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ある日の午前
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四月の第三土曜日。純白のレースカーテンを温かい風が揺らす。日差しに眠気を誘われ、小さな欠伸が出る。閑静な空間に聞こえてくるのは、鳥の囀りとあどけない寝顔を晒す幼馴染の寝息。
ふわりと揺れる猫っ毛が鼻を掠め、柑橘系の匂いが広がる。自身の隣ですやすやと眠る彩乃をいつもよりも優しい眼差しで見守る春斗。口元も緩んでおり、普段の冷徹さが見当たらない。
「寝ていれば静かで可愛いのに」
ポツリと普段の彼からは想像も出来ないような台詞が飛び出す。一度開いた口は閉じることがなかった。
「相変わらず髪も柔らかいし」
起こさないように配慮しながらも、彩乃の髪を割れ物のように撫でる。それが気持ち良いのか彩乃の頬が緩む。
「ほんと、可愛い。大好き」
彩乃が起きている時には絶対言わないような台詞を、春斗は恥ずかしがる素振りも見せずに淡々と告げる。
実を言うと春斗は彩乃の居ない時、または寝ている時に本音を全て吐き出す癖があるのだ。普段伝えられない分、その反動は大きい。
いつしか彩乃にしっかりと告げられたら。
そんな想いを呑み込んだ。
暫くすると、微かに空腹の腹を鳴かす匂いが漂う。下の階で母親が昼飯を作ってくれているのだろう。その匂いに釣られてか、彩乃も大きく瞳を開かせる。まだ少しばかり眠たげな彩乃は、目を擦りながら呂律の回らない舌で挨拶をする。
「ふわぁー…ん、春くんおはぁよ…」
「ん、おはよう」
小さく挨拶を返すと彩乃はえへへ、と頬を緩める。
寝癖が広がっている彼女の髪を整えていると、彩乃は鼻をすんすん、と鳴らしながら春斗の服の匂いを嗅ぎ始める。春斗は不思議に思いながら髪を梳かす。すると突然彩乃は顔をパッと上げる。
その際に春斗の細白い指に彩乃の栗色の髪が絡まってしまう。
「ちょっと。急に動かないでくれる?ほら、髪が絡まったじゃないか」
文句を垂れながらも彩乃が痛くない様に、一本一本丁寧に解く。春斗はぶつぶつと文句を言い続けるが、彩乃は気にする事なく微笑んでいた。
「春くんの良い匂い…私、すきだなぁ」
目を細めながら笑う彩乃に春斗は、心臓の鼓動が早くなるのを実感した。春斗は気を抜けば綻んでしまう顔を必死に抑え「…そう」と呟いた。丁度、髪も綺麗に解けたようで春斗は立ち上がり階段の方へと足を進めるが、ドアの前で一度動きを制止する。
「お昼、そろそろ出来るから早く降りて来なよ」
顔も向けずにそれだけを伝えると、足早にその場を去った。
残された彩乃は一人、春斗の残像を見つめながらポツリと言葉を零す。
「ふふ、春くん照れてる」
一人にやけながら呟いた言葉は、誰も気付く事は無かった。
空が抜けるような澄みきった青が広がっていた、ある日の午前のお話。
ふわりと揺れる猫っ毛が鼻を掠め、柑橘系の匂いが広がる。自身の隣ですやすやと眠る彩乃をいつもよりも優しい眼差しで見守る春斗。口元も緩んでおり、普段の冷徹さが見当たらない。
「寝ていれば静かで可愛いのに」
ポツリと普段の彼からは想像も出来ないような台詞が飛び出す。一度開いた口は閉じることがなかった。
「相変わらず髪も柔らかいし」
起こさないように配慮しながらも、彩乃の髪を割れ物のように撫でる。それが気持ち良いのか彩乃の頬が緩む。
「ほんと、可愛い。大好き」
彩乃が起きている時には絶対言わないような台詞を、春斗は恥ずかしがる素振りも見せずに淡々と告げる。
実を言うと春斗は彩乃の居ない時、または寝ている時に本音を全て吐き出す癖があるのだ。普段伝えられない分、その反動は大きい。
いつしか彩乃にしっかりと告げられたら。
そんな想いを呑み込んだ。
暫くすると、微かに空腹の腹を鳴かす匂いが漂う。下の階で母親が昼飯を作ってくれているのだろう。その匂いに釣られてか、彩乃も大きく瞳を開かせる。まだ少しばかり眠たげな彩乃は、目を擦りながら呂律の回らない舌で挨拶をする。
「ふわぁー…ん、春くんおはぁよ…」
「ん、おはよう」
小さく挨拶を返すと彩乃はえへへ、と頬を緩める。
寝癖が広がっている彼女の髪を整えていると、彩乃は鼻をすんすん、と鳴らしながら春斗の服の匂いを嗅ぎ始める。春斗は不思議に思いながら髪を梳かす。すると突然彩乃は顔をパッと上げる。
その際に春斗の細白い指に彩乃の栗色の髪が絡まってしまう。
「ちょっと。急に動かないでくれる?ほら、髪が絡まったじゃないか」
文句を垂れながらも彩乃が痛くない様に、一本一本丁寧に解く。春斗はぶつぶつと文句を言い続けるが、彩乃は気にする事なく微笑んでいた。
「春くんの良い匂い…私、すきだなぁ」
目を細めながら笑う彩乃に春斗は、心臓の鼓動が早くなるのを実感した。春斗は気を抜けば綻んでしまう顔を必死に抑え「…そう」と呟いた。丁度、髪も綺麗に解けたようで春斗は立ち上がり階段の方へと足を進めるが、ドアの前で一度動きを制止する。
「お昼、そろそろ出来るから早く降りて来なよ」
顔も向けずにそれだけを伝えると、足早にその場を去った。
残された彩乃は一人、春斗の残像を見つめながらポツリと言葉を零す。
「ふふ、春くん照れてる」
一人にやけながら呟いた言葉は、誰も気付く事は無かった。
空が抜けるような澄みきった青が広がっていた、ある日の午前のお話。
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