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第1章 魔物使いの弟子
ようやく迎えた終わりの先は新たな生
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転生スライムが追放・迫害された者たちを導く!?~とりあえず、可愛い弟子達のために迫害した奴らは潰します~
かつて、世界を救った者がいた。
王族でもなく、貴族でもなく…
勇者や大賢者など特殊なクラスでもなく…
仲間も作らず、1人で…
町を蹂躙しようとした銀狼を…
国を滅ぼそうとした黒龍を…
世界を支配しようとした魔王を…
全て打ち倒した。
恵まれていたわけではなく…ただそうあるしかなかった。
運命が彼を戦いの渦中へと…無理やり引き摺り込んだ。
彼は望んで強くなったわけではなく、無理やり強くなるしかなかった。
その結果、彼はあらゆる厄災を跳ね除けるだけの力を手に入れた。
だが、世界は…人間は残酷だった。
助けてくれた彼を化け物呼ばわり…
感謝する者は誰もおらず、異端として遠ざけた。
それだけ、彼の力は強大であり…敬意ではなく、畏怖の対象だった。
望んで手に入れた力ではないのに…
助けてくれと言われたから助けたのに…
必死に足掻き、なんとか手繰り寄せた結果なのに…
無慈悲にも、彼らは彼に対し冷酷だった。
しかし、彼はそんな彼らを恨むことはせず…ただ見捨てた。
ここで怒りに身を任せたところで、何の解決にもならない…
その事を彼は長い戦いの末、理解していた。
好きの反対は嫌いではなく無関心…
互いが傷つかないように…
彼は人間という存在から離れた。
そして、山奥で1人…ひっそりと暮らすことを望んだ…
願わくばこの平穏の中で、ただただ穏やかに暮らすことを望んで…
だが、そうはいかなかった。
人間とは愚かな種族だ…
自分たちに害ある存在がいなくなり、平和な世界が訪れ、平穏に暮らしていくかと思った矢先…
人間同士で争い始めた。
くだらない思想や目先の利益を求め、彼らは血で血を洗う戦いを選んだ…
彼が血反吐を吐きながらも、懸命に手を伸ばし、報われない仕打ちを受けながらも作り上げた平穏を…
守る対象だった人間によって壊されたのだ。
そして、どんどん争いが過激になっていけば、彼の力を利用しようとする者が現れた。
過去に彼に行った仕打ちすら忘れ、こびりついた汚い笑顔で近寄ってきたのだ。
しかし、彼はどの人間にも味方する気はなかった。
そもそも、なぜ自分があの仕打ちを忘れたかと思っているのか…
どんな精神で近寄ってきているのか…考えるだけでもゾッとする内容だ。
彼の願いは平穏の中で安らかに暮らすことだけ…
膨大な金銭や地位、趣向品や女などまるっきり興味がない。
最初は穏やかに追い返していた彼だが、次第に我慢の限界が訪れ…慈悲はなく消しとばした。
そもそも、数多の厄災と戦ってきた彼にとって、人間を消し飛ばすことなど雑作もない。
その気になれば絶滅だってさせられる…彼が怒りに身を任せ人間を攻撃しないのは彼なりの慈悲なのに…
人間は愚かだった…
自分の言うことを聞かないならば用はないと言わんばかりに軍隊を差し向けて来る者達がいたが…
一瞬で全滅させた。
こちらから手出しする気はないが、相手が土足で入ってくるのならば遠慮はしない。
10つ目の軍隊の全滅を最後に、ようやく人間達は理解した。
彼は怒らせてはいけない存在なのだと…
自分たちでは決して叶わぬ存在なのだと…
…
それからは、これまでの襲撃は嘘のように平和な時間だった。
彼の周りは穏やかな空気が流れていた。
…たとえ、少し離れた場所で、人間同士の戦争が起こっていたとしても…自分には関係ないと言わんばかりに、彼は平穏に暮らしていた。
しかし…戦争が始まったことで、彼の生活にも変化が訪れた。
「…またか…」
彼が森の中を散歩中、カゴに入った赤子を見つけた…
