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扇町中学編
ジョニーの機転
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彼女は、附属中学時代に、扇町中学の不良と仕方なくつるんでいたのだが、その不良仲間のうちの1人が、杉原の事が好きだったらしい。
「スギ、俺がお前をイジメから守ってやるから。」
そんな甘い言葉に誘われてノコノコ出て行ってしまったら、その男と取り巻きに囲まれて、命からがら逃げてきたという。その逃避行は、想像を絶するものだった。
「疲れた…。」彼女は足元から崩れ落ちた。
聞くと、彼女は広島市内の廃ビルに呼び出され、いきなり水をぶっかけられた後に、その男から絡まれたという。言葉が途切れ途切れでなにを言っているかわからないが、詳しく聞こうとする僕をジョニーが制した。夜の闇が味方し、闇に紛れて逃げた杉原は平和公園まで走って逃れ、そこで女子トイレにこもりそこで日の出まで過ごして服を乾かした。今日が5月では珍しく気温が高かったのも幸いした。
「杉原さん、僕、君のために証言してあげる、先生に、言おう?」
「おいジョニー、…。」
クマは少し動揺している。ここで扇町中の誰からも相手にされない杉原の味方をしたって、何一つ得することはないからだ。それどころか、自分がとばっちりを受ける可能性もある。
「どうしたの、クマ。杉原さん、かわいそうじゃないか。」
ジョニーの目は正義感と優しさに満ちていた。
「!!」
僕は、ジョニーの目に、あの頃のゆっこの目を思い出した。僕との別れを悲しむゆっこの目。転校生の奥寺をイジメから守ろうとするゆっこの目。…そうか、ジョニーが、あの頃の僕のような気持ちで、杉原に接しているんだな。
「ツヤ。杉原さん、かわいそうだよ。なんかしてあげようよ。」
「…杉原。ごめん、俺、守ってやれなくって。」
僕は自分でも驚く事を口走っていた。もうこれで後には戻れなくなった。
杉原は、泥だらけの顔をこちらに向けた。
「つや…ま?津山?」
「ああ。」
僕と杉原の間に、長い沈黙が訪れた。ジョニーは、僕たちの間に何かあったのかと気づいたようだ。彼も沈黙を守った。
クマだけが、「おい津山…」とおろおろしている。
「ジョニー、とりあえず杉原をお家まで送っていくぞ。」
僕は、あえてクマに同意を求めず、ジョニーにだけ提案した。
「ツヤ、タクシー代ある?」
「ねーよ。」
「よし、待ってて。」
しばらくすると、ジョニーの親御さんの運転する高級車がやって来た。
「マーマ。僕のお友達。川に落ちちゃったしいの。…。 … 。 …。」
初めて見るジョニーのお母さん。切れ長の瞳がまぶしい女性だった。川に落ちた云々の後は、ジョニーは母親と何やらけたたましく台湾語で話し合っていたが、そのやり取りの後、ジョニーの母親はいかにも不機嫌な感じで車を飛ばした。
「杉原さん。君のお母さんに、僕のマーマからもちょっと話があるみたい。いいかな。」
車中、またもジョニーはゆっくりとした口調になった。杉原も、彼のゆっくりとしたたどたどしい日本語に、妙な安心感を覚えるらしい。しばらく、ジョニーが優しく杉原に語りかけていた。僕は、口をはさむのをやめた。
「スギ、俺がお前をイジメから守ってやるから。」
そんな甘い言葉に誘われてノコノコ出て行ってしまったら、その男と取り巻きに囲まれて、命からがら逃げてきたという。その逃避行は、想像を絶するものだった。
「疲れた…。」彼女は足元から崩れ落ちた。
聞くと、彼女は広島市内の廃ビルに呼び出され、いきなり水をぶっかけられた後に、その男から絡まれたという。言葉が途切れ途切れでなにを言っているかわからないが、詳しく聞こうとする僕をジョニーが制した。夜の闇が味方し、闇に紛れて逃げた杉原は平和公園まで走って逃れ、そこで女子トイレにこもりそこで日の出まで過ごして服を乾かした。今日が5月では珍しく気温が高かったのも幸いした。
「杉原さん、僕、君のために証言してあげる、先生に、言おう?」
「おいジョニー、…。」
クマは少し動揺している。ここで扇町中の誰からも相手にされない杉原の味方をしたって、何一つ得することはないからだ。それどころか、自分がとばっちりを受ける可能性もある。
「どうしたの、クマ。杉原さん、かわいそうじゃないか。」
ジョニーの目は正義感と優しさに満ちていた。
「!!」
僕は、ジョニーの目に、あの頃のゆっこの目を思い出した。僕との別れを悲しむゆっこの目。転校生の奥寺をイジメから守ろうとするゆっこの目。…そうか、ジョニーが、あの頃の僕のような気持ちで、杉原に接しているんだな。
「ツヤ。杉原さん、かわいそうだよ。なんかしてあげようよ。」
「…杉原。ごめん、俺、守ってやれなくって。」
僕は自分でも驚く事を口走っていた。もうこれで後には戻れなくなった。
杉原は、泥だらけの顔をこちらに向けた。
「つや…ま?津山?」
「ああ。」
僕と杉原の間に、長い沈黙が訪れた。ジョニーは、僕たちの間に何かあったのかと気づいたようだ。彼も沈黙を守った。
クマだけが、「おい津山…」とおろおろしている。
「ジョニー、とりあえず杉原をお家まで送っていくぞ。」
僕は、あえてクマに同意を求めず、ジョニーにだけ提案した。
「ツヤ、タクシー代ある?」
「ねーよ。」
「よし、待ってて。」
しばらくすると、ジョニーの親御さんの運転する高級車がやって来た。
「マーマ。僕のお友達。川に落ちちゃったしいの。…。 … 。 …。」
初めて見るジョニーのお母さん。切れ長の瞳がまぶしい女性だった。川に落ちた云々の後は、ジョニーは母親と何やらけたたましく台湾語で話し合っていたが、そのやり取りの後、ジョニーの母親はいかにも不機嫌な感じで車を飛ばした。
「杉原さん。君のお母さんに、僕のマーマからもちょっと話があるみたい。いいかな。」
車中、またもジョニーはゆっくりとした口調になった。杉原も、彼のゆっくりとしたたどたどしい日本語に、妙な安心感を覚えるらしい。しばらく、ジョニーが優しく杉原に語りかけていた。僕は、口をはさむのをやめた。
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