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根岸先生(中編)
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「みんな、水汲みしてたの?汗だくね。アイス買ってきたから、みんなで頂きましょう。」
根岸先生のおごりで食べたアイス、どこにでも売っているアイスなのに、とても美味しかった。このアイスの味を、僕は生涯忘れないだろう。疎遠になりかけた8人と新加入の1人、みんなで食べたアイス。そしてよく冷えたお茶。初夏の明るい太陽。お茶畑からの薫風。根岸先生に対する苦手意識はなんとなく何処かに行ってしまった。アイスとお茶を片付けた後、根岸先生は、教え子の一人一人に話しかけられ、それぞれの学校の話を興味深そうに聞いていた。僕は、みんなにまとわりつかれる根岸先生に、少し遠慮して、家の裏にある大木に視線を移した。まみも、僕と同じように少し根岸先生から離れていた。根岸先生といっぱい話したいだろうに、彼女はいつもそんな大人びたところがあった。別の学校に行って苦労している子達に根岸先生を譲ったのだろう。マイペースなアッコと高野は、根岸先生にまとわりついていた。
「ツー、あの木、でっかいよね」
「そうだね、他のよりずっと大きい」
ちょっと行ってみよう。まみと僕は、その大木の下まで駆けて行った。僕とまみは小5にしては背の高い方だったが、その2人で木の周りにまとわりついて見たものの、手がつなげない。なんて太い木なんだ。しばらくしたら、根岸先生が僕たちを探しにきた。
「ああ、この木ね。樹齢600年のケヤキの木だよ。みんなも呼んでくるから、中井さん、津山くん、ここで待ってて。」
しばらくすると、他の7人がやってきた。先生は、7人それぞれにそのケヤキの大木を触らせた後、樹齢についてひと通り説明し、こんな事を語りだした。
「これから、みんな、中学生になり、高校生になり、大人になる。その長い間には、仲のいい仲間とも別れなければならなくなることもあるの。たった1人で、人生の荒波に立ち向かうこともある。くじけそうになったら、この樹の下で、4年3組の仲間と、先生で、集まった事を思い出してください。この樹は、600年、気の遠くなるほど昔、そう、室町時代からこの場所にあるから、これからもずっと、先生やみんなが死んでからもずっとずっと、ここにあるの。だから、人生でくじけそうになったら、一人でもいいから。ここに戻っておいで。先生が居なくなっても、みんなが集まれなくても、この樹はみんなを見守って居てくれるから。」
この言葉は、9人の少年少女の心に沁みた。なにせこの春の学区変更で早くも転校の悲しさを知ったばかりなのだから。特に中井まみが左胸を真剣な表情で押さえていた。先生の言葉を心に刻み付けているようだった。しかし、僕たち団地組も、転校の可能性は毎年毎年あった。中井まみと高野を除く7人は、とある企業の社宅住まいだったからだ。僕も、小2の頃に仲良くしていた男の子が、この夏に転校すると聞いて少なからずショックを受けた。明日は我が身、この大好きな仲間達と別れて、見知らぬ街に行く…。そんな日がいつ来るのかは分からなかった。
再びケヤキの大樹に、みんな触れていた。
横山が、とぼけた調子で、即興で♪ケヤキの樹の下で~と歌い出した。笑いながら手拍子でみんなで歌い出した。根岸先生は家からギターを持ってきて、伴奏してくれた。歌は徐々に変化して行き、武蔵市に伝わる茶摘み歌、そして第三小学校の校歌で、締めた。その後、先生のお宅である古民家に戻って行った。
根岸先生のおごりで食べたアイス、どこにでも売っているアイスなのに、とても美味しかった。このアイスの味を、僕は生涯忘れないだろう。疎遠になりかけた8人と新加入の1人、みんなで食べたアイス。そしてよく冷えたお茶。初夏の明るい太陽。お茶畑からの薫風。根岸先生に対する苦手意識はなんとなく何処かに行ってしまった。アイスとお茶を片付けた後、根岸先生は、教え子の一人一人に話しかけられ、それぞれの学校の話を興味深そうに聞いていた。僕は、みんなにまとわりつかれる根岸先生に、少し遠慮して、家の裏にある大木に視線を移した。まみも、僕と同じように少し根岸先生から離れていた。根岸先生といっぱい話したいだろうに、彼女はいつもそんな大人びたところがあった。別の学校に行って苦労している子達に根岸先生を譲ったのだろう。マイペースなアッコと高野は、根岸先生にまとわりついていた。
「ツー、あの木、でっかいよね」
「そうだね、他のよりずっと大きい」
ちょっと行ってみよう。まみと僕は、その大木の下まで駆けて行った。僕とまみは小5にしては背の高い方だったが、その2人で木の周りにまとわりついて見たものの、手がつなげない。なんて太い木なんだ。しばらくしたら、根岸先生が僕たちを探しにきた。
「ああ、この木ね。樹齢600年のケヤキの木だよ。みんなも呼んでくるから、中井さん、津山くん、ここで待ってて。」
しばらくすると、他の7人がやってきた。先生は、7人それぞれにそのケヤキの大木を触らせた後、樹齢についてひと通り説明し、こんな事を語りだした。
「これから、みんな、中学生になり、高校生になり、大人になる。その長い間には、仲のいい仲間とも別れなければならなくなることもあるの。たった1人で、人生の荒波に立ち向かうこともある。くじけそうになったら、この樹の下で、4年3組の仲間と、先生で、集まった事を思い出してください。この樹は、600年、気の遠くなるほど昔、そう、室町時代からこの場所にあるから、これからもずっと、先生やみんなが死んでからもずっとずっと、ここにあるの。だから、人生でくじけそうになったら、一人でもいいから。ここに戻っておいで。先生が居なくなっても、みんなが集まれなくても、この樹はみんなを見守って居てくれるから。」
この言葉は、9人の少年少女の心に沁みた。なにせこの春の学区変更で早くも転校の悲しさを知ったばかりなのだから。特に中井まみが左胸を真剣な表情で押さえていた。先生の言葉を心に刻み付けているようだった。しかし、僕たち団地組も、転校の可能性は毎年毎年あった。中井まみと高野を除く7人は、とある企業の社宅住まいだったからだ。僕も、小2の頃に仲良くしていた男の子が、この夏に転校すると聞いて少なからずショックを受けた。明日は我が身、この大好きな仲間達と別れて、見知らぬ街に行く…。そんな日がいつ来るのかは分からなかった。
再びケヤキの大樹に、みんな触れていた。
横山が、とぼけた調子で、即興で♪ケヤキの樹の下で~と歌い出した。笑いながら手拍子でみんなで歌い出した。根岸先生は家からギターを持ってきて、伴奏してくれた。歌は徐々に変化して行き、武蔵市に伝わる茶摘み歌、そして第三小学校の校歌で、締めた。その後、先生のお宅である古民家に戻って行った。
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