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エジプト編
カイロ
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朝焼けの明るい光が部屋を朱に染めた。
━━ぐぎゅるるる。
コウのお腹が早く何か食べろと煽るように音を立てる。
コウは今日も変わらない太陽の明かりと、猛獣のうなり声のような空腹の音で目を覚ました。
「ふぁ~ふ。 あー、腹へったぁ」
マドカは別の部屋で寝ているため、ここにはいない。
「よし、寝起きドッキリでもするか」
起きるやいなや部屋を出ようとした。
と、そこへハキム。
「起きたか。…しかしすごい腹の音じゃな。響いてたぞ? 何か食べさせてやるから、外の瓶の水で顔でも洗って待っとれ」
「まじすか…。 恐れ入ります…」
コウは言われた通り顔を洗いに外へ。
と、見せ掛けてマドカの寝室へ行ってみるが、そこは既にもぬけの殻だった。
どうやら先に起きていたようであった。
コウはハキムに言われた通り、外に出て顔を洗おうと瓶を探しに外へ出た。
深呼吸をし、朝の澄んだ空気を肺にいれる。すっかり疲れもとれた体を綺麗な酸素が巡る。
そして、裏手にある瓶を見つけ、近くに置いてある柄杓で水を掬い顔を洗った。
(空気も水もきれいだし水もうまいし、いい環境だなぁ)
そんなことをぼんやりと考えながらテーブルに戻り、少し待っているとハキムがテーブルへとやって来た。
「ほれ、朝食じゃ。時間がちと早いがのー」
「おー! ありがとうございます。これはなんです?」
「アエーシとフールじゃ。アエーシはエジプトのパンでフールは豆の煮込み。どっちも庶民の朝食じゃよ」
どちらもエジプトの代表的な家庭料理で朝食メニューの一つである。
ふっくらと膨らんだ焼きたてのパン。
割ると中は空洞で湯気が立ち上った。
「いい匂ーい! もうペコペコ」
マドカがお腹を押さえながら入ってきた。
「マドカ! どこ行ってたんだ?」
「寝汗でベタベタだったから汗を流してきたの」
マドカはエジプトでよく見るような白装束に身を包んでいる。
「そうか。 じゃあ、一緒に食べようぜ」
そう言うと、コウは少しちぎって一口食べてみた。
ほかほかと温かく、もちもちした食感が味わえた。
「うまーい」
「私にも!私にもちょうだい!」
ハキムはマドカの分も用意すると、コウの向かいの椅子に腰を下ろし微笑んで見ている。
フールはたっぷりの水で煮た空豆をスパイスや塩胡椒で味付けし、刻んだ玉ねぎをのせ少量の油をかけた料理だとハキム説明した。
赤く煮込まれた色彩と鼻をくすぐるスパイスの香りがコウとマドカのお腹を刺激した。
マドカは大きなお腹の音を鳴らし、すぐさまアエーシをちぎりフールを掬い口に運ぶ。
「うまいです!ハキムさん」
「それはよかった」
コウはうまいうまいとだけ言い、パクパクと一心不乱に食べ、あっという間に平らげた。
キュッと縮んでいた胃袋がほどよく膨らみ満腹を告げる。
┼┼┼
太陽が昇ってからだいぶ時間は経ってた。
気温も既に汗が滲むほどまでに上昇している。
「で、これからどうするかは決めたのか?」
満腹になり一息ついたコウよりも満足そうな表情でハキムは言った。
「はい、もちろん最終的には日本に帰りますよ。 でも手段がないから、とりあえずは世の中がどうなったかを整理しつつ、その方法を探します。 で、相談なんですが…お金が無いので少しの間お世話になってもよろしいでしょうか……?」
「そうかそうか。 わしは構わんから好きなだけ居なさい」
「ありがとうございます!」
「ありがとう!ハキムさん!」
コウはマドカに相談せずにハキムへと話したが、これといって他に手がないため、特に反対もしなかった。
「じゃあ、とりあえず街を見てきます」
「ああ、気をつけてな。あ、二人ともこれを着ていきなさい。 その腕にはめている機械…ヴリュードじゃったか?外を歩くときはそのローブで隠すのじゃ。 それを奪おうとして襲ってくる者がおるし、金持ちの力のある連中が下の者から奪取しとる。なんでも、壊れたら直せる者がおらんし、もう購入もできんからモンスターと戦うには数が必要になるんだと。…とにかく気をつけてな」
「わかりました…ありがとうございます。 借ります」
コウとマドカは白いローブを受け取り羽織る。目元以外、頭まですっぽりと隠れる仕様だ。
