世界がゲーム世界へ━━異世界から来たのにまた巻き込まれた俺━━

太郎衛門

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無人島編

洞窟

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「うぅ…ひっく…ひっく…」

「まどか、大丈夫か!?」

「ひっく、バカッ!それはこっちのセリフよっ! もうダメかと思ったじゃない…。 よかった…よかった」

「…ああ。 俺もちょっとダメかと思ったよ…ははっ」

「笑い事じゃないわよ! もうっ! それにアレは何だったのよ!?」

 コウの元気な姿を見て、調子を取り戻していくマドカ。

「あれは…シルバーファング?」

「違うわよっ! コウの、あなたがやっていたアレよ!変なの出てきたと思ったらバンッてなるし、あなたの傷も全部元通りだし」

「あ、えーっと…。 特殊能力?てきな…?」

「何よそれ。もう…。後でちゃんと説明してもらうわよ!  とりあえず今はさっきみたいのがまた来ないうちに移動しようよ」

「う…そうだな。 移動もそうだが、ちょっと一旦整理しようか」

 キョロキョロと辺りを見回すマドカ。

 一先ず落ち着いたコウは、洞窟や周囲の森から他にモンスターが来ないか意識を向けつつ考えることにした。
  
「そうね。 ちょっといきなり色々ありすぎて訳分かんないわ」

「だよな…んと、空に突然あのよくわからないのが出てきて、この世はworld of fantasy になった様なことを言っていた…。よな?アレ自体よく分かんないし…world of fantasyのイベントか…? いやいや、違うよな…聞いたことないし、何か違う気がするし。 世界がリアルにworld of fantasy になった? 言葉通りならこの世の全世界か?  どう思う?マドカ」

「…何とも言えないけど…あの動物みたいのは現実で見たことはないわね。 world of fantasyで見たやつとそっくりではあるけど…もしそうなら、そうなのかもしれない。信じられないないけど…」

「もしそうだとして、このデバイスは…あれ?マドカは、あの狼のヤツ見えてた?」

「もちろん、見たわよ。といっても、最初からじゃなくて、あなたが…あの…脇腹から出血したの見えて、恐くて尻餅をついた拍子にヴリュードに電源が入って…そしたら突然現れたわ」

「やっぱりそうか…これが、視認する手段…。マドカ、電源は入れておけよ」

「う、うん。これが無いと見えないのね…」

「ああ。ということは、生き残る為にはヴリュードは必須だな。ほんとに世界が変わっているならばだ。そして、さっきのようなのがまだいるならば、所持していない奴は……。起動しないとモンスターは見えず、攻撃を受ければリアルに死ぬ…と。ヴリュードを無くしたり壊れたらやばいな…それから、奴の目的は世界の浄化? それが何かはわからないしどうすれば元の世界に戻るのか、だな。それから5人のことも心配だし、とりあえず本島に戻らないと…」

 コウはそんなことを喋りながらヴリュードを操作していると、今まであったworld of fantasy のアイコンは無くなっており、見たことのない"personal info"というアイコンがあることに気付いた。
 とりあえず押してみる。  

 すると、目の前にウィンドウ画面が表示され、氏名に現在の職業、スキルやランキング等が表示された。
 職業は"武道家ファイター"となっており、これはコウのworld of fantasyで選択した初期職業である。
 ランキングもそのままに下から数えた方が早い順位であった。

