解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第一章】

第七話 環境を整えよう

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「ちっす、あにき!」
「おはようございますです!」
「おー、二人ともおはよう」

 食事会の翌日のこと……ギルドの前で待ち合わせしていた二人の獣人娘の片割れ――チロルの頭に不思議な物を見て、俺はそれを指摘した。

「チロル……頭に草ついてんぞ? ほら」
「え……本当です? ちゃんと払ったはずですのにまだ……。あ、ありがとうなのです」
(まだ……?)

 チロルは頭をぱたぱたと払いながら真っ赤になっている。すると……。

「あ~、たまにあるよな。わかる」
(わかる……?)

 どういうことだろうと首をかしげた俺は、すぐにある事実に思い当たる。
 ミュラを送ったあの後……二人は宿はすぐそこだと、俺が付き添うのを強く拒否してどこかへ消えて行ったのだ。

「……チロル、お前昨日どこに泊まった?」
「え? え~と、や、宿です。三番街の……おとといは」
「き・の・う・は?」
「きのうはぁ~……。……の、じゅく、です」

 のじゅく……野宿!?
 人差し指をつつき合わせて目を逸らし、ぼそりと言ったその言葉に俺は頭を抱えた。

「お前あほか! 何かあった時どうすんだ! ちゃんと報酬は等分してるから宿に泊まる位の金は持ってんだろ!」
「ひぃ! で……で、でも先々の為に少し節約してお金をためておきたいと思ったのです……」
「わかるぞ~……ひもじいのやだもんな……」

 落ち込むチロルの肩を叩くながら同意するリュカに、俺は口を思い切りひん曲げる。

「もしかしてリュカ、お前までそんなことしてんじゃないだろうな!?」
「三、三日に一回くらいだよ……ちゃんと人のいないとこ選んでるから大丈夫だもん!」
(うわぁ~……)

 よもやうら若き少女達がそんな悲惨な生活を送っているとは思いもしなかった俺はなんとも言えない気持ちでうなだれる。

「……家を探す。着いて来い」
「テ、テイルさん、わたし達お金ないのですよ!?」
「おいらもなんも持ってないぞ! あ、あにきもしかしておいらを売るの?」
「売らんわ! 俺がどうにかする!」

 そうして俺が向かったのは一軒の不動産屋だった。
 扉を開けると、少し胡散臭めな黒眼鏡のおじさんが驚いた顔で出迎える。

「おや、テイル君じゃないかね。全く……せっかくいい家紹介してあげたのに、まさか全部差し押さえらてしまうなんてねぇ。やれやれだよ」
「シエンさん……す、すんません。でもあれは……」

 笑顔の奥からの冷たい視線を受けてたじろぐ俺。
 懸命に言い返そうとするものの、不動産屋の主人シエンさんはそれを制した。

「ま、大方誰かの怒りを買ったかなんかだったんじゃないの。あんまり空気読まなそうだもんね、君。……しかし細工のことしか頭に無かった君が、可愛いお嬢さん二人連れて、どういう風の吹き回しなんだい?」

 昔から鋭い人だったから、何かあるのは察してくれたようだ。
 黒眼鏡の奥の目がチロルとリュカに向き、二人は頭を下げる。

 そこで俺は腰のポーチから一つの磨かれた宝石を取り出した。

「シエンさん、頼みがあるんです。現金は無いけど、これでどこか住めるところを探して欲しい」
「ふーん、小粒のダークエメラルドか……」
「ああ、保証書は無いがどっかで鑑定してもらってもいい。細工師の名にかけて本物だ」

 ダークエメラルド。
 普通のエメラルドとは違い……自然物に風属性の凝縮された魔力が宿ることでできた宝石のことだ。他にも、ダークルビー、ダークサファイアなど色々な種類がある。

 彼は俺から受け取ったそれを明かりに透かして眺める。
 それは内部からごく小さな魔力の光によって照らされて輝いているように見えた。

「……ふ~ん、売れば結構しそうだね。小さな家の一軒位は買えるかもしれないな。……でも、これはもらえないねぇ。僕は質屋じゃないんだ」
「そこを何とか頼むよ……シエンさん」
「テ、テイルさん……いいですよ。わたしちゃんと宿に泊まるようにしますから。お金貯まらないかも知れないですけど……」
「おいらも、気をつけるから……」

 頭を下げる俺を両側から二人が申し訳なさそうに引っ張る。
 しかし、それを見て彼が告げた言葉はさすが商売人、うまく双方の利害が一致するものだった。

「仕方ないな……じゃ、こういうのはどう? 僕の持っている物件の中に丁度良さそうなのがあるけど、ちょっと室内が荒れててね。それを片付けてくれるならしばらくの間君らに貸してあげてもいいよ?」
「本当ですか!?」

 ばっと顔を上げた俺に、シエンさんはにたっと笑いながら宝石を俺の手に返す。

「あの家を売った時も多少は儲けさせてもらったからね。その礼だとでも思うといいさ。なら早速連れて行ってあげるよ」

 彼は腰を上げると俺達を外へ追い出し、店を一時閉店させてしまった。

「お前ら良かったな! これで外で寝なくて済みそうだぞ?」
「本当か? おいら、路地裏は冷えるから嫌だったんだ、虫も出るし……」
「に、荷物も置けるのです? 本とか買っても良いでしょうか?」

 喜ぶ二人に纏わりつかれながら、物置から掃除道具を取り出したシエンさんにしばらく着いてゆくと、彼は少し街の中心から外れた一角で立ち止まった。

「ここさ……」

 彼が指さしたのは……紫色の屋根をした、木造の家屋だ。
 両隣の大きな家に挟まるように建つこじんまりとした家。

「元の持ち主が手紙一つ残して姿をしちゃってね。中のものも処分してくれて構わないって書いてあるもんだから、いつか片付けないとと思ってたんだ。人手がいてくれて助かるよ」

