解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第一章】

第八話 穏やかな新生活

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 その日から一週間……低ランクの依頼をこなしながら、毎日買い物に出て細々としたものを揃えて行き、そろそろ生活環境が整って来たという、そんな日の朝。

「っし、朝飯できた」

 魔道コンロの火を止め、フライパンを下ろす俺の後ろから慌てた挨拶が聴こえてくる。

「すみませんのですーっ! また寝坊してしまいました……」
「気にすんなって……大体終わってるから座ってろ」

 別に起床時間を定めているわけではないが、チロルは俺と生活リズムを合わせようとしてくれているようだ。一方リュカは……。

 トーストとウインナーやちょっとしたサラダなどを乗せた皿をテーブルに置くと、俺は屋根裏部屋に顔を出し、声を掛ける。

「おい、リュカ。朝飯できたぞ~! 先に食べちまうがいいか?」
「……うにゃ。あにきぃ、起こしてぇぇ……」
「またか……」

 どうも相当朝が弱いようだ。リュカの震える手がベッドから出て来たので引っ張り起こしてやる。

 すると彼女は、目もろくに開かずに真新しい黄色チェックのパジャマを着たまま階下に歩いていこうとした。

「こーら、ちゃんと着替えて顔を洗うんだ」
「うぃ……」

 首根っこをつかんで注意すると、彼女は寝ぼけてそのままパジャマの下に手を掛けて下ろす。それを見ない内に俺は慌てて退散した。

「もうちょっとしたら降りて来るよ……多分」
「あはは……ありがとうございます。朝のリュカちゃんは墓場のゾンビのごとしなのですよ……。わたしだとそのままベッドに引きずり込んで寝ちゃいますのです……。テイルさん、コーヒーどうぞ」
「おう、ありがとな」

 俺はちょっとミルクをいれたコーヒーを、彼女はカフェオレをすする。
 ここ数日でどうやら好みを覚えてくれたらしい。

 二人してほっと息を吐き、ふっと笑い合った。

「なんだか、すごく上等な生活をしている気分になるのです~……最近よく眠れるのです」
「そっか、良かったな」

 ずっと一人だったから色々気を張っていたのだろうと思い、俺はチロルの頭を撫でた。長い耳もこの家でいる間はぴんと立っていて窮屈しなさそうだ。

「食事が終わったら、ちょっと街を走って、魔力のコントロールを練習して、ギルドに行こうな」
「はい、頑張るのです!」

 嬉しそうに笑うチロルに微笑み返していると、リュカが寝ぼけ眼をこすりながらやって来た。

「……ねむぃ」

 シャツがめくれ上がって腹が出ていたり、ボタンが掛け違っていたりどことなくだらしない。髪もぼさぼさだ。

「ああぁ、リュカちゃん……だめですよ。ちゃんとしないと……」
「……うぃ」

 のろのろと手を動かすリュカを手伝うチロルの姿は仲の良い姉妹のようでもある。どちらも抜けているから、どっちがどっちと言われると困るが。

「髪は後でちゃんとするのです。とりあえず、ご飯を食べている間に目を覚ますのです」
「……うぃ」

 さっきからそればっかりだ。
 椅子に座り、くたっと頭をテーブルに押し付けたその姿に、俺達は顔を見合わせて溜息をついた。


 その後――。

「やっ、はっ」
(うん、動きは悪くないな。種族的なものもあるのか?)

