黄金のサメは悪夢を照らす

黒猫和輝

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6.サメと少女

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盛大に着水したアウルムは、そっと小さな金色の三日月を海に浮かべました。

「アクリル・・・」

浮かぶ三日月を悲しそうに見つめながら、アウルムはゆっくりと旋回しました。
頭に浮かんでくる恐ろしい想像を懸命に振り払いながら考えます。

(アクリルは食べられたのかもしれない。)
三日月は、アクリルが生きていると主張するように輝きます。

(アクリルは食べられていないかもしれない。)
三日月が波で傾いて、見た事のある形に思えてきます。
(人間の・・・船!?)

そこでアウルムは思い出します。
昨日の夜、月へ向かってジャンプしていた時に人間の船が近くにいたのです。

もしも人間がアクリルを捕まえたのであれば、どうするかを考えます。
「人間は魚を捕まえたら島に連れて行く・・・もしかしたらアクリルも!」

陸の上に連れて行かれたら、幾らアウルムでもどうしようもありません。
アウルムは三日月をくわえると泳ぎ出します。
「ここから一番近い人間のいる島・・・絶対に、助ける!」

口を閉じているので上手く水が取り込めず、エラで呼吸が難しくなります。
それでも、アウルムは三日月をくわえたまま泳ぎます。
三日月を離してしまったら、二度とアクリルに会えない気がしたからです。

太陽が海に沈み始め、空が茜色に代わる頃、
苦しさに耐えながら泳ぎ続けるアウルムは微かに流れてくる臭いを感じます。

「この臭いは・・アクリルの飴玉の臭いだ!」

必死に泳ぐアウルムの視界に、小さな船が見えてきました。
アウルムは体当たりしようと考えましたが、アクリルがいるかもしれません。
「アクリルを巻き込んでしまう!」

アウルムは深く潜ると、船の真下にそっと近づきました。
ところが、船は小さくてアクリルが乗っているようには思えませんでした。
けれど、アクリルの飴玉の臭いはこの船からします。

(どうしよう、アクリルがいるとは思えないけど、アクリルの飴玉がある?)
困惑していると、つい力が入りすぎたのか三日月の髪飾りがヒビが入ります。

慌てて力を緩めると、三日月はするりと抜けて水面へ浮かんでしまいました。
(うわっ!しまったっ!)

こうなると、水面に出なくては三日月を無くしてしまいます。
しかし、水面に出れば間違いなく人間に見つかります。

「水面に出たら、すぐに髪飾りをくわえて逃げよう」

いざという時はこの船を沈没させる覚悟を決めて、水面へ近づきます。
水面に出ようとした瞬間、三日月を小さな手がひょいと拾ってしまいました。
「!?」

慌てて水面へ顔を出したアウルムは、目の前にいた人影と目が合いました。
太陽の光が眩しくて、よく見えませんでしたが少女のように見えました。
「アクリル!?」

しかし、帰ってきた言葉はアクリルよりも活発そうな明るい声でした。
「サメが喋った!?」

アクリルかと思いましたが、見れば人間の少女でした。
髪は夜のような濃紺、瞳は海草のように緑色で、好奇心で輝いていました。
船の上にはこの少女以外はいませんでした。

アウルムは人間が嫌いでしたが、自分を襲わない人間の少女に戸惑います。
アウルムは、少女が手に持っている三日月の髪飾りを見ながら言いました。
「・・・その髪飾りを返せ」

少女は自分の手にした髪飾りに目を落として首を傾げました。
「サメなのに髪飾りするの?」

アウルムはどう言ったら良いか困りましたが、正直に答える事にしました。
「それは、俺の大事な友達が持っていた髪飾りなんだ」

不思議な事に、"友達"と言った時にチクリと心が少し痛みました。
少女は感心したように頷くと、あっさりと髪飾りを差し出しました。
「友達のなら大事にしないとね」

小さなヒビを指さして苦笑する少女に、アウルムは何も言えません。
三日月を受け取ろうとして、アクリルの飴玉が気になりました。
「この船から、友達が持っていた飴玉の臭いがしたんだけど知らないか?」

