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柏木さんは、プライベートで引き止めるものがなんにも東京になかったそうだ。
「実家は九州だからむしろ近くなったしね。ここで新しい根っこはるんだって覚悟できたの。」
と笑っていた。
▲
オープン当日までは目まぐるしく過ぎた。
店長が押したブライダルの伝説の女、比嘉さんと僕が気になった高橋くんはパート、アルバイトで入社することになった。
未経験者は正社員の枠がないからとお断りの連絡をするときにダメ元で正社員の登用もあるからとアルバイトをすすめてみたら了承してくれた。比嘉さんはまだ子供が小さいからとパートを選んだようだ。
新しい仲間と過ごす日々は東京での辛い出来事を少しづつ思い出に変えてくれた。
▲
早めに、出勤してホテルの庭を散歩するのが僕の日課になっていた。毎日、少しづつコースを変えて色々な場所を歩いた。今日は、ホテルのだだっ広い庭園の隅にある人気のない小さい噴水の前を通るコースだ。
(ぇっこれ、なに?)
一休みのためにベンチを探して噴水に立ち寄ると水面に色とりどりの花が浮かんでいた。
「きれい…。」
思わず声に出してつぶやいた。
(でも、一体誰が…。)
ホテルからのオーダーではない。それなら僕の耳に入らないわけがないから。不思議に思いながらも出勤時間になってその場をあとにした。
(こうも暑いと、あの花も傷んでるんじゃんないかな)
遅めの昼休みに、気になってまた噴水を見に行った。すると花はきれいに片付けられていた。
次の日また噴水を見に行くと
(あった!)
噴水にはまた、花が浮かべられてた。
噴水の花は、前回と同じように昼過ぎには片付けられていた。
そして、次の日は、花はなかった。
ランダムに現れるこの花に僕は一つの心当たりがあった。
それを確認するために今朝も噴水に急いだ。
(あった!やっぱり。)
ここに浮かぶ花は、うちの店で仕入れたものに間違いなかった。
どれだけ朝早く来てもあるときにはある花。ということは作業しているのは夜だろう。
▲
「み~つけった!」
「うわっ」
彼は、後ろから声をかけると、驚いて持っていたものを全て落としてしまった。あまりの驚きように僕の方が焦って、落ちたものを拾い集めた。
「ごめん。そんなに驚くとは思わなくて。」
「早瀬チーフ。」
バツが悪そうな顔をして高橋くんがこちらを見ていた。
▲
「いつから気がついてたんですか?」
「うーん。一週間ぐらい前?かな。」
花を見ればうちの仕入れとわかったし、恐らくはロスフラワーと推測すれば犯人の目星はついていた。
「これ、ロスフラワーでしょ?廃棄の業務やってるの限られてるから。」
「すみません。勝手なことして。」
「どうしてこんなことしてるの?」
「なんか、まだきれいな花を捨てるのが忍びなくて。」
しゅんとしてしまった高橋くんの頭をぽんぽんした。
「怒ってるわけじゃないんだよ。ほらいつもどおりにやってごらん。」
「いいんですか?」
高橋くんがパッと顔をあげて嬉しそうに言った。
▲
葉や茎を処理して高橋くんが花を浮かべていく。
「俺、建築が専門だったんですけど寺社巡りが趣味で。京都に行ったときに花手水っていうのを初めて見たんです。」
作業しながら高橋くんがぽつりぽつりと話はじめた。
「俺すごく感動したんです。何百年も同じ佇まいである建築物にこんなふうに彩りを与えることができるんだって。この噴水もにもこんなふうに彩りを与えてみたいって。そう思って。」
そんな気持ちでこの噴水の花が浮かべられていたことに僕も密かに感動していた。
「できました。」
そう言って高橋くんが僕の顔を見た。
「うん。ちょっと手直しさせてもらっていい?」
僕はきちんとプロとして高橋くんに向き合いたいと思った。
「少し色の数が多いかな。まずは三色をベースにやってみようか。」
▲
僕は少しづつ花を足したり引いたりして全体のバランスを整えた。
「出来た!どう?」
僕は、高橋くんの顔を見た。
「すごい…全然俺が作ったのと違う。」
「ふふ、ありがとう。」
答えながら僕の中で一つのアイデアが浮かんでいた。
「実家は九州だからむしろ近くなったしね。ここで新しい根っこはるんだって覚悟できたの。」
と笑っていた。
▲
オープン当日までは目まぐるしく過ぎた。
店長が押したブライダルの伝説の女、比嘉さんと僕が気になった高橋くんはパート、アルバイトで入社することになった。
未経験者は正社員の枠がないからとお断りの連絡をするときにダメ元で正社員の登用もあるからとアルバイトをすすめてみたら了承してくれた。比嘉さんはまだ子供が小さいからとパートを選んだようだ。
新しい仲間と過ごす日々は東京での辛い出来事を少しづつ思い出に変えてくれた。
▲
早めに、出勤してホテルの庭を散歩するのが僕の日課になっていた。毎日、少しづつコースを変えて色々な場所を歩いた。今日は、ホテルのだだっ広い庭園の隅にある人気のない小さい噴水の前を通るコースだ。
(ぇっこれ、なに?)