「おい、これ…ゲームの世界そのままだな。 ストレージも使えるみたいだ。中身はと……お、残ったままだ!」

「これは……」

 コウに言われてマドカも自分のヴリュードを操作し確認してみた。

「ほんとにゲームね…」

「だな。 じゃあ、ここも安全か分からないし、みんなを探さなきゃだから、ゆっくり洞窟に入ってみるけどいいかな?」

「う…恐いけど……いこっ」

 コウとマドカはウィンドウを消し、闇の深い洞窟内へと姿を消していった。 

 ┼┼┼

 一歩足を踏み込めば前後左右に漆黒の闇が広がる。鼻腔を抜ける、刺激ある湿ったカビ臭が充満し、深呼吸しようものならすぐに咳き込むだろう。

 コウはウィンドウ画面を表示しストレージを確認する。

 ストレージとは、ゲーム内での武器、防具、アイテム等を保管する場所、所謂アイテムボックスとか倉庫と言われている機能である。
 収納容量は有限であるが、時間は停止しており物は劣化をしない。
 ただし、食べ物等の生物なまものは制限時間があり、腐りはしないが時間と共に消滅する。
 傷みはしないが消えてしまう為に、気付けば無くなっているということが多々あり、時間の経過で食べることができなくなるという点においてはあまり変わらない。
 もちろん、ストレージから出しておけば物はいずれ腐る。

 コウは暗闇を照らしてくれるアイテムを探していた。

「んー、輝昌石きしょうせき光玉こうぎょくだな」

 輝昌石━━
 永遠と輝き続ける石。ローソクの代わりに燭台に設置したり身に付けたりと汎用性が高いが、効果範囲はそこまで広くない。
 
    光玉━━
 光が封じ込めれている手のひらサイズの玉。閉鎖された空間で使用すればその全ての闇を取り払う。ただし、眠っているモノ全てを起こす。

 コウは安全を考え、輝昌石入りのランプを人差し指でそっと押す。
 するとウィンドウ画面からポンっという効果音が聞こえてきそうな勢いで飛び出した。それは燦然と輝き辺りを照らす。

「うわっ」

 驚きの声を上げるマドカ。

「ほんとに出たな」

 光に照らされ浮かび上がるは到底自然に空いたとは言えない洞穴の壁。
 天井も横壁も地面も全て磨きあげられたような黒い鏡面の石壁であった。
 一本道の通路で道幅が10メートルはあるだろうか。
 天井までは5メートル程。
 見上げれば曲線のあるアーチ状のようである。

「なんじゃこりゃ…… ただの洞窟じゃないよな…世界が変わった影響なのか?」

「なんだか恐いわ…誰かが作ったみたい」

 コウとマドカは驚きつつも警戒は怠らず進むことにした。
 さっきのような奴に遭遇すること無く、代わり映えしない一本道をしばらく歩いていると下へ降りる階段へとたどり着いた。
 先は行き止まりである。

「おりるか? マドカ、大丈夫か」

「う、うん。大丈夫、おりよう」

 コウが先頭に、警戒しつつゆっくりと階段を下りていく。
 コウは辺りに何の気配がないことに少し気を緩めつつ地下を目指す。
 5メートルもの高さが1階もあるのだろう。
 階段の段数は多く、一段一段慎重に踏みしめる。淡い光の中の黒階段は視界が悪く、鏡面でつるつるとして滑りやすい。
 転げ落ちた日には怪我どころの騒ぎじゃないだろう。

「マドカ、ゆっくり。滑り易いから気を付けろ」

「うん」

 そして、ゆっくり下りていけば難なく1階へと辿り着く。
 そこは最初と同じ一本道が続いていたのだが、50メートル程で道は終わり行き止まりであった。
 そこには深紅に彩られ、氷の様に冷ややかな金属扉が行く手を阻む。
 大人の身丈程の高さで両開きの扉はピッタリと口を閉じている。

