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無人島編
初戦闘
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━━world of fantasy ━━
日本にある総従業員20名ほどの小さなゲーム会社が長い歳月をかけ、社運を懸けた一大事業であるデバイスを生み出した。
そしてその唯一のゲームソフトであり、複合現実型大規模多人数同時参加型オンラインという技術の粋を結集したものである。
ワールドオブファンタジーは、そのあまりのリアリティーさに加え、数十種類以上もの豊富な職業やプレイヤーが競い合うランキング形式、多種多様なイベントに熱狂的ファンが瞬く間に増加。
それにより現アクティブユーザーは全世界において8000万人以上である。
日本の人口は一億人程であり、そのユーザー数を見ればどれだけ人気があるのかは言う必要はないだろう。
━━リストバンド型ウェアラブルデバイス、"Virtual Reality Experience Wearable Device"━━通称vrewd
手首に着装 するデバイスであり、防水防塵耐久性に優れている。
筋肉の動き、脈拍数、発汗量等を感知しすることで、そのデータを入力として取り入れることが可能となり、従来のコントローラーが必要なくなった。
また、電気パルスによって脳へ信号を送ることにより、ヘッドマウントディスプレイなく肉眼で仮想映像を捉える。
その映像をもって脳がパルス信号を全身へ伝達することで、体温調節中枢や痛覚等の神経系を刺激。
それにより物理的、精神的感覚を体感することに成功する。
これにより、ハイパーリアリティーの世界を実現したのである。
これを受け、世界中のあらゆる企業が参入、提携し、様々な機能を有することとなる。
オンラインショッピング、マネーバンク機能、通信機能、GPS etc...
生活しうる上で必要な機能はヴリュード1台で全て備えており、これにより普及しているスマートフォン等のモバイル端末は衰退の一途をたどる。
ヴリュードは瞬く間に世界中へと広がり1人1台所持する時代へと変わったのである。
そして、現在━━
和やかな光が森の隅々まで広がり闇を後退させていく。
コウは瞼越しに太陽に刺激されゆっくりと目を覚ました。
(うぅ……なんだ…どうなった…たしか空に顔が現れて……world of fantasy がどしただっけか……)
思い出そうとしたが少し混乱しており、状況が掴めないでいた。
しかし、直ぐにもう一人の存在を思い出す。
「マドカっ!? 無事か!?」
「うぅ…うん…大丈夫…」
コウは、とりあえず時間を確認しようと、ヴリュードに電源を入れた。
(時間は7時…。えっ、朝の7時!? 意識を失って…くそっ、だいぶ時間が経っちまった……)
「マドカ、どうやら朝まで気絶してたみたいだ」
「うそ!? …でも確かに空が晴れて気持ちいいわね…あれ、何だったのかしら?」
マドカは立ち上がり、体に付いた砂を払い落としている。
「…わかんねぇ。 ここでは情報もないし…とりあえずみんなが心配だ。 洞窟に行ってみるか?」
「そうね…。 確かに考えてもわからないわね。 それに朝になったのに戻ってこないなんて……コウ、行こう!」
「じゃあ、とりあえず足跡を追って洞窟に向かい、暗くなる前に戻るか」
コウも立ち上がり、時間を確認を終えたヴリュードの電源をオフにした。
荷物をリュックに詰め込み、他の荷物はそのままに砂浜を抜け森の中を進んでいく。
頭の中はのあの出来事のことでいっぱいだ。謎の顔、謎の言葉。
コウはworld of fantasyのプレイヤーである。ランキングは低く、他の6人に比べるとそこまで熱狂してるわけでもなかったが、定期的に発生するイベントに参加するくらいには好きである。
スケジュールは頭に入っていたはずだが、昨日のイベントは知らない。
world of fantasy はあまりにもリアルである。
だが、あれはそれとは違う異常なリアルさであると感じていた。
「マドカ」
「ん?なに?」
「俺の知ってる限りだと、world of fantasyにあんな仕様はないと思うんだけど…イベントとかでもないよな?」
「ないと…思う」
んーっとマドカは考えるが、やはり分からなかった。
そのまま20分程歩き続けると、洞窟の入り口へと2人は辿り着いた。
中は一切の光を喰い尽くすように闇が広がっている。
「ん?」
コウが反応する。
「どうしたの?コウ」
「ちょっと待って」
マドカをその場で待機させ、一人で洞窟へ近づいていく。
すると、洞窟の奥からか突如風が吹いた。
風といっても髪の毛か少し揺れる程度のそよ風だ。
ただ、それは自然の風という感じではなく獣の吐息のような生暖かさだった。
見ると、入り口付近地面の草が少し潰れている箇所があり、何かの足跡のようである。
足跡を調べようと近づいていくコウ。
その時、横の草むらがキラッと光るのを右目の端に捉えた気がした。
気になったコウは、そちらへと体を傾ける。
刹那、風が頬を掠めた。
(イタッ!)
