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第二章
29話 赤い花束
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「で、よ……。何で、あそこにいたんだ?」
握手を交わし、少しした後。
エドガーは、探るように言葉を発した。
「あそこ?」
キヨトが、認識できる範囲で最後にいた場所は、あの白の空間だった。
ただ、あの場所も確かにいたのか?
そう問われると、キヨトも自信はなかった。
仮に、あそこを抜きで考えたとするならば。
キヨトがいたと言えるのはフォルミカイオのダンジョンだった。
では、フォルミカイオにいたと答えられるか。
それも悪手だ。
あそこは重罪人が入る場所。
なんでそんな所にいたやつがここに?
そうなるのは見えていた。
「あそこって?」
声が震えそうになるのを我慢しながら、キヨトは問い返した。
「あ、やっぱ記憶にねぇのか。お前はよ、ダンジョンの中で倒れてたんだよ」
やっぱり。
そのエドガーの言葉に、思わず目つきが鋭くなるキヨト。
心の中で冷や汗を拭う仕草をしながら、彼に質問を返した。
「ダンジョンって、さっき言っていた?」
「そうだ。プリメラのダンジョン、"始原の丘"だ」
「始原の丘?」
「あぁ。この国の冒険者なら、誰もが最初にここを目指すって場所だ」
そう言って、得意げな笑みを浮かべるエドガー。
少しヤニで汚れた歯が覗いた。
「ということは、モンスターがいるんだよな?」
「あたりまえじゃねえか。ダンジョンだぞ?」
眉を寄せてキヨトを見るエドガー。
その視線を、キヨトは手のひらで遮った。
「いや、そんな中で倒れてたんだろ?今、なんともないからそうだとは思うけど、モンスターに襲われなかったのかなって……」
「あぁ、それは……」
ーーガチャリ。
エドガーが口を開こうとした時、ノックの音もなく誰かが部屋に入ってきた。
「あ!気付いたのかい?」
誰かが、赤い花束を持って入ったのかて思った。
そんな、薔薇のように鮮やかな赤髪の女性。
短く、雑に切り込まれた髪と、キヨトに向けた豪快な笑みが彼女の性格を表しているように見えた。
「おい、ヴェロニカ!ノックくらいしろよ」
「あんたにだけは言われたくないね。客がいるからって、お行儀よくしてんじゃないよ」
「なっ!?」
途端に部屋が騒がしくなる。
真面目な顔をしていたエドガーの横顔が、唖然とするのが妙におかしかった。
「誰なんだ?」
「あ、あぁ。こいつか?こいつは、俺のパーティ、"輝く剣"のメンバーだ」
「ヴェロニカだよ。よろしく」
「キヨトだ」
すっ、と素早く差し出された手。
キヨトもそれに倣おうとすると、ひったくられるように手を取られた。
みしり。
関節が抗議を上げるように軋み、キヨトの目が見開かれる。
「馬鹿力だろ」
「馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!?」
その光景を、にやにやしながら眺めるエドガー。
彼にはこうなるのが分かっていたようだ。
「いや………」
「こいつはうちのタンクなんだ、こんなナリだけどな」
「は!身長なんて関係ないよ。要は守れればいいんだ、守れれば」
彼女を顎で指したエドガーに、鼻を鳴らしながら応酬するヴェロニカ。
確かに、彼女は長身のエドガーに比べればかなり小柄で、顔立ちも童顔だ。
見た目だけなら、大丈夫かと不安になる。
しかし、酒焼けした低い声には、子どもには出せない迫力があった。
「っていうか、アタシのことなんてどうでもいいだろ!アンタ、腹減ってないのかい?腹は」
「あ、あぁ……確かに」
言われて腹をさすると、思い出したかのように、ぐぅ、と腹が返事をした。
「じゃあ、行くよっ!」
そう言ったが最後、どこかに駆け出すヴェロニカ。
その様子を、エドガーは仕方の無いものを見るような視線で見送っていた。
「いいのか?」
戸惑いながら、彼女の去って行ったドアを指すキヨト。
「いいんだ、いつものところだろ。それより、俺らも行こうぜ。あいつを待たせるとうるさいんでな」
そう言って、苦笑いをするエドガー。
キヨトもそれに釣られて笑うと、ゆっくりと部屋を後にした。
握手を交わし、少しした後。
エドガーは、探るように言葉を発した。
「あそこ?」
キヨトが、認識できる範囲で最後にいた場所は、あの白の空間だった。
ただ、あの場所も確かにいたのか?