「コウ、あそこしか先はないけど…」

「そうだね、…うーん、なんかあまりいい感じしないな…」

 2人は扉の前まで移動をした。
 そして、ふと横壁を見ればそこにはメッセージが彫られていることにマドカが気付いた。

「ねえ、見て」

「ん?」

 コウはマドカに言われて、そこで初めてメッセージに気付いた。

 『力ほしくば汝、力を示せ。 然らば道は開かれん。 一度この扉通らば戻ること罷り成らん。 数多の試練待ち受けし道、最奥にて待たむ』

「なんじゃこれ。 ゲームでありそうだな…」

「そうね…。こういう時って、大抵戦闘になるわよね」

 マドカは両方の二の腕を掴み、ブルッとする。


「とりあえず開けるぞ?」

「わ、わかったわ」 

 コウは寒気のする雰囲気に一瞬引き返そうかとも思ったが、5人のことも心配であったため、戦々恐々としながらゆっくりと扉を押し開けた。

 広間からお馴染みのカビ臭に加え、鉄分と腐った肉の混じりあった様な臭いが漂い、コウの胃をひくつかせた。

「この臭いは……マドカ、ちょっとここで待ってて」

「えっ、ちょっとコウ!」

 このまま中には入れそうにないコウはストレージにしまってあった"ボロきれのスカーフ"を顔に巻いた。
 そして警戒しながらも、マドカを置いて中へと足を踏み入れた。

「くっさ! この布くっさ! うっぷ…」

 結局、巻こうが巻きまいが臭いのは臭かった。

 広さは野球でもできそうなドーム程の広さ。
 鏡面の黒石が全てを造り、ポツポツと天井に貼り付けられた輝昌石が光を灯す。

 よくよく目を凝らせば、広場の中心には黒い影に被われた巨大な体躯の塊がいた。

 小刻みに動いている。

 そこには血溜まりがあり、ソレは一心不乱に何かをむさぼり食っていた。
 倒れているのは銀色の毛皮。
 シルバーファングだ。

 シルバーファングは血溜まりを作り、その身を肉の塊へと姿を変えていた。
 コウはその光景を眼にいれた時、それが人で無かったことに安堵した。

 (相手が気づいていないなら…ここは逃げよう)

 気配を殺し、音を立てないようにゆっくり慎重に下がっていく━━

 ドンッッッ!!

 突如、勢いよく後ろの扉が閉まった。

 コウはその音に首だけを振り返る。

「マドカッ!!」

 が、ハッとし正面を向けば黒い塊は食事を止め、屈んだまま鋭い眼光でこちらを見ていた。

 そして徐に立ち上がり━━

「グオオォォォォーーー!!」

 雄叫びを上げた。
 ビリビリと大気を揺らす。
 扉の音で食事を邪魔されたからなのか、コウがこのフロアへ足を踏み入れたからなのか、牙と殺意を剥き出し威嚇した。

 そして、淡い光に照らされ総身が露になる。

 口の上下から牙を生やし血に顔を赤く染め、三白眼で全身毛に覆われている。
 筋骨隆々で片手には遠目でも分かるほど大きい無骨な鉄の棒をぶら下げている。

 コウは顔に巻いたスカーフを取り払い小さく呟く。

「まじかよ…狂食族クレイジーイーター…。マドカは扉の向こうか…」

 狂食族━━
 その食に対する執着は凄まじく、人間、敵、味方、モンスター関係無く襲いかかる。
 それ故、族とはいっても群れをなさない。
 あまりに狂暴かつ獰猛で、諸説にはドラゴンや魔王といった格上の相手にでも襲いかかったとされている。
 一目見た者は口を揃えて同じことを言う。
 あれは鬼である、と━━━

 刹那、地面を蹴ってイーター狂食族はコウへと数歩で距離をつめ、渾身の一撃を降り下ろした。
 予備動作もない突然の攻撃にもコウは反応し、バックステップで避ける。

「ッ……!」

 が、その一撃はあまりに早く僅かに頭を掠めた。血が額を伝い顎から滴り落ちる。
 一瞬クラッと意識が飛びかけるが、歯を食いしばり耐え、さらにバックステップで距離をとる。

 地面へ降り下ろされた鉄棒は大気を震わす轟音を響かせ、地面の黒石に亀裂を入れていた。

 コウは地面の状態からその一撃に計り知れない威力が込められていると理解し、背中に冷たいもの流れるのを感じる。

(一発食らえば即アウトだな…)

