取引先の役員からベタベタに甘えられる件について

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オリガ

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 俺は昔、愛し子様と呼ばれていたらしい。
 津波がくるとか、崖が崩れるとか、それこそ豊さんの事もそうだ。大切な人に迫る危機には人一倍敏感で事前に分かるのだが、自分にはそうじゃない。
 嫌な感じがした時、嫌な感じがしなくなる事に変更する事でしか対応出来ない。
 だから今回の様にされると太刀打ち出来ない。

 デカいリムジンの室内は広く、フロアは4、5人寝転がっても平気だろう。
 運転席は見えない。俺を押し込んできた男も何も言わない。
 だけど、前にいる人が誰かは分かる。

 「オリガさん、これはどういう事ですか?」

 分厚いアクリルで仕切られていても声を拾えるようになっているのだろう、すぐに返事が来た。

 「明日お休みでしょ?高村君とお知り合いになりたくて。」
 猫撫で声でもないし、馬鹿にしてもない。
 俺は心の中で、逃げ出すか付き合うか考えると逃げ出すのは嫌な予感が強く、反対に付き合うのは全く嫌な感じがしなかった。

 「いいですよ、お付き合いしましょう。普通に誘って貰えたらちゃんとした格好できたのに。」
 深呼吸を一つしてから答える。余裕があるところを見せつけてつけ込まれないようにする。意味があるかは分からない相手だとしても。
 
 そのままリムジンは動き続けるから、腕を組んで電車の中で寝る様にして目を瞑った。
 手元にある竹刀であの男を倒せるか。
 市内袋に入ってるし、体格差からしても困難。
 襲われたら勝てるか。
 指をへし折って何とか。
  
 頭の中で色々シミュレーションしていたら、男が動く気配が!
 目を開けると驚いてこっちを見ていたが、手に持っていたのは銃ではなくペットボトルだった。カゴに数本入れて俺に手渡してくる。酒もあると言っているけど、何となく少しだけ嫌な予感がするから遠慮する。
 結局水を一本貰うとまた目を瞑る。

 カーター、心配してるだろうなぁ。
 帰ったら怒られるだろうなぁ。
 親戚同士仲良くしてくれよー。

 案外平穏な胸中でいられたけど、カーターの事を考えると5日抜いてないだけあってヤバい事になるから、すぐ考えるのをやめた。ごめん、カーター。



 車は会場から2時間のところにある別荘的なところに停まった。と言っても中は15部屋位はあるからバカでかいけど。
 オリガさんに、「お背中ながしましょうか?」と笑いながら言われたが明確に断ると、使用人を付けると言われた。カーターの言葉を思い出して、「いや、1人で結構。」とこれも断った。
 目的が分からないままディナーがスタート。先ほどの男はオリガさんの親戚でかなり遠いけどカーターとも血が繋がってるという。そしてワインを一本開ける頃になってようやく、
 「あなたは何者なの?」
と切り出された。
 何者と聞かれても。山と海のある田舎町育ちの取り柄が剣道の好青年ですよと真面目に答えておいた。
 童顔なんだから30過ぎてたって青年って言ってもいいだろ!?と1人ノリツッコミを頭の中でしていると、
 「何か特別な力があるって言われた事ないかしら。そうじゃないと、、、」
 「そうじゃないと何ですか?」
 「怖い顔しないで。ただカーターといるのに変にならない人は珍しいから。」
 「どういう?」
 「カーターは冷たい感じがするでしょ?昔は優しくて可愛い男の子だったんだけど、段々女の子達から纏わりつかれるようになっていったのね。」
 想像はつく。容姿端麗で大金持ち。オリガは1人しゃべり続ける。

 「今までも何人かお付き合いした人はいるわ。だけど皆んな私を見るなり敵対心剥き出しで威嚇したり、悪いと掴みかかってくるの。でもあなたは言い方は悪いけど、隣のカーターよりも家に夢中だったわよね?私の事も放ったらかしだったし。」笑いながら言われる。その通りだ。
 「だって仕方ないじゃないですか?あんなに凄い家ありますか?豪邸とかじゃない、城でしょあれは。田舎者には刺激が強いですから。」
 「だから、あなたは強い何かを持ってるんだなって。いい?他には誰もいなかったの、家に気を取られる人が。私に敵意を抜き出しにしない人が。あなただけ。だからあなたが知りたいの。あなたはカーターをどうするつもり?」

 「      」
 どうするもこうするも無い。
 ただずっと一緒にいたい。最近意地悪も増えて来たけど、2人でいたい。
 そう思ったら勝手に涙が溢れて止まらなくなった。それでも声を振り絞って、
 「カーターの事はカーターが決めるべき事であって、あなたではないですよオリガ。」
 そう言えた。止まる事なく口からは
 「カーターは家族に理解されたがっているのに、何故嫌がると分かっているやり方をするのか、何故突き放して1人にしておくのか、何故あんなに追われる様にはたらかせるのか。」オリガさんが知らないことだろうと関係ない事かもしれないが捲し立て、最後に、「あなたこそカーターとどうなりたいのですかオリガ。」と。
 これは聞かない方が良さそうなのは分かっていたけど、避けられない、避けてはならないと思ったから。
 ワイングラスを傾けるオリガさんは本当に美人だ。カーターと付き合っていなかったら、あの手この手で話しかけてただろう。
 「カーターの特別になりたかった。私達一族はお金に困る事はないけど家族には困ってると言うのかな。絆があるようで無いっていうのかな。小さい頃からずっと一緒にいた私よりもずっとずっと短い時間でカーターの特別になった、なってしまったあなたは何なのと思わずにはいられないけど、私じゃダメな訳だと納得としてる事に驚いてるかな。」
 「あの子が連れて来た子は女の子ばかりだったけど、その誰よりもあなたに優しくしてる。いや、比べて言うのならあなたには優しいと言えるかな。」
 「あの子、神様か何かに愛されてるのじゃないかと思うの。だってそうじゃなきゃ説明が付かない事ばっかりたし、恋人といいね。」
 
 そう言うと訪れた沈黙。
 俺はワインをぐいっと飲むと、「部屋に帰ります。」と勝手に部屋を出た。その時のオリガさんの目はカーターと親戚だけあって、潤んだ瞳に吸い込まれそうになったけど、振り返らず真っ直ぐ部屋を出る事が出来た自分を1人褒めていた。
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