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【第二章 第一部】
第八話 明かせない事情
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――戦闘の数時間前、ピピは魔物を効率よく狩るためにしている工夫のひとつを話してくれた。
『――ほう、あんたの作った調理品を食べることで、支援効果を得られるのか』
『そう。私のような《調理術》スキルを持っている人間であれば、作った食べ物に特別な効果を与えることが出来る。さっきは、ファイアバードの肉を調理した際に出る油を利用して作った飴を舐めていた』
ピピは肩掛け鞄から包みを取り出す。その中から出てきたのは、朱色の丸い飴だ。
《★★★ ファイアバード・ドロップ(食材)》
(効果・詳細説明)使用後三時間 火炎耐性+30、防御力+30。ファイアバードの油と各種ハーブなどを混ぜ合わせた飴玉。火炎属性に対しての防御力が高まる効果を持つ。
『皆も食べておくといい、これで燃える羽根の攻撃とブレスは大体無効化できる。後は物理攻撃に気を付ければ、倒されることはない』
『おう、助かる……。……ごふっ!?』
俺たちはどんな味か予想もできず、恐る恐るひとつひとつ口に運ぶ……そしてむせた。どことなくスパイシーな香りが口の中に広がり、その後を甘ったるさが包み込む地獄の味わい。
『……これは』
『効果優先で作ったから、味には期待しない方がいい。不味かったら、噛んで飲みこんで』
『先に言ってよ!』『お、お水をください……うえぇ、お肉の味がするです』
無表情で言うピピに、真っ青な顔でライラとリュカは鞄を探り、水筒から注いだ水をがぶ飲みする。
『おいらは別になんともないけどなぁ……もういっこある?』
『ダメ。いっぱい食べても効果は重複しない』
『ちぇ~……』
リュカだけはそれを気に入ったようで、口の中でコロコロ転がしていたが、俺たちはちょっとしたトラウマを植え付けられた……。だが、おかげで誰もほとんど怪我を負うことなくアイテムの入手と依頼達成は成功したのだ。
「――お待ちどう。色々作ってみたよ」
そんな出来事の後、《凍り箱》いっぱいにファイアバードの胸肉などを詰め込んだ俺たちはハルトリアの街に戻り、今は例の魔物料理店マジロへとお邪魔しているわけだった。
閉店中の看板がかかった誰もいない店内に入ると、俺たちは適当な席に座らされ、新鮮な肉を使ったファイアバードのフリットを始め色々と他のものもご馳走になる。
ファイアバードの卵を使ったオムレツはもちろん、シーガードという貝型の魔物の肉を使った炒め物……食後にはバーストベリーやフィア―アップルなどを使ったタルトなど、大盤振る舞い。
すっかり満腹になった俺たちは、口々に彼女にお礼を言い、ピピの口元がほころぶ。
「う、動けないのです。先日のリュカちゃんみたいになってます……」
「おいら……しあわせ、とびでそう……。けぷ……」
「ちょっと、ふたりとも重いってば……。はぁ、でもしばらくは私も休憩させてちょうだい……」
ライラは寄りかかるふたりと共に、背もたれに体を預け、満足そうにため息を吐いた。微笑ましいその姿を眺めた後、俺は隣に座ってコーヒーをすするピピに首を向ける。
「でも本当にいいのか? 食品以外は全部貰っちまって」
「うん。《凍り箱》の魔力も補充してもらったし、充分助かった。ライラ、ありがとう……さすが魔族だね」
「どういたしまして……。……そういえば、ピピ。私、こんな大きな街だからもっと魔族って見かけるのかと思ってたんだけど、本当にいるの?」
「ん……ちょっと待ってて」
彼女は小走りにどこかへ行くと、ひとつの紙束を持って戻ってくる。
テーブルの上に広げられたそれは新聞だった。
「少し前の奴だけど……ここ、見て」
「なになに……。アストルキアとフォラク……えっ!? 戦争って……!」
