樹属性魔法の使い手

太郎衛門

文字の大きさ
40 / 68
氷の大陸編

戦い 1

しおりを挟む
 ━━メェェエエエエ!!

 ミルキーゴートの鳴き声がいくつも大地へと響き渡る。

 白く流れるような体毛を生やした、比較的大人しい魔物だ。
 肉はジューシーで、乳は濃厚。
 骨からも良質なダシが採れる、家畜として人気が高い。
 それが今まさに凶暴化し、三ツ目族の村へと襲撃していた。
 ━━はずなのだが。

「おいおい、ご馳走が自らやってきたぜ! ひゃっはー!」
「これが十年に一度の脅威?いやいや、 恵み? 」

 百に満たない数のミルキーゴート。
 凶暴化したとはいえ、元々が大人しい魔物であり攻撃的ではないため、武器になるようなモノを持っていない。
 角は丸く、牙もなく爪は短い。
 数で押し寄せてはいるが、片っ端から門番の二人に打ちのめされていた。

「なんともないけどさー、数が数だから疲れるな……」

 そう言いながら、門番の一人はミルキーゴートの頭に一撃を加え、テンポよく次々に気絶させていく。

「ああ。 しかし、これは今日はご馳走だな! というか、しばらくはご馳走だな。 飽きちゃうかな」
 こちらもこちらで後で村にある畜舎に入れるために、ボーラと呼ばれる狩猟用の投擲武器で、片っ端から縛り上げていた。

「━━おーい! そこの二人!」

 と、そこへ手を振りながら向かってくる鬼族の男性。
 その顔に笑顔はなく、憔悴しているようにも見える。
 馬を走らせ、休むことなく急いでここまでやって来たのだ。

「なんだおい! サンじゃねーかっ!」
「どうした、どうした?」

 二人の元へ着いたサンは、馬から降りると深呼吸をした。
 顔をパンパンッと両手で叩き気合いを入れる。

「ここはミルキーゴートだけなのか? 他には?!」

 二人に問い詰めるサン。

「おいおい、何だよ。 そんな顔して…ここにはミルキーゴートが大量発生してウハウハだぜ?  他?他っていうのはコイツら以外のことを言ってるならいないぜ」
「はぁー……そうか…よかった…。 それならちょっと村長と話がしたいんけど…いいかな?」
「それはいいけど、恐い顔してどうしたんだ? そっちの村は状況が悪いのか?」

 門番の男性は、サンの表情からあまりいい話ではないということを察した。
 もう一人の門番は、ひたすらゴートの頭を叩いて回っている。

「ああ。 うちの村というわけではなく、ここら一帯に関わる話だ。 とにかく急を要する」
「わかった!急ごう! おい!ちと村長に会ってくるからここは任せたぞ!」

 すると、叩いていた棒を掲げて返事をするもう一人の門番。

「よし、行こう」



 ┼┼┼ 


  
「おねがいしますっ!!」

 そう頭を下げるのはゲンだ。
 床におでこをつけ、丁寧にお願いをしている。
 その隣で、おでこを床にとまではいかないが、頭を下げ胡座をかいているのは、単眼族の代表だ。

「我からも頼む」

 ここは巨人族の村。

 ゲンは鬼族の村から比較的近い、単眼族の村へとまず向かったのだった。
 そして、脅威が差し迫っていることを伝えた。
 魔物の集団が現れた場所からは鬼族の村が一番近く、次に単眼族の村だ。 
 もし鬼族が襲われ滅ぼされれば、次はもちろん自分達である。

 話を聞いた単眼族の族長は行動が早かった。
 村の精鋭を前線へと送り、族長の息子である次期族長候補のアスワドをゲンと共に巨人族の村へと向かわせたのだった。

「オデダチはイガナイ」

 何に切られたらそうなるのか、巨大な裂傷で左目を潰した隻眼の巨人はそう告げた。

「なぜだ?」
「アラソイをコノマナイカラダ」

 口ではそう言っているが、単に動くのが面倒だからである。
 少なくとも隻眼の男はそう思っている。
 何故自分たちが行かなきゃ行けないのかと。
 戦うなんて面倒くさい。そもそも歩くのも怠い、と。

「ほぉ。 では、ウヌらにはもう肉を分けてはやれんのぉ。それでもよろしいかな?」

 アスワドは、そう言いながら下げていた頭をゆっくりと上げた。
 まだ二十歳そこらの若者であるが、その風格は単眼族随一の戦士と言われた族長と何ら遜色はない。

「ソデはハナシがチガウド」 

 アスワドの言葉に狼狽える隻眼の巨人。
 巨人族は定期的に単眼族より肉を貰っている。
 それは、巨人族が狩りが下手だからである。
 体躯が大きく強靭であるが、その分動きは鈍重なのだ。

「何を言っている。 そもそもだ、我らが魔物に殺されれば分けてやることなど不可能だろう?それに今回の魔物にはウヌらの好きなウルフにコングがいるぞ?どうする?」
「ムム……。 ワガッダド。 シカタナイからヤッテヤルド」
「フン。 最初からそう言えば良いものを」
「おおっ!ありがとうございます」

