51 / 55
第三章 学園編
王都グランドベル
しおりを挟む
その後の王都までの道中は驚くほど順調で、あのようなゴブリンの群れにでくわす事もなく、ニコス達は不運だったというしかなかったが、そんな中でもあの場に偶然ルカ達が居合わせたということは、彼らにとっては幸いな事であったとも言えた。
破壊された馬車と、どこかに逃げていった馬の分は大きな出費となろうが、男爵家とは言え、新たに貴族との繋がりを得られたのは、商人として不幸中の幸いだった。
「あれが、王都」
「はい、王都グランドベルですね」
そんな順調な旅路の末、ルカ達の視線の先に見えてきた一つの街。
タイミング的に、それが王都だと分かってはいながらも、ルカにとって王都は初めての地だ。
確認の意味を込めてルドルフに尋ねると、彼は迷いなく肯定した。
しかしルカはほどなくして、自らのその質問が愚問であったことを知ることになる。
それは、王都にしかないものが、強烈な存在感を持って視界に入ってきたからだ。
それは何か。
外敵から街を守る高く大きな外壁か?
確かにそうである。
しかし、大小の差はあれど、他の街にも外壁はあった。
訓練された門兵の控える、大きな鉄造りの門か?
これも外壁同様に立派な物であるのは間違いないが、ルカの故郷の街にもあった。
では何が違うのか。
それは、ルカ達の視線の先、外壁よりもさらに高い位置に見える建物であった。
そう、王城である。
天を貫くような一際高い尖塔を中心に、左右に二つずつ塔が等間隔に並んでいるという造りで、他のどの建物よりも高く、かつ美しいそれは、まるで御伽話に出てくるような伝説の存在のようにも見えた。
前世の高層ビルなどで高く大きな建物を見慣れていたルカにとっても、圧倒的な迫力を放つそれの前では、馬鹿みたいにぽかんと口を開けて見上げるしかなかった。
グランドベルの国力をしかと見よ。
見る者にそう語りかけているかのような威容だった。
「ルカ君は王都は初めて?」
「う、うん。アステリアは?」
「私はこれで二回目。お父さんに前に連れてきてもらったんだ。その時は私もあのお城にビックリしたなぁ。あ、でも、じゃあ、王都のことは私の方が詳しいね。またルカ君に街を案内してあげる」
最初は途切れ途切れに話しかけてくるだけだったが、アステリアとも数日の旅程の間にすっかり打ち解けた。
それに初めは落ち着かなかったが、彼女のルカ君呼びにも慣れてきた。
今も得意げに王都を案内してくれると言うアステリアだったが、この広い街だ。
一度来ただけでは到底案内できそうに無い事は分かっていたが、少しでもルカに勝っていることを先輩ぶりたい彼女を、皆微笑ましい表情で見ていた。
「そうだね、それは先輩にお願いしないと!」
「ふふっ。任せて!」
ルカも見た目は子供だが、中身はおっさんだ。
ここで少女のかわいい背伸びに張り合うようなことはしない。
そしてそれは正解だったようだ。
彼女は嬉しそうにルカに微笑んでいた。
ガコン………。
そうこうしている間に、ゆっくりと進んでいた馬車は門の前に長蛇の列を成して並ぶ人達の最後尾に着き、停車した。
「これは、街に入るための簡単な審査なの」
「へぇ、さすがアステリアはよく知ってるね」
先ほどのやり取りで気をよくしたのか、目の前の列が何なのか説明してくれたアステリアを褒めると、またしても彼女は嬉しそうな表情になった。
その微笑ましいやりとりにルカだけでなく、ニコスやルドルフもほっこりとしながら、ゆっくりと進んでいく列を前に、自分たちの番を待つのだった。
◇
「あらためまして、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる父親に倣うアステリア。
彼女の表情は、先ほどまで楽しそうに話をしていた時のとは打って変わり、少し寂しそうであった。
「アステリア、また会えるから大丈夫だよ」
「うん………」
短いとは言え、この旅程で共に過ごすうちに仲良くなったルカと離れ難いのだろう。
ニコスの励ましにも、その表情は沈んだままだった。
「また、会いにいくよ」
「え?」
「隣だよね?ノルマル校舎って。だったら、大丈夫。また会いにいくから。アステリアも昨日、お話ししたいって言ってくれたよね?」
「う、うん!でも………」
スペリオルの子どもが、ノルマルの友達に会いにいく。
それがどういう見方をされるか、アステリアとて理解している。
グランドベル王国については、貴族と平民の間の差別はそれほど強くないが、それでも、要らぬ詮索や非難をする者は出てくるだろう。
「気になるなら、どこかで待ち合わせて、ね?街を案内してもらわないと」
「あ………。うん!」
ルカの言葉に弾かれたように頭を上げ、笑顔を取り戻すアステリア。
彼女の様子を横で伺っていたニコスも、今のやりとりで大丈夫だと思ったのか、もう一度だけルカ達に頭を下げると、娘の肩をぽんぽんと叩き辞去を促した。
それにこくんと頷いたアステリアは、目一杯の笑顔を浮かべると、大きく息を吸い込んだ。
「ルカ君、ルドルフさん、またね!」
「うん、また!」
「またお会いしましょう」
ニコスが驚き、目を見開くくらいの元気で大きな声と上げ、満面の笑みを浮かべた彼女に、ルカも笑顔で別れの言葉を口にするのだった。
破壊された馬車と、どこかに逃げていった馬の分は大きな出費となろうが、男爵家とは言え、新たに貴族との繋がりを得られたのは、商人として不幸中の幸いだった。
「あれが、王都」
「はい、王都グランドベルですね」
そんな順調な旅路の末、ルカ達の視線の先に見えてきた一つの街。
タイミング的に、それが王都だと分かってはいながらも、ルカにとって王都は初めての地だ。
確認の意味を込めてルドルフに尋ねると、彼は迷いなく肯定した。
しかしルカはほどなくして、自らのその質問が愚問であったことを知ることになる。
それは、王都にしかないものが、強烈な存在感を持って視界に入ってきたからだ。
それは何か。
外敵から街を守る高く大きな外壁か?