 なんというか、とにかく陰気に見える家だ……幽霊位住み着いていると言われても驚かない。シエンさんが鍵をかちゃりと開けると、中も薄暗い。

「口や鼻をタオルかハンカチか何かで覆った方がいいと思うよ」
「――くしゅっ……! うぅ、鼻がむずむずするよぉ」
「ほこりっぽいのです……。リュカちゃん、これよかったら」
「ふぁりがと……」

 鼻をぐずらせるリュカの後ろでチロルがハンカチを結んであげた。
 全員が各自口元を覆い、建物の部屋を周って風通しを良くして行く。

「なんか……すごいですね。魔女でも住んでたみたいな雰囲気だ……」

 ごちゃついた室内は書物の類が異様に多く、次いで用途の分からない魔道具等が溢れている。勝手に触って危険はないのだろうか……?

「……確か高名な魔法使いの家の出だったって聞いたから、当たらずといえども遠からず、ってところなのかな。ええとね、なんて言ってたか……。アリ、アリア……そう、アリアルード・フェリメナクさんだ! 思い出した」
「フェリメ……、フェリメナク!?」

 部屋の中を覗いていたチロルがぎょっとした目で振り返った。

「知ってんの?」
「この国ではないのですが……隣の国で、魔法の腕を認められて仕官し、功績によって候爵位まで賜った血筋だと本で読んだことがあるです」
「へぇ~……それじゃもしかしたら、急に国に帰る事にでもなったのかな?」
「結構な美人だったし、縁談の話でもあったりしてね。さ、おしゃべりはこれ位にしてどんどん片付けて行こう」

 シエンさんは腕まくりをして、俺達もそれに従う。

 取りあえず、細々とした用途の分からない品々は、チロルとリュカで一階の一室に集めてもらい、俺達は部屋のほこりを払ったり、ゴミを片付けて外に出してゆく。

 幸い、建物自体に傷んでいるところなどは無いので、修繕なんかは必要なさそうだ。

『チロル、チロル……』 
『なんですか……』
『ばぁっ!! ぺろぺろしちゃうぞ~!』
『ひぁん、ぺろぺろは止めて下さいっ! なにとぞっ、なにとぞっ!』

 騒がしい声に二階から階下を覗くと、リュカが変な仮面を被ってチロルを脅している。

「あほか、何してんだあいつら……。こらぁ、お前ら真面目にやれよ! 全く……」
「はは、微笑ましいね。しかし、君、この先仕事はどうするんだい?」
「あ、俺冒険者に戻ったんです。あいつらとパーティーを組むことになって」
「ああ、それで……。まあ、くれぐれも気を付けてね。平和なこの辺りにも、たまに危険な魔物は出るみたいだから。ま、元A級冒険者の君からしたらなんてことないだろうけど」
「はい、何かあっても大丈夫なよう、あいつらも俺が強くして見せます」

 当面の目標は二人を昇級させ、自分達の力でやって行けるようにすることだなと、俺は気合を入れ直してシエンさんと片付けを進める。あの二人も以降はそれなりに頑張り、片付けは夕方までにはひと段落着いた。

「――じゃ、僕はこの辺で。何か壊れてるところがあったら見に来るから報告頼むね」

 シエンさんは俺に二本の鍵を渡すと、玄関口から出ていく。

「あ、あの……期限は」
「とりあえず、売約先が決まるまではいてくれていいさ。少なくとも二、三カ月はないだろうし、もしそうなったらすぐに伝えるから心配しなくていいよ。それじゃ、またね」
「「「ありがとうございました!!」」」

 こちらこそ、と穏やかに手を振り出て行ったシエンさんを皆で見送った後、俺は固まった腰を伸ばした。

「ふー、良く働いた。良かったなお前ら、荷物とかは他にないのか?」
「わたしはあれだけです」「おいらもかばんだけだよ」

 二人は小さなリュックを指さして言い、俺は悲しくなった。

「うう……これからは依頼頑張って服とかたくさん買おうな。ご飯も一杯食べるんだぞ……」
「うん! チロル、おいら、二階の屋根裏部屋がいい!」
「あ、はい……どうぞ。テイルさんはどうしますか?」
「何が?」

 その質問に帰り支度をしていた俺はきょとんとする。

「どこへ行かれるのです? お買い物ですか?」
「遅いから宿に戻るんだけど?」
「ええっ? テイルさんも一緒に暮らすんじゃなかったのです?」
「……えーっ、あにきどっかいっちゃうのか? なんでだ?」

 ほよっとチロルが首をかしげ、ドタドタと戻って来たリュカが服の裾を引いた。

「いや、問題あるだろ。女の子が二人で、俺みたいなのがいると……その、な?」

 今度は俺が言葉に詰まる。
 
「なんにも問題ないのです。テイルさんがわたし達が嫌がることする人じゃないくらい、もうわかりますし。あの方もテイルさんが言うからって貸してくれたのですから」
「うん、おいらもあにきがいてくれると安心する。だから、一緒に暮らしたいよ。皆で一緒の方がきっと楽しいもん」
(こいつら……)

 こんな風に言われると、戸惑っている俺がまるで意気地なしみたいで、馬鹿らしく思えてくる。ならば、俺も仕事場兼仮の住居としてせいぜい利用させてもらうことにしよう。

「……わかったよ。それじゃお前らがしっかりやれることを見届けるまで、一緒に住むことにする!」
「わぁい、良かったです!」「やった、やったー!」

 二人は手を叩いて喜びあった後、お気に入りの場所を探しにゆく……。
 そんな姿を見て……俺はこれから忙しくも、何だかんだで充実した毎日が始まるのを予感することが出来た。
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