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無人島編
変貌
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日本東京湾近海にある無人島━━。
定期便に乗り込めば10分と掛からない距離にある島である。
1日あれば歩いて島中を見回れる大きさであり、鬱蒼たる森がその9割を覆いつくしている。
周囲は海岸に囲まれ、砂浜は真っ白な雪の様なパウダーサンド。
暑い太陽の光線を受けて、見るもの全ての目を射るかのようにキラキラと輝いている。
現在この島へは7人が上陸しており、他に人の気配はない。
男子3人、女子4人のこのグループは都立西東京高校へと通う同級生である。
先週、学期末試験に悪戦苦闘し、何とか一学期を終業したばかりだ。
そして、溜まりに溜まったストレスを解消するべく、夏休みを利用して無人島へ旅行に来たのだ。
「サイッコォォダァーーー」
上半身は裸、下は黒に白い幾何学模様の入った水着を着用し、陸から近い浅瀬で彼は全力で泳いでいる。
「雄吾ー! あまり遠くまで行くなよーー」
そんな彼へと呼びかけたのはクラスメイトの金龍寺 雅英だ。
暑い陽射しの中で、足の裏を砂に焼かれながら女子4人と昼食のバーベキューを準備している。
男子高校生というには中性的な容姿で、どこか凛とした雰囲気を持っている。
体の線は細く、茶色の髪に色白な肌、ダークブラウンの瞳からは日本人離れしているようにも見える。
その持ち前の容姿から高校生の傍らモデルとしての仕事をこなしている。
学校にも彼のファンは多く、ファンクラブがあるばかりではなく、一部熱狂的な女子達は親衛隊として活動をしているほどだ。
見た目が中性的であることから、ファンクラブには一部男性も混じっている。
成績は常にトップであり、運動神経も卓越している。
ある種目においては一流のトップアスリートと遜色ない成績をたたき出すのだ。
雅英と一緒に黙々と準備を進めている女性は、桃川 虹愛、黄城 麗羅、青井 円香、赤田 萌子の4人。
全員が海に入ってもいないのに顔から足までを濡らしている。
もちろん全身から吹き出している汗で。
虹愛は学校随一の美少女だ。
全日本フェンシング選手権大会で優勝したこともある、スポーツ系女子。
肌はこんがりと小麦色。
髪は黒のセミロング。
麗羅は誰もが息を呑む美しさをもち、学力もスポーツも学年トップクラスである、才色兼備。
雪の様な真っ白な肌に黒のロングヘアー。
それに加えて黄城家は日本有数の財閥で麗羅は美しき麗しの令嬢。
円香は2人とはまた違った美人である。
青みがかったセミロングの髪。
ぱっちり二重瞼にぷっくりした唇。
それに巨大な双丘、キュッとしまった腰、艶かしいお尻。
日本人離れしたその体型は、大勢の男子を虜にしてきた。
といっても、目を奪われただけで、付き合ってきたわけでないが。
萌子は誰もが振り返る程の容姿の3人に挟まれているからか、とても地味に見えてしまうが、美しいではなく可愛いと形容される顔立ちをしており、童顔と身長が低いことが相まって一部で妹的存在を確立して人気がある。
常に眼鏡をかけ、燃え盛る炎よりも紅い、その珍しいボブカットも人気に一因している。
そんな雅英に呼ばれた黒丸 雄吾は、日本人にしては堀が深い顔立ちで、黒髪の短髪に黒目。
成績は中の中だが、その鍛え上げられた体と子供の様な性格のギャップからか、密かに女子からの人気がある。
「コウもぼっーとしてるならさ、昼食作るの手伝ってよー」
昼食の準備をしているニーナは、オタマをぶんぶんと振りながら叫んだ。
「できたら呼んでくれ。 俺は食べる専門なんだよ」
体を起こし、照る太陽の眩しさに目を細めながら珀玖朱 煌は返事をした。
煌はアッシュグレーの髪。
目は仄かに赤みを帯びている。
