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一章 花の咲く死をあなたに
EP10 総奏の監獄
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「え~何これ美味しい!ハンバーグってこんなに美味しいものだったんだね」
13時、服やら本やらを見て買って回ってそろそろ昼食を食べようと洋食屋に入って俺はミートソーススパゲッティ、椿さんはチーズのかかったハンバーグとオレンジジュースを頼んだ。そんな俺たちは周りからはどう見られているのだろうか。もしやカップルだとでも思われているのか。そんなことは正直どうだっていい。俺は今椿さんをどのような目で見ているか。それは『目を離してはいけないこども』だ。
さすがは小学生の頃から入院生活してた人だ。外の常識や物を知らなすぎて、何事にも興味を示す。そのせいですぐに色んなとこに駆けていくし、なんでも弄ってみたくなる。少しでも目を離したら迷子アナウンスがなりそうなくらいだ。そして今、チーズの乗ったハンバーグに大興奮だ。
「そんなにそれ美味しいですか?」
「うん!わたしハンバーグ好きで、病院でもハンバーグは1ヶ月に一回くらいは出してもらってたんだけど、それと比べてこのハンバーグは、まずチーズ乗ってるの本当に美味しいし、まず切ったら肉汁っていうのかな、ジュワーって出てくるの。そして食べたら、本当に美味しい。旨みしかないよ。わたし感激」
すごい。まるで評論家のように詳しく、純粋な子どものように嬉しそうに話す椿さんを見たら、疲れが取れた気がした。
「病院のハンバーグは美味しくなかったんですか?」
ふと気になったことを俺は聞いてみた。これも取材のうちだろう。
「まあね、今のわたしが食べたら不味い!って言うな」
「今のわたし…」
「そうそう。自由に遊べて、この美味しいハンバーグを食べたわたしが、活動空間の狭くてスケジュールや栄養を管理されていた時に食べていたハンバーグなんかは食べれないよ」
「あ、」椿さんは微笑む。でもこれは無理している笑顔だ。「教えてください。椿さんの入院生活」
椿さんの無理している感は解けてちゃんと笑ってくれた。そして「いいよ」と口を開く。
「病院は監獄と紙一重のような場所だよ。でもそんな悲しいものに喩えたくないから、あえてわたしの好きなものにしとくね。病院はオーケストラだよ」
病院はオーケストラ…意味がイマイチピンとこない。全く接点のないものすぎる。そして椿さんがオーケストラが好きなのは初耳だ。いや、出会った頃からずっと何かしら音楽を聴いていたから、音楽は好きなのかもしれない。
「音楽の言葉の一つで、『tutti』てのがあるんだ。日本語では全てって意味なんだけど、総奏っていって、全員が同じリズムを演奏するの。ハマれば迫力すごくて鳥肌たつんだ。でも、いろんな楽器が混ざっててキラキラしてるけど、一人一人の個性がないんだ。オーケストラにおいて大事なのは、独自の吹き方は捨てて、周りと合わせる。音を一体化させることなんだって。素敵だと思う。けど、悲しいなって思った」
そっか、椿さんのような大病は、時間厳守で検査とかしないとなんなくて自由があまりなかったのか。ずっと病院にいるから、自分の個性とかも何も見つけることが出来なかった。そういうことかな。
「それに気づいちゃった時、音楽を嫌いになりそうだった。でも、そんな時かけた音楽番組ですごい楽団でてきたんだ。田舎生まれでバンドにしてが多すぎて、吹奏楽とかにしては少ない、15人のフリースタイルな楽団。みんなそれぞれ統一性のないような楽器を持ってステージに立ってきたの。で、ドラムから始まった曲はジャズだったんだ。みんな個性を殺さず、イキイキした演奏をしてたんだ」
ジャズは知ってる。すっごくフリーなんだよな。確かサックスとか、トランペットとかがカッコいいってイメージだ。
「そしてそういう演奏に感化されてたら、急に静かになったんだよね。そしたらさ、短い音をバン!バン!バン!って。tuttiだよ。でもわたしが知ってるtuttiじゃない。15人の音がよくわかったんだよ。そんな刻みの中で1人アルトサックスの子が前に出てきて、大きくブレスをとってメロディを吹き出したの。すごかったなぁ。今まで見て聞いたソロじゃかった。その後もトロンボーンとかファゴットのソロがあった気がするけど、正直あのアルトサックスで頭がいっぱいだったから、聴いてなかったな。そんくらい凄かったんだよ」
「そんなに凄かったんですね。なんて楽団なんですか?」
懐かしの音楽に浸っていた椿さんは俺の問いに対して、間抜けな顔をした。
「忘れちゃった」
「え?」そんな釘付けになったものの名前を普通忘れるか?
