碧天のノアズアーク

世良シンア

文字の大きさ
12 / 126
ヴァルハラ編

番外編 ヴォルガとクロードのとある一日

しおりを挟む
-午前五時-

side クロード

私の名前はクロードと言います。ここ根源界ヴァルハラの管理者でもあり、守護者でもあります。

私の主人であるヴォルガの朝食づくりのため、私は毎日この時間から睦月の間にてテキパキと働いています。

「しまった……昨日のうちにこちらの冷蔵庫に肉を入れておくのを忘れてしまいました」

私は足早に食糧庫である弥生の間に向かった。今日はフェンリルにステーキを作らねばなりませんから、かなりの肉を消費します。

……これは買い出しに行った方が良さそうですね。

私は大量の肉が入った大きな木箱を両手に二つずつもって睦月の間へと向かう。

この箱はキンキンに冷えており、素手で持てば確実に凍傷になりますね。といっても、私にはそのようなこと関係ありませんが。

「ふぅ。フェンリルの暴食ぶりには少々嫌気がさしますね……」

私は計四箱の荷物を部屋の隅へ置き、朝食づくりをようやく始めようとしたのですが……。

「どうせヴォルガは八時頃……いいえ九時かもしれませんね……まあ、いずれにせよまだ起きてこないのは確実ですから、先にフェンリルのご飯をつくった方が良さそうですね」

ヴォルガの早寝遅起きにはもう慣れてますからね。





-午前九時-

side ヴォルガ

「……んー…………ん……」

窓から差し込む光が顔を照らし出し、ほとんど意識がない中でわしは身体を反対側に向けた。

これで光がわしの顔に差すことはなく、安心して眠れるわい……。

いつものように微睡まどろみの中を彷徨っていると、何かが羽ばたく音が遠くから聞こえてきおった。

「「……ヴォルガ様ー!!!」」

バサバサと羽音を鳴らせる二体の烏はわしの名前を大声で叫び、わしを起こそうとする。

鬱陶しいやつらじゃのう、まったく……。

わしはうっすらと目を開け、ムニンとフギンの姿を捉える。

「なんじゃ、主らは……」

「ひどいっすよー、ヴォルガ様。毎朝俺たちを目覚ましがわりにしてるくせにー」
「そうよそうよ!ヴォルガ様の頼みだから毎朝来てるんですよ、あちしらはー」

ムニンとフギンはわしの自室である、ここ葉月の間に設置した止まり木からわしに文句を言いおった。

「すまぬすまぬ。安眠を妨げられてしまったからな、ついのう」

「もー。早く起きてくださいよ!長月の間に食卓の準備がされてるっすからねー」
「あちしたちはクロード様にヴォルガ様が起きたことをお伝えしてきますからー」

そう言い残してムニンとフギンは再び翼を広げて羽ばたき去っていった。

……早くいかねばまーたクロードに怒られてしまうのう……。



side クロード

朝食の準備を整え、再び睦月の間へと戻る。次は昼食の準備をせねばなりませんね。

昨日から一晩寝かしておいたカレーと冷やご飯を冷蔵庫から取り出してテーブルに置く。

……今日は買い物に出ねばなりませんから、あとはヴォルガに任せましょう。温めるだけですし。





-正午-

sideヴォルガ

「クロード、飯はまだかのう」

わしは小腹を空かせて睦月の間へと足を踏み入れた。しかし探していた人物はおらず、調理台にはメモが残されておった。

『私はこれから人界ミッドガルドへ行ってきますので、昼食はこのカレーを温めてどうぞ』

「ふむふむ。あいわかった」

ちなみに、わしは朝食を取ってからそんなに時間は経っていないが、もう腹を空かせている。なぜならクロードがわざと朝食を少なくし、十二時ごろにはわしが昼食を取れるように調整しているからなのじゃ。

そしてこれはわしの威厳が損なわれる一因になってしまうかもしれんが、わしはさっきまでなーんにもせずに部屋でゴロゴロしていたのじゃ。

クロードは忙しそうに働いておるのに、わしはこの体たらくよ、ハッハッハ……。

……じゃが!これはわしのせいではないのじゃ。

以前わしが何か手伝おうかと尋ねたところ、「あなたがすると碌なことにならないので、大人しくしててください」と、なぜか怒られてしまったのじゃ。じゃから、わしがこんなにも暇を持て余しておるのは、クロードのせいでもあるんじゃよ。

じゃから……じゃからわしは決して、ダメ人間などではないんじゃぞ!