捨て子だった。
「戦争か…はたまた、生活に余裕がなくなってか……どっちにしろ俺には関係ないな」
「…ぁ…ぅ…」
「…よしよし……いい子だからね…」
彼はカゴから赤子を抱き上げると泣かないようにあやした。
「…お師匠様ぁ~?」
「ん…こっちだ」
茂みの奥から何人かの子供達が現れる。
彼は弟子をとっていた…
まぁ、弟子と言っても名ばかりとも言えるような曖昧なものだが…
行き場をなくし、何とかここまでたどり着いた戦争の被害者である子供達を保護していたのだ。
…彼は人間に協力する気はない…
だが、何も知らない…無関係の子供達を見捨てられるほど腐ってもいなかった。
「…さて…新しい弟子ができるようだし…帰ろうか」
彼の後をついて、子供達も歩き出す…
彼は子供達にいろんなことを教えた。
自然の中での生き方や、魔法や剣術に関する知識、料理や裁縫など…
自分が持っている技術をできる限り全て…
この一時…
この一時の時間だけは、彼にとって人生で一番楽しい時間だった。
望まぬ戦いを強要され、その結果悲惨な結末ばかり目にしてきた彼にとって、弟子である子供達と共に暮らす時間は何より変え難い…大切な時間だった。
しかし、この世界に神などいない…
彼にはもう時間がなかったのだ。
「はぁっ…はぁっ…!」
「お師匠様っ…!!!」
数多の厄災を退ける…
その力を手にするのに、代償が無いわけがなかった。
急激な無理のある成長、何度も死の淵を彷徨いながらも歩み続けたからだ、苦しみや悲しみの中でしかいられなかった精神…
それら全てが彼を蝕み、寿命を削り取っていた。
「…はぁっ……泣くなっ…これは仕方ない結果ってやつだ…はぁっ…」
「っ…」
「…むしろ、もっと早くに死ぬもんだと思っていたが……お前ら……ここまで大きくなるまでもったんだっ…はぁっ…はぁっ……上出来ってやつだな……」
拾った子供達は、一番年下でも15を超えていた。
この歳ならば、仕事だって見つかるだろう…
そもそも、彼らには自分が教えられる事をできる限り教えた…
まだまだひよっこだが、そこらの者より優れていると…
親バカならぬ師匠バカな思い出いっぱいだ。
……ぁぁくそっ…そろそろ時間か…
「……いいかっ…俺が死んだら…みんなで街に行くんだ……金ならある程度はあるし…俺が使っていた物も持っていってもいい………俺ができるのはここまでだが……あとは自分たちが思うままに暮らせ……できれば……もうちょ…と……そばで…」
「…お……おしょう……お師匠様!?」
弟子達が握っていた手に力が入らなくなったのを合図に、彼は息を引き取った。
長く辛い旅路を歩んできた彼は最後に最愛の弟子達に看取られながら…その人生を終えたのだ。
しかし…
“母なる海よ…父なる大地よ…”
この世界は彼を手放そうとはしない。
“終わりを迎えし魂を今ここに…この者まだ終わりにあらず…その光まだ消えておらず…”
男性のような女性のような…どちらとも取れる声が闇の中に響く。
“生と死の理をねじ曲げよ…結末を決める天秤を傾けよ…”
今も消えそうな…彼の魂を中心とし取り囲むように魔法陣が形成されていく。
“この魂の前にあるのは終わりの扉ではなく…新たなはじまりの扉なり”
そして、彼の物語は新たな形となって始まるのだ。
“チュンチュンチュンチュンっ…”
「ん………なんだ…」
重たい瞼をゆっくり開く……
暖かな日差しに加え、鳥の鳴き声…
どうやら、朝のようだが……
「んんっ…ぁあぁぁ……ん?………あれ……俺は…ここで何をして…」
記憶が朧げだ…
なぜ自分がここにいるのかすら思い出せない……
何だか長い間眠っていたように…頭が霞んでる…
「…何だってんだよ…全く…………」
俺は、寝ぼけている頭に鞭を打ちながら…記憶を思い出そうとした。
「…確か……俺はいつものように弟子たちと飯を……あれ……確かそのあと…俺は倒れて…そして……!?」
思い出した!!
