転校サバイバーズ

藤沢 南

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扇町中学編

遠泳大会(1)

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そして迎えた遠泳大会。

遠泳大会は、瀬戸内海に面したとある漁港を中心に行われる。1日漁港を閉鎖するので扇町中学だけでなく、市内の他3校も一斉に参加する。
溺れたり、コースアウトした生徒を救助するため、漁船がズラリと並び、漁協や地元の警察、消防団の人も協力する一大イベントらしい。

すでに水泳部の父母たちが応援団として、漁港で待機していた。大漁旗、応援の段幕…さすがに一大イベントだけあって、保護者たちも気合が入っている。市内の他の学校の生徒の親も集まっており、結構な数になった。
共稼ぎの親も多いのだが、遠泳大会の応援という理由なら、割と休みが取りやすいらしい。いろんな意味でローカルコミュニティの象徴のようなイベントだった。僕の母親は、行きたそうにしていたが、僕は照れもあり断った。いくら特訓したとは言え、3キロをみんなと同じペースで完泳して、華々しくゴールできるとは思えないからだった。

命の危険もあるので、海流に流されてしまった場合の対処法も再確認した。
救命具も腰にワイヤーでくくりつけた。いざという時は、これに空気を入れて漂えば、きっと誰かが、あるいは漁船が見つけてくれる。『最悪、海の果てまで流されても、愛媛県にたどり着くだけだ』と体育教師が笑えない冗談を言った。

「愛媛県まで行ったら、かえって尊敬するっちゃ。」
村上は屈託無い笑顔で笑う。この子はとにかく厳しかったけど、根は悪くない子だと最近わかった。今日は竹刀は持っていない。そして彼女の競泳用水着には、救命具はくくりつけられていない。僕はその水着姿を見ていたが、
「何よ。ジロジロ見て。」
「いや、村上は救命具は持たないんだなって。」
「私、海賊の、村上水軍の子孫だから。救命具に頼るようでは、ご先祖に笑われる。」
彼女はちょっと頬を染めた後、真剣な表情になった。
「じゃ、頑張れよ、タイムなんかどうでもいい、アンタは完泳すればいいの。それじゃ。」
文字通り、僕のケツを叩いて、村上はスタート地点まで駆けて行った。

深川は、北野、西田と一緒だ。全員2組になった事もあり、あいつらは仲が良い。
水泳部のエースと、不良が一緒になっているのは、ちょっと理解できなかった。3人とも、救命具はつけていない。僕は自分の腰につけた救命具を恥ずかしく思った。

しばらくして、クマがやってきた。
「おお、ツヤ、今日は頑張ろうぜ。新聞配達をサボって特訓した成果、見せてくれよ。」
「ああ。でもサボってはいないだろ。一旦辞めたんだから。」
「…そうか。」
こいつの無邪気さに救われる事もある。今など、まさにそんな時だった。偶然だかわからないが、彼も救命具を足に装着していた。

他の中学も集まってきた。広島市内総勢4校の生徒たちが集まると、それは壮観だった。
スタート地点は、漁港の近くの砂浜だった。そこから海岸に沿って、男子3キロ、女子2キロを泳ぐ。しかし、水泳部の女子は3キロ泳ぐ事を自らに課していた。あまりにも水泳バカ、水泳至上主義な地域性で、開いた口が塞がらないが。それでもこんなにたくさんの女子達と共に水泳をする機会なんてなかった。この雰囲気を楽しもうと思った。

「パーン!!」

ピストルの音が鳴る、中学生達は一斉に砂浜を海に駆け出して行った。そして各中学の水泳部を先頭に、大海原を泳いでいく。一位でゴールをした中学は、その泳者と共に、表彰される。だから水泳部の気合は充分だった。僕も中学生の列の後ろの方で泳ぎ始めた。とっくに村上や深川は海の中で泳いでいる頃だろう。
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