 イーターは鉄棒を肩にかけると足にグッと力を入れた。

「グガァァアアアーーー」

 空気を揺らす雄叫びあげ、イーターは再度疾風のごとき早さで至近距離。
 鉄棒を降り下ろす。
 コウがそれを体一つ分サイドステップでかわせば、地面を叩いた反動で下から斜め上へ鉄棒をひるがえす。
 コウは腰を落としそれを避ける。
 凄まじい風圧が足下から頭へ抜け煌の髪をかきあげる。

 イーターは三度避けられると思っていなかった。
 一瞬体を硬直させる。
 しかし、それは命の奪い合いでは命取りである。
 腕を振り上げたイーターの胴部ががら空きになる。

 コウは咄嗟に武道家のスキルを発動させた。
 使用方法か何故か頭に浮かぶ。

「はああああああぁぁ! 正拳突きーーー」

 魔闘気を一瞬にして拳へ収束し攻撃力を高めた一撃。
 鋼鉄より硬くなった拳がイーターへと吸い込まれた。

 ━━ドッグォォォオ!

「グォォオオーーー」

 激しい打撃音と共にイーターは唾液を撒き散らし悶絶する。
 コウは間髪入れずに畳み掛ける。

飛翔天脚ひしょうてんきゃく!」

 一度舞うように宙へ飛び上がり、滑空するようにイーターへ向け飛ぶ。
 高密度の魔闘気を帯び蹴りを下顎へと叩き込んだ。

 下から生える牙2本がへし折れ、ぐるんっと白目を剥く。
 ゆっくりと顔から硬い黒石畳へと倒れ全身で地面を叩いた。

 煌は止めとばかりに、さらけ出された背中へと最後のスキルを放つ。
 煌がファイターとして使用できるスキルは未だ3つである。

 最後のスキル━━━

震脚しんきゃく!!」

 足で地面を踏みつけ地面を揺らす技である。

 ━━ドォウゥゥンン!

 イーターは背中を支点に体をくの字に曲げる。
 衝撃は腹に抜け黒石畳に亀裂を入れた。
 蜘蛛の巣状にヒビが入り、すり鉢の形に陥没する。
 フロア全体が揺れ、その衝撃の強さを知らしめる。

 細かい粉塵が舞い上がった。

 コウは足をどけ、少し下がり距離をとった。
 首筋を一筋の汗が伝う。

(頼むから起きるなよ……)

 煌の願いが通じたかどうなのか、イーターは悲鳴をあげる間も無いまま、光の粒子となって空中へと溶けた。

 見れば先程のシルバーファングも血溜まり一滴残さず跡形もなく消えていた。

「ふぅ~、まさか狂食族とはね。きっつかったぁー。本当、鬼だな! こいつって、数人がかりで倒す奴だったよな……倒せて良かった良かった」

 コウはこんな事がこの先も続くのかと思うと辟易し、天を仰いで嘆息した。

 さて、どうするかと目線を降ろすと、先程まで無かった奥へと続く道が開放されていた。

 そして、後ろの扉もちょうど開いた。
 イーターを倒せば扉が開く仕様だったようだ。

「コーウ! どうしたの?! どうなったの?!」
 
    半べそをかきながらマドカが走ってやってきた。
 走る度に揺れる胸にコウは目が釘付けだ。

「でかっ」

「でかって? 何?ここにデカイのがいたの?!」

「いや、まあその…そう!クレイジーイーターが━━━」

「えっ!? クレイジーイーターって、あのクレイジーイーター?!」

「…たぶんそのクレイジーイーター…です」

「うう……生きててよがっだ…うぅ」

 マドカはそう言うと、コウに抱きついた。

「おいおい!」

「うぅ……ひっくひっく…」

「ったく、しょうがないな…」

 仕方なくコウはマドカの頭を撫でる。

 (つーか当たるし!)
 頭の中は別のことでいっぱいだったが。

 
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