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最終章
三、待っている
しおりを挟む『主のことは任せて欲しい』
瑞雪は云った。
『主の傷が癒えたら、必ず人間界に帰す。だからご当主はいつもと変わらぬ生活を送ってくれ』
『うん……』
『恭仁京君、私は健司を支える為に残るよ』
壮介は天界に残ることを選んだ。
『でも人間にはここは』
『ああ、そのことなら、問題無いよ。この空間の主である神様の許可をいただいたからね』
『え、何それ狡い。どういうことですか?』
『ふふふ、健から頼んで貰ってね。特別に』
上総が健司を見ると障子に寄りかかり外を眺めていて、どうやら上の空だ。
『いくら健司様の幼馴染みでいらっしゃっても、働かざる者食うべからずですからね!』
狐が偉そうに云うと、壮介は苦笑した。
『……壮介、締切とか大丈夫なのか?』
健司が怠そうに云うと、壮介は驚いた顔をした。
『何?』
『ああ、いや、そうか。一緒に暮らしていたのなら、仕事を知っていて当たり前か。ペンと紙さえあれば、どこでも仕事は出来る』
健司は不満そうな顔を一瞬見せると、顔を逸らした。
『健?』
体調が優れないのだろう。身体から滲み出る神気も昨日より弱々しく、上総はこのまま帰るのを躊躇った。
『ご当主、行きましょう』
『先生、また来ます』
『……うん』
瑞雪や狐達に急かされ、後ろ髪を牽かれる思いで上総は人間界に帰って来た。
戻った場所は学校の中。
『あれ?』
夜の理科室。
隣にいる瑞雪が壁に掛けられた時計を見ながら、時差は問題ないな、と呟いた。
『どういうこと?』
『ご当主とここで会った時刻に戻ったまでだ。人間界では五分程しか時間は進んでいないから安心して欲しい』
『そうなんですか』
窓から見える外は真っ暗だ。
瑞雪を見ると上総と同じように窓の外に視線を向けている。
『ご当主、先程の如月健司は幻でも夢でもない。こんな吾では信用ならんかもしれぬが、どうか信じて待っていてほしい』
『瑞雪、大丈夫だよ。僕だって先生と一緒に居たかったけど、壮介さんと違って余計な気を使わせてしまうって分かっているから戻って来たんだ』
『そうか』
『また会いに行きたいけど、どうしたら良い?』
『そうだな……ご当主には申し訳ないが、あそこには行かない方がご当主のためだ』
寝耳に水だ。
てっきり人間界と天界を行き来できるのだと思っていた。
『話は大方聞いているであろう? 主は隠れて匿われている。そこに頻繁に人間が立ち入れば、他の神々が容易く気付くであろう。そうなれば陰陽師をしているお主にも影響が及ぶ』
『そう、だね……』
『その代わり、吾や暮雪が逐一報告に来る、それで許してもらいたい』
うん、と頷いた。我儘は云えない。
『先生に伝えてくれる? 僕はずっと待っているからって。元気になって戻って来てって』
瑞雪達も可能なら上総を自分の主の元に留まらせたい気持ちはあるが、上総の云う通り健司が気を使ってしまっては元もこうもない。
少年は自ら考えて身を退いた。
『承った。ご当主、感謝する』
頭を深々と下げて上総に礼を云った。
それから送ると云った瑞雪に断り上総が学校の外に出ると、血相を変えた左京と右京が走って来た。
『上総様!』
『上ちゃん!』
『どうしたの、二人共』
右京は上総を抱き締めると大泣きをした。
『神の眷族が出現したかと身構えたら、突然上総様と共に消えてしまわれまして、探しておりました』
『あ、ごめんなさい』
『上ちゃん、怪我無い? 痛い所は? 何かされなかった?』
キツく抱き締めてくれる右京は怪我を確認するように身体をまさぐって来る。くすぐったくて笑うと、笑い事じゃない、と怒られてしまった。
『左京』
『はい、いかがなさいましたか?』
右京は健司の記憶があっても無くても瑞雪と会ったことがないから、心配するだろう。しかし左京は違う。例え千年も昔に片方が封印され散々になってしまったとしても、瑞雪の放つ神気は忘れられるものではない。
目の前の左京は、昔の仲間に会った、そんな顔は一切していなかった。
『……僕何分位いなかったの?』
『五分程度ですが、肝が冷えました』
既に落ち着いてしまったが、珍しく慌てていた。
『そっか、本当ごめんね?』
『いえ、ご無事で安堵致しました』
『どうしていなくなったのよ?』
抱き着いたまま離れようとしない右京。上総も慣れたもので、こんなことは日常茶飯事になっている。
『うん、会いたい人に会ってきたんだ』
『会いたい人?』
烏天狗は互いに顔を見合わせ首を傾げた。
『壮介さんは、その人の所に残った。いつか、二人にも紹介するよ。イケメンでとっても優しくて動物好きの人なんだよ!』
イケメンという言葉に右京がピクリと反応した。
『イケメン!? 会いたい! どこにいるの!?』
『フフフ、秘密だよ。いつか、絶対会えるから楽しみに待ってて』
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