この気持ちを恋と言うこと勿れ

三十路独身フリーター男

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第8話 コウ(先輩・くん)が悪い(っすよ・ね~)

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「「「コウ(先輩・くん)が悪い(っすよ・ね~)」」」

 俺は悪くないという論を提示した結果、何故か満場一致で俺が悪いという結果になった。

 何故だ……、というか後輩くんまで俺を非難するのには納得がいかない。

「え、というか風俗ってセックスできないもんなの?」

「ドレミ先輩……それはソープランドっすよ」

「“ランド”? え、何……? テーマパーク? エッチなアトラクションとかあんの?」

「本番まで出来るお店は、ほとんどないんだよ~。まぁ、当たり前だけどね~」

「大体はコウ先輩が言ったみたいな、身体洗ったり、マッサージしたりとかっすね」

「裸で?」

「モチ! マッサージだけなら下着だけもあるかもっす」

 何だか風俗店話に花が咲き始め、徐々に論点がズレて行っているような気がして、話をもう一度元に戻す。

「いやいや!? 俺が言いたいのはあの文脈からなら、『風俗で童貞を捨てられる』って話に聞こえるってことで!」

「そう言ったの? 後輩くん?」

「あ、え~……、酔ってたんであんま覚えてないっす……。でも、俺がコウ先輩を風俗に誘ったのは、女の子とイチャイチャして気持ち良くなってほしかったからっす!」

 後輩くんはそう言うと、無邪気な笑顔でえへへと笑う。

 これでいて本当に邪気が無いところがムカつくところで、こんな見た目をして風俗に通うくせに、こんな清らかな心を持っていることが腹立たしくて仕方がない。

「ふ~ん……、つまりはコウくんは脱童貞したかった、と」

「まぁ……有り体に言えば……」

「じゃあ、私が貰ってあげようか?」

「ぶふぅっ!?」

 屈託のない笑顔で笑うドレミさんの言葉に思わず吹き出して、目の前に居た後輩くんを唾液塗れにしてしまった。流石後輩くんと負けず劣らずの遊んでいる風の見た目だけあって、彼女はそういった言葉がサラッと出てくるところが恐ろしい。

「ドレミちゃん……、それセクハラだよ~」

「じょ、冗談、冗談……、アハハ……係長、顔が怖いよ……」

「うふふ~」

 しかし、俺のYES/NOの返事よりも早く、係長が釘を刺した。彼が口を開いた途端、あれだけ和気藹々としたタバコ室が急に冷凍庫のように凍りつく。流石に男女で風俗云々の話は良くても、会社員同士のセックスを連想させる話はマズいのだろう。

 それに、申し訳ないがドレミさんのような女性のタイプは俺の範疇外の女性だ。

 セックスの相手は出来ればそう……やっぱり、アンズちゃんが……いい。

「じゃあ、この話は―――」

「でも、風俗の女の子と普通にセックスできるっすけどね」
 
 「この話は終わり、もう金輪際風俗に行くのは止める」と言おうと思って口を開きかけたその時、後輩くんの何気ない言葉が俺の言葉を遮った。

「……え、それってどんな裏技?」

「裏技っていうか、アフターっすよ、アフター。仕事中はダメでも、仕事終わりに個人的に会うのは問題ないでしょ?」

「そういう……もんですかね?」

「あたしに聞くな、あたしに」

 なんとなくドレミさんに話しを振ってみたが、彼女はへらっと笑ってタバコを吹かしてそっぽを向く。係長にも視線を送ってみたが、彼も特に何も言わずにニコニコとタバコを吸っている。

「お前の言ってたアフターってそういう意味か……」

「そうそう! だから先輩にもチャンスあるかもっすね」

「うっせぇ……っ!」

 去り際に、後輩くんの頭を引っ叩いてからタバコ室を急ぎ足で出る。

 昼休み終了間近、一旦会社の外に出て、取り出すのはスマホとあのくしゃくしゃにしたアンズちゃんの名刺。

「……」

 一瞬躊躇したが、『毒を食らわば皿まで』と言うし、今の俺はアンズちゃん以外と脱童貞するつもりはない。もしアンズちゃんに拒否されたとしても、特に何かが変わるわけではないし、その時は今の童貞生活が延長されるだけだ。
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