少女は、それを聞くと申し訳なさそうに口元を隠す。
「あ・・・ごめん、その飴って金色の飴?」

アウルムが嫌な予感がしながらも頷くと、少女は頭を下げた。
「ごめんね、その飴玉・・・食べちゃった」

アウルムは別に飴玉自体は食べられても良かったので許します。
「飴玉は別に食べても良いよ、それよりその飴玉はどこで手に入れたんだ?」

許してもらえた少女は、笑顔になると、遠くに見える島を指さします。
「あの島にいる船がここを通った時に落として行ったの」

見ると、島の港には大きな船が泊まっていました。
アウルムは、絶望しました。
アクリルが陸の上に連れて行かれたのなら、アウルムには何もできません。
「そんな・・・助けられると思ったのに・・・」

そんなアウルムを見て少女がポンッとアウルムの頭に手を載せました。
「友達ってやっぱりサメなの?」

アウルムは何故そんな事を聞くのか不思議でしたが、頭を振って否定します。
「違うよ、彼女は・・・アクリルは、マーメイドなんだ」

その言葉に少女は瞳をさらに輝かせます。
「マーメイド!?凄い!会いたかったんだよ!」

アウルムは何故か喜んでいる少女を睨みます。
「何が嬉しいんだ、俺は友達が攫われてるんだぞ!」

少女は一瞬だけ怯えますが、すぐに悲しそうな顔をして謝ります。
「ご・・ごめんね・・・」

アウルムは謝罪する少女の姿を見て、自分が怒る相手が違うと感じました。
「こちらこそ、ごめん・・・」

少女は再びアウルムの頭に手を載せると、はっきりと言いました。
「アクリルさんを助けてあげるよ!」

アウルムは言っている意味は分かりましたが、意図が理解できませんでした。
「そんな事をして、君に何の得があるんだい?」

少女はクスリと笑うと、軽くウィンクして答えます。
「飴玉食べちゃったお詫びと、君を傷つけたお詫び」

人間の少女が助けてくれるというのはとても信じられません。
それでも、陸の上ではアウルムには何もできないのは事実です。
魚のアウルムにとってはこの少女の言葉は信じる以外にないのです。
「俺はアウルム・・・海の神様に知恵と黄金の鱗を貰ったサメだ」

アウルムは船から少し離れると、ペコリと頭を下に向けます。
人間は人にお願いしたり、謝る時は頭を下げると知っていたからです。
「ありがとう、君の力を貸して欲しい」

頭を下げるアウルムに、少女は微笑むと胸を張って答えます。
「僕は"アーク"、男の子みたいに育てられたけど女の子だよ?」

まずはアウルムを隠す為に、アークの家に向かいます。
アークの家は、港から離れた入り江の近くにある小さな家でしたが、
驚いた事に、海の上に立っていました。

アークは家の下に船を止めると、船の下にいるアウルムに言いました。
「港の様子を見て来るね」

アウルムは黙って頷きました。
今はアークの事を信じるしかありません。
船の下から見える太陽は、茜色から少しづつ夜の闇に染まっていました。
アウルムは、不安な気持ちで港を見守っていました。

白銀のマーメイドの少女が無事である事を願いました。
「アクリル・・・必ず助ける!」

そして、突然協力してくれる人間の少女について考えました。
「アークは何故助けてくれる?人間なのに俺を襲わないのは何故?」

考えても結局分かりませんでした。
それに、アウルムはアークを信じる事に決めたので、疑問は全て後回しです。

疑問を後回しにしてみると、アウルムはアークの事が心配になりました。
アークは人間ですが、アウルムを助けてくれています。
アクリルはマーメイドですが、人間を助けて辛い思いをしました。
アークもアウルムを助けた事で、辛い思いをするかもしれません。
「アーク、気を付けて」

夕暮れの空に一番星が輝いていました。
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