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第一章
22話 地獄の再来
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「え…………?あれ?」
「落ち着くがよい。今は何かを貴様にしようとはしておらん」
そうか、それはよかった。
いや、でもーー
《今は》ってなんだ?
王の言葉に、ぞわりと心がざわつく。
どうやら俺の『この国での体験』は、まだ序章だったらしい。
というより――
なぜ、あの処刑人がここに?
彼は王だ。
その王が、まさか処刑まで自らやるのか?
「貴様の考える通り、処刑は我自ら行う」
俺の心を覗き見たように王が言う。
「なっ!?」
「なぜ、か? それぐらいわかろう。我も小国とは言え一国の主。民が考えることなど、ある程度読めねば務まらんわ」
俺の目をまっすぐに射貫く視線。
王の言葉に揺らぎはなかった。
なんとかその視線に負けぬよう、腹に力を入れて見返す。
「王は、民の生を握る。であれば、死を握るのも道理」
――そう、なのか?
妙に説得力のある言い方だった。
「もっとも、我が戦場で人を斬る感覚を忘れぬようにする意味もあるがな」
ヒクッ。
邪悪な笑みとともに放たれたその言葉に、口角が引きつる。
さすがだ。
「それに、貴様をここに召喚したのも我だ」
…………………………。
「は?」
一瞬、世界が無音に沈んだ。
なんでもなく。
朝飯のメニューを述べるように。
王は言葉をこぼした。
「じ、じゃあ! あんたが……!」
脳が現実を理解した瞬間、言葉が喉から飛び出した。
“あんた”
王に向けるにはあまりに不敬な呼び方。
瞬間、左右に整列していた銀装の兵士たちが、「ザッ!!」と一斉に槍を掲げた。
その場の空気が獣の咆哮を上げたように、殺意が濃密になる。
空気が薄くなったように、喉が締め付けられた。
「うっ…!」
「待て」
王が制さなければ、俺はその場で腰を抜かしていた。
訓練と殺戮に最適化された“人間の殺気”。
モンスターとはまた別の恐怖だ。
「此奴を貴様らの槍で串刺しにするのは――此奴が真に役立たずと分かった時でよかろう」
鋭くなりそうな目を、必死に抑える。
同じ失敗はしない。
一度、強く目を瞑り、続きを黙って聞く。
「貴様はまず、フォルミカイオのダンジョンを踏破せよ」
「え?」
王の口調は、先程と変わらない。
「最終的な目標は――魔王城を攻め、これを陥落させる。単純なことよ」
「はい?」
矢継ぎ早に、とんでもないことを“簡単”と言い放つ王。
言っていることは理解できる。
フォルミカイオを踏破し、他のダンジョンでレベルを積み、最後は魔王城を落とせ、と。
至ってシンプル。
間違えようもない。
……だが。
ゴブリンやオークと格が違う。
“王”と名のつく怪物がいる場所。
俺は今ここで生きていることすら奇跡なのに。
そんなところへ行けば、どうなるか。
強力なモンスターの一撃が掠り絶命。
容易に想像できた。
「魔王なんて、いるんですか?」
「…………」
その瞬間、王がギラリと目を細めた。
話題を逸らそうとしたが、無駄だったようだ。
心を読まれたわけではないのに、喉がきゅっと締まる。
「もとより、貴様に拒否権などはない」
――――。
どこか懐かしい。
胸の奥をざわりとなぞる、不快な既視感。
「選べ。死か、それとも地獄か」
あ、まただ。
あの時、俺を奈落へ突き落とした言葉。
王がにやりと笑う。
甦る、あの暗さ。
どうやら俺の地獄は――
まだ終わってはいなかった。
「落ち着くがよい。今は何かを貴様にしようとはしておらん」
そうか、それはよかった。
いや、でもーー
《今は》ってなんだ?
王の言葉に、ぞわりと心がざわつく。
どうやら俺の『この国での体験』は、まだ序章だったらしい。
というより――
なぜ、あの処刑人がここに?
彼は王だ。
その王が、まさか処刑まで自らやるのか?
「貴様の考える通り、処刑は我自ら行う」
俺の心を覗き見たように王が言う。
「なっ!?」
「なぜ、か? それぐらいわかろう。我も小国とは言え一国の主。民が考えることなど、ある程度読めねば務まらんわ」
俺の目をまっすぐに射貫く視線。
王の言葉に揺らぎはなかった。
なんとかその視線に負けぬよう、腹に力を入れて見返す。
「王は、民の生を握る。であれば、死を握るのも道理」
――そう、なのか?
妙に説得力のある言い方だった。
「もっとも、我が戦場で人を斬る感覚を忘れぬようにする意味もあるがな」
ヒクッ。
邪悪な笑みとともに放たれたその言葉に、口角が引きつる。
さすがだ。
「それに、貴様をここに召喚したのも我だ」
…………………………。
「は?」
一瞬、世界が無音に沈んだ。
なんでもなく。
朝飯のメニューを述べるように。
王は言葉をこぼした。
「じ、じゃあ! あんたが……!」
脳が現実を理解した瞬間、言葉が喉から飛び出した。
“あんた”
王に向けるにはあまりに不敬な呼び方。
瞬間、左右に整列していた銀装の兵士たちが、「ザッ!!」と一斉に槍を掲げた。
その場の空気が獣の咆哮を上げたように、殺意が濃密になる。
空気が薄くなったように、喉が締め付けられた。
「うっ…!」
「待て」
王が制さなければ、俺はその場で腰を抜かしていた。
訓練と殺戮に最適化された“人間の殺気”。
モンスターとはまた別の恐怖だ。
「此奴を貴様らの槍で串刺しにするのは――此奴が真に役立たずと分かった時でよかろう」
鋭くなりそうな目を、必死に抑える。
同じ失敗はしない。
一度、強く目を瞑り、続きを黙って聞く。
「貴様はまず、フォルミカイオのダンジョンを踏破せよ」
「え?」
王の口調は、先程と変わらない。
「最終的な目標は――魔王城を攻め、これを陥落させる。単純なことよ」
「はい?」
矢継ぎ早に、とんでもないことを“簡単”と言い放つ王。
言っていることは理解できる。
フォルミカイオを踏破し、他のダンジョンでレベルを積み、最後は魔王城を落とせ、と。
至ってシンプル。
間違えようもない。
……だが。
ゴブリンやオークと格が違う。
“王”と名のつく怪物がいる場所。
俺は今ここで生きていることすら奇跡なのに。
そんなところへ行けば、どうなるか。
強力なモンスターの一撃が掠り絶命。
容易に想像できた。
「魔王なんて、いるんですか?」
「…………」
その瞬間、王がギラリと目を細めた。
話題を逸らそうとしたが、無駄だったようだ。
心を読まれたわけではないのに、喉がきゅっと締まる。
「もとより、貴様に拒否権などはない」
――――。
どこか懐かしい。
胸の奥をざわりとなぞる、不快な既視感。
「選べ。死か、それとも地獄か」
あ、まただ。
あの時、俺を奈落へ突き落とした言葉。
王がにやりと笑う。
甦る、あの暗さ。
どうやら俺の地獄は――
まだ終わってはいなかった。
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