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暗雲
第23話 俺のお前、
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「感謝致します、魔王様……!」
「ありがとうございました、陛下!」
「元気になって良かった。お大事に」
深々と頭を下げてくる男たちに手を振って、気にするなと伝える。
仲良く並んだ頭のうち、一つは丸い耳が生えた熊頭。
そしてもう一つは、青い髪の人間だ。
人間からの新たな贄を断って、二ヶ月が経過していた。
正式に断ったのは、話を聞いてから二日後のこと。
その頃から、俺に抱かれた後も旭陽が体調を崩すことはなくなっていった。
魔族たち曰く、本格的に魔王の力が贄に定着してきた証だという。
鼻で笑いながら色々と口を出してくる旭陽によって、俺も自分の中に流れる魔力の存在を感じ取れるようになった。
最近ではある程度操れるようにもなっている。
俺よりも贄である男に余程懐いている魔族たちから、あれこれと丁寧に教えられているんだろう。
少し目を離せば、相変わらず旭陽は魔族に侍られている。
以前とは違って、臣下たちは俺を無視することはなくなっていた。
俺が頭を悩ませていると、前よりも砕いた助言や説明をしてくれる。
でも魔族たちの態度が変わったところで、やっぱり常識の壁は厚い。
結局、俺は様々なことを旭陽に教わっている。
同じ世界で生きていただけあって、俺が飲み込めるように説明する、或いは納得させるのが上手いからだ。
元々旭陽は人に説明するのも得意だからな。
他人のために労力を費やす性格じゃないから、知る機会は殆どないというだけだ。
元の世界じゃ、一番長く近くに置かれていた俺しか知らないと思う。
贄である旭陽に頼るのはあまりにも情けない……
分かっているんだが、旭陽がいつも絶妙なタイミングで口を出してくるものだから、結局は実質的に頼ってしまっている。
一応、俺から旭陽に頼んだことはない。
時間の問題じゃないか? という自分の囁きには耳を閉ざしている。今のところは。
城に転移魔法で戻ると、城門に褐色の男が凭れていた。
長身の男よりも更に背高の魔族に、何やら熱心に話し掛けられている。
「魔王様!」
話し相手のトカゲ頭――サンドロが、ばっと顔を向けて声をかけてきた。
話し掛けられていた男は、臣下とは真逆のゆったりとした動きで視線だけを向けてくる。
「おかえりィ」
にやりと笑った旭陽に、俺も口角を持ち上げてみせた。
「ただいま」
「ンで、どうだったんだ……おれの前の贄とやらは?」
殆ど並んでいるに等しい、ほんの僅か下がった位置を旭陽が歩く。
俺たちから少し離れた背後を、最近出来た臣下化が著しいサンドロが着いてきている。
いや、元々サンドロはすごく有能なんだけど。次の宰相は確実って言われてるくらいだし。
単に俺を王として認め始めているから、本来の力で仕えてくれているんだろう。
まあ執務以外じゃ旭陽にべったりだけど。
旭陽も、波長が合うのか魔族たちには意外と甘い。こいつにしては。
少なくともぎりぎりまで甚振ってる相手とかは見たことない。
そんな二人は、俺が何処へ行っていたのか知っている。
「ただの魔力酔いだったよ。魔獣属は自分以外の魔力を扱ったりできないんだろ?
人間をああいった形で引き取った所為で肩身が狭いみたいし、俺以外に頼れる相手が居なかったんだろうな」
「魔力を持っていようがいまいが、脆弱すぎる人間は魔王国の空気に含まれる魔力量だけで病になりますからね」
サンドロが納得した声で呟いた。
旭陽がくるまで、俺は贄というものに興味がなかった。
庶民感覚には生贄なんて言葉だけでも恐ろしく感じるだろ、普通……
かといって送り返すわけにはいかない。
贄というのは、選ばれた瞬間から同じ人間から人とは見做されなくなるらしいからだ。
魔に捧げる忠誠の証であり、王の所有物――俺は旭陽以外を所有したことはないけど。
傷物や粗悪品を支配者に捧げるわけにはいかないから、なんて理由で大切には扱われるらしい。
でもそれは稀少な宝石を扱うようなもので、人間としては見られなくなる。
贄に選ばれた瞬間、あらゆる人間との縁が切られるのだとか。
それは人間の国では絶対に守らなければならない掟だと、教えてくれたのは当の贄たちであった。
最初、贄たちは何もかもに怯えていた。
興味がなく、震えている人間が気の毒でもあった俺は、すぐに贄を送り返そうとした。
すると彼ら自身が真っ青になって、不要なら自分の首を落として下さいと床に蹲ってしまったのだ。
額を床に打ち付けて平伏する相手に驚いた俺が問い質すと、魔王に不要とされた贄など人間にとっても不吉で恐ろしいものであるらしい。
もしそんなことになってしまえば、まともな死に方さえできないと言われてしまった。
かといって、魔王国の町に住ませることもできない。
人間を見下し嫌悪している魔族たちの中に解き放てば、すぐにトラブルが発生するのは目に見えていた。
もしも彼らが死んだり大怪我を負うことにでもなってしまったら、それこそこちらの罪悪感が大きすぎる。