俺は確かあの時っ…そうっ、“死んだはずだった”。
何度もその縁にまで足を運んだことがある俺だからわかる。
あの感覚には、変に生きてたとかじゃなく、完全な死だった。
なのに…
「……えっ…何だこれっ……何で生きてっ……あと視界もっ…」
生きている…その事実に俺は頭がこんがらがる…
いくら自分自身が恐れられる強者だとしても、死を克服していたなど考えにくい…
そして、この視界の低さ……何でこんなに地面が近くに見えるんだ…
…俺は体を動かして、近くにある湖を覗き込んだ…
するとそこには…
「……は…?……す…スライム…?」
そこに映ったのは自分の顔ではなく…モンスターであるスライムの顔だった。
「…は…何で俺がモンスターに…………訳がわからな……」
死んだと思ったら、いきなりスライムに……
その衝撃は体から力が抜けるほど、衝撃的なものだった。
「……俺には死すらも許されねーってことか……」
何とか頭を動かして導き出した結論…
世界に嫌われた俺はどうやら死ぬことすら許されねーらしい…
「……はぁ……まぁこの姿なら……人間の頃より穏やかに暮らせるのかね……」
諦めの境地というやつか…はたまた経験値の結果か…
俺はこの現状を何とか受け入れていた。
そして、このままスライムとして生きていくのも悪くは無いかと…
「……そういや…あの子たちは……」
思うとした矢先、あの子たちの事を思い出した。
今はどんな状態なのかはわからないが…無性にあの子たちに会いたくなった。
「…だが……流石にこの姿じゃな…」
まんまるとした餅のようなスライムボディ……
なぜこうなったかはわからないが…そもそも、こんな姿では会う以前の問題だ…
そして周りを見渡すと、ここがどこなのか理解できた。
「……てかここ…家の近くの場所か……なら一度家に行ってみるか……あるのかわからないが…」
自分が死んでからどれだけの時間が経過したかはわからないが…ひとまず、自分の家に向かうことにした。
未来の…しかも長い年月が経過していたのなら、もしかしたらもう無いかもしれないが…
とりあえず、他に目的もないんだし…行ってみるだけ行ってみよう…
そう思い、その場を後にするのだった。
そして、運命的な再会を果たすことになる。
「おいっさっさと出せよっ!、あの化け物の遺産の1つや2つあんだろ!?」
「だっ…だからっそんなものありませんってっ、それにお師匠様の事を化け物なんて言わないでください!」
「化け物を化け物呼ばわりして何が悪いってんだよ!。早く出さねーとこんなボロ屋敷燃やしちまうぞ!」
「いやいや、この女いいから出してますし、俺たちの相手をしてもらいましょうよっ」
「賛成賛成~!、出すもんも出さない事に対するお詫びってやつ~!」
「おお、いい考えだなっ。おいっそういう訳だからたっぷり楽しませてくれよ」
「いっ…いやっ離してっ!」
家はまだ存在していた。
多少ボロくなっているが、それでもまだ立っていた。
…そして見知らぬ男が3人と…“見知った顔の女性が1人”…
…間違いない……あの子だ…
「……おい」
「んぁ、だれだ……あぁ…誰もいねーぞ?」
男たちが振り返り、周りを見渡していた。
「…こっちだ」
「あ?……は…?スライム…?」
「……」
「…さっき聞こえた声ってこいつが喋ってたんすか…?」
「いやいや…スライムが話すわけないだろっ」
「おいこらぁ!誰かしらねーがさっさとでてグォッ!?」
「「ッ…!?」」
スライムの体を変化させ、握り拳を作れば、一気に男の顔面に打ち込んだ。
「こっ…このスライムッ!」
攻撃した様子を見て慌てて腰にぶら下げていた剣を引き抜いた残りの2人の男…
はっ…
「そんなちゃちなオモチャで俺を殺せると思ってんのか?」
「まっ…まじでスライムが喋ってっ!?」
「…っ…んなことはどうでもいいからよぉ……さっさとその汚い手を“ミーア“からどけやがれッ!!!!」
「ぐぶぉぉぉッ!!?」
「ごガバァッ…!?」
2人の男の顔面に思いっきり強化した“拳”を叩き込んでやった。
2人は吹き飛び、さっき飛ばした男と仲良くおねんね状態。
「ふんッ」