 すかさず頭を下げるゲンだ。
 巨人族とアスワドへ交互にお礼を言い、二種族から参戦の確約をとれたことに安堵し、大きな溜め息を吐いたのだった。

 ┼┼┼

 紫山の麓、紫山を挟んで鬼族の村とは反対側にある"狩場"と呼ばれるこの場所で激戦が繰り広げられていた。

 青く透き通った氷上と白い雪上には、いくつもの赤い液体が染みている。

「━━はぁ、はぁ……くっ、ここを抜かれるわけには……」

 立っているのも辛いほど全身に傷を作り、堪らず片ひざを地面につく鬼族の男性。      
 周りを見渡せば、ギリギリ戦っているものが数名目に入った。
 その他にはこの男と同じように片ひざをつく者もいれば、全身を氷上、あるいは雪上へと突っ伏している者もいる。

 ━━ぐあぁぁーー!

 男の数メートル先で、また一人倒れる鬼族の男。
 ビチャリと、地面の血溜まりに腹這いに崩れ落ちていった。

「━━くっ、ここまでか……」

 倒れた男を目にし、自分も同じ道を幻視する片ひざをついた男。意識が朦朧としている。
 その男に忍び寄る二匹のホワイトファング。
 真っ白な毛が景色に溶けんでいる。
 上の歯の内、長く生えた二本からはダラダラと涎を垂らしている。

 ━━グルルルル。

 二匹は左右に別れ、一気に男を狩ろうと阿吽の呼吸で喰らいにかかった。

 ドゴォ!!ドゴォ!!

 しかし、その口が鬼族の男に到達することはなく、二匹のホワイトファングは突如頭を陥没させた。そして、地面に横たわりピクピクと痙攣している。
 頭には、陥没させた原因であろう黒い塊が埋もれている。
 倒れかけていた鬼族の男は振り返った。

「そ、村長っ! ババ様っ!」
「大丈夫かえ?」
「いやー、ギリギリだっただぎゃ」

 並んで立っている二人。
 鬼ババは杖をつき、目を細めて辺りを見回している。
 村長は黒い塊の入った籠を背負い、片手には同じ黒い塊を握っている。

「……ありがとうございました…助かりました…」
「ええんだぎゃ。ここはわしらに任せてお前は下がりんさい。 負傷した者を連れて村へ帰るんだぎゃ」
「……そ、それはでき━━」
「ええんじゃ! ここは任せて帰るんじゃ! それともその体でまだ戦えるのかえ?」

 そう言われると、回復の手立てがない男は引き下がるしかなかった。
 男は重たくなった体を引きずり、倒れた仲間と共に撤退することを余儀なくされたのだった。

「さてと、まだ戦える者達の手助けをしつつ殲滅するかえ。 のう、タツ坊」

 鬼ババは杖を持ち上げると、もう片方の手で柄の部分をぐっと回した。
 カチリと音がすると柄がはずれ、刃こぼれ一つなく吸い込まれそうな真っ黒な刃が顔を出した。

「お、久しぶりに見たぎゃ。鬼族五聖剣の一振り"常闇の妖剣"。 よっちゃンが持てば鬼に金棒だぎゃ。 さあ、ひと暴れひと暴れ」 
「ひょっひょっひょっ」

 鬼ババは、剣を片手にひょこひょこと近くにいるホワイトファングへと近づいていく。
 それに気付いたホワイトファングは脚をぐっと曲げ、腰を落とし警戒を強めた。
  
「グルルルル」

 ホワイトファングは、先手必勝とばかりに地面を一気に蹴り、口を大きく開けながら飛び出した。
 その喉へと噛みつかんとして。

 ヒュン。

 刹那、空気を切り裂く音をホワイトファングは耳にした。
 その途端グラッと揺れる視界。
 そして地面にドサッと音がしたかと思えばゴロゴロ転がっていく頭。
 その開いた口は鬼ババに届くことはなかった。
 一瞬にして頭と胴体を切り離されてしまったのだった。

「ひょっひょっひょっ。 遅い遅い」

 鬼ババは歩みを止めることなく、次々にホワイトファングを切り捨てながら進んでいく。

 全く近付くことのできないホワイトファングは、連携をとり数で押し込もうと鬼ババを取り囲んだ。
 円になり一斉に飛び付いた。
 がしかし、鬼ババの背後から飛び出した数体は何も出来ずに頭を陥没させていく。

 村長が、その腕力で手に持つ黒い塊を投げ飛ばしていってるのだ。
 命中率は驚異の百発百中。
 村長が得意とする投擲術である。

「ババ様っ! 村長!おい、みんな!ババ様と村長が来てくれたぞぉー!」
「うおーー!」
「勝てるぞっ!」

 鬼ババの存在に気付いた鬼族の男達は、再び勢いを盛り返し始めた。


「しかし、数が多い…年寄りの体には堪えるえ。━━と、アイスコングのお出ましかえ」

 青白い毛を全身に生やした筋骨隆々の魔物である。

「よっちゃン、アイスコングは見えるがクリスタルバーグの姿は見えんだぎゃ」

 村長は、黒い塊を手を休めることなく飛ばしながら、大声で鬼ババへと話しかけた。

「そうじゃな…。もしかしたらそれも見間違えかもしれんけの。 とりあえずはアイスコングを殲滅するかえ」

 
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...