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第一章 木嶋真奈の日記より抜粋①

第十三話 肉だけ食べて痩せるなんて幸せすぎでしょ。あだ名獅子美になるけど

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 さて、かなり情報が整理されてきたが、やはり犯人の目的が分からない。誘拐したいだけなら誘拐して、悠人の家のポストにでも脅迫状を突っ込んどけばいいだけだ。
 ところが、犯人は脅迫状を誘拐する本人に送った上に、誘拐せずに敢えて身の回りで警戒を強めるような出来事を起こしている。
 誘拐される可能性に関して今後ゼロであるとは限らないが、それでもその他に主たる目的があるようにしか思えない。
 一番謎なのは、元カノの情報だ。まじで、どうでもいい。本当にどうでもいい。
 考えてもみてほしい。
 クラスの、チャラい感じのバカの、元カノ。しかもその人は全く知らない人であると仮定する。
 まっーーーーたく興味が湧かない。本っ当に、微塵も湧かない。
 そんなものを知ってどうすると言った感じだ。まだ円周率を百桁覚えた方が将来役に立つ。
 確かに、高校の時の親友が知らない情報を知っているということで、悠斗自身にはインパクトを与えられているらしいが、わざわざ文学部全体に言いふらすような内容だろうか。
 それに、噂が回るスピード感もおかしい。こんなどうでもいい情報が、たった数日で回るだろうか。しかも新入生の、よく知らない者同士で、だ。
 こうなると怪しいのは……
 
「ねえ、高校からの同級生で文学部の人は何人いるの?」
「十人くらいっすかね。でも仲良いのは三人っす」
「名前は?」
「えっと、西尾にしおとタクちゃん、誠也せいやですね」
「フルネーム!」
「はぃ……。西尾和也にしおかずや。……タクちゃん名字なんだっけ。あっ、佐々木! 佐々木拓哉ささきたくや。あと、峯岸誠也みねぎしせいや
「…峯岸誠也っと」
「ん? なんでメモってんすか?」
「話聞きにいくからよ」
「まっ、まさかダチを疑ってんすか? あいつらが裏切るわけないっすよ!」
「それは話聞いてから決めるから」
「そんなんアイツらに失礼っす! いくら真奈ちゃんでもそれは」
「おい」
「……? なんすか?」
「今私のことなんて呼んだ?」
「……ま、真奈、ちゃん」
「……あ?」
「い、いや俺、女の子は仲良くなったら、誰でもちゃん付けって決めてるから……」
「いや君の自分ルールとか聞いてない。あと私は、君と仲良くしてるつもりは一切ない。それから何より、私は君にちゃん付けされたくない!」
「じゃあなんて呼べばいいんですか」
「真奈先輩……とか、真奈さん、とか」
「えー! それじゃ普通じゃないっすか!」
「あー、もう! めんどくさいなぁ……! なんでもいいよ! でも、ちゃんだけはやめろ。次言ったら、頸椎に針ぶち込む」
「じゃっ、じゃあ……。ふへっ……、真奈……?」
「……ふー。……くそ腹立つけどそれでいいよ。……ただし」
「へ?」
 
 右手に隠し持っていた針を悠人の頬に向かって飛ばす。
 
「あぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「それでしばらく口動かないから」
「あひゅっあひゅっ……!」
「じゃ、そろそろ行くよ」
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