頬に一筋の傷がつき、ツーっと血が流れる。
「……え?なんだよ……」
「ねぇっ!どうしたの?」
コウの背後にいるマドカからは様子が分からない。
しかし、コウはマドカの声に反応をしない。
コウは集中し目を凝らして見る。
が、前にも後ろに何もない。
不安そうな顔をしたマドカがいるだけだ。
コウは腰に刺していたサバイバルナイフを素早く取り出した。
なんとなく、ほんの少しの違和感を感じる程度。
ただそれだけだ。
コウはサバイバルナイフで宙を斬ってみた。
しかし、もちろん手応えの一つも感じない。
「…なんだったんだ?」
警戒しつつ洞窟の入口へとさらに近づいていくコウ。
すると、突如背中に衝撃が走る。
肩から脇腹にかけて、斜めに切り裂かれた。
咄嗟に振り向くが、しかしそこには何もない。
「キャッ!ちょっと何?!何なの!!」
「━━痛っ! なんだよ! どうなってんだよ! わけわかんねぇ。クソッ…何かいるよな! マドカ!見えたか?」
背中から血が流れているのを感じる。
「見えなかったわ! コウの背中が突然切られたことしか…コウ、出血が多いわ!」
「だ、大丈夫だ!マドカはもう少し下がってろ!」
コウは警戒しつつ、ジリジリと洞窟へと後退していく。
そして、前を見ながら背後の洞窟内へと叫んだ。
「おーい! 誰かいないかぁー!」
しかし、自分の言葉が反響しているだけで誰からの返事もない。
「…なんなんだよ」
コウは一瞬悩んだが、このままここにいるのは危険だと思い、洞窟内へ入ることを決めた。
「マドカ! よく分からないがここは危険だ! ひとまず、洞窟に入るから回りこんでこっちに来い!」
「わ、わかった!」
コウは洞窟内を照らす為に、ライト機能があればと思い、ヴリュードをオンにする。
━━ッ!
すると、電源オンと同時に目の前には、日の光に照らされて輝く銀色の毛並みが現れたのだ。
「━━おいおい、……シルバーファングじゃないか……まてまて、ゲームは起動してない…よな?」
ワールドオブファンタジーで有名なモンスター。
銀の毛色が眩しい狼である。
序盤で遭遇しようものならば、プレイヤーはほぼ殺されてしまうだろう強敵である。
焦ってヴリュードをオフにする。
すると、シルバーファングは目の前から一瞬にして姿を消した。
「……消えた……?」
ブシュッー!!
突如、コウの脇腹から血が吹き出し、歯形の様な傷がついたと思えばそのまま肉を抉られる。
「うぐぅぅ!」
「コオオオウゥゥ!」
マドカはゆっくりと回りこんでいたが、足を止め、叫んだ。
一目で致命傷だと分かるくらいに多量の血液が流れ、内臓の一部までも抉れた脇腹。
その惨状に死が目の前まで迫っていることをコウは悟る。
コウは後に退りながらヴリュードを起動する。すると、口を深紅に染め上げ血の涎を垂らすシルバーファングが再度姿を現した。
腰を低く落とし、足に力を込めている。
爪は土にめり込み数秒待たずして攻撃してくるだろうことは誰の目にも理解できた。
「……くそっ、まずいな…」
コウは脇腹を手で抑えるが、出血が酷い。背中の裂傷からもまだ流れている。
「あ…あ………」
マドカはコウの惨状と恐怖から、膝から崩れ尻餅をついた。
シルバーファングは待ってはくれない。
━━ドンッ!
シルバーファングは力一杯に突進した。
その瞬間速度は凄まじく、最高速度に達した新幹線とかわらない。
コウは左腕の肘を横に曲げ胸の前に突き出した。
限界まで開かれた真っ赤な顎が勢いそのままにコウの前腕へとかぶりつく。
「ぐあぁぁーー!」
腕の痛さに加え突進された衝撃が脇腹に響き、覚悟してたにも関わらずその激痛に叫ばずにいられなかった。
シルバーファングは自身にも衝撃が伝わるが口は一切弛めない。
コウは多量出血により意識が朦朧としてきた。
しかし、ここで気を失えば、そのまま死ぬことは分かっているため、気力を振り絞る。
コウは、未だに腕にかぶり付いているシルバーファングの顔に手を添え、そして小さく呟いた。
「堕天之微笑」
コウの周囲の空気がぶれる。
黒い揺らぎが現れ、背後に天使を象った黒いオーラが発現。
大きな2対の翼を広げ、コウを後ろから包み込むように寄り添い、それは微笑みながらコウの右腕を介しシルバーファングへ力を注ぎ込む。
━━ッ!
