竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

文字の大きさ
109 / 119
第三章

07.エイベル君のお忍び

 こうして皆で仮設の街へとお忍びに出掛けることになった。
 案内役としてネイト様も一緒だ。
「エル……エイベル君、あれは石切場から運んできた石です……だ。あの石でエルシータウンを作るのだ」
 とネイト様は教えてくれた。
 エイベル君は私の偽名である。私は変身薬を飲んで、騎士見習いの恰好をしている。
 誰が見ても十六歳の少年にしか見えないだろう。
「白いですね。綺麗な石です」
「あれは、石灰石なのだ。この辺りでは建材としてよく使われる。もう少し離れたところに採掘場があり、掘ると出てくる。聞いたかも知れないが、ここは夏が厳しく、石灰石そのもので家を作ったり、さもなくば石灰で壁を白く塗り熱を逃がすんだ。きっとエルシータウンは美しい街になるよ」
「楽しみですね」
「ちなみに石灰は汚水の処理などでも使うんだ。これだけ人が密集する。普通ならそれだけで病気になりやすいんだか、石灰を豊富にあるため衛生を保っていられるんだよ」
「へぇ」
 ネイト様は意外と物知りだった。
「あちらの作業場では今、瓦を焼いている。街で使う瓦だ。他にタイルなどを焼く窯もある。人手でもあるし、皆意欲も高い。すぐに街も出来るだろう。男性はそのような力仕事、女性は洗濯や炊事などを受け持っている。最近ようやく学校が出来たところなんだよ」
「ネイト様達、頑張りましたね」
 ネイト様は照れて頭を掻く。
「いやぁ、頑張りました。もう最初は、どうしようかと思いましたよ」
「ネイト、口調」
 とジェローム様が注意する。
「えっ、あ、うん、エイベル君、褒めてくれてありがとう。嬉しいよ」
「王子、無茶ぶりしますからね」
 とアラン様がおっしゃる。
 アラン様も変身薬を飲み、今は麗しい女性騎士だ。
 女性騎士らしく、長身ムチムチボディの美女である。
 変身中は女の子の私は男の子のように髪が短くなり、男の人のアラン様は反対に髪が長くなるのだが、アラン様は地毛である赤い髪ではなく、何時用意したのか、薄茶色のカツラを付けている。
 確かにこれだとアラン様とは分かるまい。
「はい、無茶ぶりされました。ですが、これだけの人間を集め、何事もなく、冬を迎えられそうなのは、全て王子殿下のご采配です」
 ネイト様は少し真面目な表情で続けた。
「南部はマルティアとの戦いが続き、あまり大規模な開拓が行われていない地域です。手つかずに残った土地も多い。人々はそうした地域にも移住をして、既に農業を始めています。この南部は大きく変わるでしょうね」

 リーン君は二つ向こうの隣国アルステアの王子だ。
 今回私はそのアルステアの王子のお忍びのお付きとして、この仮設の街にやってきた。
 お忍びのはずだが、リーン君は黒色の魔法使いぽいローブを羽織っているし、特に身分を隠している風ではなく、堂々と街を歩いている。
 他の護衛の騎士様やマルティアの自警団の方々が前方で道を空けさせて通りやすくしている。
 マルティアの自警団の方々というのは、元マルティアの騎士様などでいわば本職だ。大変に手際が良い。
 街の治安はバッチリ守られている。
 人々は明らかに普通の少年とは毛色の違うリーン君を物珍しげに見ていた。

「あの小さな男の子は誰かしら」
「魔法の国アルステアの末の王子らしい。今シュレヌ要塞にいらっしゃる竜の国の王太子妃エルシー妃殿下のお付きだそうだ」
「妃殿下様のお付きが他国の王子様なの?」
「何でもエルシー様はアルステアの次の王の母親と予言されているらしい」
「リーン王子殿下はエルシー妃殿下のご命令で、視察にこられたそうだ。わしらの暮らしを気にかけて下さっているらしい」
 ……などとひそひそ話す声が聞こえてくる。

 素性がバッチリ分かってしまってもお忍びなのだろうか?
「こんなに目立っちゃってお忍びなんですか?」
 と私はいつもより断然近くにあるアラン様の耳に疑問をぶつける。
 アラン様は女子だが、男の子の私より五センチほど背が高い。
 私は多分、そこまで小さくない。アラン様が女子として大きいのだ。
「お忍びです。本来ならリーン様は王族ですからね。『アルステアのリーン王子殿下のおなり』とかします。それしないのでお忍びです」

 ネイト様が前方を指さし、言う。
「エルシ……いや、エイベル君、ちょうど休憩時間だ。おやつも供されるぞ。揚げたイモだが、食うかね」
「あ、食べたいです」



 変身薬の効果が切れる三十分前には、街の視察を終え、私達は要塞前まで戻った。
 だが、入り口の辺りで人だかりが出来ている。
 要塞の責任者であるネイト様があわてて走っていく。
「どうした?」
「あっ、ネイト政務補佐官補。エル……いや、いけません。お下がりを」
 文官の方は私達を見るなり、遠ざけようとする。
 何かあったみたいだ。
 途端に緊張した様子でジェローム様が私を背中側に隠す。アラン様は前に進み出た。
 その他の護衛の騎士様も素早く動く。
「エルシー様、声、出さないでね」
 ジェローム様が振り返り、小さく注意された。

 騒いでいた一行の人達がこちらを向く。
 その中の一人が近づいてくる。
 マルティア国の人に見えるが、恰好は王侯貴族っぽい。
 周りを囲む人達も強そうな騎士や偉そうな人達だ。
 騎士が十名、偉そうな人が十名。総勢二十名ほどだろうか。
「竜の国の王太子妃であるエルシー妃の側近というのは、その方達か」
 とその人は偉そうに言った。
「はい、エルシー妃殿下に何かご用でしょうか」
 リーン君が前に進む出ると、落ち着いた声でそう聞く。

 その人は大袈裟に眉をひそめてみせる。
「エルシー妃は?ご一緒ではないのか?」
 リーン君は聡明そうな声で答えた。
「エルシー妃殿下に何かご用でしょうか。僕はアルステアのリーン王子です。エルシー様にご用ならまず僕にお伝え下さい」
 その人の態度は随分不遜な気がした。アルステアの王子のリーン君に向かって、彼はちょっと馬鹿にした様子で鼻を鳴らしてみせたのだ。
「生意気な小僧だ。おい、この中にエルシー妃はいるか?」
 と手近にいたマルティアの人に向かって言う。
 その人は見たことがある人だった。確か、マルティアの代表を務める人の一人だ。
 その人は私を見て、ハッとした様子で息を呑んだ。
 今の私は男の子だ。だが、目と髪の色は一緒。雰囲気も多分一緒。
 エルシーを知っている人なら、確実に私がエルシーと繋がりのある人物と分かる。
 だが、彼はうつむき、
「……いいえ、エルシー妃殿下はいらっしゃいません」
 と答えた。

「嘘をつかなくていいのよ。庇ってくれてありがとう」
 そう言い、前に進み出たのはアラン様だった。
「……!」
 びっくりして声を上げそうになった私の口をジェローム様がさりげなく塞ぐ。
「わたくしがエルシーです。わたくしに何のご用でしょう」
 その人は目を輝かせる。
「おおっ、あなたかエルシー妃か。騎士に身をやつしても、実に美しい」

「今のうちに行くわよ」
 と私とリーン君、そしてさっきマルティアの代表の人はジェローム様に連れられ、裏口から要塞の中に入る。
感想 351

あなたにおすすめの小説

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。