side クロード

「空間系統の氣術が使えて、これほど良かったと思ったことはありませんね」

買ったもの全てを手に持つことなど不可能ですし、そもそもそんなに買い込んでたら相当目立ってしまいます。

私はこの世界に住む者ではありませんから、あまり目立つのは控えたいところ。

万が一にも根源界ヴァルハラが危機に見舞われるようなことは避けたいですしね……。

「さて、あとはこの店だけですか…」

ここ大帝国グランドベゼルの帝都アクロポリスにある一番人気のスイーツ店『スイーツのその』。

ピンクや黄色といった明るくてカラフルな外観をのオシャレなこの店は、連日行列ができるほどの人気っぷり。

何故ここに立ち寄ったのかと言えば、ズバリ主人たるヴォルガの大好物をゲットするためです。以前、私がここでなんとなく買ったチョコレートケーキを大変気に入ったヴォルガは、私が買い出しに出た時は必ず買ってきてほしいと懇願してきたのです。

……いくら不真面目でどうしようもないダメな主人でも、一応私は従者ですからね。この店には必ず立ち寄るようにしているのです。

「このチョコレートケーキをあるだけください」

「へ?……えと、か、かしこまりました」

一時間並んでようやく注文を頼むと、店員さんは驚きながらもショーケースに綺麗に陳列されたチョコレートケーキを全て箱に入れてくれた。

「全部で五千エルツになります」

私は銀貨五枚を店員さんに渡して、ケーキが詰められた白い箱を持った。

「……ありがとうございました」

私は店員さんの言葉に対して軽く頭を下げてこの場を後にしました。

……さて、用も済んだことですし根源界ヴァルハラに帰りましょうか。





-午後一時-

side ヴォルガ

「ふっ……ふん……はあっ!」

木の棒でできた槍を振り回して、敵を模して立てられた丸太に攻撃していく。カレーを美味しく平らげたわしは、食後の運動も兼ねて道場である霜月の間にて軽く体を動かしていた。

数十本あった丸太は全て切り落とされ、地面に転がり落ちている。

辺り一面が丸太の破片で埋め尽くされておる。

……少々やりすぎたかもしれないのう。

「……掃除、するかのう…………」



side クロード

私は帰宅してすぐに買い溜めした食品たちを弥生の間へと格納していき、以前買い置きしていたものを睦月の間へと持っていく。何やら霜月の間が騒がしいようですが、今は忙しいので対応には行けませんね。





-午後二時-

side ヴォルガ

とてつもなく面倒であった掃除を済ませたわしは、今度は書庫である『皐月の間』と『水無月の間』から本を何冊か取り出し、『葉月の間』へと戻った。

木製の椅子に座り、かなり古びた本を読む。

「….…ふむ。こんなにも擦り切れてしまいおったか……これ以上読み返したら破れてしまうかもしれぬな。文月の間に保管しておこうかのう」

わしは何故だかここ最近読み返したくなったこの日記を閉じて、文月の間にある棚に丁寧に置いた。

「クロト……主はどうしてわしのもとから去ったのじゃ?」

懐かしき愛する者の名前を呟きながら、わしは葉月の間へと戻った。





-午後七時-

side ヴォルガ

「ヴォルガ、ご飯できましたよ」

足を組みながら椅子に座って本を読み耽っていると、クロードがわしを呼びに来おった。

「……もうそんな時間じゃったか」

「ええ。早く来てくださいね」

わしは本を閉じ、クロードの後を追った。そして食堂である長月の間に入る。

「おや、意外と早かったですね。……では、いただきましょうか」

「うむ」

わしとクロードは胸の前で手を合わせる。

「「いただきます」」





-午後十時-

side クロード

夕食後、諸々の片付けを済ませ各部屋の戸締り等を確認していく。

……ヴォルガはもう寝ているでしょうね。

私はやることを済ませ、なんとなく外へ出る。

私の後方に聳え立つ巨木、世界樹ユグドラシルは少し涼しげで穏やかな風に揺られ、葉と葉の小さな合唱が夜空に響き渡る。

「おや……?珍しい。ヨルムンガンドが目を開けているなんて……」

普段は世界樹ユグドラシルに巻き付く形で眠っているはずなんですけど……。

「何かが起こるのでしょうか……」

そんな一抹の不安を覚えた翌日でした。二人の子供とその子供たちに抱えられた二人の赤子がこの世界にやってきたのは……。














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...