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陽春、静岡
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次の春。彼女が静岡にやってくるー
俺は静岡3年目の春を迎えた。静岡に来たての最初の頃は新潟と正反対の気候で苦労したが、去年から始めたサッカーの応援で声帯は鍛えられ、加えて隔週ごとに繰り返される夜勤で、不規則な生活には耐性がついたと思う。いつ彼女と同棲しても、看護師の昼夜勤務兼行の生活を支えることは出来そうだった。
「あなたが支えるんじゃないの」
彼女は電話口でそう言って笑った。わたしが支えるから、と言ってた彼女は予告通り、静岡での寮生活をスタートさせた。「私たちに足りないのはお金」それは俺も認めていた。だから彼女が静岡にやってきても、当初の予定通り、お互い寮生活でしばらく過ごすことにした。
「シャトーオレンジ1号館」彼女の寮は浜松市郊外の蜜柑畑の横にあった。初めて彼女の寮へ行った日、意外に広い独身個室寮に驚いたものだった。そこで一日中いろんな話をしたのだが、話の内容は覚えていない。ただ、新潟と比べて光の量が多い春、日差しにあふれた静岡の春を満喫していた。俺たち2人で過ごす初めての静岡の春だった。窓を開け放して日向ぼっこをしていた時に、彼女はあまりののどかさに、俺の肩に寄り掛かってうたた寝をしていた。彼女の口からよだれが出ていた。それをツーっと俺の舌で拭いたら変な味がした。ちょっと甘酸っぱい蜜柑の味もかすかにした。それに気づいた彼女は目を開けて、ちょっと照れていた。そのまま彼女と口づけを交わした。このかわいくてしっかり者の彼女が、新潟から俺を追って静岡に来てくれた!
それだけで俺はこれからどんな事にも耐えられる気がした。45歳の今となっても、あの日は本当に幸福な1日だったと思う。この日、俺はこの娘と結婚するのだろう、と思った。そして、この娘とともに、幸せをつかむのだと。
彼女は浜松市内の病院に勤務しつつ、夜間は正看護師になるための看護学校に通う生活が始まっていた。彼女の寮も看護学校も勤務先の病院も一本の電車の沿線になっており、とても効率よかった。彼女はきっとこのような事を計算に入れていたのだろう、新潟時代から乗っていた軽自動車をさっさと売ってしまった。
なかなか休みを合わせる事は出来なかったが、4月の下旬の平日に1日休みが取れた。と言っても夜からは彼女は看護学校の授業だったので、日中しか一緒にいられなかったが。
「何処か連れてって。」
彼女を背に、俺はひたすらバイクを西へ飛ばした。俺が大好きな道。国道1号線潮見坂が見えてきた。「うわー」彼女が大きな声をあげた。「きれーい…。」潮見坂から見える、広大な遠州灘の景色。春の陽気に霞む水平線。二人で何度も見に行った日本海の海の色とは、また異なる春色ののどかな海だった。背中の彼女の抱く力がより強くなった。しっかり捕まっててくれ。
潮見坂から一気に豊橋方面まで走り抜けるぞ、隣県愛知県まで行くぞ。彼女が越してきた事で、ひさびさに2人の乗り手を得た俺のバイクは250ccのエンジンをフル回転させた。
新幹線と路面電車の走る、都会だか田舎だかよくわからない町、豊橋についた。彼女は初めて見るウズラの卵付きのざるそばに目を丸くしていた。「不思議だね。狭い日本なのに、本当にいろんな街があって、食べ物いろいろあって。」たくさん食べる彼女は、ざるそばをおかわりしていた。
帰りは早めに豊橋を出て、浜松の彼女の家に戻る事にした。遠州灘が右手方向になる帰り道は、彼女は歌を歌いながら俺の運転を応援してくれた。「ひゃーい!」たまに妙な奇声を上げてあおる彼女。俺の愛馬もビートの効いた低音で答える。浜松の彼女の寮に戻った時には、ガソリンがあと少しで無くなるところだった。「私の体重分、燃費かかったね。」彼女はそう行って二千円を差し出した。俺は無言で彼女のメットを脱がせて、くしゃくしゃの髪の毛をなでつけながらキスをした。俺にとってはこっちの方がうれしい。彼女は照れつつ苦笑して二千円を財布に戻した。学校に遅れるぞ。彼女の背中をドンんと叩いて、短い春のツーリングデートが終わった。
