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第三章
06.エルシータウン
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王子がいないというまさかの事態で、『来ちゃった』は不発だったが、私達はなかなか忙しい。
翌日からも旧マルティア国の人々と会見したり、毎朝「今日も一日元気で頑張りましょう。ご安全に作業しましょう」と城壁からご挨拶も義務付けられた。
ついでに他のお城や要塞にもご挨拶に行く。
皆、やはり未曾有の災害の後、不安に思っているらしく、私が来るのを喜んでくれた。
名誉市長としてはエルシータウンについても意見を述べたい。
マルティア国がどうなるのか、先のことはまだ分からない。
マルティアの人々は当分この南部にいることになる。せめてエルシータウンがいい街になるように頑張ろう。
皆の心は一つである。
皆々様集めた会合で私は言った。
「せっかくなので街の特色を出したいと思います」
「ほう」
「して、妃殿下、どのような?」
「水竜様グッズを作りましょう。ゲルボルグと王子グッズの利権は王都の大商人にがっちり握られてますが、水竜様グッズはまだ手つかずです。これは友達の商家の令嬢から聞いてます。今です。今、売り出しましょう。ちなみに水竜様はこんな方です」
と私は自筆の似顔絵を出す。
ジェローム様がそれを覗き込み、顔をしかめた。
「こんなんじゃないわよ。全然違うわよ。絵心ないわね、エルシー様。紙とペン、寄越して」
ジェローム様はさらさら水竜の絵を描く。
ジェローム様はあの後一度水竜に会っているのだ。
「どうよ」
と差し出された絵は、悔しいが出来が良い。
私は自分の絵を引っ込め、ジェローム様が書いた絵を差し出す。
「……こんな感じの竜さんです。エルシータウンはこの水竜様を街のモチーフにしたいと思います」
「それはいいお考えです」
と手応えは上々である。
「タウンホールに水竜様の絵を飾ったり、街の噴水に水竜様巨大オブジェを作ったりします。それから一般向けに水竜様鍋敷き、水竜様コースター、水竜様カップ、水竜様人形などを作り販売しましょう。売り上げの一部はマルティアの人々のために役立てられます商品です」
「……いいの?罰当たりじゃないの?」
と聞くのはジェローム様だ。
「えっ、大丈夫じゃないですか?でも一応、グッズ販売は水竜様の許可を取りましょう。噴水は格好いいから水竜様噴水がいいです。本人にバレたら、他人の空似と言い張りましょう」
こんな感じで街のモチーフは決定した。
試作品が出来次第、水竜のところにグッズ販売の許可を貰いに行く予定である。
そして王子が帰るのを待ちながら、更に数日が過ぎた。
***
城壁の上から朝のご挨拶の後、頬杖をついて人々の様子を眺める。
ここから見えるのは仮設に突貫工事で作られた住まいだ。ほとんどがテントや木で出来た粗末な家だ。
この辺りはその程度の家でも冬を越せる。むしろ大変なのは暑さの厳しい夏期らしい。
丈夫で暑さをしのげる石造りの家が必要になる。
この壁の反対側、エルシータウンや、別の居住区予定地では今本当の街が作られようとしている。
マルティアの人々の暮らしは次の段階に移ろうとしていた。
「危ないからエルシー様、顔、引っ込めて下さい」
本日の護衛であるアラン様から注意され、「はーい」と答えて私は城壁から要塞の中に戻る。
「うーん」
「何かお悩みですか?エルシー様」
アラン様に問われ、駄目元で聞いてみた。
「やっぱり実際にマルティアの人々が暮らしているところを見られたらなぁと思って」
「あー、やっぱり気になりますよね」
アラン様は意外にも好感触だ。
行けるか?と思い、アラン様を見上げるが、目が合うとアラン様は首を横に振る。
「ですが、駄目です。護衛が俺とジェローム先輩と後は数人の騎士だけですから安全を確保するにははっきり言って手が足りません」
王子は、南部からほとんどの兵を引き上げ、今、その人達はこの南部への補給物資の輸送の任務についてる。
そしてここの治安はマルティアの人々の自警団に任せているのだ。
だから常駐する軍人さん達は皆忙しく、余剰人員などいない。
「……が」
「が、何ですか?アラン様」
「お忍びなら行けます」
「行きたいです」
「いいんですか?アラン様、王子に知られたら怒られますよ」
とリーン君はアラン様に言う。
リーン君は、アルステアの国王陛下からの言いつけを守って、いつも私の側にいてくれる。
アラン様はニコリと微笑んだ。
「リーン様、知られないと怒られません」
……本気か?そしてそれでいいのか?
