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青い月
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「女の子だね、君」
人とネコの間に生まれる熱と、うだるような暑さに耐えられず、思わず途中で彼の腕から飛び出したが、着地した場所は「あすふぁると」だった。
人間はクルマという鉄のカタマリの代わりに、動物を犠牲にする。
太陽の熱を思う存分吸ったコンクリートは、素肌を押し当てるのはあまりに拷問過ぎる。
潰れたヒキガエルような声(実際にはにゃあだった)を思わずあげると、「あっついだろ」と、見かねた彼は再び私を腕の中に抱え上げた。
別に彼がイヤなのではない。ただ、アツいのだ。それに彼も荷物を持った上で、子どもではない私をこの暑さで抱えるのは、重労働だろう。
見れば首筋を汗が伝っていた。
「もうちょっとだから我慢して」
そう、困ったように彼が笑えば、私は意固地になる気にもならず、素直に甘えることをカンジュすることにした。
にゃあ、と鳴けば、「良い子だね」と声が返ってくる。
どうしてだろう、頭を撫でてもらえないことを、少し不服に感じるのは。
気づけば、彼の体温をもう不快には感じていなかった。
それから彼の家に着くまでのしばらくの間も、ミーンミンミンだとか、ジジジジ、つくつくほーしだとか、空気を読む気のない虫たちがこぞって自分の居場所を告げていた。
彼はその間で、「あっちぃな」と5回は呟いた。
「あー、着いた着いた」
人は見かけにはよらないという、失礼極まりない諺が、この世には存在するわけだが、彼はそれに該当する気がした。
帰宅した場所は、まず玄関に鍵を差し込まないと開かないすりガラスがついていて、彼の家に入る前にもう一度、彼は鍵を使ったのだ。
これはおそらく、ゲンジュウだ。
私も取られたくないものは、人から見えないところに隠す。
まず、近づかれた時に、シンニュウシャをゲキタイできるからだ。
すきま風からシンニュウできるような、ボロボロの住処ではない。
私もここから飛び降りたら、タダでは済まないほど、高さのある建物であるとは、なんとなく理解していた。
「うん、降りても良いよ、ってもう降りてるか」
とりあえず飛び降りても問題ない、彼の腕から地面に着地した。
むぅ、ちょっとツルツルして歩きにくいぞ。
「フローリングもなんとかしなきゃな」
歩くのに苦戦する私を見てか、履き物を脱ぎつつ彼はそう言った。
「ぜひそうしてくれると助かる」、ちょっと自分でも情けない声を漏らすと、部屋に上がった彼は私を一撫した。
…イヤじゃない。
「冷蔵庫しまってくるからな」
彼は目の前の動く板(ドアには色んな種類があるらしい)を横に滑らせると、奥には更に空間が広がっていた。
にゃんと、いっとう広いではないか…
しかも、よそよそと涼しい風がこちら側に流れ込んでくる。
こ、これは、かのショーガッコウの偉い人たちが、アイスの棒をむしゃぶりながら、ナツ休みを謳歌する部屋の前を通った時であったり、
宿題をしにいく!と出かけた子どもたちが、こぞって睡眠学習すなるものを貪るトショカンのすりガラスを通った時の感覚に、とても似ている気がした…。
ゆ、ユウワクだ…。
きっと、人が多くの時間、ハツメイという名のブンメイに注いだ多くはユウワクという名の甘い果実だったのだ…
にゃ、にゃあ…
私は負けない…と私が必死で何かに抗っている時、
「あれ、部屋怖いか…?」と遠くから声が聞こえたかと思えば、ペタペタと素足の音を立てた彼がやってきた。
にゃあ。
「どうした?おいで」
しゃがんだ彼に腕を伸ばされれば、私は気づくと彼の膝の上に乗っていた。
はっ、ここは!
