう。我が国は東は海、北は極寒の大陸、南は大火山があるマルティア国、そして西方は二つの国に囲まれております。この西方の二国は、我が国とは異なり、魔法を使う国なのですよ」
「えっ、魔法?」
「はい。ここより西の国は魔法を使う者達がおるのです。中でも魔法の国と言われるのはアルステア。一方で我が国は竜や精霊と生きる国。魔法は捨てたのです。この国は今でこそ竜に守られた祝福の地などと呼ばれておりますが、ほんの五百年前までは、不毛の大地だったと言い伝えられております……」
お妃教育は普通の令嬢が習う教養とは違って多岐に及んだ。
外国の話などは普通の令嬢は知らなくても良いということになっていて、それまであまり聞いたことがない話だったから、先生の話はとても興味深かった。
二度目の授業を受けた後、タルコット先生は改まった様子で私に言った。
「エルシー様、今日はあなた様にお願いがあって参りました」
「はい、何でしょう……?」
「王家の婚礼の儀をなさっては頂けませんでしょうか」
婚礼の儀というと普通なら結婚式を指すが、タルコット先生の言葉はそれとは違う意味があるように思えた。
戸惑いなから返事をする。
「えっと、私、三ヶ月後に王子と結婚式しますが、そういうことではなく?」
「はい。教会での結婚式の他に、王となる者は王家の生誕地ルルスにて儀式を執り行うのです。これを婚礼の儀式と申します」
「そんなのあるんですか」
結婚式は着々と準備が進んでいるが、王子からその話は聞いてない。
「ございます。我が国の王、当代ではグレン王子殿下は、王となるための三つの試練を受けました。一つは北にそびえる高き山ローメイに登ること、一つは西の迷いの森を抜けること、三つは東の帰らずの洞窟から戻ること」
「えっ、格好良くないですか、王子」
確かに竜騎士だし、剣の腕だか槍の腕だかは国一番らしいし、何となくすごい人というのは知っていたが、そんな儀式をこなしていたのか?
「左様でございますな。殿下は歴代でも天才と称される竜の騎士であられます。三つの試練も若干十八歳にして難なくこなされ、傷一つなくお戻りでした」
タルコット先生は王子の教育係だった人だ。ちょっと自慢げなご様子を見せた。
「三つの試練を越え、更に王家の生誕の地、ルルスで戴冠をすませた者のみが我が国の王なのです。王子は今だ、まことの意味では王ではない」
「戴冠?」
「はい。王家の祖エステルはルルスの地で、その妃『星の乙女』と向かい合わせに互いの頭に冠を乗せあい、戴冠したと伝えられているのです。それが我が国の最初の王の戴冠であり、王と王妃の婚礼でございました」
「あ、王子、奥さんいませんでしたからね。向かい合わせで冠は無理ですね」
聞けば王家にとって大切な儀式なのだが、王子はこの婚礼の儀式をするのを嫌がっているそうだ。
タルコット先生はそれで仕方なく私にお願いしてきたという。
私が良いですよと了承すると、タルコット先生は立ち上がり、「では王子殿下にお話しに参りましょう」
と言い出した。
「え、でもまだ王子、自分のお部屋で仕事中ですよ」
いいのか?
「善は急げと申します。あまり時間もございません」
一応は止めたんだが、新参者の私より、長年王子の教育係を務められたタルコット先生の方が離宮のことはお詳しい。
お爺ちゃんながら、勝手知ったるという風にスタスタとお部屋を出て、王子の執務室まで行ってしまう。
私もそれからジェローム様も一緒に先生について行く。
途中で多分見回りも挟むことになるし、仕事も完全に止まることはないらしいが、それでも一ヶ月王宮以外で一緒に過ごす。
王子が選んだのは、温泉のある宮殿である。
温泉はとても広く、もはやプールだそうだ。
私と王子は皆に見送られてゲルボルグと共に数名の竜騎士様と共に宮殿に向かう。
……と見せかけて、私達は王宮から百五十キロほど北にある王家の始まりの地、ルルスへと降り立った。
――話は、三ヶ月前に遡る。
私の教養の家庭教師になったお爺ちゃん先生は、元々有名な学者様で、チャールズ陛下や王子の教育係だったそうだ。今は王宮で相談役のお仕事をなさっているという。
真っ白なお髭と御髪でタルコット先生とおっしゃる。
はっきりいって私は特に頭の良くないただの令嬢だ。
今から頑張って素晴らしい教養を身に付けようという気概はなく、王子に恥を掻かせると申し訳ないのでちょっと勉強しようかな程度の意欲しかない。
こんな生徒で良いのだろうか?