私とリーン君は思わず顔を見合わせる。
「とはいえ、エルシー様の安全の確保は絶対です。リーン様もご協力下さい。この前の変身薬はお持ちですか?」
「えっ、はい、持ってますけどあれは……」
とリーン君は躊躇う。この前変身薬を使ってきつく注意したのは他ならぬアラン様だ。
「いいですか、エルシー様。エルシー様は騎士見習いの少年として街に行きます」
「少年?」
「はい。エルシー様と俺は変身薬を飲みます」
「えーと、私は分かるんですが、アラン様も変身薬を飲むんですか?」
「はい。俺はそれなりに顔を知られてしまっています。俺は女性騎士になり、かわりにジェローム先輩には男装……つうか、騎士の恰好してもらいます。お忍びで視察に行くのはリーン様です。これで誤魔化せるでしょう。視察は最大一時間半。薬が切れるまでに帰ります。エルシー様、それでいいですね」
私はアラン様の言葉に大きく頷いた。
「はい!」
お忍び、行けるみたいだ。
翌日からも旧マルティア国の人々と会見したり、毎朝「今日も一日元気で頑張りましょう。ご安全に作業しましょう」と城壁からご挨拶も義務付けられた。
ついでに他のお城や要塞にもご挨拶に行く。
皆、やはり未曾有の災害の後、不安に思っているらしく、私が来るのを喜んでくれた。
名誉市長としてはエルシータウンについても意見を述べたい。
マルティア国がどうなるのか、先のことはまだ分からない。
マルティアの人々は当分この南部にいることになる。せめてエルシータウンがいい街になるように頑張ろう。
皆の心は一つである。
皆々様集めた会合で私は言った。
「せっかくなので街の特色を出したいと思います」
「ほう」
「して、妃殿下、どのような?」
「水竜様グッズを作りましょう。ゲルボルグと王子グッズの利権は王都の大商人にがっちり握られてますが、水竜様グッズはまだ手つかずです。これは友達の商家の令嬢から聞いてます。今です。今、売り出しましょう。ちなみに水竜様はこんな方です」
と私は自筆の似顔絵を出す。
ジェローム様がそれを覗き込み、顔をしかめた。
「こんなんじゃないわよ。全然違うわよ。絵心ないわね、エルシー様。紙とペン、寄越して」
ジェローム様はさらさら水竜の絵を描く。
ジェローム様はあの後一度水竜に会っているのだ。
「どうよ」
と差し出された絵は、悔しいが出来が良い。
私は自分の絵を引っ込め、ジェローム様が書いた絵を差し出す。
「……こんな感じの竜さんです。エルシータウンはこの水竜様を街のモチーフにしたいと思います」
「それはいいお考えです」
と手応えは上々である。
「タウンホールに水竜様の絵を飾ったり、街の噴水に水竜様巨大オブジェを作ったりします。それから一般向けに水竜様鍋敷き、水竜様コースター、水竜様カップ、水竜様人形などを作り販売しましょう。売り上げの一部はマルティアの人々のために役立てられます商品です」
「……いいの?罰当たりじゃないの?」
と聞くのはジェローム様だ。
「えっ、大丈夫じゃないですか?でも一応、グッズ販売は水竜様の許可を取りましょう。噴水は格好いいから水竜様噴水がいいです。本人にバレたら、他人の空似と言い張りましょう」
こんな感じで街のモチーフは決定した。
試作品が出来次第、水竜のところにグッズ販売の許可を貰いに行く予定である。
そして王子が帰るのを待ちながら、更に数日が過ぎた。
***
城壁の上から朝のご挨拶の後、頬杖をついて人々の様子を眺める。
ここから見えるのは仮設に突貫工事で作られた住まいだ。ほとんどがテントや木で出来た粗末な家だ。
この辺りはその程度の家でも冬を越せる。むしろ大変なのは暑さの厳しい夏期らしい。
丈夫で暑さをしのげる石造りの家が必要になる。
この壁の反対側、エルシータウンや、別の居住区予定地では今本当の街が作られようとしている。
マルティアの人々の暮らしは次の段階に移ろうとしていた。
「危ないからエルシー様、顔、引っ込めて下さい」
本日の護衛であるアラン様から注意され、「はーい」と答えて私は城壁から要塞の中に戻る。
「うーん」
「何かお悩みですか?エルシー様」
アラン様に問われ、駄目元で聞いてみた。
「やっぱり実際にマルティアの人々が暮らしているところを見られたらなぁと思って」
「あー、やっぱり気になりますよね」
アラン様は意外にも好感触だ。
行けるか?と思い、アラン様を見上げるが、目が合うとアラン様は首を横に振る。
「ですが、駄目です。護衛が俺とジェローム先輩と後は数人の騎士だけですから安全を確保するにははっきり言って手が足りません」
王子は、南部からほとんどの兵を引き上げ、今、その人達はこの南部への補給物資の輸送の任務についてる。
そしてここの治安はマルティアの人々の自警団に任せているのだ。
だから常駐する軍人さん達は皆忙しく、余剰人員などいない。
「……が」
「が、何ですか?アラン様」
「お忍びなら行けます」
「行きたいです」
「いいんですか?アラン様、王子に知られたら怒られますよ」
とリーン君はアラン様に言う。
リーン君は、アルステアの国王陛下からの言いつけを守って、いつも私の側にいてくれる。
アラン様はニコリと微笑んだ。
「リーン様、知られないと怒られません」
……本気か?そしてそれでいいのか?
私とリーン君は思わず顔を見合わせる。
「とはいえ、エルシー様の安全の確保は絶対です。リーン様もご協力下さい。この前の変身薬はお持ちですか?」
「えっ、はい、持ってますけどあれは……」
とリーン君は躊躇う。この前変身薬を使ってきつく注意したのは他ならぬアラン様だ。
「いいですか、エルシー様。エルシー様は騎士見習いの少年として街に行きます」
「少年?」
「はい。エルシー様と俺は変身薬を飲みます」
「えーと、私は分かるんですが、アラン様も変身薬を飲むんですか?」
「はい。俺はそれなりに顔を知られてしまっています。俺は女性騎士になり、かわりにジェローム先輩には男装……つうか、騎士の恰好してもらいます。お忍びで視察に行くのはリーン様です。これで誤魔化せるでしょう。視察は最大一時間半。薬が切れるまでに帰ります。エルシー様、それでいいですね」
私はアラン様の言葉に大きく頷いた。
「はい!」
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