研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第3章 新しい研磨

9話 手すり

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 ヒロトシが、大豪商伯に取り立てられてヒロトシの生活は一変した。ミトンの町を歩いていただけで、町の人間が道を開けてくれて、何とも居心地が悪かった。
 ギルドの酒場に食事に行っても、以前の様に冒険者達からは声も掛けらられず遠巻きにみられていたからだ。

「うーん……」

「旦那様、いかがなされましたか?」

「やっぱり、貴族位なんか貰うんじゃなかったと後悔しててな……」

「何を言っておられるのですか?」

「だってよ……町に出たら町のみんながお辞儀をしてきて道を開けるんだ。居心地が悪いったらありゃしない」

「それは、旦那様が貴族様だからしょうがない事ですよ」

「だけど、俺はそんな扱いを望んでいないし……」

「旦那様が望んでなくとも、旦那様はもう貴族様のお一人なんです。もう世間ではそのように認識されていて、旦那様が望んでおられなくとも、そのようにするのが普通の事なんです」

「だからだよ……」

「だからとは?」

「大豪商伯なんか受けるんじゃなかったと、後悔しているって言っているだろ?」

「ですが、それはとても名誉な事なんですよ?」

「ああ!わかっているよ」

「だったら……」

「名誉な事は分かっているけど、それによって居心地が悪いと感じれば後悔するのは当たり前だろ?俺は、そんな他の人が名誉と思っている事はどうでもいいんだよ。ようは価値観の相違ってことだよ」

「そ、そういうものなんですか?でも、今更返上なんてできないですよ」

「当たり前だな……だから後悔しているんだよ」

 結局は堂々巡りだった。そして、セバスはヒロトシにアドバイスを送ったのだった。

「それでは、旦那様は今の地位を受け入れた方がよろしいかと思います」

「だけど、俺はそんな人間じゃないよ」

「そう思っているのは、旦那様だけですよ」

「はぁあ?何を根拠に……」

「そりゃそうですよ。旦那様は今まで数多くの功績を残してこられたのです。だから、王国に受賞され名誉貴族になられたのですよ。それも若干13歳と言う若さでです」

「そ、それは……ただ単に運が良かっただけだよ」

「では聞きますが、そんな強運の持ち主がどこにいると言うのですか?それに強運だけで、スタンピードや闇ギルドがどうにかなると本気で思っていらっしゃるのですか?」

「うっ……」

「わかりましたか?旦那様はそれだけ凄い方なのです。だから自分で自分を卑下しなくともいいのです」

「だがな……居心地が悪いのは変わらないだろ……」

「それは、旦那様が自覚していないからです。自分は普通の人間だと思っているのに、周りが気を遣うから居心地が悪いと感じるのです」

「なるほどな……」

「要は、権力者は周りの人間が作るとも言われます」

「周りの人間が?どういう事だ?」

「仮にいきなり普通の人がギルドマスターになったらどうなると思いますか?いきなり、部下に指示を出したりギルド全体を見届ける事を出来るとおもいますか?」

「まあ、無理だろうな……緊張で萎縮するのが関の山だろうな……」

「しかし、時間をかけて周りがサポートすることにより、自覚が生まれてきてギルドマスターになっていくのです。部下の敬語や扱われ方に慣れてきて、やっとその行為が普通になるのですよ」

 ヒロトシは、セバスの説明に納得していた。確かに地球で親会社の社長が変わった時、息子は最初周りの反応に戸惑っていたが、徐々にそれが普通と自覚してきて、会社の舵を取り出してきたのを思いだしたのだった。

「そうか……俺も変わらないといけないと言う事か……」

「そういう事でございます」

 しかし、ヒロトシは親会社の社長のようにはならないと改めて思い直した。どんなに偉い立場になっても、下の就いた人間の気持ちを考えられないとどうしようもないと思ったからだ。



 そして、ヒロトシは自分の立場を自覚するように努める事にして、日々の生活を暮らしあっという間に2年の年月が経った。

「うん!ガインとブロッガンヘアラインはもう一人前だな!」

「「本当ですか?」」

「ああ!これなら売り物になる。トメもちゃんと通っているしな。十分な出来だ」

「「ありがとうございます!」」

「ハンナとシェリーも頑張ったな」

「「ありがとうございます」」

 2年間みっちり修業をした4人は研磨のスキルが生まれていて、そのスキルは研磨(ヘアライン)1レベルと出ていたのだ。
 ヒロトシの様にマジカル化は出来ないが、パイプをヘアラインに仕上げるものであり、これからがやっとスタートラインに立ったのだ。

