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王都五年編
迎えの馬車
しおりを挟む一週間後。
「いよいよだな!」
「ああ、楽しみだ」
クラスで聞こえてくる会話。
今日はうちのクラスのダンジョン探索の日だ。
昼食後、午後から始まる。
クラスは現在十九人。
行かないのは、私を含めた四人で十五人が探索組だ。
私達四人は、午後は休講である。
「マホッ、…ごめん。 シャーロット」
「ふふ。 何? ドンナー」
「今日から家戻るんだっけ?」
「うん、そう。 一週間お休みもらって帰るの。 家のお手伝いと病気を見てもらうんだ」
「そうか……。あのさ、道中、気を付けろよ」
「うん? 気を付ける…けど、どうかした?」
ドンナーは真面目な顔つきになった。
「最近な、ここら一帯にもあの盗賊団が出るらしいぞ。 大盗賊団バンディートが」
「へぇー、そうなんだ。 …でもね、 大丈夫よそんなの」
私は、ふんぞり返るようにしてドンナーを見る。
「何でそんな自信満々で威張った感じなんだよ。 あそこは大所帯なんだぞ? シャーロットだって、さすがに大勢の盗賊が一斉に来たら倒せないだろ?」
「大丈夫よ! だって、ピンチになったらアナタが助けに来てくれるのでしょ?」
「………。 俺だってすぐに助けに行けるかわからないだろ? 今日もダンジョン探索あるしさ……」
「助けに来てくれるん で しょっ?」
私はドンナーが首肯するまで意見を変える気はない。
ドンナーはそんな私を見て、後ろ頭をガリガリと掻いた。
「はいはい、わかりましたよ。 シャーロット様がピンチになったらすぐにでも駆けつけますよ!」
「宜しい」
私はぷくっと頬を膨らますドンナーに微笑みを送った。
彼は五年前、死にかけた私を見て、冒険者になることを諦めるかと思いきや、逆にやる気を奮い起たせた。
そして、私が記憶をなくし性別のことも知ると、『シャーロットがピンチのときは俺が駆けつける!俺が守る!』と誓った。
勝手にだけど。
アレキサンドリア家のソルフという男の子が付きまとってきた時は、何度も撃退してくれた。
最初はヘタレだった彼だけど、日に日に背中が大きく見えてくる。
すごく頼もしい。
でも、私のために危険な目にあってほしくはないわ。
もっと自分を大切にしてほしい。
けど、そう思いつつも、彼を試すようなことを言ってしまう。
ごめんね、ドンナー。
「シャーロット、お昼は?」
「あー、迎えの馬車の中で食べる」
「そっか。 ……じゃあ、俺は準備もあるからそろそろ行くわ」
「うん。頑張ってね!」
「ありがと。 シャーロットも気を付けてな!」
私達は手を振り別れを済ますと、ドンナーはダンジョン探索の準備へ、私は帰郷の準備をするために寮へと向かった。
┼┼┼
一時間後。
私は荷物を抱え、正門の前へとやって来た。
迎えの馬車が来る約束の時間を少し過ぎてしまい、焦っていた。
当然のように一台の馬車が到着しているが見えた。
いつもの乗り慣れた馬車で、トンプソン家の商会紋もしっかりと刻まれている。
「遅れて、すいません」
「おう。 ……あ、はい。 いや、えっと……?」
私は馬車の前部に座っている馭者の姿が見えたので声をかけた。
いつもの人ではなく、見たことのない人だった。
しかし、この反応…。
「……あの、こちらは迎えの馬車ですか?」
「━━ええ。 あ…、シャーロットお嬢様?」
「はい」
「こ、これは大変失礼致しました! 私、シャーロットお嬢様をお迎えにあがりました、馭者を勤めておりますバンと申します。宜しくお願い致します」
馬車から降りて丁寧に挨拶をするバン。
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。 それで、いつもの馭者様はどうしました?」
「はい。 彼はですね…、体を壊しましてしばらくは動けないので……急遽、私が代わりを勤めさせていただきました」
「彼……そうですか……。 それはとても残念です…。 早く良くなるといいですね……。━━では、短い間ですが宜しくお願いします」
「これはこれは丁寧に。 どうぞよろしくお願い致します。 ではシャーロット様、こちらからお乗り下さいませ」
そう言って、バンは馬車についている扉を開き、エスコートしてくれた。
乗り込むと、やはり乗り慣れた馬車の座り心地だった。
「では、参ります」
扉が閉まるなり、ハッ!というバンのかけ声と、パンッという鞭の音を響かせ、車輪をカラカラと馬車は出発したのだった。
┼┼┼
「ドンナー、シャーロットは行ったの?」
「ああ。 もう行ったんじゃないかな?」
「大丈夫なのか?」
「うん? 何が?」
「いや、ほら、盗賊だよ。 最近、ほんと多いんだってさ。 国も捕まえようと躍起になってるみたいだけど、全然らしいよ。 トンプソン家は金持ちだしな…」
「そうみたいだな。 一応、シャーロットには注意したけど……う~ん…大丈夫かな…」
ドンナーはクラスメイトの一人と集合場所へ向かっていた。
そんなクラスメイトの一人も、最近話題になっている盗賊のことで、シャーロットの心配をしていたのだ。
大盗賊団バンディートは、その団員総数百名を越えるとも言われる。
殺人、強姦、誘拐、強盗。
悪行三昧のバンディートは、特に貴族などの富裕層を狙い、金銭を巻き上げここ数年で台頭していった。
商会を営み、巨万の富を有しているトンプソン家は標的になりやすい。
その娘であるシャーロットは、バンディートの格好の餌食である。
「おいっ! 通してくれー!」
「道を開けろ!」
クラスメイトの言葉にドンナーが危惧の念を抱いていると、衛兵が二人やってきた。
太めの二本の棒に布を張ったものに人を乗せ運んでいる。
担がれてる人は、生きているのか死んでいるのか分からなかったが、だらんと垂れた腕が、重体であることを物語っていた。
しかしドンナーはその垂れた腕ではなく、胸を見ていた。
血だらけであり、上着を着込んでいることで性別が判りにくいが、胸には膨らみがあることから、女性であるのは間違いないのだろう。
そして、その上着左胸には刺繍が施されていた。
ドンナーはそれを目にした瞬間、極めて憂慮すべき事態であることを理解した。
それは見覚えのある紋章だったのだ。
「お、おい!ドンナー!」
「悪いっ!荷物頼んだっ!!」
ドンナーは荷物をクラスメイトに預け走り出したのだった。
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