珍しく目立つ容姿をしているのかもしれないが、他の6人が目立ち過ぎるために普通という評価が定着している。
(しかし、あっついなー…よくもまぁ、あんな炎天下の中でご飯作れんなぁ)
コウはもう一度サマーベッドに体を横たわりつつ、目を閉じる。
(最初はあんま乗り気じゃなかったけど、みんなと旅行に来て良かったかもなぁ。
試験のストレスも悩みも全部解消できそうな程気持ちいいわ)
顔にかかる木陰と森から吹いてくる風が心地よく、そんなことを考えていたら人知れず寝息を立てていた。
「ごめん、ちょっと体調悪い…。熱中症かも……休んでいい?」
額を手で押さえながら青ざめた顔をしているマドカ。
立っているのも辛くなり、その場にしゃがみこんだ。
「マドカっ、大丈夫?! コウと一緒に休んでてっ! あそこは日影だし!」
ニーナはそう言うと、コウの隣にマドカ用のサマーベッドを用意した。
「ごめんね…。ありがとう」
「いいよ、いいよ! 何か冷たいのいる?」
「とりあえず大丈夫。 ちょっと横になるね…」
「う、うん。 何かあったらすぐ言うのよ?」
「うん、ありがとね。ニーナ」
マドカはベッドに横になるとすぐに目を閉じた。
少しすると、こちらもスースーと寝息を立て始めた。
「マドカ、大丈夫そうかな?」
心配そうな顔をしてモエコが一人呟く。
隣にはレイラが、大粒の汗を額にかきながらご飯の仕度を黙々としている。
「そうね、見た限り大丈夫そう。 ニーナが連れてってくれたし、こっちもさっさと終わらしちゃおうか」
そう言うと、レイラは仕度のスピードを上げた。
┼┼┼
「コウー、ご飯できたよー」
また、オタマをぶんぶんと振りながらコウを呼んだが返事がない。
マドカはとりあえずこのまま寝かせて置こうという話になり、一先ずコウだけに声をかけたのだ。
「あれ? 寝てる? 死んでる?」
「ニーナ、死んでるはやめなさい。 ぎりぎり息してるわよ。 あ、胸動いてないから死んでるかも」
そんなことをいたって真面目な顔をして言うのはレイラだ。
「……2人とも。しかし、ありゃ寝てるねぇ。 コウとマドカの分残してご飯にする?」
「モエの言うように、2人の分は別にしてご飯にしようか! ━━ということでユーゴを呼んでくる」
大声をあげればユーゴを呼べるが、マサヒデは2人を起こさない為に小さな声でも届く距離まで呼びに行くことにした。
「しかし、全然いないなぁー。 噂はやっぱり噂でしかなかったのかな? レイラとモエの方は反応ある?」
「全然だよ。 ちょこちょこと確認してはいるんだけどねー」
「うちは見つけたよー。 1匹倒したのだ。にひひ」
モエコは焼けた肉を皿に移しながら満面に喜色を湛える。
「うそ…… 私とレイラと一緒にご飯作ってたのに…いつの間に?」
「ちなみに、マサ君とユーも倒してたよ」
「むむむ、 負けてられないわね。 食べたら探しに行かなくちゃ! んじゃ、マサとユーゴも来たことだしお昼食べようか」
男2人も揃い、5人は砂浜に置かれたテーブルを囲んだ。
鼻から脳へ突き刺すように刺激する香ばしい焼き肉の匂いと、これ以上無理という程巻かれた巻き貝からする磯の香りが辺りを包み込む。
食事を楽しみ、会話を楽しみ、時間という存在を忘れ、そして島を包み込む日輪はその灼熱する顔をゆっくりと海の彼方へ沈めていった。
┼┼┼┼
(さむっ!…あれ?もう暗いな。 寝過ぎたのか?……ん?夜か?……しっかし、腹へったな)
辺りは暗くなっており、コウは辺りを見回す。
月明かりはなく、空は雲に覆われている。
そして現在進行形でそれは膨張し続け、一面を紫色に染めていた。
白でも灰色でもなく、紫雲。
吉兆とされているが、その姿は禍々しく世界が終焉を迎えるような様相である。
誰もが見たことない空へと様変わりしていた。
「……なんだこりゃ。 って、マドカもいるじゃん。 おいっ!おきろ!」
肩をゆさゆさと揺らす。
すると、ゆさゆさと揺れる双丘。
(でかっ!)