突如として、シルバーファングは全身を沸騰でもさせているかのようにボコボコと膨らませ始めた。
そして醜悪な体貌へと変化し、悶え苦しみ腕から離れた。
「キャィィイイン!!」
その断末魔の声を最後に爆発した。
頭から爪先まで余すことなく木っ端微塵となり、辺り一帯を肉片と血で紅く染め上げた。
「はぁ…はぁ……危なかった…。派手に噛みつきやがってバカヤローが……。クッ、とりあえず回復しないとやばい…」
コウは出血が止まらない脇腹へ手を添え言葉を紡ぐ。
「天使之涙」
右手に金色のオーラを纏う。
綺麗な円形を形成し、それは指先へと集まり凝縮。
そして一滴の涙程の大きさになり、ポチャンと傷口へ落ちた。
すると一瞬にして、何事もなかったように元の傷一つない肌へと変わる。
コウは同じようにして腕と頬の傷を治す。
「……はぁ…はぁ、危なかったー。…でも、傷が治っただけで血が足りないな……。クラクラする…。……はぁ…はぁ…」
ヒーリングは傷を治すが無くなったものを戻すことはない。
コウは現状、失った血液量が全体の30%近くまで達しており、出血性ショックの症状が現れていた。顔は青白く体温は冷たくなっていた。
コウは目を閉じイメージする。
血液が身体の隅々までを巡り、冷えきった指先まで温める。
ついでにと破れた服も修復された形をイメージ。
そして言の葉を紡ぐ。
「大天使之慈悲」
コウの周りの空間が揺らぎ、金色のオーラが発現。金色の輝きはコウの背後へ収束し、翼を正面に交差させた大天使を顕現した。
今にも飛び立つ勢いでバサッと広げれば、光の粒子と金の羽が宙に舞う。
麗らかな日和に降り注ぐ温かく優しい光のように、コウの全身を柔らかく包み込む。
青白かった顔はみるみるうちに血色が良くなり、体調が全快する。パァッと光が収まれば、破れた服も元に戻った元気な青年がいた。
日本にある総従業員20名ほどの小さなゲーム会社が長い歳月をかけ、社運を懸けた一大事業であるデバイスを生み出した。
そしてその唯一のゲームソフトであり、複合現実型大規模多人数同時参加型オンラインという技術の粋を結集したものである。
ワールドオブファンタジーは、そのあまりのリアリティーさに加え、数十種類以上もの豊富な職業やプレイヤーが競い合うランキング形式、多種多様なイベントに熱狂的ファンが瞬く間に増加。
それにより現アクティブユーザーは全世界において8000万人以上である。
日本の人口は一億人程であり、そのユーザー数を見ればどれだけ人気があるのかは言う必要はないだろう。
━━リストバンド型ウェアラブルデバイス、"Virtual Reality Experience Wearable Device"━━通称vrewd
手首に着装 するデバイスであり、防水防塵耐久性に優れている。
筋肉の動き、脈拍数、発汗量等を感知しすることで、そのデータを入力として取り入れることが可能となり、従来のコントローラーが必要なくなった。
また、電気パルスによって脳へ信号を送ることにより、ヘッドマウントディスプレイなく肉眼で仮想映像を捉える。
その映像をもって脳がパルス信号を全身へ伝達することで、体温調節中枢や痛覚等の神経系を刺激。
それにより物理的、精神的感覚を体感することに成功する。
これにより、ハイパーリアリティーの世界を実現したのである。
これを受け、世界中のあらゆる企業が参入、提携し、様々な機能を有することとなる。
オンラインショッピング、マネーバンク機能、通信機能、GPS etc...
