竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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第三章

16.翌朝

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 目を覚ますと、ほんのり夜空が白みかけていたが、朝になるにはまだ早い。そんな時刻だった。
 寝た時は裸だった気がするが、今はガウンを着せられ、体もちょっと拭かれている。
 ……気がする。少なくともカピカピではなかった。
 改めて部屋を見回すと、ベッドの周りに服が転々と脱ぎ散らかされている。
 隣で王子はかすかに寝息を立て寝ていた。
 王子は早起きで、いつも私が起きる頃には既に竜舎に行ったり朝稽古をしたりで、彼の寝顔を見る機会は少ない。
 寝顔、可愛い。
 あと、睫長い。

 じっと見ていたら、「う……」と身じろぎして王子が目を覚ます。
「あ、おはようございます」
 王子はまだ眠そうに金色の目をこすって、「腹が減った……」と言った。
「私もです」
 あれが前の日の昼前で日付が変わって今は夜明けのちょっと前。
 既に十六時間くらい経過している。
 グーグー鳴りそうなくらいお腹、減った。
「何か食おう」
 と王子は言うが、まだニワトリも起きてないような早朝だ。
「いえ、誰か起こすのも非常識な時間ですから、部屋にあるもの食べましょう。私の服に携帯食のクッキーと飴があります」
「いいのか、それで」
「はい」
 立ち上がろうとしたが、腰が痛い。
 加害者の王子が「そのままで良い」というので、王子に脱ぎ捨てられた私のズボンを持ってこさせて、ポケットを探り、クッキーと飴を取り出す。
 王子は寝室の果物籠の中からザクロを取ってきた。
 二人でベッドでもしゃもしゃとザクロとクッキーを食べた。
 もう食べ物カスなどどうでもいいくらいシーツは汚れている。

「昨日はよく寝た」
 と王子は食べなから言った。
「あんまり寝てなかったんですか」
「うん」
 まだ寝ぼけてるみたいで、王子は首を縦にする。
 実は私もこの数日寝付きが良くなかった。
 思わず十六時間も寝てしまった。
 なんかものすごく安らかに眠ったが王子もそうだったらしい。

「あの、西の国境の方が大変だったと聞きました」
 王子は事もなげに首を振る。
「西はいつもあんなものなのだ。マルティアの第一王子達のことも裏で手を引いたのはカンデュラ国だが、この件でカンデュラまでは罪に問えない。エルシーには悪いが、第一王子を処刑する程度で今は許して欲しい」
 さりげなくとっても物騒なことを口にする王子だった。
「いえ、第一王子、せっかく助かったので殺さないで下さい。罰は水竜様が当ててくれた気がしますし、改心したみたいだから、あの、全部なかったことじゃ駄目ですか?」
 せっかく改心した第一王子が死んじゃうのもなんだか勿体ない気がするし、一応王子妃である私が誘拐されたとなると処罰される人が出てしまう。
 護衛の騎士様達はもちろん、ネイト様なんかただの被害者だと思うが、彼までるいおよんでしまう。

「エルシーはそれでいいのか?」
 と王子は言った。
「それがいいです。それよりカンデュラって国のことが心配ですね」
「マルティア人から志願を募り、百人を騎士叙任の上、カンデュラとの国境警備に当たらせる。それでこちらに手出しはしまい」
「えっ、どういう意味ですか?」
 王子はザクロを食べ終わると今度は果物籠から林檎を取り出し、素手でパカッと二つに割ると、半分くれた。
「カンデュラはマルティア人が熱病にかかると信じている。熱病はうつるとも信じているからマルティア人とは接触したがらないはずだ。マルティアの元騎士達もここで暮らすより、騎士として生きることを望む者もいるだろう」
 どこの国も騎士になるのに十年近い見習い期間がある。馬術、剣術、槍術、戦術、礼儀作法に至るまで騎士は多岐にわたる厳しい訓練を積んできた特別な人達だ。マルティアの騎士の人達は愛馬も共に逃れてきた。軍馬というのも、戦場で活躍出来るように特別な訓練をした馬だ。
 貴重な軍馬だし、貴重な騎士様だった。
「志願してくれるといいですね」

 そんなことを私達はぽつりぽつりと話す。
 話しているうちに、私は一ヶ月、寂しかった気持ちが少しずつ溶けていくような気がした。
 よく寝たせいか、王子の顔色も昨日よりいい。

「あ、あと思い出しました。アラン様達にあんまり怒らないで下さい」
 王子は林檎の後に飴を舐めていたが、「ガリッ」と噛み砕いて飲み込むと、ムッとしたように私を見る。
「あれらには怒って良いだろう。エルシーが危険な目に遭った」
 私は、まだ飴を舐めているのでモゴモゴ反論した。
「でもそれは私がグレン様に会えなくて落ち込んでいたからなんです」
 王子は手を伸ばして、そっと私のほっぺたに触れた。
 でっかい手の感触が、気持ち良かった。
「……俺もずっと会いたかった。すぐにこちらに来させたかったが、侍女もいないところに妃を呼びつけられないと皆から反対された」
「そうだったんですか」
「ポーリーンがじきに着く頃だ」
「えっ、ポーリーンさんが?」
 ポーリーンさんは離宮の侍女長だ。私のためにわざわざ呼んでくれたらしい。


 ポーリーンさんの名前を聞くと急に恥ずかしくなった。
 一ヶ月ぶりに王子に会うんだったら、男の子じゃない方が良かったな……。
 と既に手遅れなことを後悔した。
 それに今、多分髪の毛ボサボサだろう。
 そんなことが今更気になってきた。

「あ、起きましょうか。うん、着替えくらいしましょう」
 とベットから這い出ようとしたが、王子に腕を捕まれてベッドに戻される。
「急にどうした?怒っているのか?」
 と王子は私に尋ねる。
「え、別に怒ってはいませんよ」
「では何故急に離れようとする?せめて朝になるまでは側に居て欲しい」
 王子はそのまま私を組み敷いて、
「エルシー、ちゃんと優しくするから……」
 とエッチをおねだりしてきた。


「……昨日滅茶苦茶しましたよね」
「昨日は優しく出来なかった。今日は優しくしたい」
 頬とか額にちゅーしながら囁かれる。
「うーん」
「一回でいい」
「……じゃあ、一回だけ……」

 正直、まだ腰は痛い。
 都会のひ弱なお妃である私は、もう過激な運動はしたくないが、美形に憂いを込めた表情で、懇願されると断れないのである。
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