私はドキドキしながら先生に挨拶する。
「よろしくお願いします、エルシーです」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします、妃殿下様。わたくしはタルコットと申します」
とタルコット先生は穏やかに頭を下げられた。
「エルシー様、では我が国の周辺国の話から致しましょう。我が国は東は海、北は極寒の大陸、南は大火山があるマルティア国、そして西方は二つの国に囲まれております。この西方の二国は、我が国とは異なり、魔法を使う国なのですよ」
「えっ、魔法?」
「はい。ここより西の国は魔法を使う者達がおるのです。中でも魔法の国と言われるのはアルステア。一方で我が国は竜や精霊と生きる国。魔法は捨てたのです。この国は今でこそ竜に守られた祝福の地などと呼ばれておりますが、ほんの五百年前までは、不毛の大地だったと言い伝えられております……」
お妃教育は普通の令嬢が習う教養とは違って多岐に及んだ。
外国の話などは普通の令嬢は知らなくても良いということになっていて、それまであまり聞いたことがない話だったから、先生の話はとても興味深かった。
二度目の授業を受けた後、タルコット先生は改まった様子で私に言った。
「エルシー様、今日はあなた様にお願いがあって参りました」
「はい、何でしょう……?」
「王家の婚礼の儀をなさっては頂けませんでしょうか」
婚礼の儀というと普通なら結婚式を指すが、タルコット先生の言葉はそれとは違う意味があるように思えた。
戸惑いなから返事をする。
「えっと、私、三ヶ月後に王子と結婚式しますが、そういうことではなく?」
「はい。教会での結婚式の他に、王となる者は王家の生誕地ルルスにて儀式を執り行うのです。これを婚礼の儀式と申します」
「そんなのあるんですか」
結婚式は着々と準備が進んでいるが、王子からその話は聞いてない。
「ございます。我が国の王、当代ではグレン王子殿下は、王となるための三つの試練を受けました。一つは北にそびえる高き山ローメイに登ること、一つは西の迷いの森を抜けること、三つは東の帰らずの洞窟から戻ること」
「えっ、格好良くないですか、王子」
確かに竜騎士だし、剣の腕だか槍の腕だかは国一番らしいし、何となくすごい人というのは知っていたが、そんな儀式をこなしていたのか?
「左様でございますな。殿下は歴代でも天才と称される竜の騎士であられます。三つの試練も若干十八歳にして難なくこなされ、傷一つなくお戻りでした」
タルコット先生は王子の教育係だった人だ。ちょっと自慢げなご様子を見せた。
「三つの試練を越え、更に王家の生誕の地、ルルスで戴冠をすませた者のみが我が国の王なのです。王子は今だ、まことの意味では王ではない」
「戴冠?」
「はい。王家の祖エステルはルルスの地で、その妃『星の乙女』と向かい合わせに互いの頭に冠を乗せあい、戴冠したと伝えられているのです。それが我が国の最初の王の戴冠であり、王と王妃の婚礼でございました」
「あ、王子、奥さんいませんでしたからね。向かい合わせで冠は無理ですね」
聞けば王家にとって大切な儀式なのだが、王子はこの婚礼の儀式をするのを嫌がっているそうだ。
タルコット先生はそれで仕方なく私にお願いしてきたという。
私が良いですよと了承すると、タルコット先生は立ち上がり、「では王子殿下にお話しに参りましょう」
と言い出した。
「え、でもまだ王子、自分のお部屋で仕事中ですよ」
いいのか?
「善は急げと申します。あまり時間もございません」
一応は止めたんだが、新参者の私より、長年王子の教育係を務められたタルコット先生の方が離宮のことはお詳しい。
お爺ちゃんながら、勝手知ったるという風にスタスタとお部屋を出て、王子の執務室まで行ってしまう。
私もそれからジェローム様も一緒に先生について行く。
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