悩んだ俺は、城内の色々な部署に彼らを配置した。
「ありがとうございました、陛下!」
「元気になって良かった。お大事に」
深々と頭を下げてくる男たちに手を振って、気にするなと伝える。
仲良く並んだ頭のうち、一つは丸い耳が生えた熊頭。
そしてもう一つは、青い髪の人間だ。
人間からの新たな贄を断って、二ヶ月が経過していた。
正式に断ったのは、話を聞いてから二日後のこと。
その頃から、俺に抱かれた後も旭陽が体調を崩すことはなくなっていった。
魔族たち曰く、本格的に魔王の力が贄に定着してきた証だという。
鼻で笑いながら色々と口を出してくる旭陽によって、俺も自分の中に流れる魔力の存在を感じ取れるようになった。
最近ではある程度操れるようにもなっている。
俺よりも贄である男に余程懐いている魔族たちから、あれこれと丁寧に教えられているんだろう。
少し目を離せば、相変わらず旭陽は魔族に侍られている。
以前とは違って、臣下たちは俺を無視することはなくなっていた。
俺が頭を悩ませていると、前よりも砕いた助言や説明をしてくれる。
でも魔族たちの態度が変わったところで、やっぱり常識の壁は厚い。
結局、俺は様々なことを旭陽に教わっている。
同じ世界で生きていただけあって、俺が飲み込めるように説明する、或いは納得させるのが上手いからだ。
元々旭陽は人に説明するのも得意だからな。
他人のために労力を費やす性格じゃないから、知る機会は殆どないというだけだ。
元の世界じゃ、一番長く近くに置かれていた俺しか知らないと思う。
贄である旭陽に頼るのはあまりにも情けない……
分かっているんだが、旭陽がいつも絶妙なタイミングで口を出してくるものだから、結局は実質的に頼ってしまっている。
一応、俺から旭陽に頼んだことはない。
時間の問題じゃないか? という自分の囁きには耳を閉ざしている。今のところは。
城に転移魔法で戻ると、城門に褐色の男が凭れていた。
長身の男よりも更に背高の魔族に、何やら熱心に話し掛けられている。
「魔王様!」
話し相手のトカゲ頭――サンドロが、ばっと顔を向けて声をかけてきた。
話し掛けられていた男は、臣下とは真逆のゆったりとした動きで視線だけを向けてくる。
「おかえりィ」
にやりと笑った旭陽に、俺も口角を持ち上げてみせた。
「ただいま」
「ンで、どうだったんだ……おれの前の贄とやらは?」
殆ど並んでいるに等しい、ほんの僅か下がった位置を旭陽が歩く。
俺たちから少し離れた背後を、最近出来た臣下化が著しいサンドロが着いてきている。
いや、元々サンドロはすごく有能なんだけど。次の宰相は確実って言われてるくらいだし。
単に俺を王として認め始めているから、本来の力で仕えてくれているんだろう。
まあ執務以外じゃ旭陽にべったりだけど。
旭陽も、波長が合うのか魔族たちには意外と甘い。こいつにしては。
少なくともぎりぎりまで甚振ってる相手とかは見たことない。
そんな二人は、俺が何処へ行っていたのか知っている。
「ただの魔力酔いだったよ。魔獣属は自分以外の魔力を扱ったりできないんだろ?
人間をああいった形で引き取った所為で肩身が狭いみたいし、俺以外に頼れる相手が居なかったんだろうな」
「魔力を持っていようがいまいが、脆弱すぎる人間は魔王国の空気に含まれる魔力量だけで病になりますからね」
サンドロが納得した声で呟いた。
旭陽がくるまで、俺は贄というものに興味がなかった。
庶民感覚には生贄なんて言葉だけでも恐ろしく感じるだろ、普通……
かといって送り返すわけにはいかない。
贄というのは、選ばれた瞬間から同じ人間から人とは見做されなくなるらしいからだ。
魔に捧げる忠誠の証であり、王の所有物――俺は旭陽以外を所有したことはないけど。
傷物や粗悪品を支配者に捧げるわけにはいかないから、なんて理由で大切には扱われるらしい。
でもそれは稀少な宝石を扱うようなもので、人間としては見られなくなる。
贄に選ばれた瞬間、あらゆる人間との縁が切られるのだとか。
それは人間の国では絶対に守らなければならない掟だと、教えてくれたのは当の贄たちであった。
最初、贄たちは何もかもに怯えていた。
興味がなく、震えている人間が気の毒でもあった俺は、すぐに贄を送り返そうとした。
すると彼ら自身が真っ青になって、不要なら自分の首を落として下さいと床に蹲ってしまったのだ。
額を床に打ち付けて平伏する相手に驚いた俺が問い質すと、魔王に不要とされた贄など人間にとっても不吉で恐ろしいものであるらしい。
もしそんなことになってしまえば、まともな死に方さえできないと言われてしまった。
かといって、魔王国の町に住ませることもできない。
人間を見下し嫌悪している魔族たちの中に解き放てば、すぐにトラブルが発生するのは目に見えていた。
もしも彼らが死んだり大怪我を負うことにでもなってしまったら、それこそこちらの罪悪感が大きすぎる。
悩んだ俺は、城内の色々な部署に彼らを配置した。
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