二つの世界、六つの瞳

buri

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第一章

15話 はじめてのオーク狩り

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 『狩りの時間だ!ふははははは!!!』

 ゴブリン相手に無双した時のように。
 高笑いを上げながら剣を振るう。
      
 剣が閃くたび。
 オークの血飛沫が華麗に舞う。

 新階層だろうと関係ない。
    俺に敵はいないのだから。

 ……。

 妄想をやめ、現実を見ることにした。

 抜き足差し足。
 寝込みを狙った盗人のように。

 腰が引けている。
 そう言われればそうだろう。

 だが、あれと相対する。
 そう思えば、誰しもこうなるはずだ。

 カサ……カサ……。

 忍足で慎重に進んでも、枯葉が神経質になったように音を立てる。 

 『まあ、匂いで気付かれるかもしれないけど、な……』
 
 そうなれば仕方ない。
 腹を決めて突っ込むだけだ。

 カサ……カサ……。

 未だキョロキョロと辺りを見回しているターゲットの挙動を見ながら、慎重に進んでいく。

 「はぁ、はぁ、はぁ………」

 特に走ったわけでもないのに、息が荒くなる。
 喉もカラカラだ。

 徐々に縮まっていく彼我の距離と、余計に大きく見えるようになるオークの身体。

 ーーやっぱりでっかいな。

 オークと言えばデブくて鈍重、頭はそれほど良くないというイメージだが、視線の先のアレはそんな感じではない。

 頭の良し悪しは分からない。
 が、豊かに盛り上がった大臀筋や大腿四頭筋を見るに、相当な馬力はありそうだった。

 頭部こそ豚鼻に豚耳というまさに『豚』という外見だが、そこを見なければ、背の高い筋肉質な力士といったイメージだ。

 「やるしかない、よな………」

 止まる。
 引き返す。
 なんて選択肢は俺にはない。

 恐怖心は未だ拭えない。
 手も少し震えている。
 が、それでもこれぐらいなら戦える。

 「よしっ!」

 小声で気合いを入れ、ぐっと足に力を込めて突撃の姿勢を取る。

 狙うは奴の背中がこちらに向いた時。
 そのタイミングを見計らって、オークの動きを注視した。

 さあ、向こうを向いてくれ。

 念を飛ばすようにターゲットを見つめる。

 ……。

 ーーよしっ!

 天は俺に味方したようだ。
 
 何かに気を取られたのか、クルッと向きを変えるオーク。
 つるりとした後頭部がこちらに見えた。

 好機。

 その二文字が頭の中で点灯した。

 ーーいまだ!!!

 声に出さないように自分を抑えながら、足に力を込めてスタートダッシュを切る。

 ガササッ。

 駆け出した音で気付かれるだろうと懸念もしていたが、腐葉土のクッションでそれもほとんど聞こえない。

 奴はまだ気付いていない。

 ーーいける。

 ドクンッ。
 期待感に心臓が脈打つ。

 そして、その拍動よりも早く。
 前へ前へと足を回転させて進んでいく。

 ーーあと数メートル。

 ガサッ!!!

 木の海を抜け、開けた場所に飛び出す。
 こうなれば本当に後戻りはできない。

 そして奴もようやくそこで気付いたのか、ひくりと耳をそば立て、こちらに向けて首を動かしてきた。

 しかし、そんなことは許さない。
 この隙こそ、俺の唯一のアドバンテージなのだから。

 ーー絶対に一太刀をいれる!

 オークが間合いに入る数歩にさらに力を込め、剣を握る掌にもありったけの力を注いだ。

 狙うはアキレス腱。

 筋肉の壁で見づらいが、人を真似たように立つオークの足にも極太い腱が張っているのが見えていた。

 アレを断てばこの大きな身体を支えられないはず。

 俺は射程距離に入ったそれを目掛けて、剣を振う動作を取った。

 「っらぁぁぁぁ!!!」
 「ピギィーーーーーー!!!」

 気合い。
 一閃。

 奴も威嚇するように両腕を掲げ、声を上げていたが一歩遅かったようだ。

 ザシュッッ!!

 思ったよりも抵抗なく、ワイヤーのような硬い筋を断ち切る感覚が手元に伝わってきた。

 「ピギャァァァァァァ~~~~!!!」

 辺りに響き渡る、オークの鳴き声。

 先ほどの威嚇するようなそれとは違い、痛みと怒りがこもっているように聞こえた。

 そしてーーズシンッと、重量物が地面に落ちるような音が響いた。

 勢いに任せてオークのそばを走り抜けた俺は、そこからすぐに振り返る。
 すると、奴は俺が傷をつけた左膝を折り、地面に手を着いていた。

 「しゃあぁぁぁ!!!」

 ーー勝てる。

 アドレナリンがドバドバと脳内に溢れ出し、興奮に目を見開く。

 対してオークはこちらを睨み、敵意を示すように俺の小指くらいはありそうな犬歯を剥き出して、こちらを威嚇していた。

 でも、そんなことをしても……。

 「有利なのは俺なんだよ!!!」

 距離を詰め、剣を振り上げてそのまま勢い良く振り下ろす。

 狙うは頸動脈。
 膝を折り、頭が下がった今なら届く。

 でも、奴も俺がそうするのはわかっていたのか、右腕を盾にするように剣の軌道に差し込む。

 ズグッ。
 巨木を叩いたような感覚。

 血の花を咲かすと思った剣は、オークの厚い筋肉に挟まれ、右腕の骨にさえ届いていなかった。

 ぞわり。

 首筋が、危険を知らせる。

 もう一本の巨木だ。
 左の拳が、俺の頭を粉砕しようと迫る。

 「っっっっ!!!」

 ーー避けろ!
 脳の信号は早く、身体は遅い。

 俺の頭と同じくらいの大きさの拳が、高速で迫る。

 死が、そこにある。

 べりぃぃぃ。
 
 すぐに剣を手放し、首がもげそうになりながらそらした頭。

 なんとか直撃は避けたが、左頬は丸ごと剥ぎ取られたように皮が消し飛んだ。

 「くっ………」

 焼ける。
 怖い。

 数センチでも違っていれば、変わっていた結果に、足がすくむ。

 「ピギ~~~!!!」

 やり返したことを誇るように、雄叫びを上げるオーク。

 その表情が、返って俺の心に火をつけた。

 「勝つのは俺だ!!!」

 ぐん、と。
 もう一歩、奴の懐まで。

 うるさいくらいに脳内でなる理性の警鐘。

 「俺の剣を返せ」

 こちらが怯むと思っていたのだろう。
 逆に大きく踏み込んできた俺に、オークは隙を晒した。

 その間に、俺は剣を掴み、全力で回転した。

 「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ずるり。

 遠心力を得て、右腕から解放される剣。
 その勢いものせ、先程切り損なった頚動脈を狙う。

 ズパッ。

 今度こそ得られた、確かな手応え。

 「ピギャーーーーー!!!」

 甲高いオークの悲鳴と、噴き上がる血の花。
 左頬に触れた熱いオークの命は、ずくりと傷に滲みた。
 















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