ライラの小さな悲鳴に俺も身を乗り出し、テーブルの上の紙面を覗くと、見出しにはこう書かれている。
【魔族の国アストルキアとフォラク帝国で戦争勃発か――!?】
記事には、「エルスフェリアの東に存在するフォラク帝国元首エルドライン・フォラクが、海を隔てたアストルキアへと侵攻を宣言し、アストルキア盟主……魔王エインスワルトがそれに対して徹底抗戦をほのめかし、全世界に散る魔族たちに協力を促した――」とあり、それを持ってきたピピは少しすまなさそうにした。
「たぶん、このせいでほとんどの魔族の人たちは、アストルキアに帰ってしまったんだと思う。最近では私もこの街でライラの他に見かけてない」
「そう……だったの」
「でもさ、いくら戦争で国が亡ぶかもしれないからって、こぞって国を守ろうとするか普通? 大多数がそうだとしても、もっとこっち側に残る奴がいても不思議じゃないんじゃ……」
「魔族って、よほど愛国心が強い種族のかしら? それにしても、確かに不自然だけど……」
額を突き合わせて考えるが、納得のいく答えなど浮かぶはずもない。
「ま、さすがにゼロってことはないんだろうし、旅を続けてりゃその内出会うこともあるだろ。……心配か、ライラ?」
「……ううん。特に実感はないわ……いいことなのか、悪いことなのか分からないけどね」
そう言いつつも、ライラがなんとなく落ち込んで見えたので、俺はあえて気楽に励ましておく。
「ま、あんま気にすんなよ。なんかあっても、俺たちがいるんだし」
「おいらも~」「わたしも支えますのです!」
「……大丈夫よ。ありがとうね、皆」
すると左右から獣人ふたりも手を握り、珍しくライラは素直に笑っていた。
「いいパーティーだね」
実の姉妹のようなそんな姿を見てピピは俺にこっそり耳打ちし、なんとも気恥ずかしい雰囲気になったので俺は強引に話題を変えた。
「まあな……。話を戻すが、本当に貰っちまっていいのか、この素材」
「どうせギルドに買い取ってもらうことになるだけだし……テイルはそれを使って色々造れるんでしょ? きっとその方が他の人のためになる」
ピピの表情はあまり変わらないが、その瞳は穏やかで優しい。
彼女は誰とも組まないつっけんどんな女の子なのかと思っていたが……きっとそうではないのだ。
しばらく話しても、発言や行動に彼女なりの細やかな気遣いが感じられ……俺はなぜ、好んで単独でいるのかが気になった……でも。
(人の事情にあんま気軽に首を突っ込んじまうのもなぁ……)
本人が話したいのならともかく、今俺から深く踏み込むのは躊躇う。しかし、そんな気遣いは無駄だったようだ。
「はぁぃ! おいらピピのこと聞きたい!」
なぜならリュカがいる。彼女は気にしない。どんな時でも直球だ。
空気を読まないイヌビトの少女が、ライラに膝枕をされた状態で腕だけを元気に突き上げ、真っ直ぐ裏の無い笑顔でピピを見つめる。
「ピピは、どうして冒険者になったの? おいら、知りたいな~……もっと仲良くしたいから」
「……ええと」
ピピはやはり口ごもり、視線を落とす。
隣にいたライラがすぐに、リュカの頬を軽くつねって注意した。
「こ~ら、リュカ! あまり人のことを根掘り葉掘り聞いちゃダメなのよ……?」
「おいらだってそのくらいわかってるもん! でも……ピピ、今日一緒にいてとっても楽しそうにしてた。だからどうして前の時、あんなしょんぼりだったのか気になったんだ……」
言わんとするところは理解できる。俺も最初、ピピには少し寂し気な印象を抱いていたから。
「テイルさん……」
うつむいたままのピピを案じたチロルが助けを求めるように見上げ……俺が仕方なく口を開こうとした時……。
「……ごめん。それは、話せない」
彼女は本当に申し訳なさそうに小さく言い、頭を下げた。
「……いいや、会って日の浅い俺たちがずけずけ聞いていい話じゃなかったな。悪かった……ほら、リュカ」
「ごめんわかった、もう聞かない……でも、また話したくなったら話して」
「うん、いつか……」
