樹属性魔法の使い手

太郎衛門

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氷の大陸編

箱と爺さんと

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 俺達は村の一番奥にある鬱蒼と生い茂る草むらの場所へと移動してきた。
 道中もそうだったが、虫の音色が聴こえてくる。
 ほんとに自然豊かだと感じさせてくれる。

 そして目的の場所へと着いた俺達の前には、サークル状に石板が敷かれ、祀っているかのように中心には見覚えのある箱が置かれていた。
 そして、周囲を埋め尽くすほどに生えた草は青色をしていた。
 形状から見て草は薬草のようだ。しかも青いやつだから、もちろん上薬草。

「━━これは……」 
「お前、まさかこれも知らないのか?!」
「いや、知ってる……上薬草だね」
「そっちじゃねーよっ!」

 と、俺の尻をパンッと叩くレビタ。

「冗談冗談。 ……これ、転移するやつだよね」
「知ってたか。━━まあそうだな。ここから溢れでた魔力残滓は周りの草を青くするんだ。 雑草は雑草でしかないが、薬草は上薬草へ変化するぞ」
       
 レビタは話しながら箱へ近づいていき、無造作に手を伸ばした。

「あっ、おいっ!」
      
 レビタは箱の蓋を開いた。
 俺は咄嗟に目を閉じる。
 しかし、瞼越しに光を感じることはなかった。

「これな、もう壊れてんだ。 まあ刻印を描けるやつはここにはいないから、確かめようがないんだけどな。でも、魔力残滓があるからこうして重宝しているんだ。 上薬草は貴重だし」

 箱の蓋を開いたり閉じたりするレビタ。
 キィキィと蓋に付いている蝶番が音を立てている。

 もし壊れてないなら……帰れるのか?
 いや、無理だ。刻印は分からないし、何より向こうに描くことができない。
 向こうに描きに行けるならこれを使う意味がそもそもないしな。
 くそっ……。

「で、これもいつまで魔力残滓が持つかわからないし、代わりになるものをと思っていたわけさ。 そしたら同じ青い魔力残滓があの場所に見つかってね。それが何なのか探してたわけなんだけど……地中深くみたいで…… また今度探してみるか」
「……そうだね」

 レビタはパタンと箱の蓋を閉じた。

 しかし、厳重に保管とかしないんだな。
 簡単に置かれているだけで、盗ろうと思えば誰でも盗れる。
 盗る意味がないのか、ここが平和なのか。
 俺の魔族に対するイメージとは全然違う…。
 まあ、そのイメージもマオに刷り込まれたものだからな。

「じゃあ、帰るか?」   
「あ、うん。 いや、ちょっと考えごとしたいから、先に戻ってて…」
「ん? あー、じゃあ…先帰るな!」

 レビタはそう言うと、さっさと帰っていった。
 一本の上薬草をむしり取りながら。

 そっちは盗るんだな。
  

 はぁ…。
 ほんと、いつ帰れるんだろ…。
 寮のベッドに身を沈めたい。
 むしろ家帰りたい…。
 家族に会いたい。マオに会いたい。
 兄は学校に来ない俺のことを心配しているのだろうか。
 迷惑かけちゃったかな。
 それに王都は、ギルドは大丈夫だったのだろうか。
 そこはもうマホンとピュールが上手くやってくれたことを祈るほかない。

 はぁ…。帰りたい…。
 いや、帰ろう。どんなに時間がかかろうとも帰ろう。
 諦めんな俺。負けんな俺。

 そんなことを考えながら来た道を戻っていると、道端に三ツ目族の老人が座っていた。
 地べたに座りながらブツブツと何かを喋っている。
 黒い髪も着ている服も砂埃で汚れ、無精髭が不揃いに生えている。
 清潔感は皆無だ。
  
 来るときにも確かいたな…。

 俺は気にせず横を通り抜ける。
   
「ん?」
   
 ふと、話かけられたような気がした俺は振り返った。
 しかし、さっきと同じで地面を見つめながらブツブツと呟いている。
 いや、よく見れば同じじゃなかった。
 さっきは開いていたはずの両目は閉じ、代わりに額の三つ目が開いていた。
 視線は…どうみても俺の目と合う。

「あ、あの……」

 正直、気味が悪かった。
 しかし、何を言ってるのか気になった俺は、じいさんのすぐ側にまで近づいていく。

「すいません……どうかしました?」

 俺はもう一度声をかけた。

 すると爺さんは一度口をつぐんだ。
 俺がじっと待っていると、突然額の目がぐるぐると回転し始めた。
 俺は鳥肌が立っているのが分かったし、帰りたい気持ちでいっぱいだったのに、何故か足は動かない。
 動かす気になれなかった。
 それどころか、気づけばお尻を地面について爺さんの正面で胡座をかいていた。

 ぐるぐると回っていた目がピタリと止まる。
 黒い瞳が俺のことを見据えていた。
 吸い込まれそうだ。
 吸い込まれそうなほど力強い視線だった。

「……小僧。たがえるなよ…」

 爺さんは黄ばんだ歯を見せ、ゆっくりと話始めた。

「……あの、すいません。 意味がわからないんですが…」

 すると、爺さんはもう一度口を閉じた。
 目が再度ぐるぐると回る。
 そして、数秒の後動きを止めた。
 が、白い部分しか見えなかった。
 瞳が俺とは逆向きに向いていた。

いちならいち……」

 ポツリポツリと話し始める爺さん。
 俺はもう口を挟まず爺さんの言葉に耳を傾けていた。

「……ならゼロ……」

     いち?に?
 なんだ?何のことだ?

「…ゼロならだ。 決して道をたがえるな……。選択を…誤ればどちらも失う…だろう……」

 と、次の瞬間。
 映像が頭に浮かんできた。
 記憶だ。
 俺の知らない記憶。

 両手を血に濡らし、真っ赤な手のひらを見つめている。
 全身がワナワナと震えているのが分かる。
 理由は分からないが、虚無感・孤独感・後悔・懺悔と言った感情が心を満たしていく。
 これは俺…なのか?
 分からない。
 誰の記憶なのか分からないが、今にいるのは俺だ。
 俺の視点、俺の感情だ。
 両目から流れる涙も感じる。

 そして俺は地面に横たわる体へ被さり慟哭した。


 一瞬だった。
 俺は意識が戻る。

 あれは何だったのか……。
 全く分からないが知ってる気がする。
 何故か心がざわざわする。

「━━爺さんっ!」

 俺は爺さんに話を聞きたくて声をかけるが、既に額の目は閉じ、両目を開いていた。
 最初と同じように、地面に視線を落とし、ブツブツと独り言を呟いているだけだった。

「爺さん……」

 爺さんはもう俺を見ることはなかった。
 俺はしばらくそのままそこにいたが、何も分からず、結局ラモンの家へと戻ることにしたのだった。
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