生活しうる上で必要な機能はヴリュード1台で全て備えており、これにより普及しているスマートフォン等のモバイル端末は衰退の一途をたどる。
ヴリュードは瞬く間に世界中へと広がり1人1台所持する時代へと変わったのである。
そして、現在━━
和やかな光が森の隅々まで広がり闇を後退させていく。
コウは瞼越しに太陽に刺激されゆっくりと目を覚ました。
(うぅ……なんだ…どうなった…たしか空に顔が現れて……world of fantasy がどしただっけか……)
思い出そうとしたが少し混乱しており、状況が掴めないでいた。
しかし、直ぐにもう一人の存在を思い出す。
「マドカっ!? 無事か!?」
「うぅ…うん…大丈夫…」
コウは、とりあえず時間を確認しようと、ヴリュードに電源を入れた。
(時間は7時…。えっ、朝の7時!? 意識を失って…くそっ、だいぶ時間が経っちまった……)
「マドカ、どうやら朝まで気絶してたみたいだ」
「うそ!? …でも確かに空が晴れて気持ちいいわね…あれ、何だったのかしら?」
マドカは立ち上がり、体に付いた砂を払い落としている。
「…わかんねぇ。 ここでは情報もないし…とりあえずみんなが心配だ。 洞窟に行ってみるか?」
「そうね…。 確かに考えてもわからないわね。 それに朝になったのに戻ってこないなんて……コウ、行こう!」
「じゃあ、とりあえず足跡を追って洞窟に向かい、暗くなる前に戻るか」
コウも立ち上がり、時間を確認を終えたヴリュードの電源をオフにした。
荷物をリュックに詰め込み、他の荷物はそのままに砂浜を抜け森の中を進んでいく。
頭の中はのあの出来事のことでいっぱいだ。謎の顔、謎の言葉。
コウはworld of fantasyのプレイヤーである。ランキングは低く、他の6人に比べるとそこまで熱狂してるわけでもなかったが、定期的に発生するイベントに参加するくらいには好きである。
スケジュールは頭に入っていたはずだが、昨日のイベントは知らない。
world of fantasy はあまりにもリアルである。
だが、あれはそれとは違う異常なリアルさであると感じていた。
「マドカ」
「ん?なに?」
「俺の知ってる限りだと、world of fantasyにあんな仕様はないと思うんだけど…イベントとかでもないよな?」
「ないと…思う」
んーっとマドカは考えるが、やはり分からなかった。
そのまま20分程歩き続けると、洞窟の入り口へと2人は辿り着いた。
中は一切の光を喰い尽くすように闇が広がっている。
「ん?」
コウが反応する。
「どうしたの?コウ」
「ちょっと待って」
マドカをその場で待機させ、一人で洞窟へ近づいていく。
すると、洞窟の奥からか突如風が吹いた。
風といっても髪の毛か少し揺れる程度のそよ風だ。
ただ、それは自然の風という感じではなく獣の吐息のような生暖かさだった。
見ると、入り口付近地面の草が少し潰れている箇所があり、何かの足跡のようである。
足跡を調べようと近づいていくコウ。
その時、横の草むらがキラッと光るのを右目の端に捉えた気がした。
気になったコウは、そちらへと体を傾ける。
刹那、風が頬を掠めた。
(イタッ!)
頬に一筋の傷がつき、ツーっと血が流れる。
「……え?なんだよ……」
「ねぇっ!どうしたの?」
コウの背後にいるマドカからは様子が分からない。
しかし、コウはマドカの声に反応をしない。
コウは集中し目を凝らして見る。
が、前にも後ろに何もない。
不安そうな顔をしたマドカがいるだけだ。
コウは腰に刺していたサバイバルナイフを素早く取り出した。
なんとなく、ほんの少しの違和感を感じる程度。
ただそれだけだ。
コウはサバイバルナイフで宙を斬ってみた。
しかし、もちろん手応えの一つも感じない。
「…なんだったんだ?」
警戒しつつ洞窟の入口へとさらに近づいていくコウ。
すると、突如背中に衝撃が走る。
肩から脇腹にかけて、斜めに切り裂かれた。
咄嗟に振り向くが、しかしそこには何もない。
「キャッ!ちょっと何?!何なの!!」
「━━痛っ! なんだよ! どうなってんだよ! わけわかんねぇ。クソッ…何かいるよな! マドカ!見えたか?」
背中から血が流れているのを感じる。
「見えなかったわ! コウの背中が突然切られたことしか…コウ、出血が多いわ!」
「だ、大丈夫だ!マドカはもう少し下がってろ!」
コウは警戒しつつ、ジリジリと洞窟へと後退していく。
そして、前を見ながら背後の洞窟内へと叫んだ。
「おーい! 誰かいないかぁー!」
しかし、自分の言葉が反響しているだけで誰からの返事もない。
「…なんなんだよ」
コウは一瞬悩んだが、このままここにいるのは危険だと思い、洞窟内へ入ることを決めた。
「マドカ! よく分からないがここは危険だ! ひとまず、洞窟に入るから回りこんでこっちに来い!」
「わ、わかった!」
コウは洞窟内を照らす為に、ライト機能があればと思い、ヴリュードをオンにする。
━━ッ!
