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Knock my Heart
Knock my Heart⑧
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明音の乾いたドラムの音、千代の軽やかなギターが、遠くで響いている。その音は、水の中にいる私には、大きく歪んでいるように感じられる。もう頭までどっぷりと浸かっている。身体に纏わりつくのはすでに水ではなく、ペンキのようにベタっとしている。足が重たい。何かに引っ張られるように、どんどんと深く深く沈んでいく。どうしよう。聞こえるのは、海底からの低く響くベースの音だけだ。必死に音を出す。2人と合っているのかもわからない。それでも、音を絶やさないようにする。
「前向いて楽しみな。いろは。」
ベースの音を割くように声が聞こえる。誰だろう。ステージ横の方から聞こえた気がする。横を見ると紅葉先輩が、指で笑顔を作りながらこっちを向いていた。よく見ると、まわりでは渚先輩も麻衣先輩も香音先輩も同じようにしている。それを見て、自然に笑顔になった。ホントに優しい先輩たちだ。気が付くと、周りのペンキはスーッと消えていった。近くに感じてきた2人の音を辿っていき、2人の姿を視界にいれる。千代さんのギターは、鮮明にモノクロの景色を作っている。明音は、いつもよりちょっと元気がないがしっかりとドラムを叩いている。2人の姿をみて、「私が1人じゃない」ことを確認する。あのお姉さんも言ってた「楽しむ」っていう言葉だったり、前の演奏で感じたことをすっかり忘れてしまっていた。これじゃあ、いい演奏なんかできないよな。その思いに気づいたが遅かった。演奏はもう終わってしまったのだから。
「先輩、ありがとうございました。」
ステージを降りながら私は震える声で、先輩たちに言う。次は先輩たちの出番だ。
「よく頑張った。」
紅葉先輩は、優しく頭を撫でてくれた。肩が震える。それでも声を押し殺す。これから、演奏をする先輩たちに、あんまり心配かけたくない。そして、少し撫でた後、私の頭から手を放しそのままステージへと昇って行った。
先輩たちの演奏が聞こえる。ステージを見なくても、音だけで分かる。楽しそうで、自信に溢れている演奏だ。負けているのは分かってるけど、それ以上に自分の演奏が出来なかったことが、とにかく悔しい。こんなに大きな音なら、もう声を押し殺さなくていいかな。私は近くにいた、明音と千代さんに抱き着く。千代さんと明音は優しく頭を撫でてくれる。
「...悔しい。2人ともごめんね。」
私は、絞り出すように声を出す。
「私も悔しい。もう、こんな思いしたくない...。だから、もっと2人と上手になって、リベンジしたい。」
ずっと下を向いてるので、千代さんの顔を見ることは出来ない。それでも、千代さんの手から、強い意志を感じる。
「私も全然緊張しちゃって、全然、上手にも楽しくも叩けなかった...。私がしっかりしないといけないのに。」
明音もすごく落ち込んでるのが伝わる。ちゃんと見ることはできないけど、どんな顔してるのかは分かる。
「みんなで、来年戻ってきたい。この場所でリベンジしたい。2人とも、まだ一緒にやってくれる?」
私は、溢れる気持ちを言葉にした。ちゃんと言葉になってたのか分からない。叫びに似た声で言った。そして、気づく。断られたらどうしよう…。
「もちろん。まずは、ここで。それにもっと大きいとこも。」
千代さんが、私の背中を擦りながら言ってくれる。
「『まだ』じゃないよ。いろはと千代とずっと一緒にやりたい。それに、負けっぱなしは悔しい。」
明音も声が震えている。それでも、しっかりと言ってくれた。
「ありがと。明音。千代。これからもよろしくね。」
私はグチャグチャの顔で必死に笑顔を作り言う。
「「こちらこそ。」」
2人は声を合わせて言ってくれた。
こうして、私達の悔しい野外ライブは、先輩たちの演奏をBGMにしながら終わった。
「前向いて楽しみな。いろは。」
ベースの音を割くように声が聞こえる。誰だろう。ステージ横の方から聞こえた気がする。横を見ると紅葉先輩が、指で笑顔を作りながらこっちを向いていた。よく見ると、まわりでは渚先輩も麻衣先輩も香音先輩も同じようにしている。それを見て、自然に笑顔になった。ホントに優しい先輩たちだ。気が付くと、周りのペンキはスーッと消えていった。近くに感じてきた2人の音を辿っていき、2人の姿を視界にいれる。千代さんのギターは、鮮明にモノクロの景色を作っている。明音は、いつもよりちょっと元気がないがしっかりとドラムを叩いている。2人の姿をみて、「私が1人じゃない」ことを確認する。あのお姉さんも言ってた「楽しむ」っていう言葉だったり、前の演奏で感じたことをすっかり忘れてしまっていた。これじゃあ、いい演奏なんかできないよな。その思いに気づいたが遅かった。演奏はもう終わってしまったのだから。
「先輩、ありがとうございました。」
ステージを降りながら私は震える声で、先輩たちに言う。次は先輩たちの出番だ。
「よく頑張った。」
紅葉先輩は、優しく頭を撫でてくれた。肩が震える。それでも声を押し殺す。これから、演奏をする先輩たちに、あんまり心配かけたくない。そして、少し撫でた後、私の頭から手を放しそのままステージへと昇って行った。
先輩たちの演奏が聞こえる。ステージを見なくても、音だけで分かる。楽しそうで、自信に溢れている演奏だ。負けているのは分かってるけど、それ以上に自分の演奏が出来なかったことが、とにかく悔しい。こんなに大きな音なら、もう声を押し殺さなくていいかな。私は近くにいた、明音と千代さんに抱き着く。千代さんと明音は優しく頭を撫でてくれる。
「...悔しい。2人ともごめんね。」
私は、絞り出すように声を出す。
「私も悔しい。もう、こんな思いしたくない...。だから、もっと2人と上手になって、リベンジしたい。」
ずっと下を向いてるので、千代さんの顔を見ることは出来ない。それでも、千代さんの手から、強い意志を感じる。
「私も全然緊張しちゃって、全然、上手にも楽しくも叩けなかった...。私がしっかりしないといけないのに。」
明音もすごく落ち込んでるのが伝わる。ちゃんと見ることはできないけど、どんな顔してるのかは分かる。
「みんなで、来年戻ってきたい。この場所でリベンジしたい。2人とも、まだ一緒にやってくれる?」
私は、溢れる気持ちを言葉にした。ちゃんと言葉になってたのか分からない。叫びに似た声で言った。そして、気づく。断られたらどうしよう…。
「もちろん。まずは、ここで。それにもっと大きいとこも。」
千代さんが、私の背中を擦りながら言ってくれる。
「『まだ』じゃないよ。いろはと千代とずっと一緒にやりたい。それに、負けっぱなしは悔しい。」
明音も声が震えている。それでも、しっかりと言ってくれた。
「ありがと。明音。千代。これからもよろしくね。」
私はグチャグチャの顔で必死に笑顔を作り言う。
「「こちらこそ。」」
2人は声を合わせて言ってくれた。
こうして、私達の悔しい野外ライブは、先輩たちの演奏をBGMにしながら終わった。
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