「しかし横暴ですね。 ヴリュード無しじゃ、外も歩けないのに…、…あ、そう言えばハキムさんは付けてないですね」
「買えなかったんじゃよ。 うちはそこまでお金回す余裕なかったんでのー」
「そうなんですね……。 じゃあ、少し待ってて下さい」
「コ、コウ━━!」
マドカの声が室内に響き渡る。
コウはそういうと、外の瓶がある人目のつかない場所へと移動した。
周りを確認しヴリュードを外すと、地面に置いた。
近くに薪割り用の斧があったので、手に取り振りかぶる。ブォンという風を切る音が鳴る。
(よし、膂力はファイターのままだな。 思った通り一度ジョブを選択すればヴリュードを外しても変わらないみたいだ)
コウはもう一度斧を振りかぶり、ヴリュードへと叩きつける。
カァーンという小気味よい音を響かせ真っ二つに割れた。
(よし、うまく割れた!あとは…)
コウは壊れたそれらへ手をかざし、元のきれいなヴリュードをイメージする。
「大天使之慈悲」
光の粒子と金の羽が宙を舞う。ヴリュードへと流れた光が消え去り静寂がおとずれると、そこにはきれいな元のヴリュードが2つあった。
コウはにっこりと満面の笑顔でそれらを拾う。
「よし。後は初期化すればオッケーだな」
一つを腕にはめ直し、もう一方を操作し初期化処理する。
「これで情報は一つも残ってないな? 後は……うん、大丈夫そうだ」
まっさらになったヴリュードを抱えハキムの元へ戻った。
「お待たせしました!…ってあら?」
目を瞑りコウが戻るのを言われた通り待っていたハキム。
先程と変わらない体勢でイスに座ったままだが、よく聞けば寝息が聞こえる。
ついでに隣でいびきをかいているマドカ。
「寝るの早やっ! ハキムさん起きて!」
「んん……? あぁ、ごめんごめん。朝早かったから眠気が抜けんでの。で、どうしたんじゃ?」
「そうでしたか。起こしてすいません。どうしてもこれを渡したくて……」
「それはええんじゃが、と、これはヴリュードではないか。今や貴重な物なのにええんか?」
「いいんですいいんです。ハキムさんにはお世話になりっぱなしだし、たまたま2つあったのを思い出したくらいの扱いの物ですし。ぜひ使ってください」
「……それなら。コウよ、ありがとな。じゃあありがたく使わせてもらうよ」
「はい! じゃあ、ぼちぼち散策してきますね。 マドカおきろっ! いくぞっ」
「お腹いっぱい」と言うねぼけているマドカ。
コウは起きないマドカをそのままに、振り返らずハキムへパタパタと手を降りながら家を後にした。
┼┼┼
コウは現在、街の中心部にまでやってきた。
住民も観光客もいるはずなのだが、決して活気に満ち溢れているとは言えない。
市場のある通りは人の往来があるものの、皆どこか影を落としているように見える。
理由もちろん世界が変貌したことに起因する。
モンスターが突然現れ、エジプト各地で被害者が続出。
とりわけカイロは人口が多いだけに被害者数は多数に上った。
それを受けて大統領は禁足令を発表した。
安全性が確保されるまでは基本的に外出禁止。
ヴリュードでモンスターを認識できることが解ると、例外として所持してる者同伴でなら外出許可を出した。
ただ、罰則を設けたわけではないから生活のためにと外出する者は後を絶たない。
これによりヴリュードの需要は過熱。
しかし、人口に対するヴリュードの数は圧倒的に少なく、瞬く間に売り切れとなり市場からは姿を消した。
モンスターに挑み壊す者、扱いが悪く故障させた者の中には、購入がストップしたことにより所持している者を襲い始めた。
力試しにという理由で人を襲うもの、売る目的で狩る、ヴリュード狩りも現れ治安が悪化の一途を辿る。
大統領は軍隊を導入し、何とか鎮圧に成功するが完全に治安回復とはならなかった。
この様な現象は世界中でも実は起こっていた。コウの知るところではないのだが。
人々は、モンスターや悪意のある人間に恐怖し外出できず、身内や知り合いがゾンビになることで悲しみ、時間と共に神経が疲弊していった。
大統領はこの状態を打破するべく、カイロに突如出現したピラミッドの解明に躍起になっている。
軍隊を向かわせているが、現地の力のある富裕層に先遣隊を組ませ突入させようとしていた。
迷宮踏破すれば報奨金を出すと宣言している。もちろん、先遣隊問わず誰でもと。
この大統領の発言は一部の人々を活気づけ、重い空気に包まれているエジプトに少しの光が射し込んだのであった。