「よしよし、良い子だ。今部屋の中案内してやろうな」
彼はまた私を撫でた。
なんだか、外よりもくまなく撫でられている気がする。くすぐったい。
でも、そよそよと吹く風が私を穏やかにしていた。
彼はふと気づいたように呟いた。
「それにしてもあんまり汚れてないな」
「まぁ、風呂には入れるけど」
オフロとはなんだろう。噴水で水浴びするのは嫌いではなかった。もちろん、綺麗な水に限るけれど。
「ビョーインは夕方行こうね」
そして、冒頭に至る。
「名前、何にしよっか」
彼は頭を撫でながらそう言った。
名前はまだない。
人とネコの間に生まれる熱と、うだるような暑さに耐えられず、思わず途中で彼の腕から飛び出したが、着地した場所は「あすふぁると」だった。
人間はクルマという鉄のカタマリの代わりに、動物を犠牲にする。
太陽の熱を思う存分吸ったコンクリートは、素肌を押し当てるのはあまりに拷問過ぎる。
潰れたヒキガエルような声(実際にはにゃあだった)を思わずあげると、「あっついだろ」と、見かねた彼は再び私を腕の中に抱え上げた。
別に彼がイヤなのではない。ただ、アツいのだ。それに彼も荷物を持った上で、子どもではない私をこの暑さで抱えるのは、重労働だろう。
見れば首筋を汗が伝っていた。
「もうちょっとだから我慢して」
そう、困ったように彼が笑えば、私は意固地になる気にもならず、素直に甘えることをカンジュすることにした。
にゃあ、と鳴けば、「良い子だね」と声が返ってくる。
どうしてだろう、頭を撫でてもらえないことを、少し不服に感じるのは。
気づけば、彼の体温をもう不快には感じていなかった。
それから彼の家に着くまでのしばらくの間も、ミーンミンミンだとか、ジジジジ、つくつくほーしだとか、空気を読む気のない虫たちがこぞって自分の居場所を告げていた。
彼はその間で、「あっちぃな」と5回は呟いた。
「あー、着いた着いた」
人は見かけにはよらないという、失礼極まりない諺が、この世には存在するわけだが、彼はそれに該当する気がした。
帰宅した場所は、まず玄関に鍵を差し込まないと開かないすりガラスがついていて、彼の家に入る前にもう一度、彼は鍵を使ったのだ。
これはおそらく、ゲンジュウだ。
私も取られたくないものは、人から見えないところに隠す。
まず、近づかれた時に、シンニュウシャをゲキタイできるからだ。
すきま風からシンニュウできるような、ボロボロの住処ではない。
私もここから飛び降りたら、タダでは済まないほど、高さのある建物であるとは、なんとなく理解していた。
「うん、降りても良いよ、ってもう降りてるか」
とりあえず飛び降りても問題ない、彼の腕から地面に着地した。
むぅ、ちょっとツルツルして歩きにくいぞ。
「フローリングもなんとかしなきゃな」
歩くのに苦戦する私を見てか、履き物を脱ぎつつ彼はそう言った。
「ぜひそうしてくれると助かる」、ちょっと自分でも情けない声を漏らすと、部屋に上がった彼は私を一撫した。
…イヤじゃない。
「冷蔵庫しまってくるからな」
彼は目の前の動く板(ドアには色んな種類があるらしい)を横に滑らせると、奥には更に空間が広がっていた。
にゃんと、いっとう広いではないか…
しかも、よそよそと涼しい風がこちら側に流れ込んでくる。
こ、これは、かのショーガッコウの偉い人たちが、アイスの棒をむしゃぶりながら、ナツ休みを謳歌する部屋の前を通った時であったり、
宿題をしにいく!と出かけた子どもたちが、こぞって睡眠学習すなるものを貪るトショカンのすりガラスを通った時の感覚に、とても似ている気がした…。
ゆ、ユウワクだ…。
きっと、人が多くの時間、ハツメイという名のブンメイに注いだ多くはユウワクという名の甘い果実だったのだ…
にゃ、にゃあ…
私は負けない…と私が必死で何かに抗っている時、
「あれ、部屋怖いか…?」と遠くから声が聞こえたかと思えば、ペタペタと素足の音を立てた彼がやってきた。
にゃあ。
「どうした?おいで」
しゃがんだ彼に腕を伸ばされれば、私は気づくと彼の膝の上に乗っていた。
はっ、ここは!
「よしよし、良い子だ。今部屋の中案内してやろうな」
彼はまた私を撫でた。
なんだか、外よりもくまなく撫でられている気がする。くすぐったい。
でも、そよそよと吹く風が私を穏やかにしていた。
彼はふと気づいたように呟いた。
「それにしてもあんまり汚れてないな」
「まぁ、風呂には入れるけど」
オフロとはなんだろう。噴水で水浴びするのは嫌いではなかった。もちろん、綺麗な水に限るけれど。
「ビョーインは夕方行こうね」
そして、冒頭に至る。
「名前、何にしよっか」
彼は頭を撫でながらそう言った。
名前はまだない。
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