俺は静岡3年目の春を迎えた。静岡に来たての最初の頃は新潟と正反対の気候で苦労したが、去年から始めたサッカーの応援で声帯は鍛えられ、加えて隔週ごとに繰り返される夜勤で、不規則な生活には耐性がついたと思う。いつ彼女と同棲しても、看護師の昼夜勤務兼行の生活を支えることは出来そうだった。
「あなたが支えるんじゃないの」
彼女は電話口でそう言って笑った。わたしが支えるから、と言ってた彼女は予告通り、静岡での寮生活をスタートさせた。「私たちに足りないのはお金」それは俺も認めていた。だから彼女が静岡にやってきても、当初の予定通り、お互い寮生活でしばらく過ごすことにした。
「シャトーオレンジ1号館」彼女の寮は浜松市郊外の蜜柑畑の横にあった。初めて彼女の寮へ行った日、意外に広い独身個室寮に驚いたものだった。そこで一日中いろんな話をしたのだが、話の内容は覚えていない。ただ、新潟と比べて光の量が多い春、日差しにあふれた静岡の春を満喫していた。俺たち2人で過ごす初めての静岡の春だった。窓を開け放して日向ぼっこをしていた時に、彼女はあまりののどかさに、俺の肩に寄り掛かってうたた寝をしていた。彼女の口からよだれが出ていた。それをツーっと俺の舌で拭いたら変な味がした。ちょっと甘酸っぱい蜜柑の味もかすかにした。それに気づいた彼女は目を開けて、ちょっと照れていた。そのまま彼女と口づけを交わした。このかわいくてしっかり者の彼女が、新潟から俺を追って静岡に来てくれた!
それだけで俺はこれからどんな事にも耐えられる気がした。45歳の今となっても、あの日は本当に幸福な1日だったと思う。この日、俺はこの娘と結婚するのだろう、と思った。そして、この娘とともに、幸せをつかむのだと。
彼女は浜松市内の病院に勤務しつつ、夜間は正看護師になるための看護学校に通う生活が始まっていた。彼女の寮も看護学校も勤務先の病院も一本の電車の沿線になっており、とても効率よかった。彼女はきっとこのような事を計算に入れていたのだろう、新潟時代から乗っていた軽自動車をさっさと売ってしまった。
なかなか休みを合わせる事は出来なかったが、4月の下旬の平日に1日休みが取れた。と言っても夜からは彼女は看護学校の授業だったので、日中しか一緒にいられなかったが。
「何処か連れてって。」
彼女を背に、俺はひたすらバイクを西へ飛ばした。俺が大好きな道。国道1号線潮見坂が見えてきた。「うわー」彼女が大きな声をあげた。「きれーい…。」潮見坂から見える、広大な遠州灘の景色。春の陽気に霞む水平線。二人で何度も見に行った日本海の海の色とは、また異なる春色ののどかな海だった。背中の彼女の抱く力がより強くなった。しっかり捕まっててくれ。
潮見坂から一気に豊橋方面まで走り抜けるぞ、隣県愛知県まで行くぞ。彼女が越してきた事で、ひさびさに2人の乗り手を得た俺のバイクは250ccのエンジンをフル回転させた。
新幹線と路面電車の走る、都会だか田舎だかよくわからない町、豊橋についた。彼女は初めて見るウズラの卵付きのざるそばに目を丸くしていた。「不思議だね。狭い日本なのに、本当にいろんな街があって、食べ物いろいろあって。」たくさん食べる彼女は、ざるそばをおかわりしていた。
帰りは早めに豊橋を出て、浜松の彼女の家に戻る事にした。遠州灘が右手方向になる帰り道は、彼女は歌を歌いながら俺の運転を応援してくれた。「ひゃーい!」たまに妙な奇声を上げてあおる彼女。俺の愛馬もビートの効いた低音で答える。浜松の彼女の寮に戻った時には、ガソリンがあと少しで無くなるところだった。「私の体重分、燃費かかったね。」彼女はそう行って二千円を差し出した。俺は無言で彼女のメットを脱がせて、くしゃくしゃの髪の毛をなでつけながらキスをした。俺にとってはこっちの方がうれしい。彼女は照れつつ苦笑して二千円を財布に戻した。学校に遅れるぞ。彼女の背中をドンんと叩いて、短い春のツーリングデートが終わった。
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