樹属性魔法の使い手

太郎衛門

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氷の大陸編

緋の日

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 白日シャムス
 それは金河系プラチナムの中心に位置する恒星のことである。
 (注:プラチナムとは、シャムスの周囲を公転する惑星(グラースを含む)と微粒子、さらに白日活動が環境の全てを決定する主要因となる空間から構成される領域を指す)

 シャムスから放たれる光線ラディウスは、シャムスを取り巻く惑星に生命の息吹きを与えている。
 そして、安らぎと温もりで生物を包み込む。

 シャムスは自身の重力により、周囲の惑星を引き寄せる。
 シャムスを中心に惑星は周回するのだ。
 そして十年に一度、シャムスの重力が弱まる日が訪れる。
 その日、惑星は白日周回軌道から大きく外れ、シャムスとの距離が開いてしまう。
 すると、シャムスから放たれるラディウスは、波長の長い赤い光しか到達できないのだ。
 グラースでは、赤い光のみになったこの日、安らぎと温もりの光から解放された魔物は、活性化し本能を剥き出しに凶暴化、そして原因不明の大量発生をするのだ。
 世界は赤い光に包まれ、血が必ず流れる。
 いつしかその様相からか、この日を緋の日スカーレットデスペアと呼ぶようになった。

 ━━━王都魔法学校 図書室所蔵 『世界の異常気象 影響と対策』より一部抜粋━━━

 ┼┼┼

「…これは……すごい。 ほんとに赤い…」

 扉を開け、外に飛び出したカーラは見たこともないその景色に驚きを隠せなかった。 
 真っ赤に染まった日とそこから降り注ぐ光は、今が昼なのか夕暮れなのか、時間の感覚を狂わしてしまう光景を作り出していた。

「…あれ? 何だか体中がポカポカとする……」

 カーラはまるでお酒でも飲んだかのように体の中から熱いものが込み上げてきた。
 これがスカーレットデスペアの影響であるのだが、カーラには初めての感覚で理解ができていなかった。

「なんだか変な感じがするけど…、私も急いで広場へ向かわなくちゃ!」

 ┼┼┼

「皆の衆、見ての通り今日はスカーレットデスペアだぎゃ。 既に日は赤く染まり時間はあまりない! まずは報告をするだぎゃ!」
「サン、ゲンよ!  どうなっているのかえ? どうなっているのか現状を言うのじゃ! 」

 広場で高台に乗り、大声を張り上げているこの二人は村長と鬼ばばである。
 その鬼ばばに呼ばれたサンと、それにゲンと呼ばれた鬼族の青年は、高台を取り囲む村人達の間を割るようにして、最前列へと出てきた。

 ネグロは最後尾から耳を傾けている。

「ゲン、まず自分から…。 ━━村長っ!ばば様っ! おじき達がいつもの狩場で大量の魔物に遭遇しました! すぐに俺達はこっちへ戻った為、おじき達の安否、並びに他の村々の状況はわかりません!」
「うむ。 それは仕方ないだぎゃ。 して、その魔物はなんだぎゃ?数は?」
  
 すると、それに答えたのはサンに目配せをしたゲンだった。
 顔色はあまりよくない。

「ホワイトファングとアイスコングが合わせて千はいたかと……そ、それにクリスタルバーグ━━」
  「せ、千じゃと!? それにクリスタルバーグかえ!?」
「お、終わりだぎゃ……千でも絶望的なのに、クリスタルバーグが一体いるなんて……」
「━━あ、あの! クリスタルバーグは五体確認しております!!」
「な、な、なんじゃとっ! 五体……なんてこと……ほ、他にも確認できているのかえ?」

 静まり返っていた村人達だが、少しずつざわざわとし始めた。
 ゲンの言葉の意味が浸透し、動揺が広がっていく。

「━━フ、フィンブルガルド世界の終焉が……」
「なっ━━ごほっごほっ」

 衝撃の事実にむせ返す鬼ばば。
 表情は驚愕と絶望が入り雑じった顔をしている。

「なんでだぎゃ!!なんでだぎゃ!!…なんでフィンブルガルドもいるんだぎゃ……くっ……」
「……本当に確認したのかえ? 急いでたし、見間違いではないのかえ? サン、ゲンよ」

 二人を見下ろす鬼ばば。
 二人は顔を見合わせ、意志疎通を図る。
 言われてみれば、確かにしっかりと確認したわけではないし、恐怖と焦りでそう錯覚してしまったのかもしれないと二人は思えてきたのだった。

「確かに言われてみれば……違ったかもしれません」

 サンは額の汗を拭いながらそう告げた。
 寒いはずなのに、全身の汗が全く引いていかなかった。
 それだけ、急いでここまできたのだろう。
 隣のゲンも汗を拭い、少しだけ、ほんの少しだけ安堵したように息を吐いたのだった。

「うむ、そうじゃろうて。 フィンブルガルドなんて居るわけないかえ」
「皆のもの、現状は厳しい状況、絶望的であるとも言えるだぎゃ。 しかし、これまでも何とか我々は乗り越えてきたっ!  だから諦めず力を合わせて、敵を倒すだぎゃ!」

 村長の力説に、村の一部は少しながら元気を取り戻していった。
 これまでも危機を何度も乗り越えてきたと、今回も大丈夫だと、自分達を奮い立たせるのは、年齢を重ねた鬼族の老人達である。
 それに引き換え、若い連中は未知なる恐怖にカタカタと震えていた。
 それもそのはず、ここにいるほとんどの若者がその数の大群を相手にした経験がないからであった。
「では、女子供は身を隠し、男供は数名を村に残し、既に交戦していると思われる狩場へ移動。 サン、ゲンはそれぞれ他種族の村へ行き、連携をとるのじゃ。 三ツ目族、巨人族、単眼族と力を合わせないと勝てん! 急ぐのじゃ!」
『はい!』

 わらわらと集まっていた村の衆は行動を開始した。
 蜘蛛の子散らすように散り散りになっていく。
  
「 ━━さて、タツ坊よ、我らもいくかえ? 」
「だぎゃ、よっちゃン。  次世代の子供達のためにも頑張るだぎゃ。 ……よっちゃン死なんでくれよ」
「わしゃー、まだ死ねん。 カーラの子の顔を見るまではダメだえ。 ひょっひょっひょっ」

 二人は高台から降りると、笑い合いながら狩場へと移動することにした。

 ┼┼┼



「━━くっ!  さすがにキツいな! 」
「ああ、 これは数の暴力だな。 うじゃうじゃと出てきやがって! この後に控えている奴等はちと、まずいな……」

 そう言いながら、ホワイトファングの頭を赤い果物を握り潰すかのように、次々と破壊していく十数名の鬼族の男達。
 鬼族は腕力と握力に特化した種族である。
 ホワイトファングくらいなら遅れをとることはないが、それでも限りはある。
 一人あたりが数十体と相手をすれば、さすがに疲労も見えてくる。
 それに一度に相手をするのも限度があるのだ。
 ホワイトファングは集団で連携とって攻撃をしてくるから、一対一ではなく対多数という形になる。
 幸いにして、鬼族に死者はまだ一名もでていないが、それも時間の問題だろう。
 体には目に見えて傷が増えていく。
 足が速く、先陣を切ったホワイトファングを相手にしている男達。
 今は何とか持ちこたえているが、後ろからゆっくりと歩みを進めるアイスコングの群れを相手にする体力はあまり残されていなかった。

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