━━ぐぎゅるるる。
コウのお腹が早く何か食べろと煽るように音を立てる。
コウは今日も変わらない太陽の明かりと、猛獣のうなり声のような空腹の音で目を覚ました。
「ふぁ~ふ。 あー、腹へったぁ」
マドカは別の部屋で寝ているため、ここにはいない。
「よし、寝起きドッキリでもするか」
起きるやいなや部屋を出ようとした。
と、そこへハキム。
「起きたか。…しかしすごい腹の音じゃな。響いてたぞ? 何か食べさせてやるから、外の瓶の水で顔でも洗って待っとれ」
「まじすか…。 恐れ入ります…」
コウは言われた通り顔を洗いに外へ。
と、見せ掛けてマドカの寝室へ行ってみるが、そこは既にもぬけの殻だった。
どうやら先に起きていたようであった。
コウはハキムに言われた通り、外に出て顔を洗おうと瓶を探しに外へ出た。
深呼吸をし、朝の澄んだ空気を肺にいれる。すっかり疲れもとれた体を綺麗な酸素が巡る。
そして、裏手にある瓶を見つけ、近くに置いてある柄杓で水を掬い顔を洗った。
(空気も水もきれいだし水もうまいし、いい環境だなぁ)
そんなことをぼんやりと考えながらテーブルに戻り、少し待っているとハキムがテーブルへとやって来た。
「ほれ、朝食じゃ。時間がちと早いがのー」
「おー! ありがとうございます。これはなんです?」
「アエーシとフールじゃ。アエーシはエジプトのパンでフールは豆の煮込み。どっちも庶民の朝食じゃよ」
どちらもエジプトの代表的な家庭料理で朝食メニューの一つである。
ふっくらと膨らんだ焼きたてのパン。
割ると中は空洞で湯気が立ち上った。
「いい匂ーい! もうペコペコ」
マドカがお腹を押さえながら入ってきた。
「マドカ! どこ行ってたんだ?」
「寝汗でベタベタだったから汗を流してきたの」
マドカはエジプトでよく見るような白装束に身を包んでいる。
「そうか。 じゃあ、一緒に食べようぜ」
そう言うと、コウは少しちぎって一口食べてみた。
ほかほかと温かく、もちもちした食感が味わえた。
「うまーい」
「私にも!私にもちょうだい!」
ハキムはマドカの分も用意すると、コウの向かいの椅子に腰を下ろし微笑んで見ている。
フールはたっぷりの水で煮た空豆をスパイスや塩胡椒で味付けし、刻んだ玉ねぎをのせ少量の油をかけた料理だとハキム説明した。
赤く煮込まれた色彩と鼻をくすぐるスパイスの香りがコウとマドカのお腹を刺激した。
マドカは大きなお腹の音を鳴らし、すぐさまアエーシをちぎりフールを掬い口に運ぶ。
「うまいです!ハキムさん」
「それはよかった」
コウはうまいうまいとだけ言い、パクパクと一心不乱に食べ、あっという間に平らげた。
キュッと縮んでいた胃袋がほどよく膨らみ満腹を告げる。
┼┼┼
太陽が昇ってからだいぶ時間は経ってた。
気温も既に汗が滲むほどまでに上昇している。
「で、これからどうするかは決めたのか?」
満腹になり一息ついたコウよりも満足そうな表情でハキムは言った。
「はい、もちろん最終的には日本に帰りますよ。 でも手段がないから、とりあえずは世の中がどうなったかを整理しつつ、その方法を探します。 で、相談なんですが…お金が無いので少しの間お世話になってもよろしいでしょうか……?」
「そうかそうか。 わしは構わんから好きなだけ居なさい」
「ありがとうございます!」
「ありがとう!ハキムさん!」
コウはマドカに相談せずにハキムへと話したが、これといって他に手がないため、特に反対もしなかった。
「じゃあ、とりあえず街を見てきます」
「ああ、気をつけてな。あ、二人ともこれを着ていきなさい。 その腕にはめている機械…ヴリュードじゃったか?外を歩くときはそのローブで隠すのじゃ。 それを奪おうとして襲ってくる者がおるし、金持ちの力のある連中が下の者から奪取しとる。なんでも、壊れたら直せる者がおらんし、もう購入もできんからモンスターと戦うには数が必要になるんだと。…とにかく気をつけてな」
「わかりました…ありがとうございます。 借ります」
コウとマドカは白いローブを受け取り羽織る。目元以外、頭まですっぽりと隠れる仕様だ。
「しかし横暴ですね。 ヴリュード無しじゃ、外も歩けないのに…、…あ、そう言えばハキムさんは付けてないですね」
「買えなかったんじゃよ。 うちはそこまでお金回す余裕なかったんでのー」
「そうなんですね……。 じゃあ、少し待ってて下さい」
