完結 これは不実な恋ですか?

心夏

文字の大きさ
23 / 48

23

しおりを挟む
柏木さんは、プライベートで引き止めるものがなんにも東京になかったそうだ。


「実家は九州だからむしろ近くなったしね。ここで新しい根っこはるんだって覚悟できたの。」


と笑っていた。




オープン当日までは目まぐるしく過ぎた。


店長が押したブライダルの伝説の女、比嘉さんと僕が気になった高橋くんはパート、アルバイトで入社することになった。


未経験者は正社員の枠がないからとお断りの連絡をするときにダメ元で正社員の登用もあるからとアルバイトをすすめてみたら了承してくれた。比嘉さんはまだ子供が小さいからとパートを選んだようだ。


新しい仲間と過ごす日々は東京での辛い出来事を少しづつ思い出に変えてくれた。




早めに、出勤してホテルの庭を散歩するのが僕の日課になっていた。毎日、少しづつコースを変えて色々な場所を歩いた。今日は、ホテルのだだっ広い庭園の隅にある人気のない小さい噴水の前を通るコースだ。


(ぇっこれ、なに?)


一休みのためにベンチを探して噴水に立ち寄ると水面に色とりどりの花が浮かんでいた。


「きれい…。」


思わず声に出してつぶやいた。


(でも、一体誰が…。)


ホテルからのオーダーではない。それなら僕の耳に入らないわけがないから。不思議に思いながらも出勤時間になってその場をあとにした。


(こうも暑いと、あの花も傷んでるんじゃんないかな)


遅めの昼休みに、気になってまた噴水を見に行った。すると花はきれいに片付けられていた。


次の日また噴水を見に行くと


(あった!)


噴水にはまた、花が浮かべられてた。

噴水の花は、前回と同じように昼過ぎには片付けられていた。

そして、次の日は、花はなかった。

ランダムに現れるこの花に僕は一つの心当たりがあった。

それを確認するために今朝も噴水に急いだ。


(あった!やっぱり。)


ここに浮かぶ花は、うちの店で仕入れたものに間違いなかった。

どれだけ朝早く来てもあるときにはある花。ということは作業しているのは夜だろう。




「み~つけった!」


「うわっ」


彼は、後ろから声をかけると、驚いて持っていたものを全て落としてしまった。あまりの驚きように僕の方が焦って、落ちたものを拾い集めた。


「ごめん。そんなに驚くとは思わなくて。」


「早瀬チーフ。」


バツが悪そうな顔をして高橋くんがこちらを見ていた。




「いつから気がついてたんですか?」


「うーん。一週間ぐらい前?かな。」


花を見ればうちの仕入れとわかったし、恐らくはロスフラワーと推測すれば犯人の目星はついていた。


「これ、ロスフラワーでしょ?廃棄の業務やってるの限られてるから。」


「すみません。勝手なことして。」


「どうしてこんなことしてるの?」


「なんか、まだきれいな花を捨てるのが忍びなくて。」


しゅんとしてしまった高橋くんの頭をぽんぽんした。


「怒ってるわけじゃないんだよ。ほらいつもどおりにやってごらん。」


「いいんですか?」


高橋くんがパッと顔をあげて嬉しそうに言った。




葉や茎を処理して高橋くんが花を浮かべていく。


「俺、建築が専門だったんですけど寺社巡りが趣味で。京都に行ったときに花手水っていうのを初めて見たんです。」


作業しながら高橋くんがぽつりぽつりと話はじめた。


「俺すごく感動したんです。何百年も同じ佇まいである建築物にこんなふうに彩りを与えることができるんだって。この噴水もにもこんなふうに彩りを与えてみたいって。そう思って。」


そんな気持ちでこの噴水の花が浮かべられていたことに僕も密かに感動していた。


「できました。」


そう言って高橋くんが僕の顔を見た。


「うん。ちょっと手直しさせてもらっていい?」


僕はきちんとプロとして高橋くんに向き合いたいと思った。


「少し色の数が多いかな。まずは三色をベースにやってみようか。」




僕は少しづつ花を足したり引いたりして全体のバランスを整えた。


「出来た!どう?」


僕は、高橋くんの顔を見た。


「すごい…全然俺が作ったのと違う。」


「ふふ、ありがとう。」


答えながら僕の中で一つのアイデアが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

処理中です...