「じゃなくて、おいっ!おきろって!」
「う、うーん…」
ゆっくりと目を開くマドカ。
「あ、コウ、おふぁようー」
はぁーと欠伸をしながらマドカは体を起こした。
そして伸びをしたところで異変に気づく。
「夜? 何か変な空ね…。 あれ?コウ、みんなは??」
「それが、俺も今起きたところで知らないんだ」
「そうなんだ…。何だが不気味ね……」
「だよな。 あ、ちと連絡してみるわ」
コウは腕に嵌められたデバイス上部をカチッと押し電源をONにする。
ホーム画面を意識すると、デバイス上部にボーリング玉の様なホログラムが浮かび上がり、表面上にはアイコンが散りばめられている。
指で表面をなぞると、球体はクルクルと回転する。
コウは自動更新により増加しているアイコンの多さに少々うんざりしつつも、通信機能である受話器のマークのアイコンをタップする。
すると、目の前に連絡先一覧の映像がポップアップ。
グループ分けされた中で〃同級生〃の欄に触れる。
顔と名前が羅列された同級生の中で5人を探し、一斉通話するが1人も応答がなかった。
GPSにも反応なし。
「反応ないな……」
この場所にいるべきか動くべきか頭を悩ませていると、球体の反対側にあるメールボックスがチカチカと光っているのにふと気がついた。
ニーナからのメールだ。
メールボックスのアイコンをタップする。
すると、電子画面が目の前に大きく現れ、内容を表示した。
マドカも気になり、横からそれを覗きこむ。
『起きた? あのね、みんなで寛いでたら例のモンスターがすぐそこまで来ててさ。 慌てて追いかけたら謎の洞窟を発見! ということでみんなで探索してきまーす!コウはマドカとりあえず、そこにあるご飯でも食べて待っててね! 冷めてるだろうけど、おいしいよ。 あと、マドカは熱中症で調子悪いから様子を見て上げてね。バイビー』
━━テーブルには冷めた焼き肉とよくわからない少しこげた貝が皿に置かれラップがかけられている。炭の火は完全に消えており、熱を微塵も含んでいない。
「た、そうだ…。 GPSに反応ないのは洞窟のせいか…メールにも書いてあったし、ここから動かないでご飯たべてるか? 腹も減りすぎたしな」
よく見るとテーブルの周りには足跡がいくつもあり、それらは暗い森へと続いていた。歩幅の間隔は大きく、どうやら駆け足だったようである。
「そうしようか……」
━━その時、間近で和太鼓を思いきり叩いたかのような、腹から体全体へ響き渡るほどの雷鳴が轟いた。
そして、突如空へと顔が現れた。
「なっ、なんだ?!」
「キャー! コウっ! 何!?」
驚いたマドカはコウへしがみつく。
ギリギリとマドカの指がコウの背中に食い込む。
(イタッ! けど、柔らかいっ!)