「コ、コウ━━!」
マドカの声が室内に響き渡る。
コウはそういうと、外の瓶がある人目のつかない場所へと移動した。
周りを確認しヴリュードを外すと、地面に置いた。
近くに薪割り用の斧があったので、手に取り振りかぶる。ブォンという風を切る音が鳴る。
(よし、膂力はファイターのままだな。 思った通り一度ジョブを選択すればヴリュードを外しても変わらないみたいだ)
コウはもう一度斧を振りかぶり、ヴリュードへと叩きつける。
カァーンという小気味よい音を響かせ真っ二つに割れた。
(よし、うまく割れた!あとは…)
コウは壊れたそれらへ手をかざし、元のきれいなヴリュードをイメージする。
「大天使之慈悲」
光の粒子と金の羽が宙を舞う。ヴリュードへと流れた光が消え去り静寂がおとずれると、そこにはきれいな元のヴリュードが2つあった。
コウはにっこりと満面の笑顔でそれらを拾う。
「よし。後は初期化すればオッケーだな」
一つを腕にはめ直し、もう一方を操作し初期化処理する。
「これで情報は一つも残ってないな? 後は……うん、大丈夫そうだ」
まっさらになったヴリュードを抱えハキムの元へ戻った。
「お待たせしました!…ってあら?」
目を瞑りコウが戻るのを言われた通り待っていたハキム。
先程と変わらない体勢でイスに座ったままだが、よく聞けば寝息が聞こえる。
ついでに隣でいびきをかいているマドカ。
「寝るの早やっ! ハキムさん起きて!」
「んん……? あぁ、ごめんごめん。朝早かったから眠気が抜けんでの。で、どうしたんじゃ?」
「そうでしたか。起こしてすいません。どうしてもこれを渡したくて……」
「それはええんじゃが、と、これはヴリュードではないか。今や貴重な物なのにええんか?」
「いいんですいいんです。ハキムさんにはお世話になりっぱなしだし、たまたま2つあったのを思い出したくらいの扱いの物ですし。ぜひ使ってください」
「……それなら。コウよ、ありがとな。じゃあありがたく使わせてもらうよ」
「はい! じゃあ、ぼちぼち散策してきますね。 マドカおきろっ! いくぞっ」
「お腹いっぱい」と言うねぼけているマドカ。
コウは起きないマドカをそのままに、振り返らずハキムへパタパタと手を降りながら家を後にした。
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コウは現在、街の中心部にまでやってきた。
住民も観光客もいるはずなのだが、決して活気に満ち溢れているとは言えない。
市場のある通りは人の往来があるものの、皆どこか影を落としているように見える。
理由もちろん世界が変貌したことに起因する。
モンスターが突然現れ、エジプト各地で被害者が続出。
とりわけカイロは人口が多いだけに被害者数は多数に上った。
それを受けて大統領は禁足令を発表した。
安全性が確保されるまでは基本的に外出禁止。
ヴリュードでモンスターを認識できることが解ると、例外として所持してる者同伴でなら外出許可を出した。
ただ、罰則を設けたわけではないから生活のためにと外出する者は後を絶たない。
これによりヴリュードの需要は過熱。
しかし、人口に対するヴリュードの数は圧倒的に少なく、瞬く間に売り切れとなり市場からは姿を消した。
モンスターに挑み壊す者、扱いが悪く故障させた者の中には、購入がストップしたことにより所持している者を襲い始めた。
力試しにという理由で人を襲うもの、売る目的で狩る、ヴリュード狩りも現れ治安が悪化の一途を辿る。
大統領は軍隊を導入し、何とか鎮圧に成功するが完全に治安回復とはならなかった。
この様な現象は世界中でも実は起こっていた。コウの知るところではないのだが。
人々は、モンスターや悪意のある人間に恐怖し外出できず、身内や知り合いがゾンビになることで悲しみ、時間と共に神経が疲弊していった。
大統領はこの状態を打破するべく、カイロに突如出現したピラミッドの解明に躍起になっている。
軍隊を向かわせているが、現地の力のある富裕層に先遣隊を組ませ突入させようとしていた。
迷宮踏破すれば報奨金を出すと宣言している。もちろん、先遣隊問わず誰でもと。
この大統領の発言は一部の人々を活気づけ、重い空気に包まれているエジプトに少しの光が射し込んだのであった。
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