「うん。なんていうか、夢心地だったからさ、もう何も考えれなくて、あのサックス以外忘れちゃった。楽団名も、メンバーの名前も全部」
そういうものなのかな。でもそんなすごい音楽だったなら、俺もいつか聴いてみたいな。
「だからわたし、先生が陰で治らないって言ってるのを聞いて、わたしが独奏者になれる最後のチャンスだと思ったんだ。」
「よかったですね。今、輝いてますよ。椿さんは」
キザっぽいセリフを吐いたが、椿さんは微笑み、「ありがとう」と答えた。ありがとうなんて、言われる言葉言ってないのにな。
ハンバーグを食べ終わった椿さんはイスから立ち上がって、レジに俺を引っ張って言った。
「まだまだ今日は終わってないんだよ。この後も楽しいとこに連れてってね。伴奏者君」
ふざけながら言う椿さんはまた無邪気に駆けて行った。
13時、服やら本やらを見て買って回ってそろそろ昼食を食べようと洋食屋に入って俺はミートソーススパゲッティ、椿さんはチーズのかかったハンバーグとオレンジジュースを頼んだ。そんな俺たちは周りからはどう見られているのだろうか。もしやカップルだとでも思われているのか。そんなことは正直どうだっていい。俺は今椿さんをどのような目で見ているか。それは『目を離してはいけないこども』だ。
さすがは小学生の頃から入院生活してた人だ。外の常識や物を知らなすぎて、何事にも興味を示す。そのせいですぐに色んなとこに駆けていくし、なんでも弄ってみたくなる。少しでも目を離したら迷子アナウンスがなりそうなくらいだ。そして今、チーズの乗ったハンバーグに大興奮だ。
「そんなにそれ美味しいですか?」
「うん!わたしハンバーグ好きで、病院でもハンバーグは1ヶ月に一回くらいは出してもらってたんだけど、それと比べてこのハンバーグは、まずチーズ乗ってるの本当に美味しいし、まず切ったら肉汁っていうのかな、ジュワーって出てくるの。そして食べたら、本当に美味しい。旨みしかないよ。わたし感激」
すごい。まるで評論家のように詳しく、純粋な子どものように嬉しそうに話す椿さんを見たら、疲れが取れた気がした。
「病院のハンバーグは美味しくなかったんですか?」
ふと気になったことを俺は聞いてみた。これも取材のうちだろう。
「まあね、今のわたしが食べたら不味い!って言うな」
「今のわたし…」
「そうそう。自由に遊べて、この美味しいハンバーグを食べたわたしが、活動空間の狭くてスケジュールや栄養を管理されていた時に食べていたハンバーグなんかは食べれないよ」
「あ、」椿さんは微笑む。でもこれは無理している笑顔だ。「教えてください。椿さんの入院生活」
椿さんの無理している感は解けてちゃんと笑ってくれた。そして「いいよ」と口を開く。
「病院は監獄と紙一重のような場所だよ。でもそんな悲しいものに喩えたくないから、あえてわたしの好きなものにしとくね。病院はオーケストラだよ」
病院はオーケストラ…意味がイマイチピンとこない。全く接点のないものすぎる。そして椿さんがオーケストラが好きなのは初耳だ。いや、出会った頃からずっと何かしら音楽を聴いていたから、音楽は好きなのかもしれない。
「音楽の言葉の一つで、『tutti』てのがあるんだ。日本語では全てって意味なんだけど、総奏っていって、全員が同じリズムを演奏するの。ハマれば迫力すごくて鳥肌たつんだ。でも、いろんな楽器が混ざっててキラキラしてるけど、一人一人の個性がないんだ。オーケストラにおいて大事なのは、独自の吹き方は捨てて、周りと合わせる。音を一体化させることなんだって。素敵だと思う。けど、悲しいなって思った」
そっか、椿さんのような大病は、時間厳守で検査とかしないとなんなくて自由があまりなかったのか。ずっと病院にいるから、自分の個性とかも何も見つけることが出来なかった。そういうことかな。
「それに気づいちゃった時、音楽を嫌いになりそうだった。でも、そんな時かけた音楽番組ですごい楽団でてきたんだ。田舎生まれでバンドにしてが多すぎて、吹奏楽とかにしては少ない、15人のフリースタイルな楽団。みんなそれぞれ統一性のないような楽器を持ってステージに立ってきたの。で、ドラムから始まった曲はジャズだったんだ。みんな個性を殺さず、イキイキした演奏をしてたんだ」
ジャズは知ってる。すっごくフリーなんだよな。確かサックスとか、トランペットとかがカッコいいってイメージだ。
「そしてそういう演奏に感化されてたら、急に静かになったんだよね。そしたらさ、短い音をバン!バン!バン!って。tuttiだよ。でもわたしが知ってるtuttiじゃない。15人の音がよくわかったんだよ。そんな刻みの中で1人アルトサックスの子が前に出てきて、大きくブレスをとってメロディを吹き出したの。すごかったなぁ。今まで見て聞いたソロじゃかった。その後もトロンボーンとかファゴットのソロがあった気がするけど、正直あのアルトサックスで頭がいっぱいだったから、聴いてなかったな。そんくらい凄かったんだよ」
「そんなに凄かったんですね。なんて楽団なんですか?」
懐かしの音楽に浸っていた椿さんは俺の問いに対して、間抜けな顔をした。
「忘れちゃった」
「え?」そんな釘付けになったものの名前を普通忘れるか?
「うん。なんていうか、夢心地だったからさ、もう何も考えれなくて、あのサックス以外忘れちゃった。楽団名も、メンバーの名前も全部」
そういうものなのかな。でもそんなすごい音楽だったなら、俺もいつか聴いてみたいな。
「だからわたし、先生が陰で治らないって言ってるのを聞いて、わたしが独奏者になれる最後のチャンスだと思ったんだ。」
「よかったですね。今、輝いてますよ。椿さんは」
キザっぽいセリフを吐いたが、椿さんは微笑み、「ありがとう」と答えた。ありがとうなんて、言われる言葉言ってないのにな。
ハンバーグを食べ終わった椿さんはイスから立ち上がって、レジに俺を引っ張って言った。
「まだまだ今日は終わってないんだよ。この後も楽しいとこに連れてってね。伴奏者君」
ふざけながら言う椿さんはまた無邪気に駆けて行った。
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