そして2人は空を見上げた。
世界へ広がり続ける混沌とした雲をスクリーンに、男の様な顔が無数写しだされたのである。
年齢は不詳。
人間かどうかも不確かな同じ男性の顔がいくつもびっしりと浮かび上がり、大気を震わせる様に口を開いた。
『我はアポフィス也。 主なる我は堕落した世界を浄化する。弱き者よ求めよ、然らば与えられん。求むる者は力を得るだろう。これより現実世界と仮想世界は統一される。 世はworld of fantasy となる』
言い終わるや否や、その顔は目を開けていられない程の閃光を発し消滅。
そしてその閃光は世界中で同時に出現し地球を一瞬で包み込んだ。
2人は意識を手放した。
定期便に乗り込めば10分と掛からない距離にある島である。
1日あれば歩いて島中を見回れる大きさであり、鬱蒼たる森がその9割を覆いつくしている。
周囲は海岸に囲まれ、砂浜は真っ白な雪の様なパウダーサンド。
暑い太陽の光線を受けて、見るもの全ての目を射るかのようにキラキラと輝いている。
現在この島へは7人が上陸しており、他に人の気配はない。
男子3人、女子4人のこのグループは都立西東京高校へと通う同級生である。
先週、学期末試験に悪戦苦闘し、何とか一学期を終業したばかりだ。
そして、溜まりに溜まったストレスを解消するべく、夏休みを利用して無人島へ旅行に来たのだ。
「サイッコォォダァーーー」
上半身は裸、下は黒に白い幾何学模様の入った水着を着用し、陸から近い浅瀬で彼は全力で泳いでいる。
「雄吾ー! あまり遠くまで行くなよーー」
そんな彼へと呼びかけたのはクラスメイトの金龍寺 雅英だ。
暑い陽射しの中で、足の裏を砂に焼かれながら女子4人と昼食のバーベキューを準備している。
男子高校生というには中性的な容姿で、どこか凛とした雰囲気を持っている。
体の線は細く、茶色の髪に色白な肌、ダークブラウンの瞳からは日本人離れしているようにも見える。
その持ち前の容姿から高校生の傍らモデルとしての仕事をこなしている。
学校にも彼のファンは多く、ファンクラブがあるばかりではなく、一部熱狂的な女子達は親衛隊として活動をしているほどだ。
見た目が中性的であることから、ファンクラブには一部男性も混じっている。
成績は常にトップであり、運動神経も卓越している。
ある種目においては一流のトップアスリートと遜色ない成績をたたき出すのだ。
雅英と一緒に黙々と準備を進めている女性は、桃川 虹愛、黄城 麗羅、青井 円香、赤田 萌子の4人。
全員が海に入ってもいないのに顔から足までを濡らしている。
もちろん全身から吹き出している汗で。
虹愛は学校随一の美少女だ。
全日本フェンシング選手権大会で優勝したこともある、スポーツ系女子。
肌はこんがりと小麦色。
髪は黒のセミロング。
麗羅は誰もが息を呑む美しさをもち、学力もスポーツも学年トップクラスである、才色兼備。
雪の様な真っ白な肌に黒のロングヘアー。
それに加えて黄城家は日本有数の財閥で麗羅は美しき麗しの令嬢。
円香は2人とはまた違った美人である。
青みがかったセミロングの髪。
ぱっちり二重瞼にぷっくりした唇。
それに巨大な双丘、キュッとしまった腰、艶かしいお尻。
日本人離れしたその体型は、大勢の男子を虜にしてきた。
といっても、目を奪われただけで、付き合ってきたわけでないが。
萌子は誰もが振り返る程の容姿の3人に挟まれているからか、とても地味に見えてしまうが、美しいではなく可愛いと形容される顔立ちをしており、童顔と身長が低いことが相まって一部で妹的存在を確立して人気がある。
常に眼鏡をかけ、燃え盛る炎よりも紅い、その珍しいボブカットも人気に一因している。
そんな雅英に呼ばれた黒丸 雄吾は、日本人にしては堀が深い顔立ちで、黒髪の短髪に黒目。
成績は中の中だが、その鍛え上げられた体と子供の様な性格のギャップからか、密かに女子からの人気がある。
「コウもぼっーとしてるならさ、昼食作るの手伝ってよー」
昼食の準備をしているニーナは、オタマをぶんぶんと振りながら叫んだ。
「できたら呼んでくれ。 俺は食べる専門なんだよ」
体を起こし、照る太陽の眩しさに目を細めながら珀玖朱 煌は返事をした。
煌はアッシュグレーの髪。