 庭でチロルに魔力のコントロールを教える傍ら、俺はリュカと軽く手合わせしていた。彼女は短いナイフを両手に持って戦うタイプの前衛のようだ。

 武器の扱いは手慣れているようで、訓練用の木剣とはいえ恐れる様子は見られない。一度冒険者証でステータスを確認させてもらったが、以下のような感じだった。

【冒険者名】リュカ・アルカイズ 【年齢】15 
【ランク】E 【ポジション】前衛

《各ステータス》

 体力 (D)  52
 力  (E)  35
 素早さ(D)  72
 精神力(D)  42
 魔力 (E)  12
 器用さ(D)  67
 運  (D)  62

《スキル》短刀術(10) 
《アビリティ》幸運(1)

 素早さと器用さが高い、回避型のアタッカー。
 ゴブリン位であれば、一度も被弾することなく倒せるだろう。

 羨ましいのは運のステータスが高いことだ……。
 これは先天的なもので努力ではどうにもならない。上げる方法が無いことは無いけれど。 

 《幸運》アビリティも所持しているし直接的な効果は無くとも、幸運な出来事に当たりやすいのは、知り合いを見てわかっている。俺がいなくても、持ち前の運と元気で何とかしていたかも知れないと思うが……。

「まだまだ工夫が足りないな!」
「わああっ! あうっ……」

 手数頼みで正面から攻めて来た彼女の攻撃は単調ですぐに見切れた。
 突きを放った手を掴んで、体の位置を入れ替わるようにぐっと後ろに引く。
 足を引っかけて蹴倒し、無防備な背中に剣を突き付けるとそれで勝負はついた。

「今日はこれで終わりな」 
「……ううぅ、一本位は取れると思ったのにぃ」
「Eランクにしては結構いい線いってると思うけど、まだもうちょっと経験を積まないとな」

 足元でじたばたしていたリュカの手をつかみ立たせてやると、彼女は背中にどーんとぶつかって来て笑う。

「うへへ……」
「なんだなんだ、仕返しか?」
「違うもん、引っつきたかっただけだもん」
「犬みたいな奴だな……」

 リュカは俺の腰に頭を押し付け尻尾をバサバサと振っている。
 村に家族を残してきたというから、一人で寂しかった反動が今更爆発しているのだろうか。面倒なのでそのまま、離れたところでうんうん唸っているチロルの元へ引きずって行く。

 俺達が近接戦闘の訓練をしている間、彼女には魔力をコントロールの訓練をさせている。

 魔力には、放出する量によって威力も消費も変わる。これをうまく調節することが良い魔法使いになるにはかかせないらしい。

 この訓練は魔筆と魔写紙という特殊な筆記具を使ったもので、魔力の調節が下手なチロルは最初、ちょっと触っただけで紙を赤一色に染めてしまい、「ひぃ……ホラーです!」などと自分で騒いでいた。

 最近では少し慣れてきたようだが、果たしてどんな作品が生み出されているのだろう。

「チロル、どうだ? 上手く行ってるか……」
「じゃ~ん! テイルさん……どうですかっ!? なかなか自分では上手く行ったかなと思ったのですが」

 ほこらしげな顔をした彼女が、画板に止めた紙を効果音付きで自信満々に掲げる。

(これは……なんだろう)

 俺にはそれは人型の魔物と犬型の魔物が腕を振り回しているようにしか見えない。

 しかもどことなく前衛的でカクついている。
 端的に言って惨劇にしか見えない。

「怖いよ……なにこれ」

 リュカが青ざめた顔で呟き俺の後ろに顔を隠す。
 俺も同意だが、何も言わないのもどうかと思うので、取りあえず見た感じで感想を述べてみる。

「……ゴブリンと、コボルトかな? 中々迫力がある絵だな」
「違いますよ? テイルさんとリュカちゃんの訓練風景を描いたのです」

 彼女は不思議そうな顔で首を傾げた。

「……そうか」

 それしか言えなかった。
 
「成功作第一号として、部屋のリビングに飾っても良いですか!?」
「やめてよ! おいら夜中にトイレ行けなくなっちゃうよ! 自分の部屋にして!」

 リュカの叫びに、チロルはしゅんとして項垂れる。

「そうですか、すみません。では自分の部屋に飾ることにするのです……」
(ううむ……)

 一か月後位には、彼女の部屋はそんな絵で埋め尽くされて魔境と化しているかも知れない。

 それを俺は、見てみたいような見てみたくないような……なんとも言えない気分にさせられたのだった。
 
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