すきピのピ 〜不遇職ハンマー娘が、正解だらけの世界をぶっ壊す〜

池沢 悠

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あたしはあたぢ、ハルはハル!そしてできたギルドの秘密

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第八話

狩り終わりの夕焼けが、草原の端をオレンジに染めていた。
春夏秋冬の四人は、帰還門の手前にある少し平たい岩場に腰を下ろす。

ハルはハンマーを地面に「どすん」と置いて、両手をぐーっと伸ばした。

「ふぁ~……つかれたぁ。今日の狩り、わたし、けっこう頑張ったっしょ!」

ポルは肩を回しながら、ちらりとハルを見る。

「頑張ったのは認める。認めるけど……中盤のテンパり方は反省しろ」

スノーは淡々とうなずき、秋星は腕を組んでニヤニヤしていた。

「反省会、始まったわね」
「おっ!ええ感じや。ほな恒例の夫婦漫才もセットで頼むわ」

ポルが即座につっこむ。

「夫婦じゃねぇ!」

ハルは「え?」って顔で首を傾げる。その“え?”が、ポルの神経をちょっと逆撫でする。

「……てかさ。まず、これ聞いていいか?」

ポルが指を立てた。

「なんでハルはテンパった時とか、泣きそうになると**“あたぢ”**って言うんだ?」

「……え?」

ハルの目が丸くなる。

「そんな事言ってないよ??」

「いや……言うだろ……」

ポルは半目になって、言葉を選びながら言い直す。

「言う。絶対言う。しかも言ってる時のお前、“世界で一番焦ってる生物”みたいな顔してる」

「してないよ!してないよ!? それはピーちゃんの見間違いだよ!」

「ちょ!お前まさか……天然かw」

ハルが胸を張る。

「わたしは天然じゃないよ!わたしはハル!……あ、ちが、えっと……」

秋星が笑いを堪えながら肩を震わせる。

「今の、完全に出たで。“あたぢ”の入口や」

スノーは額に手を当てる。

「始まったわね……」

ポルはそこを見逃さない。

「ほら!今!今の“ちが、えっと”が危険信号なんだよ!」

「危険信号ってなに!?」

「テンパりメーターが振り切れる合図だよ!」

「そんなメーターないよ!?」

「ある!俺の中にある!!」

秋星がわざとらしくうなずく。

「ほんまに恒例の夫婦漫才やな。テンポ良すぎて逆に狩りより疲れるわ」

「だから夫婦じゃねぇって!!」

ハルは頬をぷくっと膨らませて言い返す。

「ピーちゃんはさぁ、わたしのこといじりすぎだよ。わたし、強いんだから!」

「強いの方向性が“破壊”なんだよ。繊細さがゼロ!」

「繊細さっておいしいの?」

「食い物じゃねぇ!!」

ハルは手をぶんぶん振って、勢いだけでまとめようとする。

「でもさ、今日の狩りだって、いけるっしょ!って思ったんだもん!」

ポルが即座に頭を抱える。

「だから違うって!“いけるっしょ”で突っ込むから、お前は毎回……!」

スノーが冷静に割って入る。

「二人とも、落ち着いて。今日の反省点は明確よ」

スノーは淡々と言葉を並べる。
敵の位置、味方の位置、距離感、視界の外――要するに“全体”を見て動くこと。

「ハル、あなたは攻撃に集中すると、世界が“殴る対象だけ”になる。そこが弱点」

「えー……だって殴りたいんだもん」

「はい、死亡」

スノーの一言があまりに即死判定すぎて、秋星が噴き出した。

「それ、今言う?w」

ハルはじと目でスノーを見て、すぐに立ち上がろうとして――ハンマーに足を引っかけてよろけた。

「わっ!」

反射でポルが腕を掴む。

「お前は褒められた瞬間に転ぶな!」

「転んでないもん!……ピーちゃんが支えたから!」

「……あ、そっちかよ」

秋星がニヤニヤして口笛を吹きそうな顔をする。

「ほらほら、見てみぃ。完全に――」

「言うな!!」

ポルが被せて、秋星の言葉を封じた。



反省会がひと段落し、四人は帰還門へ向かって歩き出す。
夕方の空気はゲームのはずなのに、妙に“現実っぽい温度”を持っていた。

門の光が少し近づいた頃、ポルが不意に口を開く。

「なあ、ハルって……これ以外にゲームやってた?」

ハルは歩きながら指を折るみたいに考える。

「んー……格ゲーは得意だったよ」

ポルが即座に笑う。

「あれで得意言うかw」

「え!? だってわたし勝ってたよ!?」

「“ボタン連打でたまたま勝つ”を勝利と言うな!」

スノーが少し考え込むように顎に指を当てる。

「格ゲー……ね。反射と読み合い。
それなら、その強みを狩りにも転用できる」

ハルが振り向く。

「転用?」