3人の体を掴んでは“いつものように”この場所から離れた森の入り口に放り投げてやる。
運が悪くなけりゃ、モンスターに食われることもないだろうが…
まぁ5体満足かわかんねーがな…
…しかしこの感じ…生前(?)の力はそのままみたいだな…
いくら雑魚相手だったとはいえ…スライムの体であそこまでの力をだせはしないだろうし…
…ほんとどうなってんだ…一体…
「…お…お師匠様…?」
「ん…」
ほったらかしにしていたミーアがこちらを見てぽつりと呟いた。
俺は振り返り、改めて彼女を見た。
記憶にあるよりもかなり女性らしく変わっているが……
ホワイトブロンドに綺麗なエメラルド色の瞳…
…うん、やはりミーアだ。
「…よぉミーア…久しぶり…であってるか?」
「ッ…おっ…お師匠様ぁぁぁぁぁぁああああ!!」
ミーアは目尻にいっぱいの涙を浮かべると抱きついてた。
…全く……大きくなっても泣き虫なのは相変わらずだな…
かつて、世界を救った者がいた。
王族でもなく、貴族でもなく…
勇者や大賢者など特殊なクラスでもなく…
仲間も作らず、1人で…
町を蹂躙しようとした銀狼を…
国を滅ぼそうとした黒龍を…
世界を支配しようとした魔王を…
全て打ち倒した。
恵まれていたわけではなく…ただそうあるしかなかった。
運命が彼を戦いの渦中へと…無理やり引き摺り込んだ。
彼は望んで強くなったわけではなく、無理やり強くなるしかなかった。
その結果、彼はあらゆる厄災を跳ね除けるだけの力を手に入れた。
だが、世界は…人間は残酷だった。
助けてくれた彼を化け物呼ばわり…
感謝する者は誰もおらず、異端として遠ざけた。
それだけ、彼の力は強大であり…敬意ではなく、畏怖の対象だった。
望んで手に入れた力ではないのに…
助けてくれと言われたから助けたのに…
必死に足掻き、なんとか手繰り寄せた結果なのに…
無慈悲にも、彼らは彼に対し冷酷だった。
しかし、彼はそんな彼らを恨むことはせず…ただ見捨てた。
ここで怒りに身を任せたところで、何の解決にもならない…
その事を彼は長い戦いの末、理解していた。
好きの反対は嫌いではなく無関心…
互いが傷つかないように…
彼は人間という存在から離れた。
そして、山奥で1人…ひっそりと暮らすことを望んだ…
願わくばこの平穏の中で、ただただ穏やかに暮らすことを望んで…
だが、そうはいかなかった。
人間とは愚かな種族だ…
自分たちに害ある存在がいなくなり、平和な世界が訪れ、平穏に暮らしていくかと思った矢先…
人間同士で争い始めた。
くだらない思想や目先の利益を求め、彼らは血で血を洗う戦いを選んだ…
彼が血反吐を吐きながらも、懸命に手を伸ばし、報われない仕打ちを受けながらも作り上げた平穏を…
守る対象だった人間によって壊されたのだ。
そして、どんどん争いが過激になっていけば、彼の力を利用しようとする者が現れた。
過去に彼に行った仕打ちすら忘れ、こびりついた汚い笑顔で近寄ってきたのだ。
しかし、彼はどの人間にも味方する気はなかった。
そもそも、なぜ自分があの仕打ちを忘れたかと思っているのか…
どんな精神で近寄ってきているのか…考えるだけでもゾッとする内容だ。
彼の願いは平穏の中で安らかに暮らすことだけ…
膨大な金銭や地位、趣向品や女などまるっきり興味がない。
最初は穏やかに追い返していた彼だが、次第に我慢の限界が訪れ…慈悲はなく消しとばした。
そもそも、数多の厄災と戦ってきた彼にとって、人間を消し飛ばすことなど雑作もない。
その気になれば絶滅だってさせられる…彼が怒りに身を任せ人間を攻撃しないのは彼なりの慈悲なのに…
人間は愚かだった…
自分の言うことを聞かないならば用はないと言わんばかりに軍隊を差し向けて来る者達がいたが…
一瞬で全滅させた。
こちらから手出しする気はないが、相手が土足で入ってくるのならば遠慮はしない。
10つ目の軍隊の全滅を最後に、ようやく人間達は理解した。
彼は怒らせてはいけない存在なのだと…
自分たちでは決して叶わぬ存在なのだと…
…
それからは、これまでの襲撃は嘘のように平和な時間だった。
彼の周りは穏やかな空気が流れていた。
