「第二至上主義論者」の斯くも難しき恋心

三十路独身フリーター男

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第4話 第二至上主義論者の朝

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「うん。よくわからない。ちょっと向こうで話し合おうか」

 私の一世一代の告白を受け、一条さんはその端整な眉をピクリとも動かさずに私を傍へと呼んだ。

 「わからない」というのであれば説明しなければならない。それが一日返答を待たせた私の義務であり、私と一条さんは丁度良く校門の前にあった人っ気のないバス停の椅子に腰掛けた後、二人っきりで話し合うことになった。

「私は二階堂くんのことが一番好き。それで君も私が一番に好き。それに間違いはないよね?」

「そうだね。一条さんの気持ちに間違いが無ければ、さっきの説明に間違いはない」

「であれば、私たちは付き合っても問題ない。そう思うが違うのかな?」

「いやいや。私は『第二至上主義論者』であるからして、一条さんとは付き合えない」

「いやいや。二階堂くんがその『第二至上主義論者』を止めればいい。そうすれば丸く収まるよ」

 サクッと言われた。『第二至上主義論者』を止めればいいと。

 しかし、その言葉に対して腹を立てる私ではない。というよりも、こんなことは日常茶飯事である。

 この世において、他者とは違う思考の持ち主は爪弾きにされる傾向があるのは言わずもがなだ。特に日本と言う小さな島国社会においては顕著であり、グループから逸脱する者を断じて許さない節があるが、実に情けない。

 かく言う私も『第二至上主義論者』という険しい道を歩む者の一人として、昔から学友や恩師から『第二至上主義論者』を止めればいいと何度も言われてきた。幸いなことに、別に彼らは私を虐げる意味合いで言ったのではなく、今回の一条さんのように「無理をするな」というニュアンスで言ってくれていたことは百も承知である。

「申し訳ないけど、幾ら一条さんの願いであったとしても、やっぱり私は『第二至上主義論者』を止めることはできない。『第二至上主義論者』を止めるということは私にとって死ぬと同義だ。一条さんは私に死ねというのか?」

「そんなことはない。私は二階堂くんに生きていてほしい」

「ならば良し」

「これからずっと私と一緒に生きてほしい。だから付き合ってみよう」

「う……う~ん?」

「おや?今『うん』と言ったのかい?では、正式にお付き合いするということでいいのかな?それではまず私の両親に挨拶してもらおう。次に祖父母、次いで親戚一同だ」

「待ってくれ、一条さん…」

「あぁ、すまない私としたことがついはしゃいでしまって。そうだね。まずは二階堂くんのご実家に挨拶を済ませるのがセオリーだよね。こう見えても私は相手を立てる女なんだよ」

「いや、そうではなくて。今のは『Yes』の『うん』ではなくて、『What?』の『うん?』だよ。申し訳ないが、一条さんの話の飛躍に付いて行けなかったんだ」

「………ちぃ」

 舌打ち。まさかの舌打ちだった。しかし、これほどまでに綺麗な舌打ちは見たことも聞いたこともなかった。一条さん程の人が舌打ちをすると少しも嫌味がなく、むしろ舌打ちというものが日常会話で頻繁に使われる言葉のように思えてくる。「おはよう」、「ありがとう」、「いただきます」、「おやすみ」に並ぶ言葉として、我々の日常会話で自然と飛び交う言葉のようにも聞こえた。

「でも、どうしてだい?どうして一番に好きな人同士が付き合ってはいけないのかな?」

 すると、話の話題を変えてきたのか、さらりと一条さんがそう尋ねた。

 なるほど、これは一条さんからの挑戦状であろう。彼女は『第一至上主義論者』として『第二至上主義論者』の私を言い負かし、結果として私に告白を受けろと、運命のように導かれた二人のように悲劇しか待っていないお付き合いをしようと考えているに違いない。断固としてそれは阻止せねばならない。私にとって一条さんの不幸は一大事であるのだから。

 ならば受けて立とう。

「私なりの考えで言えば、一番に好きな人同士が付き合うのはリスクが大きすぎる」
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