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帰るはずの午後に、甘い混乱をどうぞ
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「リアって、これから何か予定はあるかな?」
突然のご質問に、私は帰りのご挨拶もそこそこに、先にお返事を差し上げました。
「予定、でございますか? 特にございませんが……どうかなさいましたか?」
「もし時間があるのなら、少しだけ僕に付き合ってくれないかなと思って」
殿下は少しだけ視線を逸らされながら、どこか言いづらそうに、けれど真剣におっしゃいました。
きっと、転入されたばかりの本日、たまたま同じクラスに私がいたことで、何かとご不安なこともおありでしょうし、学園内のことを少しでも知りたいのかもしれません。
「左様でございましたか。少々お待ちいただけますか? 確認を取って参りますので」
私は立ち上がり、丁寧に一礼をして控えの間へ向かおうとしたのですが——
扉の方へと視線を向けると、まさにその瞬間、他の侍従や侍女たちと共に退室されていたスーザン様が、扉の前まで戻っていらっしゃいました。
「ユミリア様。本日のご勉学、大変お疲れ様でございました」
「ありがとうございます。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
私がスーザン様と言葉を交わしていると、背後から柔らかな声が聞こえてまいりました。
「あれ? スーザン?」
「これは……っ! 失礼いたしました。ジークフリード殿下。お久しゅうございます。てっきり、北の隣国にご留学中かと……」
慌てた様子で、王族に対する最上の礼を捧げられるスーザン様。殿下がそれを和やかに制され、静かに一言お返しになりました。
「リアに会いたくなってね。今日ここに転入してきたんだ」
「そうでしたか……よくぞやり遂げられましたね」
スーザン様の微笑みは、私から見ても眩しいほどでございました。
そして殿下は再び、優しげな視線を私へと向けられました。
「ところでリア。先ほど“確認を取ってくる”と言っていたけれど、それはスーザンのことだったのかな?」
「ええ。スーザン様は、本日私の護衛としてお越しくださいましたので」
「……護衛、か」
殿下はわずかに眉を動かされ、何かを呟かれましたが、そのお声はあまりに小さく、私には届きませんでした。
「スーザン。今日転入したばかりでね、リアに学園内を少し案内してもらえたらと思っているんだ。君は愛馬で来ているのだろう? すまないけれど、公爵邸には帰宅が遅れる旨を伝えて、先に城へ戻ってくれないか? リアの送りは、僕が責任を持って行うから」
「承知いたしました、ジークフリード殿下」
スーザン様は即答なさり、そのお顔にはこれまで見たことがないような、誇らしげな笑みが浮かんでおりました。
「これで一安心、だね。全部を案内してもらうわけじゃないから、ほんの少しだけ……学園を見せてもらえないかな? リア」
殿下の、どこか寂しげな瞳に見つめられ、お願いされてしまっては……私の方が戸惑ってしまうのも仕方のないことです。
けれど、気付けば私は自然と頷き、笑みを浮かべておりました。
「ええ、かしこまりましたわ。微力ながら、精一杯ご案内させていただきます」
突然のご質問に、私は帰りのご挨拶もそこそこに、先にお返事を差し上げました。
「予定、でございますか? 特にございませんが……どうかなさいましたか?」
「もし時間があるのなら、少しだけ僕に付き合ってくれないかなと思って」
殿下は少しだけ視線を逸らされながら、どこか言いづらそうに、けれど真剣におっしゃいました。
きっと、転入されたばかりの本日、たまたま同じクラスに私がいたことで、何かとご不安なこともおありでしょうし、学園内のことを少しでも知りたいのかもしれません。
「左様でございましたか。少々お待ちいただけますか? 確認を取って参りますので」
私は立ち上がり、丁寧に一礼をして控えの間へ向かおうとしたのですが——
扉の方へと視線を向けると、まさにその瞬間、他の侍従や侍女たちと共に退室されていたスーザン様が、扉の前まで戻っていらっしゃいました。
「ユミリア様。本日のご勉学、大変お疲れ様でございました」
「ありがとうございます。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
私がスーザン様と言葉を交わしていると、背後から柔らかな声が聞こえてまいりました。
「あれ? スーザン?」
「これは……っ! 失礼いたしました。ジークフリード殿下。お久しゅうございます。てっきり、北の隣国にご留学中かと……」
慌てた様子で、王族に対する最上の礼を捧げられるスーザン様。殿下がそれを和やかに制され、静かに一言お返しになりました。
「リアに会いたくなってね。今日ここに転入してきたんだ」
「そうでしたか……よくぞやり遂げられましたね」
スーザン様の微笑みは、私から見ても眩しいほどでございました。
そして殿下は再び、優しげな視線を私へと向けられました。
「ところでリア。先ほど“確認を取ってくる”と言っていたけれど、それはスーザンのことだったのかな?」
「ええ。スーザン様は、本日私の護衛としてお越しくださいましたので」
「……護衛、か」
殿下はわずかに眉を動かされ、何かを呟かれましたが、そのお声はあまりに小さく、私には届きませんでした。
「スーザン。今日転入したばかりでね、リアに学園内を少し案内してもらえたらと思っているんだ。君は愛馬で来ているのだろう? すまないけれど、公爵邸には帰宅が遅れる旨を伝えて、先に城へ戻ってくれないか? リアの送りは、僕が責任を持って行うから」
「承知いたしました、ジークフリード殿下」
スーザン様は即答なさり、そのお顔にはこれまで見たことがないような、誇らしげな笑みが浮かんでおりました。
「これで一安心、だね。全部を案内してもらうわけじゃないから、ほんの少しだけ……学園を見せてもらえないかな? リア」
殿下の、どこか寂しげな瞳に見つめられ、お願いされてしまっては……私の方が戸惑ってしまうのも仕方のないことです。
けれど、気付けば私は自然と頷き、笑みを浮かべておりました。
「ええ、かしこまりましたわ。微力ながら、精一杯ご案内させていただきます」
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