…たとえ、少し離れた場所で、人間同士の戦争が起こっていたとしても…自分には関係ないと言わんばかりに、彼は平穏に暮らしていた。
しかし…戦争が始まったことで、彼の生活にも変化が訪れた。
「…またか…」
彼が森の中を散歩中、カゴに入った赤子を見つけた…
捨て子だった。
「戦争か…はたまた、生活に余裕がなくなってか……どっちにしろ俺には関係ないな」
「…ぁ…ぅ…」
「…よしよし……いい子だからね…」
彼はカゴから赤子を抱き上げると泣かないようにあやした。
「…お師匠様ぁ~?」
「ん…こっちだ」
茂みの奥から何人かの子供達が現れる。
彼は弟子をとっていた…
まぁ、弟子と言っても名ばかりとも言えるような曖昧なものだが…
行き場をなくし、何とかここまでたどり着いた戦争の被害者である子供達を保護していたのだ。
…彼は人間に協力する気はない…
だが、何も知らない…無関係の子供達を見捨てられるほど腐ってもいなかった。
「…さて…新しい弟子ができるようだし…帰ろうか」
彼の後をついて、子供達も歩き出す…
彼は子供達にいろんなことを教えた。
自然の中での生き方や、魔法や剣術に関する知識、料理や裁縫など…
自分が持っている技術をできる限り全て…
この一時…
この一時の時間だけは、彼にとって人生で一番楽しい時間だった。
望まぬ戦いを強要され、その結果悲惨な結末ばかり目にしてきた彼にとって、弟子である子供達と共に暮らす時間は何より変え難い…大切な時間だった。
しかし、この世界に神などいない…
彼にはもう時間がなかったのだ。
「はぁっ…はぁっ…!」
「お師匠様っ…!!!」
数多の厄災を退ける…
その力を手にするのに、代償が無いわけがなかった。
急激な無理のある成長、何度も死の淵を彷徨いながらも歩み続けたからだ、苦しみや悲しみの中でしかいられなかった精神…
それら全てが彼を蝕み、寿命を削り取っていた。
「…はぁっ……泣くなっ…これは仕方ない結果ってやつだ…はぁっ…」
「っ…」
「…むしろ、もっと早くに死ぬもんだと思っていたが……お前ら……ここまで大きくなるまでもったんだっ…はぁっ…はぁっ……上出来ってやつだな……」
拾った子供達は、一番年下でも15を超えていた。
この歳ならば、仕事だって見つかるだろう…
そもそも、彼らには自分が教えられる事をできる限り教えた…
まだまだひよっこだが、そこらの者より優れていると…
親バカならぬ師匠バカな思い出いっぱいだ。
……ぁぁくそっ…そろそろ時間か…
「……いいかっ…俺が死んだら…みんなで街に行くんだ……金ならある程度はあるし…俺が使っていた物も持っていってもいい………俺ができるのはここまでだが……あとは自分たちが思うままに暮らせ……できれば……もうちょ…と……そばで…」
「…お……おしょう……お師匠様!?」
弟子達が握っていた手に力が入らなくなったのを合図に、彼は息を引き取った。
長く辛い旅路を歩んできた彼は最後に最愛の弟子達に看取られながら…その人生を終えたのだ。
しかし…
“母なる海よ…父なる大地よ…”
この世界は彼を手放そうとはしない。
“終わりを迎えし魂を今ここに…この者まだ終わりにあらず…その光まだ消えておらず…”
男性のような女性のような…どちらとも取れる声が闇の中に響く。
“生と死の理をねじ曲げよ…結末を決める天秤を傾けよ…”
今も消えそうな…彼の魂を中心とし取り囲むように魔法陣が形成されていく。
“この魂の前にあるのは終わりの扉ではなく…新たなはじまりの扉なり”
そして、彼の物語は新たな形となって始まるのだ。
“チュンチュンチュンチュンっ…”
「ん………なんだ…」
重たい瞼をゆっくり開く……
暖かな日差しに加え、鳥の鳴き声…
どうやら、朝のようだが……
「んんっ…ぁあぁぁ……ん?………あれ……俺は…ここで何をして…」
記憶が朧げだ…
なぜ自分がここにいるのかすら思い出せない……
何だか長い間眠っていたように…頭が霞んでる…
「…何だってんだよ…全く…………」
俺は、寝ぼけている頭に鞭を打ちながら…記憶を思い出そうとした。
「…確か……俺はいつものように弟子たちと飯を……あれ……確かそのあと…俺は倒れて…そして……!?」
思い出した!!