すると、電源オンと同時に目の前には、日の光に照らされて輝く銀色の毛並みが現れたのだ。
「━━おいおい、……シルバーファングじゃないか……まてまて、ゲームは起動してない…よな?」
ワールドオブファンタジーで有名なモンスター。
銀の毛色が眩しい狼である。
序盤で遭遇しようものならば、プレイヤーはほぼ殺されてしまうだろう強敵である。
焦ってヴリュードをオフにする。
すると、シルバーファングは目の前から一瞬にして姿を消した。
「……消えた……?」
ブシュッー!!
突如、コウの脇腹から血が吹き出し、歯形の様な傷がついたと思えばそのまま肉を抉られる。
「うぐぅぅ!」
「コオオオウゥゥ!」
マドカはゆっくりと回りこんでいたが、足を止め、叫んだ。
一目で致命傷だと分かるくらいに多量の血液が流れ、内臓の一部までも抉れた脇腹。
その惨状に死が目の前まで迫っていることをコウは悟る。
コウは後に退りながらヴリュードを起動する。すると、口を深紅に染め上げ血の涎を垂らすシルバーファングが再度姿を現した。
腰を低く落とし、足に力を込めている。
爪は土にめり込み数秒待たずして攻撃してくるだろうことは誰の目にも理解できた。
「……くそっ、まずいな…」
コウは脇腹を手で抑えるが、出血が酷い。背中の裂傷からもまだ流れている。
「あ…あ………」
マドカはコウの惨状と恐怖から、膝から崩れ尻餅をついた。
シルバーファングは待ってはくれない。
━━ドンッ!
シルバーファングは力一杯に突進した。
その瞬間速度は凄まじく、最高速度に達した新幹線とかわらない。
コウは左腕の肘を横に曲げ胸の前に突き出した。
限界まで開かれた真っ赤な顎が勢いそのままにコウの前腕へとかぶりつく。
「ぐあぁぁーー!」
腕の痛さに加え突進された衝撃が脇腹に響き、覚悟してたにも関わらずその激痛に叫ばずにいられなかった。
シルバーファングは自身にも衝撃が伝わるが口は一切弛めない。
コウは多量出血により意識が朦朧としてきた。
しかし、ここで気を失えば、そのまま死ぬことは分かっているため、気力を振り絞る。
コウは、未だに腕にかぶり付いているシルバーファングの顔に手を添え、そして小さく呟いた。
「堕天之微笑」
コウの周囲の空気がぶれる。
黒い揺らぎが現れ、背後に天使を象った黒いオーラが発現。
大きな2対の翼を広げ、コウを後ろから包み込むように寄り添い、それは微笑みながらコウの右腕を介しシルバーファングへ力を注ぎ込む。
━━ッ!
突如として、シルバーファングは全身を沸騰でもさせているかのようにボコボコと膨らませ始めた。
そして醜悪な体貌へと変化し、悶え苦しみ腕から離れた。
「キャィィイイン!!」
その断末魔の声を最後に爆発した。
頭から爪先まで余すことなく木っ端微塵となり、辺り一帯を肉片と血で紅く染め上げた。
「はぁ…はぁ……危なかった…。派手に噛みつきやがってバカヤローが……。クッ、とりあえず回復しないとやばい…」
コウは出血が止まらない脇腹へ手を添え言葉を紡ぐ。
「天使之涙」
右手に金色のオーラを纏う。
綺麗な円形を形成し、それは指先へと集まり凝縮。
そして一滴の涙程の大きさになり、ポチャンと傷口へ落ちた。
すると一瞬にして、何事もなかったように元の傷一つない肌へと変わる。
コウは同じようにして腕と頬の傷を治す。
「……はぁ…はぁ、危なかったー。…でも、傷が治っただけで血が足りないな……。クラクラする…。……はぁ…はぁ…」
ヒーリングは傷を治すが無くなったものを戻すことはない。
コウは現状、失った血液量が全体の30%近くまで達しており、出血性ショックの症状が現れていた。顔は青白く体温は冷たくなっていた。
コウは目を閉じイメージする。
血液が身体の隅々までを巡り、冷えきった指先まで温める。
ついでにと破れた服も修復された形をイメージ。
そして言の葉を紡ぐ。
「大天使之慈悲」
コウの周りの空間が揺らぎ、金色のオーラが発現。金色の輝きはコウの背後へ収束し、翼を正面に交差させた大天使を顕現した。
今にも飛び立つ勢いでバサッと広げれば、光の粒子と金の羽が宙に舞う。
麗らかな日和に降り注ぐ温かく優しい光のように、コウの全身を柔らかく包み込む。
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