一休みのためにベンチを探して噴水に立ち寄ると水面に色とりどりの花が浮かんでいた。
「きれい…。」
思わず声に出してつぶやいた。
(でも、一体誰が…。)
ホテルからのオーダーではない。それなら僕の耳に入らないわけがないから。不思議に思いながらも出勤時間になってその場をあとにした。
(こうも暑いと、あの花も傷んでるんじゃんないかな)
遅めの昼休みに、気になってまた噴水を見に行った。すると花はきれいに片付けられていた。
次の日また噴水を見に行くと
(あった!)
噴水にはまた、花が浮かべられてた。
噴水の花は、前回と同じように昼過ぎには片付けられていた。
そして、次の日は、花はなかった。
ランダムに現れるこの花に僕は一つの心当たりがあった。
それを確認するために今朝も噴水に急いだ。
(あった!やっぱり。)
ここに浮かぶ花は、うちの店で仕入れたものに間違いなかった。
どれだけ朝早く来てもあるときにはある花。ということは作業しているのは夜だろう。
▲
「み~つけった!」
「うわっ」
彼は、後ろから声をかけると、驚いて持っていたものを全て落としてしまった。あまりの驚きように僕の方が焦って、落ちたものを拾い集めた。
「ごめん。そんなに驚くとは思わなくて。」
「早瀬チーフ。」
バツが悪そうな顔をして高橋くんがこちらを見ていた。
▲
「いつから気がついてたんですか?」
「うーん。一週間ぐらい前?かな。」
花を見ればうちの仕入れとわかったし、恐らくはロスフラワーと推測すれば犯人の目星はついていた。
「これ、ロスフラワーでしょ?廃棄の業務やってるの限られてるから。」
「すみません。勝手なことして。」
「どうしてこんなことしてるの?」
「なんか、まだきれいな花を捨てるのが忍びなくて。」
しゅんとしてしまった高橋くんの頭をぽんぽんした。
「怒ってるわけじゃないんだよ。ほらいつもどおりにやってごらん。」
「いいんですか?」
高橋くんがパッと顔をあげて嬉しそうに言った。
▲
葉や茎を処理して高橋くんが花を浮かべていく。
「俺、建築が専門だったんですけど寺社巡りが趣味で。京都に行ったときに花手水っていうのを初めて見たんです。」
作業しながら高橋くんがぽつりぽつりと話はじめた。
「俺すごく感動したんです。何百年も同じ佇まいである建築物にこんなふうに彩りを与えることができるんだって。この噴水もにもこんなふうに彩りを与えてみたいって。そう思って。」
そんな気持ちでこの噴水の花が浮かべられていたことに僕も密かに感動していた。
「できました。」
そう言って高橋くんが僕の顔を見た。
「うん。ちょっと手直しさせてもらっていい?」
僕はきちんとプロとして高橋くんに向き合いたいと思った。
「少し色の数が多いかな。まずは三色をベースにやってみようか。」
▲
僕は少しづつ花を足したり引いたりして全体のバランスを整えた。
「出来た!どう?」
僕は、高橋くんの顔を見た。
「すごい…全然俺が作ったのと違う。」
「ふふ、ありがとう。」
答えながら僕の中で一つのアイデアが浮かんでいた。
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