俺は確かあの時っ…そうっ、“死んだはずだった”。
何度もその縁にまで足を運んだことがある俺だからわかる。
あの感覚には、変に生きてたとかじゃなく、完全な死だった。
なのに…
「……えっ…何だこれっ……何で生きてっ……あと視界もっ…」
生きている…その事実に俺は頭がこんがらがる…
いくら自分自身が恐れられる強者だとしても、死を克服していたなど考えにくい…
そして、この視界の低さ……何でこんなに地面が近くに見えるんだ…
…俺は体を動かして、近くにある湖を覗き込んだ…
するとそこには…
「……は…?……す…スライム…?」
そこに映ったのは自分の顔ではなく…モンスターであるスライムの顔だった。
「…は…何で俺がモンスターに…………訳がわからな……」
死んだと思ったら、いきなりスライムに……
その衝撃は体から力が抜けるほど、衝撃的なものだった。
「……俺には死すらも許されねーってことか……」
何とか頭を動かして導き出した結論…
世界に嫌われた俺はどうやら死ぬことすら許されねーらしい…
「……はぁ……まぁこの姿なら……人間の頃より穏やかに暮らせるのかね……」
諦めの境地というやつか…はたまた経験値の結果か…
俺はこの現状を何とか受け入れていた。
そして、このままスライムとして生きていくのも悪くは無いかと…
「……そういや…あの子たちは……」
思うとした矢先、あの子たちの事を思い出した。
今はどんな状態なのかはわからないが…無性にあの子たちに会いたくなった。
「…だが……流石にこの姿じゃな…」
まんまるとした餅のようなスライムボディ……
なぜこうなったかはわからないが…そもそも、こんな姿では会う以前の問題だ…
そして周りを見渡すと、ここがどこなのか理解できた。
「……てかここ…家の近くの場所か……なら一度家に行ってみるか……あるのかわからないが…」
自分が死んでからどれだけの時間が経過したかはわからないが…ひとまず、自分の家に向かうことにした。
未来の…しかも長い年月が経過していたのなら、もしかしたらもう無いかもしれないが…
とりあえず、他に目的もないんだし…行ってみるだけ行ってみよう…
そう思い、その場を後にするのだった。
そして、運命的な再会を果たすことになる。
「おいっさっさと出せよっ!、あの化け物の遺産の1つや2つあんだろ!?」
「だっ…だからっそんなものありませんってっ、それにお師匠様の事を化け物なんて言わないでください!」
「化け物を化け物呼ばわりして何が悪いってんだよ!。早く出さねーとこんなボロ屋敷燃やしちまうぞ!」
「いやいや、この女いいから出してますし、俺たちの相手をしてもらいましょうよっ」
「賛成賛成~!、出すもんも出さない事に対するお詫びってやつ~!」
「おお、いい考えだなっ。おいっそういう訳だからたっぷり楽しませてくれよ」
「いっ…いやっ離してっ!」
家はまだ存在していた。
多少ボロくなっているが、それでもまだ立っていた。
…そして見知らぬ男が3人と…“見知った顔の女性が1人”…
…間違いない……あの子だ…
「……おい」
「んぁ、だれだ……あぁ…誰もいねーぞ?」
男たちが振り返り、周りを見渡していた。
「…こっちだ」
「あ?……は…?スライム…?」
「……」
「…さっき聞こえた声ってこいつが喋ってたんすか…?」
「いやいや…スライムが話すわけないだろっ」
「おいこらぁ!誰かしらねーがさっさとでてグォッ!?」
「「ッ…!?」」
スライムの体を変化させ、握り拳を作れば、一気に男の顔面に打ち込んだ。
「こっ…このスライムッ!」
攻撃した様子を見て慌てて腰にぶら下げていた剣を引き抜いた残りの2人の男…
はっ…
「そんなちゃちなオモチャで俺を殺せると思ってんのか?」
「まっ…まじでスライムが喋ってっ!?」
「…っ…んなことはどうでもいいからよぉ……さっさとその汚い手を“ミーア“からどけやがれッ!!!!」
「ぐぶぉぉぉッ!!?」
「ごガバァッ…!?」
2人の男の顔面に思いっきり強化した“拳”を叩き込んでやった。
2人は吹き飛び、さっき飛ばした男と仲良くおねんね状態。
「ふんッ」
3人の体を掴んでは“いつものように”この場所から離れた森の入り口に放り投げてやる。
運が悪くなけりゃ、モンスターに食われることもないだろうが…
まぁ5体満足かわかんねーがな…
…しかしこの感じ…生前(?)の力はそのままみたいだな…
いくら雑魚相手だったとはいえ…スライムの体であそこまでの力をだせはしないだろうし…
…ほんとどうなってんだ…一体…
「…お…お師匠様…?」
「ん…」
ほったらかしにしていたミーアがこちらを見てぽつりと呟いた。
俺は振り返り、改めて彼女を見た。
記憶にあるよりもかなり女性らしく変わっているが……
ホワイトブロンドに綺麗なエメラルド色の瞳…
…うん、やはりミーアだ。
「…よぉミーア…久しぶり…であってるか?」
「ッ…おっ…お師匠様ぁぁぁぁぁぁああああ!!」
ミーアは目尻にいっぱいの涙を浮かべると抱きついてた。
…全く……大きくなっても泣き虫なのは相変わらずだな…
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