目は仄かに赤みを帯びている。
珍しく目立つ容姿をしているのかもしれないが、他の6人が目立ち過ぎるために普通という評価が定着している。
(しかし、あっついなー…よくもまぁ、あんな炎天下の中でご飯作れんなぁ)
コウはもう一度サマーベッドに体を横たわりつつ、目を閉じる。
(最初はあんま乗り気じゃなかったけど、みんなと旅行に来て良かったかもなぁ。
試験のストレスも悩みも全部解消できそうな程気持ちいいわ)
顔にかかる木陰と森から吹いてくる風が心地よく、そんなことを考えていたら人知れず寝息を立てていた。
「ごめん、ちょっと体調悪い…。熱中症かも……休んでいい?」
額を手で押さえながら青ざめた顔をしているマドカ。
立っているのも辛くなり、その場にしゃがみこんだ。
「マドカっ、大丈夫?! コウと一緒に休んでてっ! あそこは日影だし!」
ニーナはそう言うと、コウの隣にマドカ用のサマーベッドを用意した。
「ごめんね…。ありがとう」
「いいよ、いいよ! 何か冷たいのいる?」
「とりあえず大丈夫。 ちょっと横になるね…」
「う、うん。 何かあったらすぐ言うのよ?」
「うん、ありがとね。ニーナ」
マドカはベッドに横になるとすぐに目を閉じた。
少しすると、こちらもスースーと寝息を立て始めた。
「マドカ、大丈夫そうかな?」
心配そうな顔をしてモエコが一人呟く。
隣にはレイラが、大粒の汗を額にかきながらご飯の仕度を黙々としている。
「そうね、見た限り大丈夫そう。 ニーナが連れてってくれたし、こっちもさっさと終わらしちゃおうか」
そう言うと、レイラは仕度のスピードを上げた。
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「コウー、ご飯できたよー」
また、オタマをぶんぶんと振りながらコウを呼んだが返事がない。
マドカはとりあえずこのまま寝かせて置こうという話になり、一先ずコウだけに声をかけたのだ。
「あれ? 寝てる? 死んでる?」
「ニーナ、死んでるはやめなさい。 ぎりぎり息してるわよ。 あ、胸動いてないから死んでるかも」
そんなことをいたって真面目な顔をして言うのはレイラだ。
「……2人とも。しかし、ありゃ寝てるねぇ。 コウとマドカの分残してご飯にする?」
「モエの言うように、2人の分は別にしてご飯にしようか! ━━ということでユーゴを呼んでくる」
大声をあげればユーゴを呼べるが、マサヒデは2人を起こさない為に小さな声でも届く距離まで呼びに行くことにした。
「しかし、全然いないなぁー。 噂はやっぱり噂でしかなかったのかな? レイラとモエの方は反応ある?」
「全然だよ。 ちょこちょこと確認してはいるんだけどねー」
「うちは見つけたよー。 1匹倒したのだ。にひひ」
モエコは焼けた肉を皿に移しながら満面に喜色を湛える。
「うそ…… 私とレイラと一緒にご飯作ってたのに…いつの間に?」
「ちなみに、マサ君とユーも倒してたよ」
「むむむ、 負けてられないわね。 食べたら探しに行かなくちゃ! んじゃ、マサとユーゴも来たことだしお昼食べようか」
男2人も揃い、5人は砂浜に置かれたテーブルを囲んだ。
鼻から脳へ突き刺すように刺激する香ばしい焼き肉の匂いと、これ以上無理という程巻かれた巻き貝からする磯の香りが辺りを包み込む。
食事を楽しみ、会話を楽しみ、時間という存在を忘れ、そして島を包み込む日輪はその灼熱する顔をゆっくりと海の彼方へ沈めていった。
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(さむっ!…あれ?もう暗いな。 寝過ぎたのか?……ん?夜か?……しっかし、腹へったな)
辺りは暗くなっており、コウは辺りを見回す。
月明かりはなく、空は雲に覆われている。
そして現在進行形でそれは膨張し続け、一面を紫色に染めていた。
白でも灰色でもなく、紫雲。
吉兆とされているが、その姿は禍々しく世界が終焉を迎えるような様相である。
誰もが見たことない空へと様変わりしていた。
「……なんだこりゃ。 って、マドカもいるじゃん。 おいっ!おきろ!」
肩をゆさゆさと揺らす。
すると、ゆさゆさと揺れる双丘。
(でかっ!)
