ドラゴンヤクザ

理知の親友 お圭

借金の返済日は１ヶ月に１回。
龍生(今度からは虎一も加わる)の給料日だ。

せっかくリィリの生まれ変わり、理知に出会えたのに、そんなに会えないなんて俺には我慢出来なかった。

かと言って理由も無く会いに行くのも不自然だろう。

偶然通り掛かったから？
気が向いたから？

理知に毎日でも会いたい俺には、あまりにも少なすぎる理由だった。

だからこうやってボロアパートの前に車を停め、煙草をふかして理知のいる部屋を眺める。
理知の方が偶然出て来ねぇかなあって思いながら。
少年の初恋かよ。少年は煙草吸わねぇけど。

「…なあオッサン、こんな狭い道にでけぇ車停めて何してんだよ？」
「ああ？」

急に話しかけられ横を向くと、そこには理知と同い年くらいの女が仁王立ちしてこちらを睨んでいた。
いや、正確には理知より背もあるし生意気そうな顔から年上に見える。
理知が幼すぎるせいかもしれないが。

「さっきからあの部屋ばかりじーって見て、オッサンまさかあの家の借金取りか？」
「はあ、だったらなんだってんだよ」

運転席で待つ組員が生意気な口をきくガキに眼を飛ばしているが、ガキはお構いなしに俺を指差し言い放った。

「理知を傷付けたらただじゃおかないからなっ！！」
「…ふっ」

思い出した。
こいつはリィリの友人だったケィだ。
リィリが水竜だったころの俺に懐いたときも同じようなこと言ってやがった。

「なんだよお嬢ちゃん、理知の友だちか？」
「友だちじゃねぇ、親友だ！それに私はお嬢ちゃんじゃなくて光明院 圭(こうみょういん けい)だ！」
「光明院？光明院って光明院財閥の光明院か？」
「そうだよ、何回言うんだよ」

聞いたことがある。
貿易関係で緩やかに儲けてる企業で、組の幾つかが抱き込もうとしたこともあるらしいが何故か脅しも効かず、あげく最後は渋々身を退くことになったと。

「…なんだよ、親友なら借金肩代わりしてやったらどうだ？金持ちなんだろ？」
「そんなの親友じゃねぇ！」
「いって！」

太ももを思いきりグーパンされた。
さすがに組員が出てこようとしたので制止する。

「理知が本当に困って私に助けを求めに来たら助けるよ！でも理知は、理知たち家族は明るく強く生きてるだろ！？見守ってやるのが親友っ……あ、やべぇ鼻血出た…」
「…」

なんだこいつ。五才児にしては達者なものの言い様。
もしかして人魚のころの記憶取り戻してるのか？

「とにかく、最初に言った通り、理知を傷付けたら赦さないからな」
「…へいへい、肝に銘じとくよ」

真相はわからないが、理知を守る存在がいることは悪いことじゃない。
いくら竜の生まれ変わりだと言っても今は生身の人間だ。
ヤクザという職業柄、いつ死んでもおかしくない。

俺がいなくなった後、リィリ…理知を守ってくれる存在は出来るだけ多い方が良い。

鼻血を拭いたお圭が理知の部屋に入って行くとき、ちらりと理知の笑顔が見れて俺は満足し、その場をあとにした。