確かにそうである。
しかし、大小の差はあれど、他の街にも外壁はあった。
訓練された門兵の控える、大きな鉄造りの門か?
これも外壁同様に立派な物であるのは間違いないが、ルカの故郷の街にもあった。
では何が違うのか。
それは、ルカ達の視線の先、外壁よりもさらに高い位置に見える建物であった。
そう、王城である。
天を貫くような一際高い尖塔を中心に、左右に二つずつ塔が等間隔に並んでいるという造りで、他のどの建物よりも高く、かつ美しいそれは、まるで御伽話に出てくるような伝説の存在のようにも見えた。
前世の高層ビルなどで高く大きな建物を見慣れていたルカにとっても、圧倒的な迫力を放つそれの前では、馬鹿みたいにぽかんと口を開けて見上げるしかなかった。
グランドベルの国力をしかと見よ。
見る者にそう語りかけているかのような威容だった。
「ルカ君は王都は初めて?」
「う、うん。アステリアは?」
「私はこれで二回目。お父さんに前に連れてきてもらったんだ。その時は私もあのお城にビックリしたなぁ。あ、でも、じゃあ、王都のことは私の方が詳しいね。またルカ君に街を案内してあげる」
最初は途切れ途切れに話しかけてくるだけだったが、アステリアとも数日の旅程の間にすっかり打ち解けた。
それに初めは落ち着かなかったが、彼女のルカ君呼びにも慣れてきた。
今も得意げに王都を案内してくれると言うアステリアだったが、この広い街だ。
一度来ただけでは到底案内できそうに無い事は分かっていたが、少しでもルカに勝っていることを先輩ぶりたい彼女を、皆微笑ましい表情で見ていた。
「そうだね、それは先輩にお願いしないと!」
「ふふっ。任せて!」
ルカも見た目は子供だが、中身はおっさんだ。
ここで少女のかわいい背伸びに張り合うようなことはしない。
そしてそれは正解だったようだ。
彼女は嬉しそうにルカに微笑んでいた。
ガコン………。
そうこうしている間に、ゆっくりと進んでいた馬車は門の前に長蛇の列を成して並ぶ人達の最後尾に着き、停車した。
「これは、街に入るための簡単な審査なの」
「へぇ、さすがアステリアはよく知ってるね」
先ほどのやり取りで気をよくしたのか、目の前の列が何なのか説明してくれたアステリアを褒めると、またしても彼女は嬉しそうな表情になった。
その微笑ましいやりとりにルカだけでなく、ニコスやルドルフもほっこりとしながら、ゆっくりと進んでいく列を前に、自分たちの番を待つのだった。
◇
「あらためまして、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる父親に倣うアステリア。
彼女の表情は、先ほどまで楽しそうに話をしていた時のとは打って変わり、少し寂しそうであった。
「アステリア、また会えるから大丈夫だよ」
「うん………」
短いとは言え、この旅程で共に過ごすうちに仲良くなったルカと離れ難いのだろう。
ニコスの励ましにも、その表情は沈んだままだった。
「また、会いにいくよ」
「え?」
「隣だよね?ノルマル校舎って。だったら、大丈夫。また会いにいくから。アステリアも昨日、お話ししたいって言ってくれたよね?」
「う、うん!でも………」
スペリオルの子どもが、ノルマルの友達に会いにいく。
それがどういう見方をされるか、アステリアとて理解している。
グランドベル王国については、貴族と平民の間の差別はそれほど強くないが、それでも、要らぬ詮索や非難をする者は出てくるだろう。
「気になるなら、どこかで待ち合わせて、ね?街を案内してもらわないと」
「あ………。うん!」
ルカの言葉に弾かれたように頭を上げ、笑顔を取り戻すアステリア。
彼女の様子を横で伺っていたニコスも、今のやりとりで大丈夫だと思ったのか、もう一度だけルカ達に頭を下げると、娘の肩をぽんぽんと叩き辞去を促した。
それにこくんと頷いたアステリアは、目一杯の笑顔を浮かべると、大きく息を吸い込んだ。
「ルカ君、ルドルフさん、またね!」
「うん、また!」
「またお会いしましょう」
ニコスが驚き、目を見開くくらいの元気で大きな声と上げ、満面の笑みを浮かべた彼女に、ルカも笑顔で別れの言葉を口にするのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる