死を見届ける者

大和滝

文字の大きさ
11 / 20
一章 花の咲く死をあなたに

EP11 独奏の始まり

しおりを挟む
 午後6時を過ぎ俺と椿さんはいつもの桜並木を遊び疲れた重い脚で歩いていた。
「本当に今日は楽しかったね。疲れたけどさ、めちゃくちゃ楽しかったね。わたし好みの服もたくさん買えたし、最後にとったプリクラなんてさわたし憧れてたから嬉しい。絶対大事にする」
 そう言った椿さんは目が大きくなったり、頬が赤くなっているプリクラ写真を手帳の中に挟めた。正直俺もプリクラは初めてだったから出てきた写真には驚いた。
「走馬、いつものとこ行こう!」
「え!なんで」何かを見つけた椿さんは急に全速力で走り出して、並木の間を潜り丘を登った。俺も急かされたため重たくなっている体の鞭をうって椿さんのもとへ走った。
 ふと止まった椿さんに俺は追いつく俺は、息を切らしてしゃがみ込んだ。
「なんで、急に…走り出すんですか」
「終わりが1番輝くのってずるいよね」
「え?」
「上見てみなよ」
 言われた通りに上を向いてみると、風に吹かれて花びらを飛ばす桜の木と、それを指差す椿さんが映った。
「綺麗だよね。彼女、ソロをやりきったんだよ。オオシマザクラ…お疲れ様」
 桜の木の幹に手を触れて語りかける椿さんは俺の眼に感慨深く焼き付けられた。そうしたらふと、さっきの言葉を思い出した。
「椿さん、さっきのズルいってどういうことですか?」
「あ~あれね。わかんないかな?言葉のとおり、最期にこんなに美しいのがズルいなって話」
 椿さんは遠くを眺めるような眼で言う。
「ほんとに綺麗で美しいけど、ズルいとは思わないですね。だって、美しい死に方ってのがないわけじゃないと思うし」
「走馬は夢をみてるね。そんなのフィクションの世界だよ。美しい死体ってのもあるけど、それはもう死んでるんだからさ」
 イマイチわからない。椿さんの考えはなんていうか、見ているものが俺とは似て非なるものだった。
「ま、わたしも言ってて難しいからさ。とにかくわたしは美しく死にたいってのはできないけど、死んでから美しくなりたいな。だから、花に囲まれていたいよ」
 なんだろうこの表情は。辛そうでも、楽しそうでもない表情。なんだか寂しそう?
「だって、ソロだもん。ソロの最後は拍手喝采ものなんだよ。あの拍手もセットでソロなんだよきっと。華々しく去っていく。それがソロだよ。退院したあの日からわたしはずっとソロなんだ。走馬はわたしのソロを際立たせる伴奏だよね」
 俺をその表情でじっと見つめる。俺はそのわからない表情に吸い込まれるように答えた。
「うん。俺は椿さんの伴奏者だから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...