そう問われると、キヨトも自信はなかった。
仮に、あそこを抜きで考えたとするならば。
キヨトがいたと言えるのはフォルミカイオのダンジョンだった。
では、フォルミカイオにいたと答えられるか。
それも悪手だ。
あそこは重罪人が入る場所。
なんでそんな所にいたやつがここに?
そうなるのは見えていた。
「あそこって?」
声が震えそうになるのを我慢しながら、キヨトは問い返した。
「あ、やっぱ記憶にねぇのか。お前はよ、ダンジョンの中で倒れてたんだよ」
やっぱり。
そのエドガーの言葉に、思わず目つきが鋭くなるキヨト。
心の中で冷や汗を拭う仕草をしながら、彼に質問を返した。
「ダンジョンって、さっき言っていた?」
「そうだ。プリメラのダンジョン、"始原の丘"だ」
「始原の丘?」
「あぁ。この国の冒険者なら、誰もが最初にここを目指すって場所だ」
そう言って、得意げな笑みを浮かべるエドガー。
少しヤニで汚れた歯が覗いた。
「ということは、モンスターがいるんだよな?」
「あたりまえじゃねえか。ダンジョンだぞ?」
眉を寄せてキヨトを見るエドガー。
その視線を、キヨトは手のひらで遮った。
「いや、そんな中で倒れてたんだろ?今、なんともないからそうだとは思うけど、モンスターに襲われなかったのかなって……」
「あぁ、それは……」
ーーガチャリ。
エドガーが口を開こうとした時、ノックの音もなく誰かが部屋に入ってきた。
「あ!気付いたのかい?」
誰かが、赤い花束を持って入ったのかて思った。
そんな、薔薇のように鮮やかな赤髪の女性。
短く、雑に切り込まれた髪と、キヨトに向けた豪快な笑みが彼女の性格を表しているように見えた。
「おい、ヴェロニカ!ノックくらいしろよ」
「あんたにだけは言われたくないね。客がいるからって、お行儀よくしてんじゃないよ」
「なっ!?」
途端に部屋が騒がしくなる。
真面目な顔をしていたエドガーの横顔が、唖然とするのが妙におかしかった。
「誰なんだ?」
「あ、あぁ。こいつか?こいつは、俺のパーティ、"輝く剣"のメンバーだ」
「ヴェロニカだよ。よろしく」
「キヨトだ」
すっ、と素早く差し出された手。
キヨトもそれに倣おうとすると、ひったくられるように手を取られた。
みしり。
関節が抗議を上げるように軋み、キヨトの目が見開かれる。
「馬鹿力だろ」
「馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!?」
その光景を、にやにやしながら眺めるエドガー。
彼にはこうなるのが分かっていたようだ。
「いや………」
「こいつはうちのタンクなんだ、こんなナリだけどな」
「は!身長なんて関係ないよ。要は守れればいいんだ、守れれば」
彼女を顎で指したエドガーに、鼻を鳴らしながら応酬するヴェロニカ。
確かに、彼女は長身のエドガーに比べればかなり小柄で、顔立ちも童顔だ。
見た目だけなら、大丈夫かと不安になる。
しかし、酒焼けした低い声には、子どもには出せない迫力があった。
「っていうか、アタシのことなんてどうでもいいだろ!アンタ、腹減ってないのかい?腹は」
「あ、あぁ……確かに」
言われて腹をさすると、思い出したかのように、ぐぅ、と腹が返事をした。
「じゃあ、行くよっ!」
そう言ったが最後、どこかに駆け出すヴェロニカ。
その様子を、エドガーは仕方の無いものを見るような視線で見送っていた。
「いいのか?」
戸惑いながら、彼女の去って行ったドアを指すキヨト。
「いいんだ、いつものところだろ。それより、俺らも行こうぜ。あいつを待たせるとうるさいんでな」
そう言って、苦笑いをするエドガー。
キヨトもそれに釣られて笑うと、ゆっくりと部屋を後にした。
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