表情を沈ませたピピは、気弱そうな笑みを浮かべる。
その後皆で場を騒がしく盛り上げようとしたが、ピピの口数は少なく……。
店を出る時、玄関から見送るその顔も寂しそうで、少し後味の悪い別れ方となってしまった。
『――ほう、あんたの作った調理品を食べることで、支援効果を得られるのか』
『そう。私のような《調理術》スキルを持っている人間であれば、作った食べ物に特別な効果を与えることが出来る。さっきは、ファイアバードの肉を調理した際に出る油を利用して作った飴を舐めていた』
ピピは肩掛け鞄から包みを取り出す。その中から出てきたのは、朱色の丸い飴だ。
《★★★ ファイアバード・ドロップ(食材)》
(効果・詳細説明)使用後三時間 火炎耐性+30、防御力+30。ファイアバードの油と各種ハーブなどを混ぜ合わせた飴玉。火炎属性に対しての防御力が高まる効果を持つ。
『皆も食べておくといい、これで燃える羽根の攻撃とブレスは大体無効化できる。後は物理攻撃に気を付ければ、倒されることはない』
『おう、助かる……。……ごふっ!?』
俺たちはどんな味か予想もできず、恐る恐るひとつひとつ口に運ぶ……そしてむせた。どことなくスパイシーな香りが口の中に広がり、その後を甘ったるさが包み込む地獄の味わい。
『……これは』
『効果優先で作ったから、味には期待しない方がいい。不味かったら、噛んで飲みこんで』
『先に言ってよ!』『お、お水をください……うえぇ、お肉の味がするです』
無表情で言うピピに、真っ青な顔でライラとリュカは鞄を探り、水筒から注いだ水をがぶ飲みする。
『おいらは別になんともないけどなぁ……もういっこある?』
『ダメ。いっぱい食べても効果は重複しない』
『ちぇ~……』
リュカだけはそれを気に入ったようで、口の中でコロコロ転がしていたが、俺たちはちょっとしたトラウマを植え付けられた……。だが、おかげで誰もほとんど怪我を負うことなくアイテムの入手と依頼達成は成功したのだ。
「――お待ちどう。色々作ってみたよ」
そんな出来事の後、《凍り箱》いっぱいにファイアバードの胸肉などを詰め込んだ俺たちはハルトリアの街に戻り、今は例の魔物料理店マジロへとお邪魔しているわけだった。
閉店中の看板がかかった誰もいない店内に入ると、俺たちは適当な席に座らされ、新鮮な肉を使ったファイアバードのフリットを始め色々と他のものもご馳走になる。
ファイアバードの卵を使ったオムレツはもちろん、シーガードという貝型の魔物の肉を使った炒め物……食後にはバーストベリーやフィア―アップルなどを使ったタルトなど、大盤振る舞い。
すっかり満腹になった俺たちは、口々に彼女にお礼を言い、ピピの口元がほころぶ。
「う、動けないのです。先日のリュカちゃんみたいになってます……」
「おいら……しあわせ、とびでそう……。けぷ……」
「ちょっと、ふたりとも重いってば……。はぁ、でもしばらくは私も休憩させてちょうだい……」
ライラは寄りかかるふたりと共に、背もたれに体を預け、満足そうにため息を吐いた。微笑ましいその姿を眺めた後、俺は隣に座ってコーヒーをすするピピに首を向ける。
「でも本当にいいのか? 食品以外は全部貰っちまって」
「うん。《凍り箱》の魔力も補充してもらったし、充分助かった。ライラ、ありがとう……さすが魔族だね」
「どういたしまして……。……そういえば、ピピ。私、こんな大きな街だからもっと魔族って見かけるのかと思ってたんだけど、本当にいるの?」
「ん……ちょっと待ってて」
彼女は小走りにどこかへ行くと、ひとつの紙束を持って戻ってくる。
テーブルの上に広げられたそれは新聞だった。
「少し前の奴だけど……ここ、見て」
「なになに……。アストルキアとフォラク……えっ!? 戦争って……!」
ライラの小さな悲鳴に俺も身を乗り出し、テーブルの上の紙面を覗くと、見出しにはこう書かれている。
【魔族の国アストルキアとフォラク帝国で戦争勃発か――!?】
記事には、「エルスフェリアの東に存在するフォラク帝国元首エルドライン・フォラクが、海を隔てたアストルキアへと侵攻を宣言し、アストルキア盟主……魔王エインスワルトがそれに対して徹底抗戦をほのめかし、全世界に散る魔族たちに協力を促した――」とあり、それを持ってきたピピは少しすまなさそうにした。
「たぶん、このせいでほとんどの魔族の人たちは、アストルキアに帰ってしまったんだと思う。最近では私もこの街でライラの他に見かけてない」
「そう……だったの」
「でもさ、いくら戦争で国が亡ぶかもしれないからって、こぞって国を守ろうとするか普通? 大多数がそうだとしても、もっとこっち側に残る奴がいても不思議じゃないんじゃ……」
「魔族って、よほど愛国心が強い種族のかしら? それにしても、確かに不自然だけど……」
額を突き合わせて考えるが、納得のいく答えなど浮かぶはずもない。
「ま、さすがにゼロってことはないんだろうし、旅を続けてりゃその内出会うこともあるだろ。……心配か、ライラ?」
「……ううん。特に実感はないわ……いいことなのか、悪いことなのか分からないけどね」
そう言いつつも、ライラがなんとなく落ち込んで見えたので、俺はあえて気楽に励ましておく。
「ま、あんま気にすんなよ。なんかあっても、俺たちがいるんだし」
「おいらも~」「わたしも支えますのです!」
「……大丈夫よ。ありがとうね、皆」
すると左右から獣人ふたりも手を握り、珍しくライラは素直に笑っていた。
「いいパーティーだね」
実の姉妹のようなそんな姿を見てピピは俺にこっそり耳打ちし、なんとも気恥ずかしい雰囲気になったので俺は強引に話題を変えた。
「まあな……。話を戻すが、本当に貰っちまっていいのか、この素材」
「どうせギルドに買い取ってもらうことになるだけだし……テイルはそれを使って色々造れるんでしょ? きっとその方が他の人のためになる」
ピピの表情はあまり変わらないが、その瞳は穏やかで優しい。
彼女は誰とも組まないつっけんどんな女の子なのかと思っていたが……きっとそうではないのだ。
しばらく話しても、発言や行動に彼女なりの細やかな気遣いが感じられ……俺はなぜ、好んで単独でいるのかが気になった……でも。
(人の事情にあんま気軽に首を突っ込んじまうのもなぁ……)
本人が話したいのならともかく、今俺から深く踏み込むのは躊躇う。しかし、そんな気遣いは無駄だったようだ。
「はぁぃ! おいらピピのこと聞きたい!」
なぜならリュカがいる。彼女は気にしない。どんな時でも直球だ。
空気を読まないイヌビトの少女が、ライラに膝枕をされた状態で腕だけを元気に突き上げ、真っ直ぐ裏の無い笑顔でピピを見つめる。
「ピピは、どうして冒険者になったの? おいら、知りたいな~……もっと仲良くしたいから」
「……ええと」
ピピはやはり口ごもり、視線を落とす。
隣にいたライラがすぐに、リュカの頬を軽くつねって注意した。
「こ~ら、リュカ! あまり人のことを根掘り葉掘り聞いちゃダメなのよ……?」
「おいらだってそのくらいわかってるもん! でも……ピピ、今日一緒にいてとっても楽しそうにしてた。だからどうして前の時、あんなしょんぼりだったのか気になったんだ……」
言わんとするところは理解できる。俺も最初、ピピには少し寂し気な印象を抱いていたから。
「テイルさん……」
うつむいたままのピピを案じたチロルが助けを求めるように見上げ……俺が仕方なく口を開こうとした時……。
「……ごめん。それは、話せない」
彼女は本当に申し訳なさそうに小さく言い、頭を下げた。
「……いいや、会って日の浅い俺たちがずけずけ聞いていい話じゃなかったな。悪かった……ほら、リュカ」
「ごめんわかった、もう聞かない……でも、また話したくなったら話して」
「うん、いつか……」
表情を沈ませたピピは、気弱そうな笑みを浮かべる。
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