「じゃなくて、おいっ!おきろって!」
「う、うーん…」
ゆっくりと目を開くマドカ。
「あ、コウ、おふぁようー」
はぁーと欠伸をしながらマドカは体を起こした。
そして伸びをしたところで異変に気づく。
「夜? 何か変な空ね…。 あれ?コウ、みんなは??」
「それが、俺も今起きたところで知らないんだ」
「そうなんだ…。何だが不気味ね……」
「だよな。 あ、ちと連絡してみるわ」
コウは腕に嵌められたデバイス上部をカチッと押し電源をONにする。
ホーム画面を意識すると、デバイス上部にボーリング玉の様なホログラムが浮かび上がり、表面上にはアイコンが散りばめられている。
指で表面をなぞると、球体はクルクルと回転する。
コウは自動更新により増加しているアイコンの多さに少々うんざりしつつも、通信機能である受話器のマークのアイコンをタップする。
すると、目の前に連絡先一覧の映像がポップアップ。
グループ分けされた中で〃同級生〃の欄に触れる。
顔と名前が羅列された同級生の中で5人を探し、一斉通話するが1人も応答がなかった。
GPSにも反応なし。
「反応ないな……」
この場所にいるべきか動くべきか頭を悩ませていると、球体の反対側にあるメールボックスがチカチカと光っているのにふと気がついた。
ニーナからのメールだ。
メールボックスのアイコンをタップする。
すると、電子画面が目の前に大きく現れ、内容を表示した。
マドカも気になり、横からそれを覗きこむ。
『起きた? あのね、みんなで寛いでたら例のモンスターがすぐそこまで来ててさ。 慌てて追いかけたら謎の洞窟を発見! ということでみんなで探索してきまーす!コウはマドカとりあえず、そこにあるご飯でも食べて待っててね! 冷めてるだろうけど、おいしいよ。 あと、マドカは熱中症で調子悪いから様子を見て上げてね。バイビー』
━━テーブルには冷めた焼き肉とよくわからない少しこげた貝が皿に置かれラップがかけられている。炭の火は完全に消えており、熱を微塵も含んでいない。
「た、そうだ…。 GPSに反応ないのは洞窟のせいか…メールにも書いてあったし、ここから動かないでご飯たべてるか? 腹も減りすぎたしな」
よく見るとテーブルの周りには足跡がいくつもあり、それらは暗い森へと続いていた。歩幅の間隔は大きく、どうやら駆け足だったようである。
「そうしようか……」
━━その時、間近で和太鼓を思いきり叩いたかのような、腹から体全体へ響き渡るほどの雷鳴が轟いた。
そして、突如空へと顔が現れた。
「なっ、なんだ?!」
「キャー! コウっ! 何!?」
驚いたマドカはコウへしがみつく。
ギリギリとマドカの指がコウの背中に食い込む。
(イタッ! けど、柔らかいっ!)
そして2人は空を見上げた。
世界へ広がり続ける混沌とした雲をスクリーンに、男の様な顔が無数写しだされたのである。
年齢は不詳。
人間かどうかも不確かな同じ男性の顔がいくつもびっしりと浮かび上がり、大気を震わせる様に口を開いた。
『我はアポフィス也。 主なる我は堕落した世界を浄化する。弱き者よ求めよ、然らば与えられん。求むる者は力を得るだろう。これより現実世界と仮想世界は統一される。 世はworld of fantasy となる』
言い終わるや否や、その顔は目を開けていられない程の閃光を発し消滅。
そしてその閃光は世界中で同時に出現し地球を一瞬で包み込んだ。
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ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
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