 これでやっと、新しい商品が販売できる土台が作れることになり、ヒロトシは領主の屋敷に来ていた。

「ヒロトシ君、今日はどうかしたのかい?」

「今度、㋪美研から新しい商品を売りだそうと思いまして、その報告にきました」

「なんだと!㋪で新しい商品を?それはどういう物なんだ?」

「手すりです」

「はっ?」

 シルフォードは、ハトが豆鉄砲を食らったかのように呆けたのだった。

「手すりとは、どういう物なんだ?」

 ヒロトシは、ソファーから立ち廊下に設置してあった手すりを持ってニッコリ笑った。

「これですよこれ!これが手すりです」

「い、いや……それは分かるが……今更、手すりだなんて拍子抜けなんだが……」

「まあ、見て頂けたらその考えも無くなるかと思いますよ」

「本当かね?」

「ええ、㋪から売り出すのは金属の手すりですからね」

「金属だと?あれは駄目だ……見栄えが悪すぎる」

「それをなんとかしたと言ったらどうですか?」

「そ、それは本当かね?」

「嘘なんか言いませんよ」

 ヒロトシはそう言って、90度に曲がった一本の手すりを広場に出した。普通なら90度に曲げた個所は、なるべく目立たない様に細工をしていてもどうしても目立ってしまう。
 しかし、ヒロトシが出した手すりは真っ直ぐの線が引けていたヘアライン加工されていて、溶接個所がまるで無い様に見えたのだった。

「これはすごい!曲げた個所には叩きの傷もまるでないではないか!」

「どうですか?」

「これを私の屋敷に設置してくれるのかい?」

「そのつもりです。なので、屋敷の寸法を測らせてもらいたいのです」

「そういう事なら、いくらでも測っていってくれ。今ある木製の手すりを全部変えてほしいぐらいだよ」

「承知いたしました。納期の方はまた報せに来ますのでよろしくお願いします」

「ああ!楽しみにしているよ」

 ヒロトシは、早速手すりのある場所を測ってそれを持ち帰って、それを元にガイン達に製作を指示したのだった。

 手すりの数は200本近くとなり、4人は大急ぎで製作したのだ。そして、設置された手すりのおかげで重厚感が増して、屋敷に飾られている装飾品の数々とマッチングしたのだった。

 これにはシルフォードも大変満足したようで、終始笑顔だったのだ。この事はすぐに町中に広まり、㋪美研にはお洒落なレストランやカフェから注文が殺到したのだった。

 そして、またもやシルフォードから、多額のお金が支払われたのだった。

「シルフォード様。このお金はいりませんよ」

「なぜだ?こんな立派で見栄えの良いものなのに、お金を受け取らないでは納得がいかない」

「これは、いつもお世話になっているから、お礼のつもりでプレゼントした物です。それに、シルフォード様の家の事が宣伝になっていて、あの手すりはもう半年先まで予約が埋まっている状態なんですよ」

「そんなに予約が?」

「ええ!だから、こちらの方がお礼をしたいぐらいで……」

「いやいや……それはそれ、これはこれだよ。こんな立派なものを貰う訳にはいかないよ」

「いや、だからこれはプレゼントなんで気にしないでください」

 ヒロトシとシルフォードは、払う払わないで押し問答をしていた。すると、そこに、シルフォードの奥方であるベルナータが話に入ってきた。

「あなた、ここはヒロトシ様の好意を受け取る事にしましょう」

「お、お前いきなり何を言うんだ。あの手すりをちゃんと見たのか?あれをタダで、受け取るなんて普通にできないだろう?」

「いえ、そうではありません。ここはヒロトシ様の顔を立てると言う意味で受け取るべきだと言っているのです。ヒロトシ様も、もう貴族のお一人なんですよ」

「な、なるほど……」

「ベルナータ様、ありがとうございます」

 ヒロトシは、ベルナータが間に入ってくれて笑顔で感謝したのだったが、ベルナータはやはり貴族の婦人だった。

「それはようございましたわ。それで貴方、そのお金をヒロトシ様に差し上げてください」

「えっ?」
「おい!お前は何を言っているのだ?先ほどヒロトシ君の好意を受け取れと……」
「そうですよ……それなら……」

「いいえ、違いますよ。あの手すりはちゃんと受け取らせていただきました。そのお金は、旦那様からの成人祝いです。たしか、ヒロトシ様は15歳になられたのですよね?」

 ベルナータは、そう言ってクスクス笑っていたのだった。

「なるほど!そういうことか」

「……」

「ヒロトシ君、これは成人祝いの金だ。受け取ってくれるだろう?」

 ヒロトシは少し考えこんだが、成人祝いと聞いて断る訳もいかず、笑顔で受け取った。

「参りました……このお金はありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございました」

「それではごきげんよう」

 ベルナータは、笑顔で部屋から出て行ったのだった。

「シルフォード様……」

「君も、、ベルナータのような女性と結婚することをお勧めするよ」

「はい……」

 二人して、手のひらの上に乗せられたことに苦笑して、話に花を咲かせるのだった。


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