「相手の癖を読むこと。あなたは“殴る”のは上手い。
でも“殴る前に読む”ができれば、もっと強くなる」

秋星がうんうんと頷く。

「勢いに“読み”が乗ったら、ほんまに手ぇつけられんで」

「へへっ、わたし最強になっちゃう?」

「まずは転ばない最強になれ」

ポルのつっこみに、ハルは笑った。



門をくぐる直前。
何気ない空気のまま、リアルの話題が混ざる。

ポルが、言うつもりなかったのに言ってしまったみたいな顔でたずねた。

「……そういえばさ。ハルって、四季野ハルって名乗ってたけど……本名じゃないよな??」

ハルは一瞬きょとんとして――次の瞬間、いつものテンポで笑顔になる。

「本名だよ!四季野ハル!これからもよろしくっ!」

そう言って、舌をぺろっと出してピースする。
完全に、いつものハル。

……だけど。

ポルの笑いは続かなかった。

「……あのなぁ。本名はやめとけ」

ハルが瞬きする。

「え? なんで?」

ポルは言葉を探しながら、でも真剣に続ける。

「特定されたり、危ないだろう?
女の子は特に危険だし。ゲームって、変なやつもいるんだよ」

ハルは首を傾げる。

「んー?でもわたし犯罪犯してないよ?」

「そういう事じゃない!」

ポルの声が少しだけ強くなって、すぐに気まずそうに喉を鳴らした。

……と言いかけて、ポルは一瞬口をつぐむ。
自分の声が強くなったのに気づいたみたいに、視線を逸らして、少しだけトーンを落とした。

「……悪い。怒ってるんじゃない。心配しただけだ」

ハルはきょとんとして――それから、ふっと笑った。

「ありがとう!これからはもうステータス欄もハルだけにするよ。だから――四季野はギルドだけの秘密ね!」

ポル「…………」

返事が一拍遅れて、ポルの顔が赤くなる。

「……お、おぅ……」

スノーが肩を揺らして小さく笑う。

「あらあら…w」

秋星がわざとらしく口元を押さえる。

「なんや!見せつけてくれるのぉ」

ハルはきょとんとして、

「え、なにが??」

ポルは誤魔化すように前を向いて、歩く速度を上げた。

「早く、ギルドに戻るぞ!」

「待ってよピーちゃん! 置いてかないでよ~!」



ギルドハウスの扉が見えてくる。
木の門に、いつもの灯り。
「帰ってきた」って空気が、少しだけ心をほどく。

――の、はずだった。

ポルが扉に手をかけて、一瞬だけ止まる。

「……ん?」

ハルも同じタイミングで気づいた。
ギルドハウスの前に、誰かが立っていた。

立っているだけなのに、場の空気が整う。
背筋がまっすぐで、視線が静かで、無駄がない。

スノーが小さく息を吐く。

「……来てるわね」

秋星が目を丸くする。

「うわ、まじか……」

その人物は、こちらに向かって一礼した。
動作が丁寧で、礼儀正しいのに――なぜか、圧がある。

「こんばんは。突然の訪問、失礼します」

落ち着いた声。
金色に近い薔薇の意匠をまとったアーチャー。

ローズだった。

ハルは思わず、口を開けたまま固まる。

「……ろ、ロー――」

ポルが咳払いみたいに声を挟む。

「……何の用だ」

ローズは表情を崩さず、微笑みだけをほんの少し深くする。

「用件は一つです。春夏秋冬の皆さんに――」

一拍、置いて。

「練習試合を申し込みに来ました。チーム戦で」

秋星が「え?」と声を漏らし、スノーは目を細める。

ポルは言葉を探すように眉を寄せた。

「……練習試合? しかもチームで?」

ローズは静かにうなずく。

「はい。勝敗に過度な意味は持たせません。
互いの実力を測り、刺激を得るための“場”が欲しいだけです」

ハルがようやく言葉を取り戻し、半歩前に出た。

「えっと……わたしたちと、ローズが? なんで?」

ローズは即答しない。
その“間”が、逆に誠実さを感じさせる。

「あなたたちの戦い方を見ました。特に……」

視線が一瞬、ハルのハンマーに落ちる。

「近接職としては珍しい“突破力”がある。興味があります」

そしてまた、礼儀正しく一礼した。

「ご迷惑でなければ、明日か明後日。時間は合わせます。
ルールの希望があれば、それも伺います」

ギルドハウスの灯りが、ローズの影を静かに伸ばしていた。
その影が、扉の前で“答え”を待っている。

ポルが小さく息を吸う。

「……お前、何を考えてる」

ローズは笑わない。
でも、声は穏やかだった。

「考えているのは、ただ一つ――“上達”です」

その一言が、妙に真っ直ぐで。

ハルはなぜか、さっきの「秘密ね!」の余韻が胸の奥で揺れたまま、ローズを見つめていた。
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